伝説の樹の下には恋の残骸が埋まっている   作:大岡 ひじき

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始まりはラッキースケベ。


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「マジか」

 いつもならこの時間は空いてる筈なんだけど。

 だからすこし早いかもと思ってても、いつもこの時間に乗るのに。

 通学に利用してるいつもの電車に乗って一駅過ぎたあたりで、今日はいつもは見ない、同じ色のジャージ姿が、ぞろぞろ乗って来て思わず心の声が口から漏れた。

 つか野郎ばっかりとか勘弁してくれ。

 どう見てもどこぞの高校の運動部の部員が、恐らくは練習試合か何かの為の移動中なんだろうけど、部員が公共交通機関使って移動する時点で、学校側の期待の薄さが見て取れる。

 それでもそれなりの体格の奴ら、しかも10人は下らない人数と一緒の電車に詰め込まれ、身長162センチで割と細めな体格しかないオレ、押し負ける事決定じゃねえか。

 こいつらの降りる駅がどこかは知らんが、オレが降りる駅より先なら、下手すりゃそこで降りられない可能性がある。

 待て待て、こんな時こそ冷静に考えろオレ。

 一度降りて次の便を待つか?

 いや、乗った駅の次の電車ならともかく、今から乗り換えたら間違いなく遅刻する。

 それならせめて別の車両に移動しようにも、気付けば逃走ルートは塞がれてるし。

 なんだこの絶体絶命。

 考えてるうちに、無情にも時は動き出す。

 …うん、考えたところで、オレ頭あんま良くなかったわ。

 

 混雑の中で、できる限り少しずつ移動したのが功を奏して、車内アナウンスが目的地を告げる頃には、オレは降り口のほぼ前に陣取る事ができていた。

 フフフ、チビの機動力なめんじゃねえ。

 これでもガキの頃には雨が降る度に、「雨と雨の間をすり抜ける」とか言って、まわりの大人たちを失笑させていたもんだ。

 …うんわかってる。なんの自慢にもなってないことくらい。

 当たり前だけど実際にはそれやる度にビッショビショになってて、後で母さんにも姉ちゃんたちにも「いい加減懲りろ」って叱られたしな。

 と、電車がホームに到着し、今まさにドアが開こうかという時に、車内の喧騒に紛れて、微かな声が聞こえた気がした。

 

「ご…ごめんなさ……降りま……むぎゅ」

 なんか反射的に振り返ると、オレの背後の人混みの間から、明らかに女の子のちっちゃい手が見えた。

 あの袖口は、間違いなくうちの、私立きらめき高校の制服だ。

 降り口のドアが開くと同時に、オレはその手を引っ掴んだ。

「きゃっ」とかいう声が聞こえたが構わず手の持ち主を引っ張り出すと、オレはそのまま電車の外へ歩き出した。

 プシュー…とかいう音とともに俺たちの後ろでドアが閉まり、それまで乗っていた電車がホームから動き出す。

 そこでオレはようやく、自分が掴んだ手の持ち主を振り返って…。

 

 次の瞬間、なんかに滑って転んだ。

 女の子の手掴んだまんま。

 

「うわっ!!」

「きゃあっ!!」

 

 せめて巻き添え食らわすのは避けようと、慌てて手を離したけど既に遅く、仰向けの体制で転がったオレの身体の上に、女の子の身体が倒れこんできた。

「ぐえっ」とか、思わずカエルみたいな声が出たけど、思ったほどの衝撃はなかった。

 

「ごめんなさい!だ、大丈夫ですか!?」

 お。可愛い声。よく見りゃ顔も結構可愛い。

 てゆーか…ちっちゃ!

 オレもひとの事言えないけどちっちゃ!

 乗っかられてもダメージ少なかった理由はこれか!

 いやでも、うちの制服着てるって事は、この子高校生だよね?

 うちの学校、中等部とかなかったよね?

 どう見ても中学生…下手すりゃ小学生って言われても信じるわ!

 

「あー…うん、平気。そっちこそ怪我してない?」

 一瞬目を奪われたものの、すぐに我に返ったオレは、彼女の問いに答えつつ身体を起こす。

 

「は、はい。わたしは大丈夫で……っ!!」

 オレが起き上がると同時に、何故か今度は彼女の方が、こてんと地面に尻餅をついた。

 あ。

 

 …えーと、とりあえず状況を説明すると。

 オレが起き上がるタイミングの時、オレに乗っかってた彼女の方は、オレの上から退こうとしていて。

 オレが起き上がる為に膝を立てた時、そのオレの膝が、彼女の膝裏を押し上げた形になってて。

 で、その形のまま、彼女が尻餅をついていて。

 

 ……バッチリ見えたうさぎさん柄は、思春期真っ只中のオレの目には、それなりに刺激が強すぎた。

 突然の事に目をそらすこともできないまんま固まったオレの、その視線の先に何があるか、数瞬遅れて気づいた彼女の、白い頬がみるみる赤く染まり。

 

「ごっ……ごめんなさい!!!!」

 次の瞬間オレは彼女に背を向けると、一気にその場から逃走した。

 一応中学新出したスプリンターの逃げ足なめんな。

 まったく自慢できた話じゃないけど。

 

 ☆☆☆

 

「こら!風祭隼人、廊下走んな!」

「すいませーーん!」

 結局そのまま走って登校して、その勢いのまま教室まで行こうとしたら、生活指導の先生に見つかってメッチャ叱られた。

 くっそ覚えてろよどこぞの高校の運動部。




・風祭 隼人(かざまつり はやと)
今作品の主人公。
私立きらめき高校1年生(物語開始時)。
4月7日生まれのAB型。
身長162cm…と人には言っているが、実際には161.6cm。体型は痩せ型筋肉質。
身体は小さいがよく食べる。
好きな食べ物はカレー、唐揚げ、生姜焼き、上のお姉さんが作った甘い玉子焼き。
嫌いな食べ物は下のお姉さんが作った玉子焼き。
全体的に色素が薄く、ブルーベースの肌色に栗色の髪と茶色の瞳。
父親はアメリカ人と日本人のハーフで世界的有名大人ブランドの専属モデル、母親は剣術道場の一人娘で、父譲りの端正な顔立ちと母譲りの身体能力を受け継いだ実は結構な高スペック少年。
ただし主に母親の親族からの結婚反対を受けて両親は入籍しておらず、「風祭」は母親の姓。
腹違いの年の離れた姉が二人いる。
そのせいなのかなんなのか、動揺すると微妙な女言葉みたいの出る(笑)。
特別好きではないが編み物か刺繍を暇つぶしにやってる事がある。
でもリリアン編みは単調すぎて飽きたらしい。
中学時代は陸上部に所属しており、将来を嘱望されたスプリンターだったが、中学2年の秋に、同部の先輩(♂)に告白されて更にファーストキスを奪われるという悲劇に見舞われ、以来部活動そのものがトラウマとなってしまった為、高校では帰宅部。
上記の理由により年上男性がやや苦手。
あと本人まったく自覚はないが、女生徒からの人気は高い模様。
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