GOD EATER3 ジ・エンド・オブ・エタニティ 作:レインメーカー
ーイギリス支部近郊 旧市街地(朝)ー
朝日が市街地を鋭く照らす。
今日も市街地には、アラガミが出没している。ヘラクレス部隊にはその討伐命令が下った。
≪ヘラクレス1スタンバイ≫
≪ヘラクレス2から4スタンバイ≫
≪ヘラクレス5から6スタンバイ≫
6輌の戦車が廃れた街中に生えた茂みに身を潜める。砲口のみを茂みから出して、6門の巨大な砲の100メートル先にクアドリガがその巨大な体躯を軋ませながら、廃車を砕き、木を薙ぎ倒し、地上を闊歩している。
クアドリガは戦車に気が付かず、ヘラクレス部隊に後ろ姿を曝け出している。
≪時間がない。これだけは伝えておく≫
うち1輌に乗るレノックス曹長が全車輌へ通達する。
≪最優先はミサイルポッドだ。次に胸殻。最初の斉射が終わったらすぐに装填し、すぐに撃て。反撃する暇さえ与えるな≫
全車輌が了解の返事をする。
クアドリガは狙われている事も知らず、新しい車を見つけて酷い音を立てて食べている。
≪ヘラクレス1から3は右のミサイルポッドを狙え。ヘラクレス4から6は左のミサイルポッドだ、砕き落としてやれ≫
そう言うと、各車輌は各々の目標に照準を定める。
レノックスの指示通り、ミサイルポッドを砕く為に。
嵐の前の静けさが訪れる。
茂みは風に揺れ、葉と葉が擦れる音と、鳥の鳴き声、そしてクアドリガの鉄を砕く咀嚼音があるのみ。
レノックスは一呼吸置いて、撃て、と言う。
刹那、タタタンッ!と言う耳に響く発射音が重なる。相変わらず発射音はビルや廃墟で遠くまでこだまする。
穏やかな朝の風に揺れていた茂みの葉っぱが爆風で散り、周辺にいた鳥達が一斉に飛び去った。
発射された弾は、全弾照準通りミサイルポッドに直撃する。片方は砕け散り、片方は爆発しゴロゴロと地面に転がる。
クアドリガは、食べていた車を咥え上げ、真っ二つに砕き折り、ゆっくりとその図体をヘラクレス部隊の方を向け、胸殻を開く。ミサイルポッドの攻撃手段を奪われたが、クアドリガにはまだ胸殻に格納されたミサイルを持っている。
≪次弾装塡!胸をぶち抜け!!≫
クアドリガが胸殻のミサイルを点火した瞬間に、2回目の斉射が行われた。
6輌の砲火はクアドリガの胸殻、何発かはミサイル本体に直撃し、大きな爆発が起きる。爆発の黒煙で、クアドリガの姿が隠れるほど凄まじい爆発であった。
≪まだだ!もっと叩き込んでやれ!!≫
レノックスが興奮気味に通達する。
3度目の斉射。黒煙の中にいるクアドリガに当たっているのかはわからない。だが逃げられるわけがないとレノックスは砲撃を続けさせる。
4度目。5度目…撃ち込む度に黒煙は膨らみ、爆発音ばかりで当たっているのかすらわからなくなる。
レノックスは射撃をやめて暫く様子を見るが黒煙で全く見えない。
≪司令部。クアドリガのオラクル反応は?≫
無線機からオラクル反応の強度を解析する為のキーボードを叩く音が聞こえる。
≪オラクル反応は20%。まだ活動状態です!≫
オペーレーターが報告を終えた、瞬間、黒煙から巨大な図体が飛び出す。被弾した箇所から黒煙を蒸し、前脚の付け根や首からは出火し、炎が図体の動きに比例し激しく揺れる。
その一歩一歩は地面を凹ませながら、周囲の小さな石や瓦礫を浮かせ、建造物の埃や小石を叩き落とす程で、着実にレノックス達の戦車へと突進してくる。
≪撃て!!どこでも良い!!≫
再び6つの砲口からバラバラに砲火が飛び出す。
それは、顔に、脚に、背中に…掠れる弾もあった。
