自分でも、何故こんなことになったのかいまいちわかっていない。
でもわかるのは、自分はとても大変なことに巻き込まれた、ということだけだ。
「サーヴァント、アーチャー。ウィリアム・テルがここに推参致す。」
そう言って手を差し伸べてくれたのは、どこからともなく表れた、帽子を被った男の人。
テレビから抜け出してきたような、俳優みたいな綺麗な顔の人。
「え、マスター?ええっと、貴方は……」
目が回りそうだ。
少しだけ、おまじないを試しただけなのに、地面が光ったかと思ったら急に現れて、しかも「サーヴァントのアーチャー」なんて言ってくるなんて、ちょっとこれはゲームのやりすぎなのかもしれない。
これは、夢?
もしくは、テレビのドッキリ番組の撮影?
でも、こんな普通の男子中学生を撮影したところで、何か意味でもあるのだろうか?
困ったような顔をして、こちらを見つめる男性に、何故かこう口走ってしまっていた。
「あの、お茶でもいかですか……?」
家のダイニング、建て替えたばかりでまだ変な臭いが充満する部屋で、麦茶をコップに入れて二人分を机の上に置いた。
向こうが、
「これは、俺が飲んでもいいのか…?」
と聞いてきたので思わず、
「あ、お代わりもありますんで!遠慮なく!」
と答えてしまった。
不思議そうに蛍光色のプラスチックコップを眺め、思い切ったように麦茶を飲み干す彼を横目に、必死でカメラを探していた。
(どこだ、あの影か…?いや違う、どこにもない!?いやまさか、嘘だろ?え?どうしろっていうのさ!)
「あの、すまない。」
「はっ!はい!何でしょう?!」
急いで振り返ると、緑色の瞳が困ったような色を湛えてこちらに訴えかけてくる。
「貴方は俺のマスターになるということで、いいのだろうか?」
「え?」
「……聖杯戦争は、もう始まっている。もう、ランサー、アサシン、キャスターのサーヴァントが召喚されている。参加するにしろ、しないにしろ、君はどうにも聖杯戦争についての知識がないと見受けられるから、心配になってしまったのだ。」
「聖杯、戦争?」
「ああ、君は知らないのか。……魔術師でないものが参加する、まあそういうパターンもあり得るか。」
最後の方は何を言っているのか聞き取れなかったが、どうやら自分は何も知らないらしい(そのまま受け売りで言ってみただけだ)。
「わかった。全て説明しよう。今更引き返せないし、言わないより言っておいた方が、のちの役に立つだろうから。」
「?よろしくおねがい、します?」
真剣な面持ちでこちらを見つめる彼に、この時の自分は引き下がれなかった。
過去の偉人や神話の神様なんかが聖杯という器を取り合うバトル・ロワイヤル。
それは、冬木という街に住む3つの魔術師の家が考案した、殺し合い。
剣を使う、「セイバー」
弓を使う、「アーチャー」
槍を使う、「ランサー」
乗り物に乗る、「ライダー」
魔法使いの、「キャスター」
暴れまわる戦士、「バーサーカー」
暗殺者の、「アサシン」
自分のサーヴァントは、弓の英霊、アーチャー。
聖杯戦争に参加する人は、そんな7人のうちのどれかと契約して、戦いに臨むらしい。
勝利する方法はただ一つ、他のサーヴァントかマスターを倒すこと。
アーチャー曰く、逃げられないし、生き残りたければ他を殺すしかない、とのこと。
そんな厄介なことに、自分は参加しなければならないらしい。
そして、三画の令呪。
これは、サーヴァントにどんな命令でも効かせることができる「絶対命令権」らしい。
これがなくなると、脱落する。
聞いたことを自分なりにまとめれば、そうなった。
「魔術師なんて、ゲームや漫画の世界のことなんだと思ってた。」
「いや、魔術師っていうのは本当にいるもんさ。現に、そういうやつらこの聖杯戦争に参加する。」
アーチャーはそう言って、新しく注いだ麦茶を飲み干した。(「あっ、これ旨い」とか聞こえたような気がするけれど、黙っておこう)
「……で、マスター。あんたは勝つ気があるかい?殺し合いに、参加する度胸は?」
アーチャーは真剣にこちらを見ている。
正直、返答には困っている。
いきなり、殺し合いをしろだの、正直胃が痛いし、怖い。
でも、
「本当に、何でも願いが叶うんですね?」
実は、どうしても叶えたいことがあった。
この機会だし、やってみても損はないと思う。
「わかった、マスター。これから俺は、貴方の弓兵だ。どんどんこき使ってくれ。」
そう言って、膝を折って跪く。
「うん、アーチャー。死なない程度に頑張るよ。」
月が、また瞬いた。
そして、ヒビは深くなる。
丁度、満月になった。
まだ、続く。
悲劇の幕は、あがろうとしていた。
ウィリアム・テル。
この人は正統派アーチャーを目指して考えました。
(本家がアーチャーじゃないアーチャーばかりなので(笑))
女の子にしてもよかったなあって思ってます。密かに。
男くさい主従が多いですよね(笑)
多分、女の子も増えます。多分。