「ふうん…なるほどなぁ」
早乙女先輩がまじまじとオレを見つめ、その視線にオレはいたたまれなくなる。
この人、無類の女の子好きって噂だから、男のオレに興味ないだろうし、万一あったとしてもこんな人の出入りの激しい場所で、よもやおかしな真似はしないだろう。
けど、中学時代に男に迫られた事が若干トラウマになってるオレには、この状況は居心地悪いどころの騒ぎじゃない。
「な…なんですか?
用がないなら、オレ、帰りたいんですけど…」
本気で泣きそうになりながら訴える。と、
「よし、お前に特別にこれをやろう。
貴重な情報だから大事に使うんだぞ」
そんなオレの脳内修羅場に、まったく気づいた様子もない軽い口調で、早乙女先輩はそう言うと、カバンから大きな封筒を取り出し、それをオレに手渡してきた。
「はい?えっと、これって」
「はっはっは、そんなに感謝しなくてもいいぜ!
フリーの可愛い女の子がひとり減るのは痛いが、フリーのままのお前に何人もの女の子が片思いしてるよりも、お前にひとり特定の彼女ができる方がよっぽど、俺たちのチャンスも増えるってもんだからな!
もっと詳しい事が知りたければいつでも連絡していいぜ。
女の子の情報なら俺に任せてくれよ。じゃあな!」
…神はそう言って去っていった。
言ってる事がなにひとつわからなかった。
神が残していった封筒を開けてみると、数人の女の子の写真と、その子たちに関する詳しい情報が書かれた紙が出てきた。
電話番号、住所…噂通り、ほんとにスリーサイズまで書かれてるし。
もっと詳しい事が知りたければ…とか言ってたけど、これ以上はほんとに犯罪じゃないの?
この学校の女の子の身の安全を考えたら、申し訳ないが匿名で通報しようと本気で思った。
てゆーか、どさくさに紛れてお前の妹のデータまで寄越すな。
メッチャ興味ないわ。
いや可愛いとは思うけどね?おもに小動物的な意味で。
なんか子リスっぽいしあの子。
とりあえずもうこれ以上は見ない事にして、全部をもとの封筒にしまい込もうとしたら、写真が一枚足元に落ちた。
あわてて拾い上げ、何気なくそこに写ってるものを見て、
「あ」
思わず声を上げてしまう。
写っていたのは間違いなくあのうさぎさん…もとい、今朝電車で会ったあの子だった。
「みきはら、めぐみ…」
写真の裏に書かれている名前を、覚えずオレは声に出して呟いた。
帰ったら夕食のハンバーグは煮込みになっていた。
母さんグッジョブ。
☆☆☆
あれから、何事もなく5日が経過。
『めぐ先輩』は、昼休みの屋上で、親友だという藤崎先輩と2人で、仲良くお弁当を食べている。
オレはそれを、いちご牛乳片手に遠くから眺めてる。
………。
なんかアレだ。
否応無く意識させられた形になったっていうか。
気づいたら、彼女が気になって仕方なくなって。
自分でも気持ち悪い行動だとは思うけど。
思い切ってあの次の日の昼休みに、2年の教室のある階まで、『美樹原先輩』を探しに行ってみた。
すぐ見つかった。
神の情報通り、藤崎先輩と一緒だったから。
なんでも2人は中学の頃からの親友だそうで。
いや、アレはあの後ちゃんと、姉ちゃんの部屋でシュレッダーかけて捨てたからね!
最初の部分だけうっかり読んじゃったけど、それ以上読み進んでないからね!
ましてスリーサイズとか絶対目ェ通してないからね!!
