エンドワールド ~転生者は最強剣道少女達と共にVR世界を席巻す~ 作:RipoD
2024.1.25
15:00
1層 エンドワールド ギルドホール
Side ヴァイリ
攻略最前線は62層。折り返しを過ぎてプレイヤーの間では帰れる希望が芽生え、現実に帰ったら○○するという死亡フラグが流行している。
大体のプレイヤーは定まったギルドに根付き、鞍替えするケースはめっきり減った。だからこそ今時募集要項を見て入団申請してくるのはワケ有りと勘ぐるべきだ。
ギルドホールのエントランスのソファでクロンと共に緑茶を啜っていると緑掛かった白い髪を伸ばしたプレイヤーがやって来た。
「ギルドのメンバー募集を見て来たんだが」
かわいい見た目にそぐわないボーイッシュな口調で受付に声をかけ、面接申請を済ませていった。
「3日後に入隊面接があります。時間厳守でいらしてください」
「分かった、ありがとう」
礼を言うとそのプレイヤーは足早にギルドホールから出て行った。
「まずいのが来たな」
俺は湯呑をテーブルに置くと受付に駆け寄る。
「キーナ、今の人の申請書見せて」
「何、知り合いか何か?」
「いや、違うけど。というより面倒事かも知れない」
受付をやっていたキーナから申請書を借りる。書類の名前欄にはLuxと書いてあった。現所属はアインクラッド解放軍。棺桶が探りをいれてきやがった。すぐにキーナ経由で本部へ召集をかけた。
16:00
会議室には本部のメンバーが集まる。
「圏内事件に関わるのは悪手だったんじゃないの?」
アンジェラが机をコツコツと小突く。イライラしているのは誰の目から見てもわかる。
「干渉した結果、こちらに棺桶の関心が移ってしまったのでは?介入の責任者はあなたよね、ヴァイリ君。」
片目を瞑りながらリリオも棘のある言葉を言う。
「圏内事件を閃光に見せないとまず解決されるかどうかも分からなかったですよ。あのあと捜査されなかったらヨルコとカインズ、シュミットは棺桶に殺された可能性が高いし。シュミットは今後の攻略にも必要な人材です。」
俺は反論する。圏内事件の時にラーチェが言っていたバタフライエフェクトという言葉が頭をよぎる。
「圏内事件への干渉の是非は後回しだ。あのルクスとかいうイレギュラーをどう処理するかだ」
ミルローゼはもともとの論点に戻してくれる。俺をすぐにどうこうしようとするわけではなさそうなので少しホッとする。
「馬鹿ならMPKで釣って始末できますが、相手は常時警戒している手練です。睡眠PKのようにデュエルでキルすればオレンジにはなりませんが、ゲーム終了後に総務省のログ解析があるので殺しがバレたら更生施設行きになりますね」
25層でやらかしたどっかのトゲトゲ頭みたいのならまだしも相手はPKの手口をよく知るオレンジギルド所属だ。ヘマはしないよう訓練されている。
「ヴァイリ、ルクス以外で棺桶の諜報員の事はわからないんだな?」
ミルローゼが聞いてくる。
「分からないですね。もう既にエンドワールド内に入っているなら1人か2人か棺桶に殺されているはずでは?」
流石にいないだろう。だいたいの人員は5層くらいまでに集まっていたわけだし。いや、途中で寝返っているのがいるかもしれないか。
「ルクスを入れることで組織内のネズミが分かるかもしれん。あるいは奴を入れておけば棺桶側の動向が伺える。」
ミルローゼが悪い顔をすると参席していた全員に冷や汗が流れた。
Side 3人称
2024.1.28
「先日入団面接を予約していたルクスだが」
「おまちしておりました。どうぞこちらへ」
ルクスがエンドワールドのギルドホールの受付に訪ねるとカスミが応対して案内する。
ルクスはエンドワールドのギルドホール奥の部屋に通される。彼女は潜入員としてエンドワールドの動向を探るようラフィンコフィンの幹部から命令を受けていた。同じ年代で女性ということで今回のギルド潜入に指名された。ラフィンコフィンは有力ギルドにスパイを送り込み、レア武器が奪える機会を探ったり、警戒網に引っかからないよう警備シフトの情報を手に入れたり、チャンスがあればPKできるパーティを選別していたりしていた。
