もし織斑一夏がアリー・アル・サーシェスみたいな奴だったら 作:ナスの森
シャルル・デュノアと同室になってから三日が経った昼休みの時間、アインは食堂へ向かっていた。食堂での食事は自分の駒を増やす、または選別するために女子たちと会話をするのに良い機会の一つとなっていた。
ここ最近はシャルル・デュノアと行動を共にする事が多いため、寄ってくる女子たちの人数は増えたものの、シャルルという存在のおかげで以前より洗脳が行いにくくなっていた。別に火種になりそうな女子は大方手中に収めたつもりなのでこれといって問題はないのだが、やはり巻き込む人数は大きければ大きい程火種が増す事に変わりはないため、こうして一人になる機会がやってきたアインはこうして食堂へ向かっていた。
とはいえ、あまりに洗脳して駒を増やし過ぎるのはよくない。
駒を増やし過ぎると逆に騒動は起こせない。
大群衆の中で一部の者達が異質な行動を取るからこそそれは騒動となる。だからこそ、その異質な行動をさせる女子たちの選別をここ二か月の学校生活でアインは行ってきた。
その時は既に近づいてきている。
クライアントのバックアップもあって準備は完璧だ。
後は自分の立ち回り次第……そんな事を考えながら歩いていたら、一人の三年生の先輩と肩をぶつけてしまった。
「おっと、すみません」
「いや、コッチも悪かったな。今度からはお互い気を付けようぜ」
そう言って、アインとぶつかった三年生の女子生徒――――ダリル・ケイシーは去っていった。それを見届けたアインは、また食堂へと足を動かし……ふと、自分のポケットの中を見る。
先ほどぶつかった先輩が、自分のポケットの中に何かを入れたようだ。
その様子を見逃さなかったアインはポケットに入れられたソレを覗き見る。
そして、僅かに眉を潜めた後、ほんの少し、口元を歪めて後、また何事もなかったかのように歩き出した。
「ッへへ、態々前払いで渡してくるたぁ気が利くねぇ……!」
誰にも聞こえないように、そんな独り言を口ずさみながら。
◇
「そういえば、アインってIS初心者なのによくあんな動きできるよね。セシリアさんとの試合もそうだったけど、中国の
あたかも自分が初心者ではないかのような言い方にアインは内心でこのシャルルという少年(少女)に呆れつつも、シャルルの賞賛に言葉を返した。
「ああいう風に機体を後ろ向きに倒しながらの方が弾を避けやすいんですよ。戦場なんかでも匍匐前進やスライディングをしていれば弾に当たりにくいのと同じ理屈です。要は相手から見て自分のISが見えにくい体勢にすればいいってことです。幸い、ハイパーセンサーのおかげでどんな体勢からでも周囲を確認できますし、生身でやるよりもずっと効率よく弾を避けれますよ」
「言われてみれば確かにそうかもね。だけど、僕はこの改造したリヴァイヴによる高速戦闘に慣れすぎちゃって、弾を避けるときとかウィングスラスターの機動力に頼りがちだったから、そういう避け方はまだできないかなぁ」
「無理してやる必要はないと思いますよ。自分もシャルルさんのように高速機動に頼って弾を避け続けられればよかったのですが、何せ自分のISはワンオフアビリティーがあれですから、それの使用も考慮してスラスターの乱用による戦闘は極力避けてます。苦肉の策として考え出した避け方がアレなワケです」
シャルルが転校してきてから五日が立ち、すっかり(表向きは)仲良くなった二人は、同曜日の午後の自由時間を使って、解放されたアリーナでお互いのISを展開させ意見交換をしていた。
