エンドワールド ~転生者は最強剣道少女達と共にVR世界を席巻す~ 作:RipoD
2024.2.3 10:00
63層迷宮区 入口
「各員、前進」
トトナがギルドフラッグを持ち、号令をかける。
8パーティ、48人とフルレイドの人数だった。
本部は他のギルドに攻略の圧力をかけるために前線のダンジョンに何度も大規模なレイドを参加させていた。
圧力はかなりの効果があり、聖龍連合、血盟騎士団、その他攻略組も抜け駆けされる不安感からそれぞれのギルドも迷宮区の奥へ奥へと我先にと挑んでいる。
「姉さんー」 ぽふっ
ルチアがアネットの胸に飛び込む
「ちょっとルチア 、みんなのいる前よ」
アネットは困惑の表情を浮かべる。周りからはいつものことかといったような雰囲気ではあった。
「はっ ごめんなさい、姉さん。何だか久しぶりに会った気がしてつい」
ルチアは顔を赤くする。
「ふふ、しばらく顔合わせて無かったからね」
アネットはルチアの頭をよしよしと撫でる
「姉さん、班での仕事忙しいの?」
ルチアはここ1週間アネットと顔を合わせることがなかったため心配していた。
「・・・ちょっとやる事が多かったけど今は大丈夫よ」
アネットは笑顔で答えていたが疲れが見えていた。ルクスというラフィンコフィンのプレイヤーが加わったことで機密情報のファイルにキーロックをかける作業や、交代制でルクスの監視をしていたりやることが多かった。
「そっか、ヴァイリさん達とかも書類仕事とか多そうだしね」
「ヴァイリね・・・」
ルチアの何気ない一言にアネットは表情を暗くする。
「どうしたの、姉さん?」
ルチアはヴァイリの名前を出した途端、アネットがあまり良い反応をしなかったことに気づく。姉と仲を悪くしている様子は見たことはない。
「いや、実は・・・わたしとしてはあの人は苦手というか・・・ヴァイリが本部にいろいろと吹き込んでいるようだから・・・彼のことはあまり信じないほうがいいかも知れない」
ヴァイリは、今日は本部詰めで迷宮区散策には参加していない。アネットはルチアだけに聞こえるように小声になる。
「ヴァイリさんはみんなのことを考えてくれてると思うけど」
姉が人を悪く言うことが珍しく、ルチアは少し驚く。
「確かにヴァイリのおかげでみんな戦えるようにはなったけど、もっと戦わずに解決できる方法もあったとは思うわ。今だって攻略組と同じ位置で戦闘をしているし、危険であることに変わりないわ」
ルクスのことはギルド内、班内では邪険に扱われているが、一方で自らが同じような目にもあったかもしれないという同情も少しはあった。彼女の今の扱いはヴァイリとギルドマスターのミルローゼが決めたことであることは班長のラーチェから聞いていた。
「彼の言うことをあんまり鵜呑みにしないようにね」
アネットはルチアを諭すように言う。
「分かった、姉さんがそう言うなら気をつけるよ」
ルチアとしてもアネットの助言はいつも助けになっていたので真剣に頷いた。
「ルチア、もうモンスター出るエリアに入ったわよ。陣形崩さないで」
ティールがルチアに後ろから声をかける。
「え、そうなの?戻らなくちゃ。じゃあ姉さん、行ってくるね」
ルチアはアネットから離れてティールたちの元に戻る。
「うん、気をつけてね」
アネットも手を振って見送り、自分のパーティへ戻った。
11:00
エンドワールドの各パーティはピックなどでモンスターを1体ずつ釣って倒していくパターンを繰り返していた
「よぉし、あと一撃ね」
弱ったモンスターに向けてカーラが剣を振りかぶる。
「はい、リニアー」
ちょっとした隙に横からリュミルが弱ったモンスターにとどめを入れた。
「ちょっとぉ!何やってんのあんたはぁ!さっきから弱ったモンスターばっかり一撃入れては休むのを繰り返してるじゃない!」
横槍を入れられたカーラは怒り出す。
「えー、だってやる気でないですし」
リュミルは詫びれる素振りもなく、地面に座り込む。
「ヴァイリがいないからって好き勝手やってるんじゃないわよ」
