エンドワールド ~転生者は最強剣道少女達と共にVR世界を席巻す~ 作:RipoD
2024.6.15
81層
Side 3人称
8:30
エリスは鍛冶屋で見つけたクエストの攻略のため、募集をしたメンバーを集めてクエスト地点の鉱山に向かっていた。
「今のままではギルド崩壊してしまうかもしれません。分裂を防ぐために何とかして手を打ちたいのですが・・・」
「俺は気絶してたからよく知らないが、エリスは意気揚々と鉄拳制裁していたってもっぱら聞くんだけど」
「うっ、そのことは耳が痛いことなので困るのですが」
パーティの先頭を歩くエリスとヴァイリが話し合っていた。
ギルド内での乱闘から日数は経過して、不和は落ち着いてきていたが一度露呈した亀裂からギスギスした空気が滞っていることを二人は感じていた。
「うう、まだ眠くてくらくらするわ」
後ろに続くアネットは寝ぼけ眼で左へ右へふらふらしながら歩いていた
「あらあら、アネットさん。足元おぼつかないようでしたらわたくしが支えてあげますわ」
ベティはアネットの右側によると肩を貸した。
「ちょっと、ベティ!姉さんにベタベタしすぎよ!離れなさい」
気づいたルチアがベティにくってかかる。
「ルチアさん、わたくしはアネットさんの介抱をしているんですよ」
ベティはからかい気味にこたえ、アネットの腕に顔を寄せる。
「ルチア、やめなさい。ベティもあまりからかわないであげて。ルチアもこっちきて支えてくれるかしら」
アネットはいがみあってる二人を止めて、左手でルチアを招く。
「フフ、アネットさんには敵いませんわ」
「姉さんが言うなら・・・でもいいこと、ベティ!姉さんの妹は私なんだからね」
ルチアはアネットの左腕を支えてひとまず落ち着く。
「フフ、わかっていますわ。ルチアさんは、本当に可愛らしいですわね」
ベティはまたルチアをからかう。
「むー!!子供扱いしないで!」
ルチアはアネットの腕を自分の方へと強く引っ張った。
「はぁ…この子たちったら…」
キリがないことにアネットはため息をつく。
───
「ここが鉱山の入り口みたいね」
アネットは山の中腹に開いた洞窟を見つける
「うーん」
エリスは眉間に皺を寄せる
「エリスお姉ちゃん?むずかしいお顔してるよ。みんなで冒険するのいやだった?」
心配したエヴェイユがエリスの顔を覗く。
「い、いえ! そんなことありませんよ。むしろ、皆さんと一緒でとても楽しいです!」
エリスはエヴェイユの不安を除くため急いで説明を始める。
「今受けているクエストなんですが…以前受けた『破邪の刀剣』のクエストの続きになっています」
「おばあさんをおそった悪魔さんのクエスト?」
エヴェイユはきょとんと首をかしげる
「そうです。あのクエストは限定クエストで他に受けたプレイヤーはいませんでした。普通ならクエストを受けられるプレイヤーにNPCから多少クエストのヒントになる情報が得られるはずなのですが、この鉱山に悪魔が住み着いてること以外分かりませんでした。」
「この前の悪魔さんも強かったもんね」
「未知の高難易度クエストを受けるリスクのことを考えると自然と足が止まってしまって…もう少し人数が揃ったほうがよかったかもしれないのですが」
「大丈夫だよっ、エリスお姉ちゃん!あたしたち、強くなったもん!」
「エヴェイユさん…そうですね。弱気になったらダメですよね。ありがとうございます。覚悟が決まりました。このクエスト、絶対にクリアしましょう!」
───
坑道の奥にあった採掘場で、鍛冶屋が依頼した鉱石が採取された。
「坑道にはクエスト情報にあった悪魔はいなかったし、鉱石集めだけで終わってくれるなら楽なクエストだな」
ヴァイリは両腕で横にしたつるはしを背中に通す。
「そんなに簡単にできるなら誰も苦労しないわよ。だいたいこんな広い空間があるんだから大きいモンスターのひとつやふたつ出てくるでしょ」
楽観的なヴァイリにカーラは呆れる。
カタカタカラン・・・
すると、軽い軋むような音が聞こえてくる。
「何だ?」
シャサールが顔を上げて振りかえる。
採掘場の出入り口の通路から大量のスケルトンのモンスターが歩いて侵入してきた。