「けど、それで避けれるんだから凄いよ。さっきだって僕の射撃が全然当たらなかったし、よく動いているようには見えないのに避けられるっていうのは本当にすごいと思うよ」
「フランスの代表候補生にそう言ってもらえるのは光栄だ。で、次は何をしましょう? また手合せでもしましょうかね?」
「アハハ、アインって意外に好戦的なんだね」
「こう見えても傭兵ですから。戦いには惹かれるというものですよ」
五日間同じ部屋を過ごして分かった事であるが、このシャルルという少女、どう見ても狙いは自分の白式だとアインは確信していた。今もこうして自分と手合せしたりして何処か自分の動きや白式のスペックなどを観察している節がある。どうせ直ぐにクライアントに引き渡して新しい専用機に乗り換える予定なので、白式の情報を引き出されたところでそんな痛手にはならないが、白式そのものを譲る訳にはいかない。
既に
「アインの『白式』って
「ええ。どうにも
肩を竦ませて、やれやれと言った感じで両手を上げるアイン。
片や諸刃の剣としてシールドエネルギーを消費していまう代物、武装を増やすにしてももう一つの方のアビリティーを使用する事でしかそれを行えないという不便な仕様のISである。
「でも普通は
「倉持の技術者方さんもそこら辺で未だに議論していましてね。白式はそのワンオフを最初から使える仕様だから第三世代だとか、マインド・インターフェイス武装がないから結局は第二世代型だとか、拡張領域の狭さを考慮すればむしろ第一世代型まで型落ちするのではないかとか、散々ですよ」
「アハハハハ……第一世代型はさすがに極端じゃないかなぁ?」
苦笑しながらそう言うシャルル。
『ブリュンヒルデ』が使っていたワンオフ・アビリティーを備えているISの割には散々な言われようだな、とシャルルも思ったらしい。
とはいえ、一次移行の時点でワンオフを、それも二つも発現させるのは紛れもなく異常であり、操縦者が世界で唯一の男性という事もあって欲しがる国はたくさんある。……最も、既にテロ組織からの先約が入っているのは内緒だが。
「一応、織斑先生が使っていた雪片とは違って、そっちの……『雪片弐型』っていうのかな? そっちには近接ブレードと射撃兵装が一体化した武装になってるから、幾分か戦いやすくはなってはいるとは思うけど……」
「それでも決め手が『零落白夜』以外にこれといってない、というのが痛い所ですかね。射撃を決め手にしようにも結局は『零落白夜』を使わなければいけない。通常の弾丸が実弾だっていうのがせめてもの救いです」
「う~ん、とてもじゃないけれど普通の初心者に扱える代物じゃないよね。はっきり言ってアインだから扱えているようなものだよ、それ」
「ハハハ、世辞は喜んで受け取っておきますよ。今は考えても無駄でしょうし、そのことは置いておきましょう」
どうせ乗り換える予定だしな、と心の中で付け加えながらこの話を置いておくアイン。
「あ、うん。それもそうだね。じゃあ、次は射撃訓練で勝負しようか。はい、これ」
そう言って、シャルルはアインに
違う武器で勝負しては公平性に欠けるというシャルルなりの配慮であった。
「ちゃんと
「ええ。IS装備は幾度となく触った事がありますから、これくらいどうって事はありませんよ」
渡されたアサルトライフルがちゃんとセミオートモードになっているかを確認しながら、アインは答える。その表情に余裕を感じたシャルルはよし、と頷いてアリーナの中心に表示された的に両者は銃を構えた。
「時間はどうしようか?」