カーラの言葉にリュミルは目を細めて左手を口に当てる。
「あれれー?なんでそこでヴァイリさんの名前出てくるんですか?もしかしてカーラさんって好きな人に見られるかどうかでモチベ変わっちゃうタイプですか?」
リュミルはカーラにヴァイリを意識させるためにわざと左手の薬指につけている指輪を見せつける。
「な、な、何言ってるの!べ、別にあいつのことは好きとかそういうんじゃないんだから!」
カーラは顔を赤くして声を荒らげて否定していたがそんな彼女の左手の薬指にも指輪がはめられていた。
「まったく、あそこの二人は何しているんでしょうか・・・トトナさんお疲れ様です。すみません、ギルドフラッグ持って頂いてるのであまり戦闘に参加できない役回りを任せてしまって」
そんな二人の光景に呆れながらも、今回の探索に参加していたエリスがトトナに近づく。
「いえ、旗を任されている私の務めですから」
ギルドフラッグは初期の仕様では半径15mがバフ効果範囲内だったが、鍛冶によるグレードアップで現在は半径30m以内まで範囲が拡大していた。レイド単位で行動していても効果が届きやすく、固まって行動することが多くなっていた。
そんな中、ひときわMOB狩りのペースの速いパーティーがあった。
「あれは私の班ですね。」
トトナが指をさす。
「へー、すごい速さですね!」
エリスはトトナのパーティーを見て近づく。
「あ、エリスさんも今日探索だったんですね!」
エリスに気づいたルチアが振り向く。
「皆さん息のあった連携ですね。私も見習いたいくらいです!」
エリスは少し興奮気味になっていた。
「そんなことないですよぉ、エリスさん達の指導の賜物です。」
ルチアはエリスに褒められて少し照れながらも答える。しかし、ルチア以外の子の反応はそっけないものだった。
「早くゲームをクリアしたいから」
槍使いのリーネは短く答える。
「作業は効率良いのがいいしね」
赤いマントを羽織ったレイピア使いのティールも淡白に言う。
「もっと強くならないといけないから」
シエルも当然のように言う。
ルチア以外の3人はすぐ近くにポップしたモンスターにすぐ反応してまたモンスター狩りに戻っていた。
「あう・・・みなさん無理はしないでくださいね」
エリスの言葉も耳に入ってるのかどうやら黙々とモンスターを仕留める。
「次のモンスター行くわよ。」
ティールは足早に次のモンスターへ向かう。
「え、ちょっとまって。あ、失礼します!」
ルチアも慌てて頭を下げたあと3人についていく。
「すみません、班員の皆、真剣ではあるのですがあまり余裕を持ててないのでどうしても素っ気なくなってしまうのです」
トトナが申し訳なく言う。
「いえいえ、皆さんが真剣なのは分かってますから大丈夫ですよ」
エリスも苦笑していた。
「うわった、やべえ!そっちモンスターいったぞ!」
ハティがトトナの方に叫ぶ。
オオカミ型の手負いのモンスターがトトナ目掛けて一直線に駆けていく。バフ効果を持続しているトトナにヘイトが向かっていた。
「トトナさん、危険です。下がって!」
エリスはトトナとモンスターの間に割って入ろうとする。
「大丈夫ですよ、あれくらいなら私も倒せます。」
トトナはギルドフラッグを傾けて持つ。
「ウォーーン!」
オオカミはお腹のあたりから出血デバフのエフェクトがあったが一矢報いろうとトトナに飛びかかる。
「見えています」
オオカミが跳躍して飛びかかってきたところに合わせてギルドフラッグの槍状になっているポールの先端を突き刺す。
「ガァ!」
胴体を串刺しにされたオオカミは貫通ダメージで身動きがとれず、四つの足をじたばたもがきながらそのままHPが尽きた。
───
15:00
「ふああ~、もう眠いよぉ。一度昼寝しよ」
「そうね、もう今日のノルマ達したしあとは休んじゃおう」
あくびをしているアイナとリベルテは戦闘を離脱してセーフティーエリアに入る。
「この骸骨持てるぞ、それっ!」
「うおっ!こっち投げんな。このぉ!」
「ふげっ!やったなあ」