スケルトンは鎧を装備し、剣や斧を持っている。
「皆さん、戦闘です!採掘は一旦止めて武器を持ってください。」
エリスはすぐに指示を出す。
「モンスターの数が多いので、なるべく階段とか狭い通路で食い止めてください」
エリスの指示に従って、パーティーメンバーは4つに分かれて迎撃する。
───
─階段の上階
「はぁぁぁぁっ!」
ブンッ
ガッシャン
ルチアのハルバードのソードスキルでスケルトンはバラバラに崩れる。
「やりますわね、ルチアさん。わたくしも負けてられませんわ。やあっ!」
ドンッ
バタバタバタ
ベティのハンマーでスケルトンはドミノ倒しに転倒する。
「むぅー、ベティも頑張るじゃない」
「フフ、お褒めに預かり、光栄ですわ。ルチアさん、わかっているとは思いますが、ダンジョン内では気を抜かないように」
「わかっているわ。あなたと話しているときだって周囲は警戒しているわよ」
カタカタカラン・・・
スケルトン達は倒れているのを踏み潰しながら止まることなく近づいてくる。
「さあ、次がきましたわよ」
「ベティ、あなたとはいずれ姉さんのことで決着をつけてあげるわ。でも今はこの難局を一緒に突破するわよ」
「フフ、ルチアさんらしいですわね。承知しましたわ。存分に頼らせていただきます」
「任されたわ。全部わたしたちで倒しちゃいましょう!」
───
─別の階段上階
「よぉし、こっちだ。カルシウムたっぷりの牛乳をやるぞぉ……」
シャサールは挑発スキルを使ってスケルトンに階段を登らせ、誘導する。
スケルトン達は重い鎧の装備を着たままゆっくりと足を進める。
「よし、かかった。エヴェっち、今だ。」
「ていやぁぁー」
ガタガタガタ
誘導された先頭のスケルトンをエヴェイユがハンマーで叩きつけると登っていた後続のスケルトンたちを巻き込みながら雪崩込むように階段を落ちていった。下敷きになったスケルトンはダメージを受けてHPを全損した。
「おお!下の階までまた逆戻りだ。やるな。エヴェっち!」
「えっへん。メイスはホネさんに強いからねっ!シャサちゃんも、注意を引いてくれてありがとぉ」
エヴェイユは胸を張る。
「いいってことよ。身軽さならアネさんやノエルにだって負けないもんねー。さて、お次はどいつだぁ?」
「あれぇ?ルチアちゃんとベティちゃんがいないよぉ」
「あん?どこいったんだあの二人・・・げっ!階段の下まで降りていっちゃてる。深追いするなってエリスさんからも言われてるのに囲まれちゃってるじゃないか」
「お姉ちゃんたちは他のホネさんたちに足止めされてるみたい」
「まるでルチアたちだけ切り離されてるみたいだな。エヴェっち!!」
「うん、助けに行くよぉ!」
───
─奥の狭い通路防衛線
カタカタカラン
ガコン、ガコン
「よし、受け止めた。カーラやっちまえ」
ヴァイリは盾でスケルトンの攻撃を受け止める。
「チェストー!!」
カーラは体術スキルの蹴りでスケルトンをまとめて退く。
「何なのよ、こいつらは。弱いくせに数ばかり多くて!」
カーラはキリがないモンスターの数にイライラしていた。
「まずいわ。ルチアとベティが孤立している」
アネットが下の階で二人がスケルトンに囲まれているのを見つける。
「もしかして、このモンスター……わざとやられてみんなを分断しているの?」
アネットは推理する
「分断って、何のために?」
カーラが聞く。
「罠のある場所や、あるいは……クエストボスのいる部屋に」
3人の頭に鍛冶師の言っていた悪魔の存在が浮かぶ。
「……っ!早くあの子たちを助けるわよ!」
カーラの背筋にゾクリとしたものが走り、叫ぶ。
「ええ!」
アネットも頷き、カーラの後に続いた。
「二人とも待ってくれ、重装備だと動けないから、装備変えるから待ってくれー」
ヴァイリは慌てて装備変更を始めた。
───
─採掘場下層
「ベティ、まずいわよ。わたしたち二人だけみんなから離されてる」
「わかっていますわ!でも、こうも数が多いと合流しようにも──」
カラカラカラ
「このぉっ!」
ルチアは力任せにハルバードを振るうとスケルトンの集団の中で一部パラメータの弱いスケルトンがいて、その部分で突破口ができた。