しかし、クアドリガの勢いは止まらない。
≪合図するまで撃つのを止めるな!≫
レノックスに焦りが見え始める。100m先にあった目標が今では50m、40mと距離を縮めてくる。
7発目、8発目…それでもクアドリガは満身創痍の身体で突っ込んでくる。
「デカ物め…!」
レノックスが呟き、戦車から9発目の砲弾が放たれる。
その砲弾は、クアドリガの右前脚の履帯と履帯の関節部分に入り込んだ。直後に爆発を起こし、クアドリガは姿勢を崩す。突進する勢いがそのままとなり、胴や顔が地面を擦れながら砂を上を滑る。クアドリガのボロボロの図体はヘラクレス部隊の眼の前で止まった。
≪オラクル反応消失。クアドリガの活動休止を確認しました。任務ご苦労様です≫
オペーレーターの優しい声が各戦闘員が届く。
その直後に冷たい凍るような声で通知が入る。
≪ご苦労だった。ルチア達の乗るヘリはミサイルを迎撃した≫
「ふぅ…何とか倒せたな…ヘリも無事だし。戦果上々だな!」
レノックスはキューポラを開けて外の空気を吸う。
レノックスは眼の前に倒れているクアドリガの巨大な図体に恐怖を覚える。
以前はゴッドイーターの同伴があったとは、4斉射ほどで倒れたのに、と。
火を噴き、煙を吐きながらの突進…ヴァジュラを瞬殺した火力を何度も受け止めたその耐久性にも驚かされた。
今もクアドリガの死骸からは所々出火している箇所がある。その炎がクアドリガ自身が出した物なのか、ヘラクレス部隊が与えた傷なのかは誰にもわからなかった。
もしこれが俺達を踏み潰してたら…と思うとレノックスは掻いた冷や汗を裾で拭う。
レノックスは、戦車から降りて懐から何かを取り出す。それは手の平サイズの正四角形の黒いキューブだった。
そのキューブはOAC(オラクル吸着キューブ)、ヘラクレス部隊はブラックボックスと呼んでいる。これは非神機使いである彼等が仕留めたアラガミのコアを回収する為に作られた装置であり、起動すると一箇所に針が出る。その針を死んだアラガミに刺し込むとオラクル繊維が根を張りコアを捥ぎ取る、という仕組みだ。
彼等には偏食因子が投与されていない為、防壁の強化などに必要なコアを回収できない。せっかく倒したアラガミの素材を無駄にするのも勿体無いので、とイギリス兵器開発局が開発した代物だ。
レノックスは、クアドリガに針を差し込み、捕喰が完了するのを待つ。暫くすると差し込んだ面の反対が黄色く輝く。
レノックスはブラックボックスを抜き、戦車に戻った。
だがそこで司令部から連絡が入る。
≪悪い知らせだ。付近にコンゴウ2体が接近している。戦闘音を嗅ぎつけたのだろうな≫
「マジかよ…今日は突撃バカが多いな」
レノックスは落胆するが、司令部からの通信は、まだ続いた。
≪良い知らせもある。新人ゴッドイーターを乗せたヘリが近くに来ている。だがミサイルの破片でテールローターがやられたらしく、高度を維持出来ないそうだ。お前達の所で拾って連れて帰れ≫
はぁ、と仕事が増えただけじゃねぇかと思いレノックスは溜息をつく。
≪ヘリにはルチア・ジュランナーも同乗している。彼女もコンゴウ討伐に参加させる。新人は神機がない為戦わせられない。そして彼を怪我をさせずに連れて帰れ、支部長命令だ≫
了解、とレノックスは半ば適当に答えた。
「弾はあとどれくらいある?」
と、戦車兵に聞くと戦車兵は指で数えながら答える。
「1、2、3、4、5………クアドリガ3回分です。後は白煙弾、信号弾などが幾つかです」
「ハハッ、わかりやすい」
レノックスはそう言って、戦車に乗り込んだ。