「一本三分。三本勝負で二点先取した方の勝ち、でどうでしょうか?」
「よし、乗った……!」
ニヤリと、好戦的な笑みを浮かべてアサルトライフルを構えるシャルル。
スタートの合図と共に、両者の銃口から同時に弾丸が飛び出した。
◇
「…………………」
先ほどからお互いにISを展開しながら仲が良さそうに一緒に訓練している男性操縦者二人を、セシリアは遠くの背後からハイライトのない目で見つめていた。お互いに男性操縦者という事もあってか、二人の相性は抜群のようだった。
少なくとも、セシリアにはそう見えていた。
未練がましくも青色のISスーツを身に纏い、いつでも『ブルー・ティアーズ』を展開できるように待機するようなその姿は、彼女を待ち受けている真実の事を考えれば実に滑稽であった。
彼女は嫉妬していた。
同じ男性操縦者という立場だけで、自分から立ち位置を奪ったフランスの代表候補生、シャルル・デュノア。
実際、アインとセシリアがBTデータ取りの訓練で付き合うのは放課後の夜中であるため、別にシャルルはセシリアの立ち位置など奪ってはいないのだが、アインが関わると正常な思考ができなくなる、アインに『洗脳』されているセシリアにはそう思えて仕方なかった。
それでも、とセシリアはぐっと堪える。
このぶちまけそうな感情を抑えて、そしてこの絶対零度の視線地獄を乗り越えればまた、あの時間がやってくる。
『ブルー・ティアーズ』が、セシリアが使っている時よりもより活き活きとする時間が、彼の雄姿を見る時間がやってくるのだ。
(耐える、耐えますのよ、セシリア……)
あの時間の事を考えれば、こうして自分に一瞥されて送られる絶対零度の視線でさえ、心地よくなってくる。
その心地よさは決して妙な性癖だとかそういうものではない、優越感だ。
彼だけが素で自分に接してくれている現状が、彼が自分に素を見せてくれる時間が、彼が自分にだけ心を許している事が、何よりの優越感だった。
(あの場所に最後に立っているのは私、そこに曇りはありませんわ。最後に、卒業するまでに、国に連れて帰るまでに、私が彼の傍に立っていれば――――)
――もし、立てなかったら?
そんなネガティブな思考がセシリアの脳裏に迸る。
入学してから初日――――自分は彼に何をした?
彼を男という異性だけで差別し、彼の生まれ故郷を差別し、彼の誇りを一週間もの間穢し続けた自分が、こうして踏みとどまっているだけで彼の懐に立てるのか?
――“本来ならばあの場での貴女の発言は、彼の貴女に対する、ひいては我々本国に対する印象を悪くするものであった”
不意に、技術部門の顧問から言われた冷淡な言葉がセシリアの脳裏に響く。
そうだ、このままでは自分は彼の懐に立てない。
彼の懐に最後にいるべきなのは自分の筈なのに、このままでは立てない。
表向きではセシリアに気さくに接していようとも、内心ではセシリアの事をまだ疎ましく思っているかもしれない。
(そんなのは……嫌……)
ふと目を上げてみる。
そこにはアリーナの奥に続々と表示されては消える的の中心を次々と撃ち抜いていく、互いに切磋琢磨する二人の姿があった。
その瞬間、セシリアの心は爆発する。
(嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌否否否否否否否否否否否厭厭厭厭厭厭厭厭厭厭厭厭厭いやいやいやいやいやいやいやイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ!!)