シャサールが投げた骸骨のオブジェクトをハティは左足で受け止め、右足で蹴り返していた。髑髏はシャサールの顔面にヒットしていた。
戦闘に飽きてきたメンバーは小休止して食事を始めたり、遊び出していた。
「何を遊んでいるのかしら。あんなことしてもレベル上がるわけじゃないのに」
シエルからやる気のないメンバーへの不満が漏れる。
「放っておきなさい。とにかくモンスターを倒すのがわたしたちの使命なんだから」
ティールはそんな彼女らの目もくれず戦闘を続ける。
「シエルー、こっちのパーティの前衛、離脱者出たから一緒に組んでくれない?」
フィアーネが手を振る。
「分かった。あっちのパーティ手伝ってきて大丈夫そう?」
シエルはティールたちに質問する。
「・・・問題ない。ティールもいるし」
リーネが答える。
「安全マージンも足りてるし3人でも余裕ね」
ルチアも即答する。
ティール、リーネ、ルチアの3人は難なくMOBをスムーズに処理していく。
迷宮区の通路の角に差し掛かるとティールの視界に赤い文字の名前のモンスターが入った。
「何なのかしら?」
ティールが指差す。
「ユニークモンスター・・・名前が赤いわ」
リーネも確認する。
「ドロップもレアなものが期待できそう!3人で倒してしまいましょう」
ルチアもハルバードを構える。本来なら人数が少ないのでもう1パーティー呼んでくるところだが、戦い慣れている3人は経験値やアイテムを独占するために自力での狩りをしようとする。
3人はそのまま他のモンスターのときと同じように接近する。
「───」
人のように2足歩行する犬、コボルド型のモンスターは何かをつぶやき始めた。
すると、コボルドが杖を振るうと周囲に電撃が走った
「「「きゃあ!」」」
3人は電撃を浴びると麻痺状態になり、その場にへたり込むように倒れる。
(全員麻痺になってたら誰も消痺結晶が使えない!)
ティールには横たわる他の二人も見えて、嫌な汗が額を伝った。
麻痺して動けない3人の前にユニークモンスターが接近してきていた。
《Elite Kobold High Mage》
遠目で見えていなかった名前がはっきりと読めた。
「グルルルルル」
魔術杖をもち、顔を頭から被った布で隠したコボルドは獰猛な牙を顕にしながら唸っていた。
───
「ティール達今どこにいるか知りませんか?」
トトナがエリスに声をかける。
「いえ、知りませんが、どうかしましたか?」
エリスは辺りを見回す。
「ティール、ルチア、リーネの3人が同時に麻痺にかかっているのですがどこにいるか分かりません。そんなに遠くには行ってないはずです」
「どういうこと?」
近くにいたアネットもルチアの名前が聞こえて、やってくる。
「先程までシエルも一緒に組んでたはずですが・・・メッセを送ってみます」
トトナはウィンドウを開き、シエルにメッセージを送る。
《シエル、ティール達はどこにいますか?》
《私は人数不足したパーティーに移ってて、3人は南側へ行きました》
4人で行動していると思っていたトトナはシエルからの返信を見て事態の深刻さに気づく。
「3人は南側へ行っているようです。きっと麻痺をかけたモンスターも近くに・・・」
「・・・嫌な予感がするわ。見てくる」
血相を変えたアネットはトトナの言った方角へ走る。
「ちょっと、アネットさん!私も手が空いている方を連れて見てきます。」
「よろしくお願いします。私はまだここから動くわけにはいかないので」
フラッグの効果範囲の都合で動けないトトナに代わり、エリスも南側へ向かう。
「3人行方不明者が出ています!手が空いている方は私についてきてください」
エリスの呼びかけに応じて救助隊が組まれた。
「اللغة العربية」
コボルドの魔術師が呪文を唱えると、3人を火の渦が襲う。
「ぐっ」
ゲームの中なので傷み等の感覚はないが、代わりに真夏日のような暑さを感じ、HPゲージは段々と減少していく。
しかし、3人は麻痺状態のため身動きがとれなかった。
(まだ麻痺は解除されないの!)
