伝説の樹の下には恋の残骸が埋まっている   作:大岡 ひじき

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まさか体育祭だけで、こんなに話数引っ張ると思わなかった…orz


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 あの翌日から、トレーニングを再開した。

 とりあえず一週間後の体育祭を目標として。

 アイツには負けたくないと思ったから。

 再開2日目の早朝、スタートダッシュの練習の後に少し休憩してたら、水泳部の清川先輩(全国期待の超高校級スイマー、勿論校内有名人)に会って声をかけられ何故か筋肉談議になり、効率的なトレーニングを教えてもらった。

 お陰で次の日からの結果の上がり方が段違いですごい助かった。

 4日目にその事を告げてお礼言って、今から師匠って呼んでいいですかって言ったら割と真剣に嫌がられたので、あくまで心の中だけで呼んでおこうと思う。

 それはさておき清川先輩、近くで見たら結構綺麗な人だった。

 藤崎先輩みたいな完璧超人は別格にしても、うちの学校のオレのいっこ上学年の、このスペックの高さ一体なんなんだろ。

 平気で二物も三物も与えられてんじゃん。

 

 ☆☆☆

 

 で今日が体育祭当日。

 オレの出場種目のうち、400メートル走と200メートル走は午前中に行われ、オレは問題なく勝利を収めた。

 ありがとう清川先輩(ししょう)

 でも100メートル走では直哉先輩にやっぱり僅差で負けた。

 メッチャ悔しい。

 くっそ、リレーでは絶対に勝ってやる!

 いつもより大きめの弁当(うちの上の萌菜姉ちゃんが、早起きして作ってくれた大量の玉子焼きによる。確かに萌菜姉ちゃんの玉子焼きは美味いが、こんなに大量に作らなくても良かったんじゃね?一体卵何個割ったんだよ)に舌鼓を打った楽しい昼休みの後に、借り物競争とかスプーンリレーとか大玉転がしとかの、お祭り色の強い競技が行われた後、いよいよ体育祭の華であるリレーが行われる。

 それはそれとして神と早乙女が二人三脚でレコード出したらしい。

 でもそれよりも、休憩も挟まずほぼ全ての競技に一通り顔だして大体勝ってる伊集院先輩とかマジで化けもんだと思う。

 その伊集院先輩が妙に直哉先輩に絡んでて直哉先輩が嫌そうな顔してるのを目撃したんだが、うんもっとやれ。

 努力であっさりエリートを超えてくるのとか、見ててムカつくのメッチャわかります。

 オレだって3ヶ月もトレーニングすれば余裕で超えられるから!

 …すいません相当フカシこきました。

 なんていうかあの人、基本スペックは凡人なんだろうけど成長力に壁がない気がするの。

 ここいらで叩いとかないと奴は絶対増長する。

 

「めぐみさん、こんにち…ちょ、怪我してんの!?」

 いよいよリレーが始まる時に、少し遠くの方にめぐみさんの姿を見つけ(自慢じゃないがオレは目はいい方だ)、ダッシュで近づいて声をかけたら、あろう事かそのちょっとむちっとした膝頭に、血が滲んでてメッチャ驚いた。

 

「あ…か、風祭くん?

 そ、その、ちょっと転んじゃって…だ、大丈夫です」

 言いながらちょっとしかめた顔も可愛いけどそれどころじゃない。

 

「やだもう、絶対大丈夫じゃないからそれ。

 メッチャ痛そうだし、女の子が傷軽視しちゃダメ!

 保健室行くよ!」

「え…きゃあ!」

 オレは言い切ると迷わず彼女を姫抱きした。

 …関係ないがオレは動揺すると若干女言葉になる事がある。

 末っ子長男で上の姉ちゃんたちと年が離れてて、母親が3人いるみたいな環境で育って来たのも勿論だけど、元々母国語が英語の父さんが、日本語を母さんから覚えたせいで、かなり女性寄りに傾いてて、言葉を覚える過程で周りに、まともに男言葉で日本語喋る大人がいなかったせいだと思う。

 これでも一応、小学校入ってから同級生にバカにされたのきっかけに、自力で矯正したんだけどな。

 まあそんな事、今はどうでもいい。

 

「先生!

 怪我人発見したんで保健室連れていきます!」

「か、風祭くん!私は大丈夫ですから!」

「え?いや風祭ちょっと待て!」

「一分一秒待てません!」

 もう、めぐみさんが痛い思いしてるって思った途端、直哉先輩との勝負なんて些細な事は、遥かに見える遠くのお山に飛んで行った。

 腕の中で大丈夫を連呼する彼女を抱えて保健室に猛ダッシュする。

 後方からなんか女の子の黄色い悲鳴がコーラスで聞こえてきて気にはなったけどそんなん構っちゃいられなかった。

 

「先生ー」

「どした風祭?食べ過ぎ?」

 オレが駆け込んだ保健室で、どうやらやっぱり転んで怪我したらしいうちのクラスのやつの手当てをしていた養護教諭が、オレの声を聞くや振り返りもせずに、ツッコミどころ満載の声をかけてくる。

 

「なんで腹痛限定だよ!