セシリア・オルコットは考える。
絶望が待っている運命にどうすればずっと囚われ続けていられるかを必死に考える。
このままでは駄目だ。
彼を狙う生徒はたくさんいる。
一人増えてその分希少価値が下がったとはいえ、男性操縦者である彼を欲しがる国はイギリス以外にもたくさんある。彼を欲しいと思う女子生徒もこの学園にたくさんいる。
どうすれば、彼が自分を見捨てずに済むかを必死に考える。
予て本国から命令されている「ハニー・トラップ」を実行するか、いや、それは許されない。
どうすれば、どうすればいいか、そしてセシリアは考え付いた。
(ああ、簡単な事ですわ)
恍惚的な笑みを深ませる。
(彼の、道具になればいいんですわ)
道具――――それは絶対に裏切らない、裏切りようがない。
それになればいいのだとセシリアは考える。
「ふ、ふふふふふふ……」
彼女はもう既に手遅れだった。
この学園に潜む、洗脳された女子生徒達、その中でも彼女はもうどうしようない、手のつけようのない程の洗脳を施されていた。
この世界に、
◇
「アイン、今日はもう上がろう。四時を過ぎたし、もうアリーナの閉店時間だ」
「結局三本に終わらず熱中していまいましたね。周りのお嬢ちゃんたちの声も聞こえないくらいに」
「アハハ、僕は少し五月蠅かった……かな?」
難易度MAXの、一瞬で現れては消え、一瞬で現れては消え、それらによる残像を作り出していた的を当て続け、どちらか一方の点数が上がっていくたびに上がる女の子たちの歓声に、シャルルは相変わらず慣れないのか困惑気味だったようである。
「えっと……じゃあ先に着替えて戻ってて」
何処かよそよそしくそう言うシャルルに対し、アインは内心で「こいつ隠す気あんのかよ……」と呆れつつ、了承する。
「分かりました。それと自分も少しの間用事がありまして。部屋に着くのは其方より遅くなりそうです」
「うん……分かったよ」
シャルルにそう言って、アインはゲートへと向かう。
チラリと、先ほどから背後でじっと自分達二人の様子を見つめていたセシリアを一瞥し、ほんの少し微笑を浮かべ、ゲートへ戻ったアインは更衣室の中へと入る。
白式は待機状態のガントレットに戻し、素早く身支度をして更衣室を出る。
四時過ぎに山田先生から職員室に来るように言われていたアインは、真っ直ぐに職員室を目指して足を運ぶ。
白式の正式登録に関する書類に関する用事であり、もう直ぐ乗り換えるのに登録するのもどうかと内心で疑問に思いつつも、今は一生徒として先生の言う事は絶対なので、アインは山田先生の所へと向かった。
◇
「……………。はぁっ……」
ドアを閉め、寮の自室に自分一人だけになった所でシャルルは吐き出すように溜息を漏らした。それでも我慢していたせいだろうか、無意識に出たそれは思ったよりも深く、シャルル本人が驚くくらいだった。
「……何をしてるんだろうね、僕は」
アリーナでの彼とのやり取りを思い出し、シャルルは再び溜息を吐く。
彼のデータと白式を狙ってここに来ている筈なのに、何故自分はこの学園生活を楽しんでいるのだろうか。
さっきだってそうだ。
本当は白式を観察してデータを取ろうと思っていたのに、いつの間にか彼と射撃訓練での勝負に熱中をしていた。それこそ周りで騒ぐ生徒達に対して「集中できないから黙っててくれ」と叫びたくなるくらいには、熱中していた。
「こんな負けず嫌いだっけ、僕って……?」
楽しかった、ただ純粋に楽しかった。
偽りの関係とはいえ、誰かと切磋琢磨する事が、今までになかったその体験はシャルルにとってとても新鮮なものだった。
それだけではない。
ここ五日間、アインが見せる気遣いにシャルルは救われてきた。
頑なに一緒に着替えようとしない自分に特に深く事情を聴く事もなく、この学園で右も左も分からない事を教えてくれた。
男性操縦者という理由で騒ぐ女子たちとの上手い接し方やあしらい方も教えてくれて、自分が女性である事を隠さなければならない立場にあったシャルルはそれで幾分か気を楽にすることができた。
そんな彼に、自分はひどい事をしようとしている。
そんな事したくない。
自分はシャルル・デュノアなんていう名前じゃない、れっきとした女らしい名前を母親から貰った正真正銘の女子なのに、何で、それも自分に良くしてくれた人物に対してこんな事をしなければいけないのだろうと、シャルルは葛藤していた。
「……そういえば、彼って……傭兵だよね? だったら――――」
幸い自分は代表候補生。
スパイとしてここに送られてきたとはいえ、政府から提供された貯金はたくさんある。
――ならば……その貯金で彼を雇って、そして……。
「やめよう、こんな事考えるの」
彼とて今は一生徒。そんな事ができる立場ではないだろうし、何より難しいだろう。
そんな事を考えながら、この五日間一緒に過ごしてきたルームメイトの机に目を置いて――奇妙な物を見つけた。
「……あれは?」
座り込んだベッドから立ち上がり、アインの机の上に置かれたそれを近くで見つめる。
それは普段彼が身に付けている白式の待機状態であるリストバンドと形状がよく似ており、シャルルは思わずそれを手に取り、突如として顔色を変える。
「これって、もしかして……!」
そういうや否や、シャルルは自分のバッグから端末を取り出し、そこから伸びたコードを手に取る。
「差込口は……あった!」
端末から伸びたコードをリストバンドについていたコード差込口に差し込む。
すると端末に「このデータを閲覧しますか?」というメッセージが現れ、シャルルは即座にその下にあった「はい」のボタンをクリックし、そのデータを閲覧する。
そこに表示されたのは、ISのデータだった。
「打鉄……
(白式……じゃない!?)