ルチアには視界端に移るHPゲージの色が黄色に変わっていくのが見えた。
本来ならパーティーが半減していながらも戦闘を続けることは禁止されていたが、朝からずっと戦闘を続けていたので三人とも集中力が途切れていた。考えは鈍くなり、危機管理の意識は薄れていた。
いつのまにかレイドから距離が離れて行動してしまっていた今の3人の現状に気づくメンバーは周囲にはいない。
(こんなミスで死んじゃうなんて・・・悲しい思いをさせてごめんなさい、姉さん)
死を覚悟したルチアは涙を溜めながらも目を瞑る。
「ルチア!」
コボルドの後ろからアネットのソードスキルが炸裂する。
「グガァ!」
不意打ち効果もあり、コボルドは仰け反り、連撃をもろに浴びる。
「いました!あそこです。」
通路の影からエリスを先頭にプレイヤーが集まってくる。
「ルチアへばってるじゃねえか!後はあたしたちがもっていくぜい」
ククリナイフを構えたシャサールが這いつくばっているルチアを横目にモンスターへ突進する。
「おっしゃ!ボーナスモンスターじゃねーか。ラスアタもらうぜ」
ハティも嬉々としてコボルドに攻撃を仕掛ける。
「みんなで倒せば、楽勝だね!」
ウサギ耳のカチューシャをつけたモニカがぴょんぴょんと跳ねるようにコベルドに向かう。その後も続々とメンバーがモンスター一匹を囲い込み、攻撃する。
「大丈夫ですか?今回復します」
僧侶姿のプリエルがルチアにポーションと消痺結晶を順番に使っていく。ティール、リーネにも救護班がアイテムで回復処置をしていた。
「まったく、レベルが高いからって3人だけっていうのは無茶しすぎじゃない?相手はモブでもエリートなんだから。」
救助隊に追いついてきたカーラが回復を受けている3人を咎める。
「ガウ、グオ、ゴガァッ!」
コボルドメイジは得意の魔法を詠唱するが、前から、横から、後ろから攻撃が当てられ中断される。HPが削られていき、ろくな抵抗も出来ずに消滅した。
「あれ、もう倒しちゃったの?わたしも参加したかったんだけどな。ま、これでみんな無事ね。仲間っていうのも悪くないもんでしょ?」
ふふん、カーラは誇らしげにティールに言う。
「元ボッチのカーラさんが言うと説得力ありますね」
カーラの背中からリュミルが顔を出す。
「・・・あんたはぁ、誰がボッチですってぇ!」
わなわなと震えたあと、カーラは吠えた。
「短気で素直じゃないところとか、友達できなそうじゃないですか?」
「あんたみたいな毒舌生意気娘に言われる筋合いないわー!」
カーラはリュミルに斬りかかるが、リュミルは持ち前のフットワークの軽さで軽々と避けていっていた。
「まったく、仲がいいんだか悪いんだか」
ティールはそんな二人の光景に呟いた。
「ボーナス頂きい!ん、なにこれ?御簾の掛布・・・あの犬が被ってた趣味悪い布かよ。いらねー」
ラストボーナスを取ったハティはドロップアイテムの布をひらひらと棚引かせていた。
「結構経験値入ったねー」
「お、レベルアップ!次はどのスキル取ろうかな」
あっけなく戦闘が終わり、その場には和やかな打ち上げが行われる。先程まで死に直面していた3人とは対照的な雰囲気だった。
先程まで戦闘をやめて遊んでいたりしていたメンバーがティール達に遅れを取ることなくここまで戦えるのは意外に感じられた。
戦闘にも参加していたアネットはルチアのところまで駆け戻ってきた。
「ルチア、なんて無茶をするの!」
アネットはルチアの両肩を強く掴む
「心配かけてしまってごめんなさい、姉さん」
アネットの逆鱗に触れてしまったルチアはバツが悪そうにする。
「ルチアが死んだらわたし・・・もう、生きていけないわ」
ギュッとルチアを抱きしめたアネットの目から涙がポロポロと落ちる。
「あなたたちも!死んだらおしまいなのよ。もっと自分を大切にしなさい」
アネットの怒りはルチアだけに収まらず、ルチアと一緒にいた二人にも向かう。
普段温厚なアネットの怒りに二人共身がすくむ。
「すみませんでした。」
動けるようになったティールは申し訳なく、謝る。
「ごめんなさい」
リーネも目を伏せて反省していた。
「全く・・・心配させないで」
アネットは二人を寄せて片腕ずつ抱きしめる
抱きしめられたリーネはどこか遠くの懐かしい温かみを感じる
「お母さん・・・」
リーネがぽつりと呟く。
「えっ?」
アネットにもリーネのつぶやきが耳に入っていた。