…ぜえはあ。
それはそれとして…うん、可愛い。
写真で見るより、遠目でも本物の方が絶対可愛い。
隣の藤崎先輩がすごくわかりやすい美少女なんで、印象は薄い気がするけど、それでも全然負けてない。
むしろ、男の独占欲をそそるというか、自分だけがこの子の魅力に気づいてる的な感覚に、うっかり陥りそうになる、そういう質の可愛さね。
ああこれ、状況によってはおかしなのに目ェつけられやすいタイプかも。ロリ系だし。
おおおオレは違うぞ断じて。
まあとにかく、存在は確認できたけど。
これ以上の接触は確実にストーカー認定入りそうなんで、その日は満足してさっさと自分の教室に帰る事にした。
したんだけど。
それ以来彼女を見たい欲求に逆らえなくなった。
つか、意識し始めたらいろんな場面で目についた。
藤崎先輩からは『メグ』って呼ばれてるとか。
藤崎先輩といない時に(仲はいいけど結構クラスが離れてる)よく一緒にいる同じクラスの子が、割と似たような体格だとか。
友達といる時はあんな風に笑うんだーとか。
体育の授業では、結構どんくさいとか。
完全にストーカー行為一歩手前です本当にありがとうございます。
さて、そろそろ昼休みも終わるし、教室に戻るか。
また明日ねマイハニー。
……って、アレ?
なんかあの2人、こっち見てる気がするんだけど?
見てる、っていうか…藤崎先輩がオレのこと、超睨んでる気がするんだけど?
てゆーか、凄い勢いでこっち歩いてくるんですけど!!
「あなたが風祭くん!?」
え?なんかいきなり身元バレてます?
つかちょっと待ってこの人、この学校のアイドルって言われてる人だよね?
確かに近くで見ても綺麗な顔してるけど、その分怒り顔が怖い。
般若だ、般若がいる。
「し、詩織ちゃん、ちょっと待って」
その般若の後ろから、見たかった顔が追いすがる。
やっぱりちっちゃい。
ちっちゃくて頼りなくて、隣から振りまかれる怒りのエネルギーに、あっさり吹き飛ばされてしまいそうだ。
逃げ足には自信があるのに、そのせいで逃げることもできやしねぇ。
何かあったら守ってあげなきゃ。
「メグは下がってて!
ひとこと言ってやらなきゃ気が済まない!」
ああこれ、女の子グループによくある『私の親友にひどいことして!』ってパターンのやつ!?
い、いやでもその、最初に無理矢理手ェ握ったのは、人混みからの脱出に助力しただけですし、その後ぱ◯つ見たのは事故ですし、神から貰ったデータは破棄しましたし、毎日顔見たくて屋上詣ではしたけど、接触したらアウトだと思って節度と距離は保ってたから、ギリまだストーカーではないはずですけど!
って、オレ怒られる心当たりありすぎじゃねえか!
「聞いたわ!
風祭くん、あなた公衆の面前で、メグを押し倒したそうね!?
どういうつもりなの!?」
…それかよ!つか押し倒してねえし!
多分噂に尾ひれシステム絶賛起動中なんだろうけど、そもそも最初の時点でどんな話になってんだよ!
「だ、だから違うのよ詩織ちゃん。
そうじゃなくて…」
耳まで真っ赤になりながらどうにかこの場を収めようとする『めぐ先輩』に向かって、
「ごめんなさい!
責任取りますから結婚してください!!」
…気づいたら大声で、よくわからないことを口走っていた。
色々すっ飛ばしすぎだろオレ!
・藤崎 詩織(ふじさき しおり)
言わずと知れた原作ゲームでのメインヒロイン。
その難易度と、嫌われた時の態度の酷さによりプレイヤーから恐れられたラスボス。
ゲーム作成者は男性スタッフなのだろうから、きっと気付いてないだろうけど、リアルでは普通に同性から嫌われてるタイプだと思う。
でも攻略に必要なパラメータ数値の高さは、彼女の理想というより実際には、幼なじみである故に彼との距離が近すぎて、このくらいになって初めて、彼を誰かに奪われる危機感に、背中を押される事になるだけなんだと勝手に思ってる。
多分彼と結ばれなければ意外と一生独身ぽい。