モテない軍師と世界の真実
ロウ side
「────はぎょ!?」
突然頭に冷たい感触と激痛が走り、目を覚まして勢いよく飛び起きた。
頭には暗器が刺さっており、それを持つ犯人を知ってる為か整った顔がピクピクと引き攣る。
「こんのアホメイド……寝起きの挨拶にしちゃあ物騒なことしてくれるなぁ?」
「し、仕方ないじゃないですか〜! ちゃんと到着したのにロウさん、頭から落ちて全然起きないですし、敏腕メイドとして叩き起こしたんですよ〜!」
うん。幾ら荒療治とはいえ、武器はねーだろ、武器は。殺す気か!?
いやそれは兎も角、着いたって……。辺りを見渡してみると凄え光景が広がっていた。
落ちている時に見た浮いてる陸地や建造物、岩とかは全く慣れねえ……更には今いる地面も妙に荒れている。
こんな世界が峡谷の底にあったのは分かった、そして此処は何処なわけ?
その疑問はアクア王女の口から答えが返ってくる。
此処は透魔王国…白夜と暗夜の争いの元凶だと言う、詳しい話は安全な場所でと言う彼女の提案で、人気のない空洞で語られることに。
この国はハイドラと言う男が総ている、それって確か
それはさておき…ハイドラは突然平和だったこの国に現れ、先代の国王を抹殺した。更にはこの国の民の精神を支配する怪しい術を持っており、民を殺し合わせてこの国を滅亡に追いやった。
だが…それはほんの序の口に過ぎない、奴の目的は世界の破壊…白夜も暗夜も…そしてこの国も例外ではない。
奴は白夜と暗夜の戦争を裏から操り、互いに争わせている。しかも
つまり…何か? 俺ら暗夜の民はそんな訳の分かんねーバケモンにいいように利用されてたってことか? ふざけやがって、
これは王子達に報告することだろうか、カムイ王子も似たような事を考えていたが、アクア王女に拒否られる…何で?
「…透魔王国の事は外の世界では誰にも伝えられないの、誰かに伝えれば呪いによって全身が水の泡になって消えてしまうわ」
マジ? 遠回しに言えば口封じかよ、どんな風に伝えてもアウトってか。
しかもシェンメイ王妃もその呪いによって消えたとか…って、ちょっと待った。
「アクア王女ってこの国の人だったんっすか!?」
「あ…!」
「ええ…私はこの国、透魔王国の王女なの」
つまりさっき話に出てきた先代の透魔王は彼女の父親…彼女達は国を追われて外の世界にやって来た、これでやっと王妃の死の真相もはっきりしたな。
長年に渡って自分の気持ちを押し殺して口に出さなかった彼女に対して、俺は何とも言えない心境になる。どれだけ話したくても話せねえ、正直言って辛えな。俺だったら発狂するかも。
「と言うわけで王女、泣きたくなったらいつでも俺の胸に飛び込んで────」
「…!? 魔物の気配がするわ、かなりの数に囲まれたみたい」
スルーっすか、さり気なく。
まあ兎に角が敵が来たってんなら返り討ちにするだけ、俺達はすぐさま己の武器を手にして戦闘態勢に入った。
とは言うものの四方八方に闇が広がっている、正解はあるんだろうが間違いだったら何が分からん。
「東側から行ってみよう」
カムイ王子の提案に乗って先に進んでみた、すると道が出来て敵もわんさか増えてきた。敵から宝箱の鍵や武器を奪い取っていき、順調に進んでいく…暫く進んでいくと馬に乗った一騎の老騎士が現れた。
「カムイ様! それにロウも!」
「爺さん!?」
「ギュンター!?」
谷底に落ちた筈のギュンターの爺さんだった。そっかこの国と外は繋がってっから、爺さんが此処に来ていてもおかしくないか。
一先ず安心したが話は後、今は魔物共を懲らしめるのが最優先だ。
爺さんの持つ槍が敵の大将格である怪物を貫き、怪物の身体は霧が晴れたように霧散した。
俺達は爺さんにこの国の事を説明し、爺さんに関してもあのハゲにやられたにも関わらず軽傷だった。
俺はどうしてもそれに違和感を感じたが、爺さんはカムイ王子に身の上話をする…あのハゲに襲われた理由についてだ。
嘗て戦場にて多くの武勲を立てた爺さんは
本来なら一介の騎士としては喉から手が出る程欲するものだが、本人はそれよりも家族との生活を選んだ。
流石に
それを口走ろうとした瞬間嫌な悪寒を覚え、それを助長するかのように三つの影が現れる。
「…去りなさい。…此処は貴方達のいるべき場所ではありません」
その内の一人────女性らしい身体をした影は魔道士と名乗り、御付きの部下────透魔兵を嗾ける。
お美しい魔道士を口説きたいがそれ所じゃねーから、一先ず元の世界に戻る事にした。
どうにか全力疾走で走り切り、気が付けば無限峡谷────即ち元の世界に俺達は戻って来られた。
先程の魔道士の忠告はある意味正解だったと思う、がむしゃらに挑んだら一瞬であの世行きだったな。
でもあの魔道士、何処かで聞いた覚えがあるんだよなぁ…そんな事を考えていたらアクア王女が呟いた。
白夜が暗夜に、暗夜が白夜に。その時、扉は閉じられる。
そんな言い伝え…書物の中の一文に書かれていたのを覚えている。
確か数十年に一度、二国の空の色が入れ替わる現象だったか。
白夜が夜に覆われ、暗夜が光に照らされるとかなんとか。爺さん曰く、それは数ヶ月もしない内に起こるらしい。
無限峡谷の扉は数十年ごとに開閉を繰り返している、次にその時が起きれば透魔王国への道が閉じられる…。
ちょっと待て! 流石に其処まで我慢出来ねーぞ!? 下手して失敗したら扉を開けるまで、ずっと俺ら爺さんと婆さんだぞ!
と言うか一生モテない未来しかないとか…死んでもごめんだわ!
「…なら、それまで両国の皆に協力を求めればいい」
……おいおい、突然何言い出すんだ? このピュアな王子様は。
向こうの事は話せねえし、先ず軽く門前払いじゃね?
でも何方かを味方にして見出せなかった、両国を救う道…その為に味方を増やす。
端から聞いてみれば馬鹿らしい空想だ、だがもしそう言う可能性を考えてしまうと…静かに笑い声を上げちまう。
「…ハハハハハ、本当に参ったぜ王子…否、カムイ! あんたは何処まで人を垂らし込めば気が済むんだろな」
もう腹は括った、俺も両国が敵に回ろうとあんたを死ぬまで守り抜く。
爺さんやフェリシアも俺と同じ事を考えていたのか、その提案に乗る事にした。
そして俺達は白夜王国に向かい、仲間集めの旅が今始まった。
目指せ打倒ハイドラ、目指せモテ期!
……そう叫んでたら、爺さんから深い溜息が漏れた。
その可哀想な奴…的な眼差しやめい!
続