体育祭が一週間後に迫ってきた土曜日の放課後。
全学年合同のリレー練習に参加させられた。
弁当持ってこなかったからハラ減って仕方ないんだけど、一時間くらいで終わるっていうから我慢する事にする。
てゆーか、リレーに出場する選手だけの全体練習なんだけど、なんかやたらとギャラリーが多い。
しかも何故か女の子ばかり。
『伊集院くんステキー!!』
『大豪院先輩〜!』
『剣くん〜!!』
『赤石先輩ーー!』
『伊達先輩、頑張って〜!!』
『冨樫仕事しろーー!』
と、それぞれの応援する選手に声援を送っている。
ウォーミングアップを始めたら、
『隼人くん頑張って〜』
って声が聞こえたから、そっちの何人かに向かって手ェ振ったら、キャーって悲鳴上げられた。
なんでだよ。女の子の反応はよくわからない。
あ、早乙女がいる。
目が合ったら一瞬ムッとしたような表情を浮かべた。
うーん、オレ、あの子になんかしたかな?
つか、なんかするほどの付き合い自体そもそもないんだけど。
これが神の言う爆弾ってやつなんだろうか?
オレが考えてる間に早乙女のやつは、あからさまにオレから視線を外すと、顔の向きからしてオレの斜め後方に向かって、
「直哉さーん!ガンバレーー!!」
ってデカい声張り上げた。
見るともなしになんかそっち見ちゃうと、1人の男子生徒がニコニコしながら、
「ありがとう、優美ちゃん」
とか言って手を振っていた。と、
「大河内、風祭、お前ら次だからな」
と、うちの担任の声が聞こえ、反射的に
「あ、はい」
と返事をしたら、早乙女に『ナオヤさん』と呼ばれていた男が、同じタイミングで返事をした。
向こうも同じことに気づいたのか、お互いに顔を見合わせる。
…うわ。なんかやだこの人。
なにが嫌ってこの男、中学2年のオレに告白してちゅーしてきた先輩に、ちょっとだけ似てるんだよ!
顔とかよりもなんか雰囲気が。
ちなみにあの先輩にはその1年前、いっこ上の幼なじみが、告白して結構酷く振られてるんだよね。
その幼なじみは家庭の事情があって、そのすぐ後くらいに引っ越して行っちゃったんだけど、実はこの学校に入学したら3年ぶりに再会して、しかもメッチャ印象変わっててびっくりした。
元々造形は綺麗な顔してて、うちの姉ちゃんとかは、
『あの子磨けば光るタイプ。
今のうちに彼女になってもらった方がいいんじゃない、隼人?』
なんて冗談言ってたくらいだから、美人さんになってた事は別に驚きはしなかったけど、しっかりして優しくて世話焼きのお姉ちゃんだった彼女が、取り巻いてくる男にカバン持たせたりしてるのには驚いたよ。
確かにスタイルも良くなったし、いっこしか違わないのに大人の女の人みたいになってて、それは別にいいけど、なんかケバい化粧とかしてるし、何より妙なキャラ作って喋ってるの聞いて、申し訳ないがちょっと気持ち悪いとか思っちゃったもん。
とりあえず幼なじみとして笑いのツボはわかってるから、再会した時に持ちネタ全部使って笑わせようとしたら、顔真っ赤にしてすべてのネタを耐えきった後、
『二度と学校では話しかけないで!』
って怒られた。ひどいや魅羅姉ェ。
多分あの先輩の件が原因で意図的にキャラ変えたんだと、容易に推測はできるんだけど、告白して振られたのは相手があっちの人だっただけで、魅羅姉ェの魅力が足りなかったわけじゃないんだけどなぁ。
結局原因がオレだったわけだから、そう思っても言うわけにいかないけどさ。
まあそんなことは別にいいとして。
「君が風祭くん?」
って『ナオヤさん』が話しかけてきた。
「面白い後輩がいるって、好雄から聞いてるよ。
あと詩織からも。
あ、俺、2年の大河内直哉。よろしく」
…一瞬『好雄』と『詩織』が誰のことかわからなかったのは内緒にしておこうと思う。
練習するのは、バトンパスからその後200メートル走るところまで。
オレも直哉先輩も、それぞれ割り振られた列で、アンカーをつとめることになるんだそうで。
ちょっと待て、いつ決まったそんな事。
全然聞いてないんだけど。
「だって君、中学新出した子だって聞いたよ?
