そこについていけてない主人公。
体育祭が終わると、気を抜く暇も与えられず、各授業で期末テストの範囲が発表される。
オレ、暗記は割と得意なんだけど、思ってたより範囲広いなー。
そろそろテスト勉強始めないとヤヴァイかも。
なんて思いながら過ごした翌週の日曜日、母さんにカレーの材料頼まれたついでに、駅前のショッピング街の方に足を伸ばした。
何やらセール中らしいブティックのワゴン前で、見覚えのある後ろ姿を発見する。
「あれ……めぐみさん?」
「…風祭くん?」
私服だったから一瞬わからなかったけど、どうやら買い物中のめぐみさん。
休日も会えるなんて、オレ達運命の糸で結ばれてるんじゃね?
……すいません調子こきました。
「風祭くんも、お買い物ですか?」
「オレはおつかいのついでに見に来ただけー。
服とかそろそろ買わなきゃだけど、今金欠気味でさ。……それ買うの?」
己の状況を説明しながら、彼女が手にしていたものを見るともなしに見て、ちょっと首を傾げてしまうオレ。
「そうしようかな、って思って……あ、あの、ひょっとして似合いませんか?」
「いや、メッチャ似合うけど…それ、今着てるやつと、あんまり変わらなくない?」
今日の彼女の私服はフリルのついたブラウスにピンクのロング丈のキャミワンピを重ねた、女の子らしく可愛い装いだ。
…逆に可愛らし過ぎて、ただでさえ小柄なめぐみさんを、実年齢より幼く見せてしまっている。
で、今彼女が手にしているそれは、多分だがワゴンの隣に配置されたトルソーが着てるのと同じ淡いクリーム色の、フリルの大きな襟のついたパフスリーブのブラウス。
着てるところが容易に想像できて確かに可愛いんだけど、正直、今着てるやつの、色違いの半袖にしか見えない。
「あ…そうかも。自分で選ぶと、どうしても似たような感じになりがちで…」
「もしかしてめぐみさんの私服、パステルカラー多め?」
「そう………ですね」
「ならたまには、こんな強めの色とか着てみたら?」
そう言って、なにげに目についた色の服を、ワゴンの中から引っ張り出し…オレは一瞬後悔した。
それはくっきりした青みがかったグリーンの、結構なミニ丈のワンピースだったからだ。
フレンチスリーブでストンとしたシンプルな形に、共布のベルトでアクセントをつけてあるが、多分そのベルトをウエストよりも下に配置する事で、よりスカート部分のミニ感を強調する感じになっている。
ウエストにポイントが置かれていない分、体型を選ばない感じではありそうだけど。
しかも襟元と裾部分に細かい刺繍が入ってるのだが、よくよく見るとペンギンを図案化したらしい模様で、なんかいろんな意味で大胆なデザインだ。
「…ごめん。これはさすがに違…」
とりあえず無かったことにしようと、オレは手にしたそれをワゴンに戻そうとした。
が。
「可愛い……!」
「えっ?」
いきなり腕を取られて、その服を手にしたまま、オレの動きが拘束される。
めぐみさんの小さな手がオレの肘を掴んで、腕を組むようにして引き寄せてくるんだが…待って!
なんかちょっと柔らかいの当たってるから!
オレの動揺にまったく気づかず、めぐみさんはキラキラした目で、オレの手にしたままのワンピースを見つめている。
「着てみたい、です……!」
「ええっ!!?」
これを?マジで?
呆然とするオレの手からそれを奪い取り、ワゴンの側に置かれている縦長の鏡の前で、めぐみさんはそれを、自分の身体に当て始める。
「あの…似合いませんか…?」
「え〜っと…」
なんと言うべきか答えあぐねていると、近くで見ていた店員が、オレたちに声をかけてきた。
「よろしければ試着してみませんか〜?
実際に着ているところを見たほうが、彼氏さんにも良さが伝わるんじゃないですか〜?」
「えっ?」
なんかちょっとどう反応していいかわからないワードが出てきて、オレは瞬間固まった。
「いや、彼氏とかじゃ」
「この丈なら、ニーハイソックスと合わせても可愛いですよ〜。
これね、うち的にかなり売れてるデザインなんですけど〜、お色が去年の流行色なんで半額になってます〜。お得ですよ〜。
あ、試着室はこっちです〜」
「聞けよ」
つか要するに去年の売れ残りって事だよな!
まあ、セール品なんて大概そんなもんだろうけど!
でも、めぐみさん的にはかなり気に入った様子で、店員に促されるまま、いそいそと試着室に入っていってしまったので、オレは何をするでもなくその場に立ち尽くす。
つか帰っちゃダメだよな。
「さっき、彼氏とかじゃないって言ってましたけど」
と、彼女の試着を待つ間、店員が話しかけてきた。
なんかさっきまでと口調違うな。
つか、無視はしたけどちゃんと聞いてたんだ。
「…もしかしてきらめき高校の生徒さん?」
「……そうだけど。なんでわかったの?」
「やっぱり。
あそこの生徒さんって例の『伝説』のせいか、男女交際に関しては特殊な習性持ってるじゃないですか」
「習性」
・・・
…そう。
オレたちの通う私立きらめき高校には、恋にまつわる伝説がある。
卒業式に校庭にある大きな木の下で、女の子からの告白で生まれたカップルは、永遠に幸せになれるという。
その伝説を狙ってなのか、校則に男女交際禁止が謳われてるわけでもなんでもない(逆に推奨してる雰囲気さえある)のに、この学校では3年もある高校生活中、彼氏彼女として付き合い始めるカップルが実は少ない。
中には校内ではいつも一緒に行動していて、休日はほぼ毎週デートしてても、この2人は付き合ってないなんて事もあるんだって。
…『付き合う』の定義ってなんだろうって、確かに思うよな。
そんなわけで、好き合ってる2人でもそうやって卒業式まで引っ張る中、1年生のうちから、まして男から告白したオレみたいなやつは、この学校では珍しいパターンらしいんだが、
「だからこそ在学中に彼女を作るのが、この世界でのおまえの使命だから」
と、体育祭のあとで
相変わらず意味がわからないけど、まあそういう事だ。
・・・
「私は違う高校だったから噂でしか聞いてないんですけど。
在学中は誰とも『付き合ってない』けど、実際にはいろんな人とデートしてたりするって、中学時代の友達が言ってて。
まあ、みんながみんなじゃないとは思いますけど、そういうの話聞くのもなんか嫌だったから、その友達とは縁切りましたよ。
お兄さんも彼女もそういうふうには見えないけど、もしかしてそうなのかな〜って」
「オレは違いますよ!
告白はもうしたし、今は返事待ちです!」
「そうなんですね〜♪安心しました〜!」
…店員とそういう話をしている間に、試着室からめぐみさんが出てきた。
「こんな感じですけど…あの、どうですか?」
少し恥ずかしそうに、オレに訊ねてくる彼女に、オレは被せ気味に答える。
「メッチャ可愛い」
正直、可愛いのは彼女自身で服の方はほぼほぼ見てなかったんだが、オレの一言でそのワンピースはお買い上げになった。
…オレがそう言った瞬間、真っ赤になって俯いた彼女を見て、もしかしたら結構脈アリなんじゃないかって、それから一週間ずっと浮かれてたよ。
…翌週の日曜日、そのワンピースを着て、直哉先輩と映画館から出てきた彼女を見るまでは。
上映作品はホラー。