「ここの部屋です。どうぞ入ってください」
カスミがノックして扉を開く。
面接室にはミルローゼ、リリオ、アンジェラの3人が長テーブルに並んで椅子に座っていた。
「時間を頂いて済まない。現在解放軍所属のルクスという。」
ルクスはテーブルの3人の前で立ち止まり自己紹介を始める。彼女はウィンドウを可視化してギルドエンブレムが見えるようにする。ルクスが直前まで受けていた指令は軍の内偵だったため所属もラフコフから変わっていた。もちろん軍内部にいる他の諜報員と互いに監視しあっていたためラフコフへの背任があるとオレンジの実行部隊に粛清される。
「このギルドの長のミルローゼだ。よりによって商売敵とは因縁が深いな。なぜこのタイミングで軍からこちらへ?」
「近頃、軍は税収を行っている。私はあんなプレイヤーから物を奪うやり方には賛同できない。だから別のギルドに移ろうと考えたんだ。エンドワールドなら同年代の子も多いし居やすいかなと思ったんだ」
「ようするに亡命したいわけか」
ミルローゼは手元の書類を見ながら問う。
「・・・まあ、そういうことになるかな。索敵などのスキルはかなり高くしているからフィールドの偵察などは得意としている。」
「ほう、そうか。」
ピリリリ
「ああ、すまん。メッセージだ」
ミルローゼのメッセのアラームが鳴る。隣の部屋の覗き穴から監視しているラーミルからのものだった。
《彼女はラフィンコフィンの幹部の命令で入団希望を出したみたい》
ラーミルの思考ログ読みによりヴァイリの言っていた通り棺桶の諜報員であることが確認できた。
「ではまずは身体検査だ」
ミルローゼが右手を振る。
「はい?」
ルクスがなんのことか理解できないまま、室内のカーテンに隠れていたカーラとイブが飛び出してきて体術スキルで床に取り押さえた。
「ぐっ」
押さえつけられたルクスから苦悶の声が漏れる。
「確保ぉ!」
カーラがルクスの腕を後ろに回しながら叫ぶ。
「同性同士だと少々手荒くても倫理コードは発動しないものなのだな」
ミルローゼが歓心していると、部屋の扉が勢いよく開き、クロンをはじめ、何人もエンドワールドのメンバーが入ってきてルクスに槍の穂先を向けて囲む。
「暴れるなぁ!」
「おとなしくしろ」
怒号を浴びせるメンバーの目には殺意が篭っていた。
「いったい何の真似だ。まだ私自身は軍に籍を置いているのだぞ。まさか貴方たちがこんな乱暴なことをするようなギルドとは・・・このことは軍に戻って報告させてもらう」
ルクスは床に倒されながらも怒りの様相を見せる。
「それはおかしな話だ。軍は上層に上がってこなくなったから我々とはレベル差がありすぎる。たとえギルド同士の戦争になってもどちらが勝つかは軍の関係者であればよく分かっているはずだ。ラフィンコフィンのルクス」
ミルローゼは椅子から立ち上がり、テーブルを回って床に転がったルクスの前まで歩いてくる。
「っ!、私はグリーンだぞ、なぜレッドギルドの名前が挙がる」
図星を突かれ、一瞬戸惑うがルクスはシラを切る。
「カーラ、そいつのスカートを上げろ」
部屋に入ってきたヴァイリがカーラに指示する。
「は?こんなときにあんた何言ってんのよ!何、この期に及んでセクハラかます気?」
カーラは顔を赤くして叫ぶ。
「ラフコフなら太ももあたりにタトゥーを入れているはずだ」
ヴァイリの言葉にカーラは、はっとしてスカートの裾を上げる
「あったわ、棺桶のタトゥーが」
カリカチュアライズされた黒い棺桶の悪趣味なタトゥーがその場にいた人の目に入る。
パシャッ
その内の一人のラーチェが映像記録結晶を出し、写真を撮る。
「くっ」
言い逃れできない証拠が見つかりルクスは何も弁解できなくなっていた。
かちゃかちゃ
もう片方からルクスを押さえつけていたイブが手錠アイテムをはめる。
「さて、処罰とすると我々としては危害を加えてきたオレンジ及びレッドは徹底抗戦の構えであるワケだが」
ミルローゼは顎に手を当てる。
「私を殺せば軍に潜入している他の諜報員が君たちが何をしたのか感づく。」