君のとこの担任、うちの陸上部の副顧問だし。
正直、そんなすごい子が入学したって聞いて、てっきりうちに入ってくれるもんだと思ってたのに、いつまで待っても来てくれないんだもんなー」
どうやら心の声が口から出ていたらしい。
冗談ぽく茶化す口調で直哉先輩が答える。
ああ、この人陸上部か。
って、うちの学校にも陸上部なんかあったんだ。
全然聞かないからてっきりないもんだと思ってたよ。
まあ要するに学校からの期待値も注目度もそれほどではない分、実力もお察し、的な。
オレとしてもあんな事がなかったら入ってたかも…いや、あんな事がなかったらそもそもこの学校受験して越境してまで通ってなかったわ。
あっちは中高一貫だったし、一応名門校のスポーツ推薦の道もなくはなかったし。
つか正直放課後暇なのも手持ち無沙汰感あるし、少し頑張って部活動もやってみようかと、思わなくもなかったんだけどね。
運動部は除外。
大体男女分かれてて、野郎ばっかりの中に身を置く事になるし。
できれば女の子の方が人数多くて、男が重宝される文化系とかいいんじゃないかなと最初は思ってたんだ。
でも、楽器とか相当お金かかりそうな上、手入れもめんどそうだったから軽音楽部は候補から外し、美術部、文芸部はそもそも興味ない。演劇部は見学に行ったら何故かやけにテンション上がった部員たちに女装させられそうになった。
衣装渡されて泣きそうになってたら、遅れて来た女の先輩がやんわり引き離してこっそり逃がしてくれて、あの人にはちゃんとお礼言わなきゃと思ってたのにまだ言ってない。
つかクラスも名前もわからないからお礼しに行きようがないんだけど。
演劇部の部室にまた行くのは危険だし。
そんなわけで部活動の参加は未だ保留中。
つかもうこの時期まで来ちゃったら別に帰宅部のまんまでいいやとそろそろ思い始めてきた。
まあそれはいいとして。
俺たちの順番が回ってきて、バトンパスのレクチャーを受けた後、いよいよ走る段階に入り。
バトン受け渡しがスムーズに行われ、オレの方が一瞬先にダッシュした筈が…えっ!?
…次の瞬間、さっきまで隣にいた男の、背中をオレは見ていた。
そりゃあ部活動としては1年半走ってないよ。
トレーニング量も、名門校の特待生候補だった時期に比べたら全然で、だいぶ緩んでるのは認める。
ベストの頃のタイムとか、今はっちゃきに走ったところでとても出せないだろう。
でもカラダ動かすの自体は好きだからまったく鍛えてないわけじゃないし、同じ世代ならその辺の選手にもまだ負けてない…筈だと思ってたのに。
いや絶対にオレの問題じゃない!
誰だよこんな高校の陸上部のレベルなんてお察しだなんて言ったの!←お前だよ
コイツ多分、オリンピック級まではいかなくても、インターハイで優勝狙えるレベルで速いじゃねえか!
こんなやつがなんでこの高校に居るんだよ!
一瞬呆然としたもののスパートをかけ、直哉先輩の背中からなんとか肩を若干後方から見る程度まで詰めてゴールする。
「やっぱ速いねー。
もう少し距離が長いコースなら絶対負けてるよ。
凄い」
んなわけあるか。バカにしてんのかよ。
「マジだって。
俺ね、瞬発力しかないの。持久力とか全然ない。
実際ゴール前は詰められてただろ?」
そうは言うけど、200メートルと400メートルなら、戦略的に違うだろうが。
あと、だだ漏れてるのはわかったから心の声にいちいち返事すんな。
と、視界の端に映ったものに、僅かに心臓が跳ねる。
遠巻きにそれぞれ応援してる女の子の群れの中から、小さいけど(オレ的に)目を惹く存在が、とてとて、と駆けてきた。
「めぐみさ…」
「あ、あの…大河内くん!」
「あれ、美樹原さん。こんにちわ」
…彼女が呼びかけたのは、オレを負かした男だった。
あの、さくらんぼのような赤い頬で、それでも嬉しそうに微笑む彼女。
その表情で、すべてを悟った。
彼女は、アイツに恋してる。
・鏡 魅羅(かがみ みら)
常に取り巻きに囲まれるきらめき高校三大アイドルの1人。(詩織さんと、もう1人は虹野沙希)
校内では常に『鏡魅羅』というキャラを演じ続ける、ある意味女優。
今作品では一応隼人の幼なじみだが、基本お姉ちゃんキャラの彼女に対し隼人が完璧に弟キャラだった為、メインカプの彼と彼女とは違い、お互いに恋愛に発展する気持ちはまっったく育たなかった模様。
相性が良すぎて完全に身内と化した例。
しかも再会直後に、校内接触禁止令を本人から出された事で、今後のストーリーに関わってくる事はないと思われ。
でも多分お互いに、身内的な意味で大切には思ってる。うん多分。
・大河内 直哉(おおこうち なおや)
藤崎詩織の幼なじみで原作ゲームでの主人公。
登場時点できらめき高校2年生。
今作品では、原作にはない陸上部に所属(笑)。
最初から既に高スペックな隼人や伊集院と違い、初期パラメータはほぼ平均値。
よく言えばクセがない、悪く言えば個性のないキャラクターだが、それ故に本人の努力次第でどのようにでも成長する事が可能な、ある意味無限のソウルの持ち主(爆)。
登場時点の現在、既にその才能が詩織さんの為だけに開花し始めており、全てのパラメータが高水準に達しつつある。故に人気急上昇中。
ちなみに外見は素で平凡だが雰囲気イケメン。
一年目のクリスマスパーティーは鍛えた身体で乗り切ったらしい(爆)。