プロローグ
俺は病院という場所をよく知らなかった。
母さんがある病気によって入院をしてから病院という場所がよく分かった。病院は身体の弱い人や何処か体内に異常を感じる人の為にあるのだと俺が小さい時に母さんは教えてくれたのをうっすらと覚えている。
母さんも今現在も入院をしている。俺はさっきまで母さんの病室にいた。夕暮れ時の向日葵が綺麗な季節とは違って母さんの笑顔はどちらかと言えば雪のような寂しさと冷たさを感じていた。
その日、母さんのお見舞いを終えて、帰宅しようと足を向けた途中で小さい中庭にある遊具に目を向けた。この病院には中庭と少し遊べる児童施設らしきものがある。そして、中庭のブランコにちょこんと顔を下に向けて座っている俺と同年代らしき女の子に思わず目を奪われた。ボサボサだけど艶のある黒髪は整えれば綺麗な女の子だろうと誰もが思う。俺の思う限りでは一般的な女性と違って痩せ細くなっており、俺から見ても不健全にも見える。病衣を着ている所を見るとこの病院の入院患者だということがわかる。
その時の俺は何の感情やら因果やらわからない。だけど、気が付いたらその女の子の元に足を進めていた。自分自身何をしているか分からない。だけど、彼女は先ほどお見舞いにしてきた母さんの笑顔よりも寂しく、そして儚く今にも散ってしまいそうにも感じられた。
「なあ、あんた」
俺はその不思議な感じの女の子に声を掛けた。
「……なに?」
女の子は声を掛けた俺の方に警戒心をギラつかせて鋭い瞳で顔を向けた。
「俺は望月 和葵。俺は君を見てなんとなく放っていられなかったんだ」
「……君は可笑しいね」
女の子は俺に向けて母さんの笑顔をフラッシュバックさせるように困ったように微笑んだ。
「君の名前は?」
この問いかけに女の子は目を伏せて、まるで俺を見ているのに見ていないような空虚な眼をしていた。ワンテンポ遅らせて口を開いた。
「私の名前は朝比奈 和音。生きている意味がないしょうもない人間」
和音と名乗る彼女の自己紹介にはこれ以上入って来るなという棘を感じた。俺は和音の横にあるもう一台のブランコに座り、和音の方に上半身を向かせて、和音にさっきの意味について聞いた。
「それはどうゆう意味なんだ?」
「……私は治らない病気に掛かっているの。その病気は治らず、進行を遅らせられることが出来るのが精一杯。死ぬのを待つしかない。だから私は生きている意味がないしょうもない人間って言ったの」
和音の説明に俺は納得出来なかった。確かに彼女の道理には一理あるのかもしれない。けれど、こんな理不尽は幼い俺は許せなかった。
「まあ、別にどうでもいいや。君が思っていることなんて俺には興味はないけど、勝手に死のうとするのは間違っていると思う」
俺はここまで語り、はっきりと彼女の言っていることを否定した。和音の表情はこれまでずっと暗い表情をしていたが、俺の言葉を聞き終えた瞬間、核心を突かれたように醜いまでに歪んだ表情になりながらも俺に怒鳴りつけた。
「あんたは私を知らないからそんなことを言えるんだ!!
私は何時死ぬか分からない恐怖に怯えながら生きないといけない。そんな毎日を送らないと行けない私の気持ちなんてわかるの?
そんなの生きている意味がないじゃない!!」
彼女の心の底からの悲鳴とも言える叫びを聞き終えて、俺は静かに口を開いた。
「それは違うだろ?」
「何それ?
憐れみな投げ掛け?」
「そんなのは間違っている。なら後悔しないようにあんたはあんたらしく生きたり、その治療法が見つかるまで、頑張って生きればいいだろ?」
「そんなあるか分からないもの希望を抱けない」
「なら、俺が希望になってやるよ」
和音はその言葉聞いた瞬間、僅かながら空白の時間が生まれた。彼女は行き詰まるように言葉の応酬は消えて、無責任に言っているこの男の戯言に怒りを覚えた。
「あんたに何が出来るの?
どうせ、ただ突っ立って傍観していることしか出来ないじゃない!!」
和音は怒りをそのまま俺に向けて放った。俺はただ聞き入れてブランコから立ち上がり、彼女の前に座り込んだ。
「なら俺が一緒にずっと居てやる。俺が君にとって楽しい毎日を築いてやる。だから、そんなに暗いことを考えるなよ」
この時の俺は何故そんな意味の分からない、確証のないことを言ったのか分からない。けれど、俺の言葉を言い終えた瞬間に和音にとっては霧が晴れたようにポロポロと涙が溢れ落ちてきた。
俺は和音のその姿を見て、そっと優しく抱きしめた。そして、今までの和音のイメージから異なるように激しく感情が流れるように泣き始めた。そして彼女は口にする。
「約束だよ」
「えっ?」
「だから、約束。ずっと私と居て」
と彼女は泣きながら俺に訴えた。俺は言葉に出さずも彼女を抱きしめた。病弱の彼女の華奢な体格、彼女の涙をそっと寄り添うように和葵は静かに誓いを立てた。
(必ず、彼女を幸せにする)
と。
そして、彼女の病気は治ってこそいないが進行を大幅に遅らせられる薬をある医者が開発をしてくれて、それも彼女の生きる原動力の一つとなった。
*** *** ***
「かずき、和葵!」
自分を呼ぶ声が意識の遠くから聞こえてきた。寝起きの俺は先ほど見てた和音との出会いを思い出しながらも寝っ転がっていたボーダーの作戦室に置いてあるソファから起き上がった。
「あれ?
俺は寝てた?」
俺は少し寝ぼけながらも彼女の声に反応した。
「もうグッスリだっだよ。和葵はお寝ぼけさんなんだから」
「そんなことないだろ。和音の方こそ、寝てる時は全く起きないし、酷い寝顔の癖に人のことを言えるのかよ」
「ああ! 女の子に酷い寝顔とか言った。酷い」
和音は可愛い顔でプンプンと頬を膨らませていた。
「あっ今の顔は可愛い」
俺は素直の頬を膨らませる顔に純粋に可愛いと感じて口に出してしまった。和音は俺の言葉に思わず笑った。
「あっはははははは!」
和音はいつもの調子で笑って、俺は間が悪そうに
「何か可笑しなことを言ったか?」
「うんうん、可笑しなことを言ってないよ。むしろ、嬉しい!」
和音は純粋に嬉しそうにニヤけていた。和音のその表情を見て、初めて会った日を思い出していた。
和葵は初めて会った和音のことを思い出した。あの日の和音とはうって変わって、明るくなった。ボサボサだった髪をショートボブヘアになり、病気は未だに治っていないが、彼女はあの日以降毎日楽しく過ごしている。
「ねぇ…
手、繋いでよ」
和音は少し顔を赤らめながら手を差し出した。
俺の方も当たり前のように彼女の手を握った。俺は和音との毎日を思い出していた。最初はぎこちなかったが今では和音の元の性格が明るく表情も豊かである。このくらいのスキンシップは最早当たり前だ。
「ほら、少し身体を動かしに行こうぜ?」
俺はソファから立ち上がり手を差し出した。和音は温かい笑顔で俺の手を掴んだ。
「うん!」
と答えて、一緒に作戦室の外を出て、ランク戦のブースに向かった。
俺と和音はあの日から毎日ずっと一緒に居る。
1話でワートリ感を感じさせなくて申し訳ございません。
だけど、この物語にとっては大事な話ですので、読んで頂ければ光栄です〜(o`・ω・)ゞデシ!!