ルクスは既に他の諜報員に内偵先のギルドが変わることを伝えていた。ここで死ねばラフコフも気づき、新しい諜報員をエンドワールドに送り込むか、ギルド同士で戦争が起こることが予想された。
「だからといって無事に解放される訳が無かろう。柏坂ひより」
ミルローゼはしゃがんでルクスに顔を近づける。
「なっ!どうしてその名前を」
現実での名前が出てくるとは思わなかったルクスは目を見開いて驚く。
「お前は我々を舐めているのではないのか。我がギルドの情報班は優秀なのでな」
ミルローゼはルクスを睨みつける。
「まあまあ、魔王様。これを殺して棺桶と全面抗争になるのも厄介ですし、逆に利用して棺桶側の情報を聞き出す。二重スパイでもやってもらうのは如何でしょうか。」
ルクスとミルローゼの間にヴァイリが入ってくる。
「うーむ・・・我々の情報は秘匿し、他のギルドの情報のみ棺桶に漏洩させよう。それならこちら側には被害はない。」
ミルローゼは考えたふりして決めたように言う。もともと3日前に会議で決めたことをなぞって言っている芝居だった。
「という事だ。おめでとう、このギルドと棺桶の命運は君の身の振りに託された。戦争になったら両陣営真っ先に裏切り者の君を始末しようとするだろうけどね」
ヴァイリはいい笑顔をしてルクスに言う。彼女の顔は青ざめていた。
「情報班に属していると報告が入れば棺桶のほうも満足するだろう。ラーチェ、任せたぞ」
ミルローゼはラーチェのほうを向く。
「分かりました。ルクス、ついてこい」
ラーチェがルクスの手錠を掴み、部屋から連れ出していく。ルクスは重い足取りながらも従って歩いて行った。
「これでは棺桶と我々どちらが鬼畜か分からんな。」
部屋にいたメンバーもだいぶ出払ってからミルローゼはぼやく。
「おやおや、魔王様は悪を貫くお方ではなかったですか?使えるものは使ったほうがよろしいんですよ。そんな生ぬるいことをおっしゃるなんて」
ヴァイリは調子に乗って軽口を叩く。
「そういえば反逆容疑の有る者の正式処分がまだだったな」
ミルローゼはヴァイリを睨む。
「卑しい人民の過ちに寛大な魔王様素敵です」
ヴァイリは即座に失言を上書きした。
「我々のほうに縛り付けて保護するか。あの者も難儀なものだな」
討伐作戦も予定されているラフコフからルクスを保護するにはエンドワールドの目の届く範囲に彼女を置くということで本部とヴァイリの話し合いの結果落ち着いた。
「これも貴方の筋書き通りなのか?」
ヴァイリのとなりに来たクロンが質問する。
「いや、すでにシナリオから逸脱している。会うとしてももっと先の話なんだけどなぁ」
ヴァイリは原作から外れていく展開に不安を感じていた。
情報班室
「ここがお前がこれから働く部署だ。お前が棺桶から来ていることは全員知っているから余計な心配はしなくていいぞ」
ラーチェが部屋の扉を開ける。班員は部屋に入ってきたルクスを見た途端に冷たい視線を浴びせる。
「お前には魔王様の仰られたとおり他のギルドの情報のみ棺桶に流してもらう。そして棺桶からはグリーンの内通者の情報を持って来い。」
ルクスの手錠が外される。
「私以外の諜報員とは基本交流は無い。あまり期待しないでくれ」
ルクスはうつむきながら答える。
「出来るかできないかではなくやるんだ。さて、お前と組んでもらうメンバーを紹介しよう。フーリ、こっちに来てくれ」
ラーチェはソファに寝転んでたマフラーの少女を呼ぶ。
「ルクス、お前はこのフーリと組んでもらう。もともとフーリは別の班なんだが他ギルドの動向把握のために借りている。」
ラーチェは隣に来たフーリの肩を叩く。
「フーリ、よろしく。」
フーリがルクスに手を出す。
「ああ、よろしくフーリ。私はルクスという。」
ルクスは手を出してお互い握手をする。
「反逆行為があったら・・・即斬っていいって魔王様に言われた・・・」
言った途端フーリから殺気が漏れる。
「分かった・・・できる限り協力するよ」
ルクスはたじろぎながらも答えた。このギルドのメンバーは彼女の味方ではないことを改めて感じた。