fate/lostmoon   作:茜谷

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プロローグ・アサシン

「何故、君は聖杯戦争に?」

「僕は、死にたいんだ。」

 清潔で落ち着いた部屋、病的なまでに白く、消毒と、薬品の独特のにおいがするその部屋は、俗に「病室」と呼ばれる部屋だった。

 ベッドで寝ているのは大人と青年の中間地点にいるようなやせた男。

 その隣に腰かけるのは、シルクハットを被った紳士風の男である。

「死にたいから戦争に参加するのかね。」

「ああ、僕は安らかに、一刻も早く死ぬ必要がある。死は救いだ。しかし、死の先は無だ。でも、それは幸福でもある。僕は何でもいいから、消えたいんだ。その為に、死ぬために、僕は君と一緒にいるんだよ、アサシン。」

 独り言のように語る少年を横目に、アサシンと呼ばれた男は深くため息をつき、手もとにあった手帳を開いた。

「マスター、死は救いだという点に関しては大いに同感しよう。しかし、無であはないぞ。死を終えて、待ち受けるのは生前の呪縛だ。死んだら、誰かが悲しがるふりをする。そうすると、死などは無どころではなくなるのだ。死とは、逃避手段ではあるが、私の生前の「記録」を新しく更新するのだとしたら、自殺だけはやめてくれ。それで私の本には、奇妙で陳腐なあとがきが付け加えられているのだから!」

 キャスターは大げさに身振り手振りで表しながら、大げさにそう言う。

 その姿を見た男は少しだけ口角を吊り上げて、覗き込むようにしながら言う。

「君はアサシンなんだから、僕を殺してくれよ、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。」

 

 アサシンが召喚されたとき、あたりを包んでいたのは、静寂と闇、そして死の臭いであった。

 ボロボロの紙切れに、よたよたと、地を這うような線で描かれた召喚陣を見て、アサシンは感じた。大変なところにきてしまったかもしれない、と。

「君は、僕を生かしたい?」

 暗闇の中で、2つの瞳がこちらを見ている。

 薄い月の光の中、明らかに異質な存在である、「彼」は白く清潔なシーツの上からこちらを見上げていた。

「君が、私を呼んだのか?」

 アサシンは呼びかける。

 召喚したはずの男は、少しだけ間を開けてから、また尋ねた。

「君は、僕を生かそうとしている人?それとも死神?えっと、死神に殺されるパターンは考えていなかったんだ。ちょっと待って、死ぬ用意をするから。」

「………少なくとも、私は死神ではない。そして、君を殺そうとは思っていない。どちらかというと、むしろ生かさねばならない存在だ。」

「え、そうなんだ。残念。でも、君を呼んだのは僕。だって、参加したら死ねるんでしょう?この聖杯戦争っていうのは。」

 そう言って、男は端が擦り切れた紙切れを突きつける。

 古めかしい字体と、ぬるぬると滑るような文字は、まごうことなき「ひらがな」で、大昔に書かれたものなのだろうか、サーヴァントでも読むのに苦労するほどの古い言葉で綴られている。

「すまないが、君は聖杯戦争に参加するつもりなら、生きていないと勝てないぞ。君の望みは叶えられない。」

「うん、知ってる。だから、聖杯ってやつに願うんだ。極上の死、誰も体験したことのない、本当の意味での死をね。」

「……君は、本当にそれでいいのかね?」

「いいよ。マスターになっても。持ってるんでしょう?願い。僕はどっちにしろ、負けても勝っても死ねるんだから、それでいいんだ。」

 そう言って、三画の令呪をまじまじと見せつける。

「ね、ほら、これが浮き上がったってことは、僕をマスターって認めてくれた。それでいいんじゃないか?」

 肉がほぼない、と形容してもおかしくない痩せ切った青白い腹に、アンバランスな真っ赤な令呪。

「……いいだろう。私は君をマスターと認めて、この戦争に参加する。」

「いいよ、握手しよう。……そういえば、クラスを聞いていなかったね。君は何の英霊なのかな?」

「アサシン、アサシンのサーヴァントだ。真名は、ゲーテ。フルネームはヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテだ。くれぐれも、迂闊に口にしないように。」

「わかったよ、アサシン。」

 そう言ってつながったパスには、この細見からは想像できないような魔力が流れている。

(このマスターは、何ものなんだ……!?)

「ねぇ早速だけどさ、何人か殺してきてくれない?他のマスターを殺すためなんだから、今のうちに予行練習しとかないと。」

 男は笑いながらそんなことを言う。

 アサシンは、病室を後にした。

 

(殺せ、か。まあ、アサシンとして呼ばれたから覚悟はしていたが、まさかこの私が直接手を下す、のか。)

 おそらく監視されているだろうから、適当に街で誰か見繕ってしまおう。

 そう思い、彼はアサシンのクラススキルである「気配遮断」を発動させた。

 夜の街は暗く、繁華街は人でにぎわっている。

 星が雲で隠れている中を、アサシンは歩いた。

(今日は、星が見えない、か)

 

 病室のドアに、黒い文字で小さく名前が書かれたネームプレートが貼ってある。

「407号室 寺島功太」

 それが、男の名前である。




アサシンは、皆さん大好き(?)ゲーテです。
アサシンをゲーテにしようというのはずっと頭の片隅で考えていて、別の候補(ロミジュリのロミオ、既出だけど、マタ・ハリ、後はシモン・ヘイヘとか)
最初の方はシモンさんで書こうとしていたのですが、「ウェルテルでいっぱい自殺効果あったんだから、ゲーテアサシンいけるわ!)という考えで急きょゲーテに変更。外見年齢はシュトラースブルクで学んでいた時代あたりで想像していただければいいかと。
死にたがりマスターとの相性もいいんじゃないでしょうか?(実はこのマスターで書くときは、キャスターのマスターで、サーヴァントは太宰治にしようと思っていました)
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