 てゆーかオレじゃねーし!怪我人!」

 とりあえず諦めて大人しくオレに姫抱きされていためぐみさんをそこにあった椅子に座らせながら、それに律儀につっこんでるオレも大概だとは思うが、

 

「先生〜、食い過ぎで隼人がハラ壊した事なんかあるゥ?

 ンなわけないっつーの」

 そこに手当てされてたやつがつまんねー追い打ちをかけるもんだから、若干ムカついたので先生の椅子をくるっと回してめぐみさんの方に向けたと同時に、先生の手にあった消毒薬付きの脱脂綿をひったくって傷口にグリグリ押し当ててやった。

 狭い保健室に耳障りな男の悲鳴が響いた。

 

「ちょっとー、騒ぐんなら出てってくれない?

 はい、それじゃ美樹原さん、傷見せてね」

「は、はい…」

 先生は別のピンセットを手に取り新しい脱脂綿を出して、それに消毒薬を染み込ませながら彼女に話しかける。

 

「あらまあ、結構派手に擦りむいたのね。

 消毒するから、ちょっとしみるけど、我慢してね」

「はい……っ!」

 傷口に脱脂綿を当てられ、めぐみさんの表情が痛そうに歪む。

 

「ちょ、先生!優しくしてやって!」

「うるさい風祭。あなたもう戻んなさい」

 思わず横から口を挟むと、先生にシッシッてされた。

 オレは犬じゃねえよ。

 

「えー。でもオレ、めぐみさんが心配だしー」

「か、風祭くん…もう、大丈夫です。

 だから、風祭くんは競技に戻った方が…」

「ヤダ。

 オレは競技より、めぐみさんの方が大事だもん」

「えっ…あの……あ、ありがとう、ございます」

「うーん、青春だねえ。

 でもそういうやりとりは、先生のいないとこでやってくれる?」

 …結局めぐみさんの手当てを待たずに保健室から追い出されたオレは、仕方なくグラウンドに戻った。

 

「あ、戻ってきた!」

「風祭!早く早く!スタンバイして!」

 絶対間に合わないと思っていた出番がいきなり巡ってきて、オレ若干パニクり中。

 結構無理言ってスタート遅らせてもらったんだから!という誰かの声が聞こえたけど、どんだけ期待されてんのよオレ。

 

「助かったぁ〜!

 君が間に合わなかったら、君のグループ、伊集院がアンカー走るって言うし、俺、あいつと走るのやだったからさぁ」

 と、先にスタート地点に立ってる直哉先輩に声をかけられる。

 

「ハーッハッハッハッ!

 僕と走って完膚なきまでの敗北に打ちのめされなかった事、彼に感謝するんだな!」

「うるせえぞ伊集院!」

 …ひょっとするとこの2人、普段からこんな感じなのか。

 そもそも伊集院先輩に対してこういう対応ができるってだけでも稀少な人材って気がするし、意外と伊集院先輩がソレ嫌がってないぽい。

 伊集院先輩って基本友達いなさそうだから、こういう反応が新鮮なのかもしれないな。

 直哉先輩は表面上は嫌そうな顔してるけど、実はこの2人、意外と仲良いのかも。

 てゆーか、なんなんだこの直哉先輩の大物感。

 

「風祭!」

 とか考えてるうちに、第3走者がオレに迫ってきて、オレはやや早めにスタートを切った。

 オレたちのバトンパスが順調に行われたタイミングで、視界の端に直哉先輩が、第3走者のバトンを受け取るのが見える。

 そう、こないだの練習ではここで、アイツの背中を見る事になったんだ。

 あの日の雪辱は果たす!!

 ついさっきまで棄権する気満々だったのも忘れて、オレは闘志を燃え上がらせた。

 なのに…羽根でも生えてるみたいに軽々とスタートダッシュを切った直哉先輩が、次の瞬間には大幅にリードしていた筈のオレと肩を並べてくる。

 完全にあの時の再現だ。

 くっそ、速すぎんだろ!!

 だけど絶対に、絶対に、絶対に…

 こいつには、絶対に負けたくねえーーっ!!!!

