エンドワールド ~転生者は最強剣道少女達と共にVR世界を席巻す~   作:RipoD

93 / 167

BGM:ゲーム Workers & Resources Soviet Republic より
Sergey
h ttps://www.youtube.com/watch?v=zI7J5OIJGL8&list=PLV_b8anNE1KUbqbeYxzI8h8ObknzExl-F&index=4



90話 2024.12.8 商談

2024.12.6 10:00

プライベートVRルーム

クレムリン 

 

外壁の門の前に一人の猫背の小柄な中年男が転移してきていた。

 

(まったく、随分と豪勢なプライベートVRルームを持ってるものだ)

アスカ・エンパイア運営で働く虎尾は丸メガネの位置を直しながら思う。同じVRルームでも数十人で一室に缶詰にされている自らのオフィスとの格差を感じてしまう。

 

普段カジュアルな格好で業務する技術畑の彼にとって、“商談”のために慣れないスーツ姿のアバターを今日は身にまとっていた。

 

 

ギィと目の前の門が開くと兵士のような格好をした少女が立っていた。

「お待ちしておりました。どうぞお入りください」

出迎えのトトナに先導されて虎尾はクレムリンの敷地内に入っていった。

 

 

───応接間

 

虎尾が通された部屋は天井からキャンドルシャンデリアがぶらさがり、窓側には直径2メートルはある床置き型の地球儀、壁には様々な絵画がかけられていた。

ミルローゼがベルクホーフという山荘の大広間を参考に監修した部屋だった。

 

部屋の大きな円卓には本部メンバーが各々一人掛けソファに座りながら談笑していた。

 

「どうぞこちらに掛けてください」

トトナは虎尾を空いている席に案内する。

 

「ようこそおいでくださいました。エンパイアワールド、ギルドマスターのミルローゼです。」

虎尾の正面のミルローゼが挨拶する。

 

「私はアスカエンパイアの開発部システム管理課の虎尾という。」

虎尾はミルローゼに名刺を送信する。

 

「いつも楽しませていただいています。本日はどういったご用件ですか?」

ミルローゼは名刺を一瞥したあと問いかける。

 

「実は先日の行進を定期的にしてもらえないかの相談なんだ。君たちの行進がSNSで取り上げられてからというもの、再演はないのか、何のイベントなんだっていう運営への問い合わせが後を絶たなくてね。」

そう言って虎尾は汗をハンカチで拭う。

 

エンパイアワールドの行列を見たプレイヤーがスクショや録画をネットで拡散したところ、日本文化ファンの外国人の目に留まったりしていた。

アスカ・エンパイア運営の中でも国内ユーザー獲得に伸び悩んでいたところの渡りに船として海外ユーザー獲得の契機にできないかと話し合われていた。

 

ログ解析で行進を行っていたのはエンパイアワールドというギルドであることが特定でき、SNSでもギルドコミュニティが一部公開されていることから、運営がエンドワールドとアポイントを取るところまではトントン拍子で進んできた。

 

しかし、本来商談は営業部などの担当であるはずが、プレイヤーとの距離が近い開発部に話が回ってきてしまった。その中でもくじ引きで白羽の矢が立ったのが虎尾だった。

(まったく、また厄介事を押し付けられたな)

虎尾は内心悪態をつきながらも説明を続ける。

 

「海外からの新規プレイヤーが興味を持ってログインしているのもある。箱根や京都など国内の時代祭りの日程に合わせて渡航することなく見れることを期待してるらしい。ゲームは英語対応もしてないのに」

 

「だからといってわたし達が経験値もアイテムも出ない事に時間を取られるわけにはいかないわ。あの時はイベント優勝でのアピールでもあったし」

キーナはギルドの立場を言う。

 

 

「問い合わせしてくるプレイヤーには、NPCじゃないからいつも出るわけじゃないとは言ったんだけどねぇ。代わりのNPCを制作している間にも繋ぎをしてくれないか。一応こういうのも用意はしてきたが」

虎尾は電子化されたアルバイト契約書を取り出す。

 

「行進に参加する全員が雇用契約対象になるなら受けます」

アルシエは団体として契約するよりも人数で雇用したほうが収益が出ると考えて言う。

 

「君たちの中には15歳未満もいるよね?演劇事業として処理できればいいがほぼグレーゾーンだから難しいなあ」

 

「わたし達は課金プレイヤーなので、報酬はゲーム内通貨などで還元したりはできないでしょうか?指定されたプレイヤーだけのクエスト報酬として設定をするとか」

リリオが提案する。

 

「なるほど、そういう手もあるか。」

 

「そちらの会社の経費の都合もあるでしょう。還元方法は任せますね」

ミルローゼは言った。

 

その後もある程度調整をして詳細は虎尾が運営に持ち帰って決めることとなった。

 

 

 

虎尾が帰り際にクレムリンを一周してみたいということでミルローゼ達とゆっくりと館内を回っていた。

 

ヒュン

「んお?」

虎尾の近くの窓の外を人影のようなものが横切った。

 

(なんだ?ここは3階だぞ)

虎男は外を覗く。

見ると人が翼もなく上昇して飛んでいるのが見えた。

 

 

「4班、上がるの遅いです!そんなんじゃ墜とされますよ」

拡声器を持ったエリスの怒号が空に響く。

 

窓の外の空で少女たちが編隊を組んだり、空中に設置されたポールの隙間を縫うように飛び、風船を木刀で斬ったりしている様子が建物内からも窺えた

 

「そういえば飛行訓練の時間に入るところでした。今後ALOにも進出する予定なんです」

ミルローゼはくすりと笑う。

 

彼女らはマインクラフトVRのクラフトモードから流用されたプライベートVR用の飛行MODを使用していた。

 

商売敵のALOの名前がでて虎尾は一瞬眉を潜める

(いつまでも定住してもらえるとも限らないもんな)

 

SAOが登場してから、後を追うようにいくつもVRMMOのタイトルが出てきていた。しかし2年もたてば供給過多となり、採算の合わないタイトルはサービス終了するなど淘汰され始めていた。もちろんアスカ・エンパイアも国内上位タイトルとはいえ他人事ではない。ユーザーが飽きないよう新機能を実装していくために日々開発が続けられている。

 

(ああいうフライングヒューマンみたいなUMAは和風タイトルには合わんな。いやまて、烏天狗とか実装すればウケるかもしれねぇ)

虎尾は見たものをアスカに応用できないか思案しながら門でログアウトした。

 

───

 

虎尾が帰ってから本部メンバーは応接間に戻っていた。

 

「ジュル、これは金の匂い」

アルシエがヨダレを垂らして言う

 

「こういうのでお金出るようなこともあるんですね。」

先程までの虎尾とのやりとりを聞いていたカスミが言う。

 

「今はVRゲームでのEスポーツチームというのも海外ではできてるようね。参考にはなりそうね」

アンジェラが海外のサイトを可視化する。

 

「ふふ、皆さん楽しそうでなによりですわ」

ベティは紅茶を淹れなおしていた。

 

予想外の収入に沸いていた。

 

 

 

 

 





ベルクホーフ
映画 ワルキューレの中、ワルキューレ計画改訂のシーンでこの山荘が再現されてます

h ttps://www.youtube.com/watch?v=G9nRFR5otxw

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。