「よし! モンスターの包囲網に穴が開いたわ。 姉さんたちと合流しましょう!」
「ええ。 一気にいきますわよ!」
二人は勢いよく駆け出す
──カチッ
ルチアは床の色と同じタイルがあることに気づかず踏んでしまう
パカッ
同時に床が観音開きになる
「こんなところに落とし穴!?うわぁぁぁ」
「誘いこまれたんですの!?きゃーっ!!」
二人は地下へと落下していった。
───
スケルトンの波は勢いが弱まり、アネット達は採掘場の下層へ来る。
「ルチア達は?」
カーラが辺りを探す。
「姿が見えなくて、こんな大穴があるってことは落ちたってことだろう」
盾を外し、軽装に着替えたヴァイリが床にぽっかりと開いた穴を覗く。
「そう」
アネットが短く答える。
「以前のアネットならこういう時後先考えずにこの穴に飛び込んでるわね」
カーラが言う
「前だったら確かにそうしたかもしれないけど、今はルチア達も強くなったから信じてる。ヴァイリ、ルチア達のストレージは生きているのよね」
「ああ、多めにポーションを送りつけておいた。送った分から消費されてるから落下ダメージはあったようだな」
「スケルトンはこちらで片付けますのでみなさんはルチアさん達の方に行ってください!」
上のほうの踊り場でエリスが叫ぶ。
「ありがとう。確か、坑道の途中に下に行く脇道があったわ。そこから探しに行ってみましょう」
「ああ」
「わかったわ」
───
「まだ追いかけてきてるわよ、ベティ」
「しんどいですわっ」
ルチアとベティは落下した後も、二人を追いかけて上の落とし穴から降ってきたスケルトンから逃げていた。
「ルチアさん、こちらですわ!」
「ええ・・・!」
ベティとルチアは通路の横にあった部屋に飛び入る。
後ろから追いかけてきていたスケルトンは二人を見失ってそのまま通路を道なりに進んでいく。
「ふぅ。どうやら撒いたようですわね」
「そうみたい…。ホント、数が多いわね」
「落とし穴に掛かったときは驚きましたけど、ダメージも少なくてよかったですわ」
「追いかけてきたモンスターも数は多かったけど、レベルは大したことなかったからね。でも、HPは減ってるからすぐに回復しましょう」
ルチアはストレージからポーションを取り出す。
「ほら、ベティも回復して」
ルチアはベティにポーションを渡す。
「ありがとうございます。…フフ」
ベティはポーションを受け取って笑う
「どうしたの?」
「いえ……落ち着いたときの雰囲気はアネットさんに似ているなぁと思いまして」
「そ、そう? ありがとう……姉さんはわたしの目標だからそう言われると嬉しいわ」
ルチアはアネットと似ていると言われて照れる。
(単純なところはアネットさんとは正反対ですが・・・)
「フフ、目標ですか。本当に仲のよい姉妹なのですね。わたくしたちがいなくなって、心配しているはずですわ。すぐに合流する方法を考えましょう」
「そうね。かなり遠くまで逃げて来ちゃったからちゃんと戻れるといいけど…」
「──戻る? その必要はないわ」
二人のいる部屋に反響した声が響く。
「だ、誰ですの!?」
ベティとルチアは辺りを見回す
「こんにちは、可愛い子羊ちゃん。無事に私の元へと辿り着いてくれたわね」
突如、紫色の髪をした黒い羽のNPCが現れる。ルチアとベティは見覚えがあった。
「あ、あなたはあの洞窟のNPC!よくもあの時は騙し・・・て・・・」
ルチアが驚きの声を上げて指をさす。騙したことに文句を言おうとしたが、以前と違うところに気づいて絶句する。NPCは黄色いカソールが真っ黒に変わっていた。実際には黒ではなくレベル差を表す色の強さが赤を黒に見せているものだった。つまり目の前のモンスターは理不尽なほどに格上のステータスを持っていた。
「まさかモンスターでしたの?そしてこの真っ黒なカソール・・・」
ベティも正体に驚く。
「そんな・・・開拓村で出た悪魔よりも強いだなんて・・・」
ルチアは歯噛みする。
「久しぶりのおもちゃですもの。シモベたちに味見されなくてよかったわ。綺麗な音を奏でてから白雪のように消えていきなさい」
黒い羽のモンスターは剣を振りかざした。