伝説の樹の下には恋の残骸が埋まっている   作:大岡 ひじき

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 四時間目の体育は、二週間後にある体育祭でのフォークダンスの練習だったので、女子との合同授業だった。

 この学校の体育祭は基本「祭り」で、ひとり1種目は必ず参加しなければならないが、それ以外は基本自由参加。

 なのにフォークダンスだけは全員強制参加という謎ルール。

 そんな中でオレだけが、短距離走全部とリレーに問答無用の参加が、担任の意向で勝手に決められてる。

 抵抗するのもめんどくさいから了解はしたが納得はしていない。

 中学時代に陸上部で中学新出したっていう過去の栄光によるプライドが邪魔して、わざと手ェ抜いて走るとかできない自分にもちょっと腹立つ。

 とりあえずそんなわけで、本番はちゃんと頑張るんで、特別にフォークダンスはスルーさせてもらっちゃダメですかね?

 ダメですかそうですか。滅べ。

 つか、他の男子が無駄にテンション上がってるのは気付かないふりをしておこうと思う。

 特に入学して最初に友達になった椿山と極小路が「女の子と手ェ繋ぐとか幼稚園以来ぶりだ」とか言ってんのもオレは断じて聞いてない。

 つかやめろ。オレまで悲しくなるだろうが。

 …ところで『女の子と手を繋ぐ』ってミッション、今朝のやつはノーカンだろうか?

 カウントしていいならオレは違うぞ。

 

「ねえ、風祭」

 ご丁寧に本番同様曲までかけて(この曲名って『藁の中の七面鳥』っていうんだってな)、オクラホマミキサーを踊っていたら、同じクラスの早乙女が、パートナーが変わったタイミングで話しかけてきた。

 

「ん?何?」

「風祭って、美樹原先輩と付き合ってるの?」

「は?」

 いきなり何を言うのよこの子。

 てゆーかこいつにこんな話題を振られるとは思ってなかったんで少しパニクってます。

 普通に会話はするけど仲良いって程でもないし。

 単なるクラスメイト。

 

「つか、ミキハラセンパイって誰よ」

「あ、やっぱり違うんだ。

 お兄ちゃんに、ちょっと聞いてみてくれって言われたから、まさかと思ったんだけど、やっぱりねぇ〜」

 …ダメだ要領を得ない。つかお兄ちゃんって。

 こいつ自体は、まあ同い年の女子と比べて子供っぽい感じはするものの、とりたてて変わったところもない、まあ普通の女の子だと思う。

 けど今、話に出てきた一学年上のこいつの兄貴って、よくわからないが、この学校の男子生徒の間では、ある意味神扱いされている人物だった筈。

 よくわからないが。

 それがなんでオレに、そんな意味のわからん事を、妹使って確認してるんだ?

 聞いてみようとしたけど、そこでまたパートナーチェンジのタイミング。

 なんなんだと思いつつあいつを目で追ってたら、次のやつにいきなり足踏まれた。滅べ。

 

 昼休み。

 実は今日2個目の弁当を、オレは黙々と口に運ぶ。

 うちの母さんの唐揚げ超うめえ。

 ちなみに1個目は授業の合間の休み時間に、3回に分けて食い切った。

 育ちざかりなんだよ仕方ないだろ。

 育ってないけどとか言うな。泣くぞ。

 四時間目が体育の日は特に腹が減るんだよ。

 フォークダンスなんて慣れないことしてたから尚更だ。

 

「そりゃあ早乙女先輩としては、この学校の女の子の彼氏の有無は、チェックしとかなきゃいけないポイントだろうからな」

 そのフォークダンスの練習の時、たまたまオレの後ろに並んでいた田沢が言うには、早乙女の兄貴が神扱いなのは、この学校の女の子であれば名前さえ判れば、彼に聞けば電話番号からスリーサイズに至るまで、ほぼ間違いなく判るからってことらしい。

 いやソレ犯罪じゃねえの…?ってちょっと思ったけど、そこはつっこんだら負けな気がした。

 問題は、オレと付き合ってる疑惑の出たっていう女の子に、オレがまったく心当たりがないって事なんだけど…。

 

「それさ、お前のファンの子が、今朝言い出した話らしいぞ。

 お前が何時も降りる駅で待ってたら、お前と美樹原先輩が、手を繋いで電車から降りてきたって」

「え……!?」

 やだちょっと待ってちょっと待って。

 オレのファンとか降りる駅で待ってたとか、つっこむべきところが多々あるとわかってはいるけど。

 つまりそれって今朝の話ってこと?

 だとしたらそれってあの………うさぎさん柄!?

 

「ちょ!ミキハラセンパイってあの子!?

 あの子オレより年上だったの!?マジで!?」

 驚いて思わず叫んだ拍子に玉子焼き一切れ床に落とした。

 今日は最悪の日だ。

 

 帰りのHRが終わると同時に、オレは席を立って教室を出る。

 今日は夕飯ハンバーグだから、早く帰って作るの手伝わなきゃいけないのだ。

 うちの下の姉、理沙姉ちゃんが仕事から帰ってくる前に作業を終えなければ、せっかくのハンバーグが高確率で、辛うじて食べられる消炭と化す。

 或いはその前に母さんが、理沙姉ちゃんの虐待から哀れなハンバーグを救出できれば、機転を利かせて急遽路線変更の煮込みハンバーグへとの転身が可能だが、そうなると夕飯の時間が著しく遅れるので、できる限りそこも避けたい。

 それなのに。

 

「お前が風祭ってやつか?」

 下駄箱の前で、上級生に声をかけられる。

 一応質問の形だが、「違います」と言って逃げるには、下駄箱の前というのは場所が悪すぎた。

 何せオレが今上履き置く為に手ェ突っ込んでるそこに、しっかり『風祭』ってシール貼られてるし。

 ちなみに、声をかけてきた相手を、何故一目で上級生と判断したかというと…。

 

「…そうですけど。なんか用ですか、早乙女先輩」

「ん?俺のこと知ってるのか?」

「この学校の男子生徒で、アナタを知らないヤツ居ませんから。

 それにオレ、妹の優美さんと同じクラスだし」

 オレの答えを聞いて、神と呼ばれる男は、人の良さそうな顔でニカッと笑ってみせた。




・美樹原 愛(みきはら めぐみ)
今作品のヒロイン。
物語開始時私立きらめき高校2年生。
主人公の入学前、この年のバレンタインデーに親友の藤崎詩織に、ゲーム主人公を紹介されている。
ゲーム中ではお邪魔キャラとしてプレイヤーを爆弾テロの恐怖に陥れた彼女だが、この物語では逆に、うちの主人公に振り回されてもらう予定。

・早乙女 優美(さおとめ ゆみ)
今作品では主人公のクラスメイト。
ゲーム中でのお邪魔キャラその2。

・早乙女 好雄(さおとめ よしお)
早乙女優美の兄。神。
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