「あっ、ごめんなさい」
リーネはつい出てしまった言葉に赤面させて俯いてしまう
「ふふっ、実際ルチアの世話焼いているアネットを見てると、まるでお母さんみたいだしね」
もう片方からティールが言う。
「両親が仕事で家にいないことが多かったから幼い頃からわたしがルチアの面倒を見ていたの。まだまだ手のかかる妹ね。ティール、リーネ。二人だってもっとみんなを頼ってもいいのよ。わたしではあなたたちより弱くて頼りないかもしれないけれど思い詰めないでね」
「はい」「・・・うん」
ティールとリーネはアネットの腕の中で返事をする。
「ずるい、ティール、リーネ!姉さん、私をもう一度抱きしめてよ」
アネットの後ろからルチアが不満を叫ぶ。
「ルチア、少し反省が足りないようね。宿に帰ったら説教」
「そんなー」
アネットからは淡々とした宣告がもたらされ、ルチアは落胆した。
その後4人は集合しているトトナ達のところへ戻る
「3人とも見つかったわ」
アネットはトトナに報告する。
「すみません、パーティーリーダーである私の監督責任です。」
トトナが頭を下げる。
「そんなことはないわ。トトナが3人に気づいてくれなかったらどうなっていたか分からないし。」
「そろそろいい時間にはなってますね。今日はこのくらいで撤収しましょうか」
エリスが時計を確認してメンバーはダンジョンから引き揚げ始めた。
19:00
ギルドホール 会議室
バシンッ!
「情報がないモンスターへの少人数での攻略、パーティーに増減が出たのにメッセでの連絡不行き届き・・・全く、お前がついていながら何をしている。ボスや棺桶ならまだしも、ただの探索で死者が出る寸前だったとは」
ミルローゼは読み終わった日報をテーブルに叩きつけた。
「申し訳ございません。班員には再度戦闘の内規について確認させます。」
立たされていたトトナは平謝りする。
「麻痺なら2層で体験したはずだろう。ヴァイリ、お前の教育が甘かったんじゃないのか?」
ミルローゼは、今度は今日本部にいたため会議に同席させたヴァイリに矛先を変える。
「えぇー、身をもって体感させたのにあれ以上どうしろと「何か口答えがあるのか?」・・・申し訳ございません、全班に再度デバフ防止策について徹底させます」
とばっちりを受けたヴァイリもミルローゼの虫の居所の悪さに場に流されるしかなかった。
「ヴァイリは今回の件をふまえて圏外活動の行動規定を改訂しろ。少人数で行動しないよう最低限の編成と再編時の連絡義務についてだ。あとはエリートモンスター遭遇時の増援呼び出し等フローチャートの見直しだ」
「ぐへぇ」
ヴァイリから踏みつぶされた蛙のような声が漏れる。彼は朝からデスクワークをぶっ通しして帰る直前だった。その矢先に緊急の会議に呼び出され、追加の仕事が降ってきてもはや精神的HPは0だった。
「トトナ、お前の班には武器、資金など優先して配分している。その意味が分かるな?我を失望させないように」
「はっ」
トトナは短く返事をする。
「話は終わりだ。解散」
本部の人達はそれぞれ立ち上がり、ぞろぞろと部屋から出ていく。後にはトトナとヴァイリが会議室に残されていた。
「すみません、ヴァイリさんの仕事が増えてしまうような迷惑をかけてしまいました。」
「気にすんな、こういう日もあるさ。しかし、レベルが高いトトナ班が死にかけたっていうのは士気にかかるから内外双方に広まらないようにしないと」
ヴァイリはやつれた顔であったが苦笑いを浮かべる。
「・・・そうですね。その代わりに戦闘に危機感を持ち忘れないようにしないとまた同じ事が起こってしまいます。」
トトナはギルドが隠蔽体質になっていることに多少疑念を感じていた。
「あの4人は近頃エリスのブートキャンプ行きだな。メッセがきたんだが、今日ないがしろにされたことをあいつ根に持っているようだからな。アネットも、ルチアをもう一度鍛え直すようエリスお願いしたようだし」
「そうですか、エリスさんでしたら私も安心して預けられます。」
トトナとヴァイリも会議室の電気を消して退室した。
翌朝、ギルドの連絡ボードに《特別教練 ティール、ルチア、リーネ、シエル 以上4名》の貼り紙があった。
「徹夜で訓練メニュー考えましたよー。皆さん覚悟してくださいね?」
目の下に隈を貯めていたエリスは、それはいい笑顔をしていたと伝えられている。