我が命運は、優れた従者と共にあり。
そう、勝ち抜くためには強力なサーヴァントが必要不可欠。
アインツベルン、マキリ、トオサカの三家が作り出した聖杯戦争のシステム、「英霊召喚」は素晴らしいものだ。
大英雄から神話の神まで、古今東西、過去から未来まで、全ての時代の英雄が、現世に!
そんなの、あこがれるしかないじゃないか!即ちこれは、浪漫だ!
「ま、わたしみたいな三流魔術師には、名高い英雄さんなんて縁遠いものなんやけど……」
そう呟いて、私室でだらしなく菓子を貪り、雑誌を片手にだらけて居る少女は、大きく口を開いてチョコレートをほおばった。
「やめろ!俺と契約しておいて、そんなにだらけるなんて、死にたいのか?この俺と共に戦えるのに?そう、今は泣いて喜び、俺に這いつくばるべきだろう!さぁ!ほら!……あっ!そこのイチゴ味は俺のものだ!」
狭くて汚い部屋に似つかわしくないほど豪奢で華美な服装をした青年が、少女の手元にあったチョコレートを一つ掴んだ。
「あぁ!王さんそれで5個目やで!これわたしがバイトで稼いだお金で買ったやつなのにぃ……!」
「ははっ!俺の口に合う歌詞を献上するのは、下僕として当然であるぞ!」
そう言って、ホワイトチョコにも手を付ける。
「むっ!これは、この白いもの……中々に美味だ!キョーコ!この白いのはもっとないのか!?」
「あ~、それで最後っすわ。そんなにチョコ好きなん?昔もっと旨いお菓子食べたことないん?」
「……生前には、このような手の込んだ菓子は食したことがない。俺の時代には小麦を使った簡単な焼き菓子、あとはそうだな……それくらいしかなかった。この国はいいな、旨い菓子が沢山、そしてこの時代は良い。このようなチョコレートがあるのだからな!」
そういってライダーはカッカと笑った。
「ふぅん、王さんって結構素直なとこありますやん。これでもうちょい謙虚なとこあったら、モテるで、多分。」
「まあそれくらいの小言、許してやろう。………む。キョーコ、窓の外を見よ、月に奇妙な模様が浮かんでいるとは思わぬか?」
「えーっと、どれどれ?………あ!確かにちょいヒビ入ってるみたいになっとる……。」
ライダーが指さした先には、満月。
その満月の右側、丁度斜め上あたりに、「ヒビ」のような亀裂が見えた。
まるで、卵が割れているような、そんな奇妙な模様である。
「何かの前触れかもしれぬ。キョーコ、念のため、もう一度結界を張りなおすぞ。」
「了解。――――結界形成、強化、確認……我が領域、犯せば重罪、裁きを下したまえ…っと。」
小さく口ずさむようにほそぼそと呪文を唱える。
面倒くさがらずに、母に魔術を教わった成果と言えよう。
「あ、終わったよ。」
「……キョーコ、備えは怠るなよ、いつ、どこで、誰が見ているのかわからぬからな。」
「うん、分かったわ。気を付ける。」
もう一度、あくびが口から出てしまった。
それを見たライダーは口を開く。
「それでよい。……今日はもう寝た方がいい。明日もガッコウがあるのだろう?」
「おやすみ、ライダー。」
「ああ、存分に休めよ、マスター。」
京子が布団に入る間、ライダーは塵箱に入ったチョコレートの包装紙を眺めながら、少しだけ、思い出していた。
聖杯戦争の始まり、自分が呼ばれたときのことを。
ライダーのサーヴァント、ジョン「失地王」が呼ばれたのは、日本の兵庫という場所、そこに存在する魔術師の家、その家の小さな小部屋だった。
目の前に立つのは小さな娘。
何か不満そうな表情で、こちらを舐めまわすように見つめる娘の名は、鳳京子。
母との穏やかな生活を取り戻すために、そんな願いと共に、必死の思いで召喚陣を描き、触媒に選んだのは「イングランド王家の紋章」
鳳一族の最後の生き残り。
そして、聖杯戦争に臨むマスターの一人だった。
「あ、サーヴァントいうのが出てきよった。えぇっと、わたしと契約してくれるんやろ?返品無理?あ、聞いてんの?ねぇ、あんたサーヴァントなんやろ?わたしの使い魔なんやろ?自己紹介くらいせんかい!」
呼ばれて一番、そんなマシンガントークでまくしたてられて、ライダーの頭には「苛立ち」という感情がよぎった。
「貴様!黙っていればこのライダーに減らず口を!!その脆弱な体をへし折ってくれるわ!」
そう言って王笏を構えたライダーに対し、京子は怯むことも、目を閉じることも、令呪を使うこともしなかった。
「やめて。」
ただ、一言、やめて、と。
そう言ってまっすぐにこちらを見据えたのだ。
まっすぐな瞳には決意があり、濁らず、よどまず、こちらをただ見つめていた。
その黒い瞳を覗き込んだ時、矢に打たれたような、そんな衝撃が全身を駆け抜けた。
(これは、「決心した人間」の瞳だ――!)
覚悟を決めた人間にしかできたい表情で、こちらが試されているような気持ちになる。
ライダー――ジョンは思い出した。
(兄に、よく似た瞳だ……)
リチャードも同じような瞳をしていた。
息が止まる。
ずっと小さな小娘に、この誉れ高き我が心が揺らぎ、怖気づいたのだ。
ライダーは思った。
この瞬間、ライダーの心の中に、一筋の雷撃が走った。
あの金髪、我が兄にして、至福の王。
同じ血を分けた兄、リチャードの纏うオーラを、目の前の少女は身に持っていたいたのだ。
(そう、きっとこれは運命なのかもしれぬ、な)
ライダーは京子の肩に王笏を当てた。
丁度、姫が騎士にするように、自然と京子と目線があった。
「御前を、余のマスターにすることを認めよう。……これから、俺はお前の剣であり、盾、お前もまた、俺の相棒であり、臣下だ。」
「うん、よろしく。ライダー。」
京子はライダーに令呪を見せて、そう言った。
悪評を拭うべく召喚に応じたサーヴァントと、己の幸福を夢見て、戦いを選んだマスター。
右手で、三枚のツタが絡み合うように美しい紋章を描く。
丁度それは、鳳の家の紋章によく似ていた。
ジョン失地王のことは、成田先生のfakeでちょろっと出ていたのを、書いた後に思い出しました。
これから本家の方で出てきたらどうしようとひやひやしています。
私版、ジョン失地王だと思って、向こうとは別物という解釈で読んでいただけると嬉しいです。
京子の関西弁(エセ)は自分の地元(一応関西です)での言い方を参考にしているので、間違っていたらすみません。