二宮は俺たちに向けて鋭い眼光で睨み付けてプレッシャーを掛けてきた。俺と和音は内心、臆したが表面上では眉一つ動かさず、二宮から喋るのを待っていた。やがて、一つの質問が飛んできた。
「誠は帰ってきたのか?」
「……!」
俺は顔色一つ変えることは無かったが、隣にいる和音は声を出さなくても分かりやすく反応してしまった。和音は口を噤んだまま何も言おうとはしなかったから代わりに俺から口を開いた。
「誠はまだ帰ってきていませんよ。それとまだ誠のことも疑っているんですか?」
今度は俺の方から二宮に向けて睨みつけたが、二宮は何も言わずに和音、俺の順に見渡し、俺に冷たい目を注いだ。和音は何かを感じたのか俺の服の袖を掴む。そして、二宮は小さく溜息をして俺にだけある合図を出した。
「望月、場所を移すぞ」
俺は二宮の言いたいことを理解して、和音に声を掛けた。
「……悪い、和音。春の分のジュースの分を持って先に戻ってくれ」
「何で? いやだよ」
和音の大きな瞳は俺をはっきりと捉えていて俺を見つめていた。納得はしてもらえないだろうけど、俺は和音に優しく言った。
「和音、男と男の話だから分かってくれよ」
俺が言い終わる頃には、和音は既に顔を膨らませていて、納得をしていない表情をしていた。
「安心してよ。和音が
「むぅ…
なら、いいけど」
と和音は不満そうだが、何とか納得をして貰い、俺は和音と別れて、二宮と共にラウンジへ向かった。
ラウンジに向かっている途中、俺と二宮は誰も口を開くことはなく、二宮は一言だけ俺に告げた。
「相変わらず、お前は嘘が上手いな」
二宮はそれを言い、俺は静かに答えた。
「和音には、ずっと前を見て欲しいだけだ。それに和音の悲しむ顔なんて
俺の本音に二宮は小さな声で
「そうか」
と言った。
*** *** ***
朝日奈隊と二宮隊は、元々はA級部隊であった。しかし、それぞれの隊員が同じ時期に隊務規定違反を犯してしまい、降格処分、その他諸々の罰が下された。
二宮隊の鳩原と朝日奈隊の草薙 唄葉はほぼ同時のようなタイミングに
そして、二宮は鳩原失踪から、独自に捜査をしており、同じく、失踪した草薙 唄葉の弟である誠と俺、和音や春にも疑いをかけている。
俺と二宮はラウンジの個室へ向かい、お互い、席を着いた頃に先ほどの話を再開した。
「それで、二宮さんは何が知りたいんですか?」
開口1番に敵対心剥き出しで聞いた。既に何回も二宮さんに個人的に事情聴取をされていて、正直ウンザリをしている。だけど、俺に事情聴取するときに和音や春には聞かないという約束は律儀に守ってくれている。
二宮はスッとこちらを見据えながら、口を出した。
「まずは誠…草薙 誠は帰ってきて居るのか、居ないのかの話だ」
「……。どうして、それを聞くのですか?」
「あいつの姉である、草薙 唄葉について、1番詳しいのは血族であるあいつだ。それに唄葉なら鳩原失踪を唆し、実行したのかもしれない」
二宮の言葉には重みを感じ、俺は歯切りを悪くした。俺の知っている唄葉は
「誠は一ヶ月くらい前から学校も休んで、地方の方へ行っています。目的は俺にもわかりません。だけど、二宮さん。俺はこれだけは言えます」
俺の言葉に二宮は眉をひそめて、俺は続きを話した。
「誠は唄葉と鳩原さんの事件からずっと真実を求めて、探しているのです。誠は共犯どころか何も知らないですよ」
俺の弁明し終えた後に、ずっと考えていたことがあった。誠と二宮は目的は同じなのに協力しない。理由は幾つかあるが、あの二人はこのことに関して協力をすることは絶対にないのだろう。
俺の言葉に二宮は苛つきの表情を見せて、はっきりと言った。
「じゃあ、誰があいつを唆したんだ?」
「確かに唄葉なら人を唆すことなど容易に出来ます。だけど、彼女はルール内の穴を突くことはあっても、ルールを破ることなどしない。ましては、民間人までトリガーを横流しするなどあり得ません。これは俺の考えですが、鳩原さんと唄葉は目的が違うと思います」
長い説明に二宮は付いて行き、理由を問いた。
「どういう意味だ?」
「そのままの意味ですよ。鳩原さんの目的は知りませんが、だけど、
二宮は甘い蜜の餌に飛びつく勢いで俺に命令口調で言った。
「教えろ、唄葉は何を企んでいた?」
二宮が言った後、俺は唄葉の言葉を一瞬だけ、思い出していた。
*** *** ***
「私は、和音の病気を治せるかもしれない可能性が近界のある国にあるかもしれないわ」
「その件については私に任せて」
「大丈夫でしょう? あなたたちに迷惑は掛けるかもしれないけど、和音や、誠、春と違って、あなたは止めないでしょ?」
「あの協力者、×× ××がもしもの時に助けてくれるよ」
「私のことは時期が来たら、朝日奈隊のみんなに教えてね」
「貴方だから頼めるの。私が消えたあとのことはよろしくね」
*** *** ***
やがて、唄葉は
「二宮さん、それは教えることは出来ません。俺が言えることは唄葉が鳩原さんを唆した可能性は0だってことです」
真っ直ぐと二宮を見つめて、二宮は諦めたように溜息をし
「ちっ、そういえばお前も喰えないやつだったな」
と言った。もう一つ質問というか当初の質問をした。
「その唄葉の目的とやらは誠は知っているのか?」
「いや、誠も何も知りませんよ」
肩を竦めて答えて、今度は俺の方から質問をした。
「二宮さんなら、鳩原さんの件、かなり調べがついているのでしょう?」
俺の言動、動きの隅々まで、疑い、対抗するように答えた。
「ふん、重要なところを何も教えないやつに答える義理はない」
二宮の言葉に一理あり、俺は笑みを作り、言った。
「そうですね。二宮さんは間違ってないです。だけど、誠みたいにならないでください」
「どういう意味だ?」
「深い意味はないですけど、復讐になんて囚われないでください」
「安心しろ。俺は復讐なんてしない」
と言い、二宮は立ち上がり、ラウンジの個室から出て行った。
俺は、逡巡するように独り言を呟いた。
「唄葉はまだ生きてるよね?」
誰も聞こえない消えそうな小さな声を発して、俺も立ち上がり、朝日奈隊の作戦室に帰った。
*** *** ***
「「遅い!!」」
和音と春は声を合わせて言い、俺はとりあえず謝った。
「ごめん、ごめん」
「二宮さんと何を話してたの」
和音は自然に抱きついて、俺は一瞬だけ頬を染めて、和音はそれを気にせず、あの件について春に聴こえないように聞いてきた。後ろで春が俺と和音が抱きついたことにニヤついた笑みを浮かべているのを見えるが、和音にだけ聞こえるように答えた。
「いつも通りの唄葉と鳩原さんの話さ」
俺はそれだけ言い、和音は抱きつくのを辞めて、手を繋いで、俺を見つめた。そして飛びっきりの笑顔で
「言いたくないことは何も言わなくていいよ。私は和葵を信じてるから!」
と言った。俺もその笑顔を見て、心から救われた気がし安心をした。そして、ソファに座って、ジェンガの続きを始めた。