 

 …この年の200メートルリレー走は、最終走者のゴール前の競り合いが、実に見応えのある勝負だったと、後に語られるほどのデッドヒートだったそうだ。

 知らんけど。

 オレと直哉先輩はほぼ同時にゴールテープを切り、ゴール前の教師や体育祭実行委員の生徒が数分意見を交わしあった末、同着という結果となった。

 勝負がつかなかったのは、ある意味負けるより悔しい。

 てゆーかリードしてたのに同着って事は事実上負けてるよなー。

 あーホント悔しい。

 と。

 

「あの…風祭くん」

 後ろから、聞き間違えようもない声がかかり、オレはマッハで振り返った。

 

「めぐみさん!膝、大丈夫だった?」

 反射的に足の方に目が行くのは、事情が事情だけに許してほしい。

 でもさっき出血していた膝の方は、包帯でも巻いてるかと思ったけど、見たら広範囲用の大きな絆創膏が貼られてるだけだった。

 …さっきもちょっと思ったけど、この人小さい割に脚まわりは結構むっちりしてるよな。

 そういうの嫌いじゃない…てゆーか細すぎるより全然いい。

 脚を揃えて立って隙間できるってのに、女の子が憧れる理由がわからない。

 そりゃ太すぎるのは問題外だけど、触って柔らかい方がいいじゃん。

 

「は、はい。

 ちょっとちくちくしますけど大丈夫です。

 さっきは、あの、ありがとう」

 おっと、また余計な事を考えていた。

 

「それなら良かった。

 あ、競技には間に合ったから、気にしなくていいからね?」

「あ、はい。

 最後の周回だけ、間に合ったから、私も見てました」

「え?」

「凄かったですね…風祭くんも、格好よかったです」

 …風祭くん『も』ですかそうですか。

 やっぱり悔しい。

 

 体育祭のラストは全員参加のフォークダンス。

 とりあえず1年の列の最後尾に並ぼうとしたら、

 

「ごめん風祭、お前2年の列来てー。

 江戸川が足痺れて動けないから男子の人数足りないー」

 って実行委員の先輩に呼び止められた。

 言われるままに誘導される方に移動する。

 なんか後ろから女の子数人の、

 

『えーー』『ありえなーい』

 とかいう声が聞こえるんだが、なんかあったんだろうか。

 そんな事よりいよいよフォークダンスが始まって、何人目かに何故か早乙女が回ってきた。

 

「あれ?キミなんでこっち居んの?」

「直哉さんと踊りたかったからこっちの列に来ちゃった。

 風祭は?なんでこっちに居るの?」

「男子の人数足りないからって、急遽こっちに回された。

 でも、キミがここに居るって事は、男子が足りないんじゃなく女子が一人多かったみたいね」

「あはは♪シーだよ、シー」

 …念願叶って直哉先輩と踊れたからか、早乙女はメッチャ御機嫌だった。

 爆弾はどうなったんだ?別にいいけど。

 更に何人か後に、魅羅姉ェが回ってきた。

 …どうでもいいが踊りにくい。

 オレより5センチは背ェ高いもんな。

 

「…リレー、見ていたわよ。

 相変わらずやるじゃない」

 校内では話しかけるなと言われてたから黙ってたら、向こうから小声で話しかけてきた。

 

「…お褒めに預かり光栄」

「今度デートしてあげても良くてよ?オホホホホ」

「そのキャラやめれ。気色悪い」

「うるさいわね…ほっといてちょうだい」

 …終了。

 更に何人かと踊ってるうちにちょっと余裕出てきて、なにげにオレの後ろの方向に目をやった。

 …見なきゃ良かった。

 ちょうど直哉先輩が、めぐみさんの手をとる瞬間だった。

 めぐみさんは、うっとりととろけるような笑顔で、直哉先輩を見つめていて…まさに、恋する乙女って感じ。

 オレに対する態度も決して悪くはないだろうけど、いかんせん差がありすぎだ。

 仕方ないけど。

 でもその後、パートナーチェンジのタイミングで、次に藤崎先輩の手をとった直哉先輩の、その表情を見るともなく見てしまい、オレは別の意味で打ちひしがれる。

 その瞬間まで直哉先輩って、まあ伊集院先輩は別にしても、結構誰に対しても同じように優しい、大人なタイプだと勝手に思ってた。

 いや間違いじゃないんだろうけど、それにしたって、さっきまでの涼しげな微笑みなんて、仮面でしかなかったんだろうってくらい…

 

 藤崎先輩に向ける笑顔が、優しすぎた。

 

 あんなん反則だろ!

 あんな表情で見つめられたら、下手すりゃ男だって落ちるわ!

 つか一瞬オレが落とされかけたわ!

 あれを間近で見ていながら、普通に笑ってられる藤崎先輩が信じられねえわ!!

 

 これでよくわかった。

 直哉先輩が、藤崎先輩を好きだって事が。

 それは、このフォークダンスの輪のような、片思いの連鎖。

 

 ふと気付けば、めぐみさんがオレの目の前に来ていて。

 その手を取ろうとした瞬間。

 

 音楽が、止まった。

 

 フォークダンスは、音楽が止まれば終わる。

 けど、片思いの連鎖は、どこで止まるんだろう。

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