表示されたISの名前を呟いたシャルルはもう一度、手に取ったガントレットを手で角度を変えながら見つめる。
(まさか……このデータのISの、待機状態!? どうしてアインの机の上に!?)
そんな疑問を抱きながら、シャルルは端末を動かしてそのデータの詳細を見る。
どうしてアインの机の上にあったか以前に、ここに待機状態のISがある事自体が問題なのだ。
彼の白式でない、だからといって学校の訓練機でもないのだとしたら、一体このISはなんなのだろうかと、そんな疑問がシャルルにはあった。
(武装は……大型ブレードに、BTエネルギーハンドガン……ファング・ビットが八つ、装甲はBTエネルギーに対応した耐貫性スライド・レイヤー装甲、更に機動力の底上げのために特殊軽量化を施し、改造した第三世代型のスラスターを搭載……そんな、どうして日本製のISにイギリスのBT技術が……!?)
映像データに映っている“緋色の打鉄”を目にしたシャルルは今度こそ驚愕を隠しきれなかった。日本とイギリスが共同でISを開発したなんていう情報は聞いた事もないし、そもそもデータベース上ではこんな機体なんて乗っていなかった。
見た感じ強固なアーマースカートは、牙状らしき何かを納めたサイドアーマーに換装されており、さらに頭部装甲まで追加されている。右肩の物理シールドの裏上部にマウントして背負った大型の近接ブレードが特徴的だった。
(国籍は……不明。一体どこでこのISを……!?)
画面をスライドしていき、やがてこのISの詳細が記載された項目を引き当てた、シャルルは目を見張ってそのデータを閲覧する。
(『元はとある研究所から盗まれた三機のISの内の一機。この三機が東欧の紛争地帯に■■■■共和国の大臣が違法投入……その内の一機が敵の傭兵に強奪された。研究所に戻されはしたが、それを『我々』が再び強奪。来るべきときに雇う傭兵の専用機として改修……紛争地帯で強奪した傭兵って……もしかして……!!!』
更に画面を下にスライドしていったら、そこに一つの映像があった。
これを見たらもう後戻りはできない、そんな予感に苛まれつつも、シャルルは恐る恐るヘッドホンを付けてその映像の再生ボタンをクリックする。
そこに再生されたのは、正に悪夢の映像だった。
一人の傭兵が二人の内一人の女性操縦者の心臓を撃ちぬいて殺害し、更にもう一人の方の操縦者を地面に転がり倒して、その肩にピストルを発砲。
傭兵は彼女で遊ぶつもりなのか、手負いの状態のまま彼女をあえてISに搭乗させる。
相棒を殺された女性は憤怒の表情でラファール・リヴァイヴのスラスターを吹かして空中に飛び立ち、地上にいる男の傭兵を殺さんと見下して、その表情は一瞬で驚愕の物へと変化する。
男が、撃ち殺した女性のISを奪い取って、彼女に襲い掛かってきたのだ。
『どうして、どうして男がISを!?』
『さあな、才能じゃねえのか!?』
『ふざけないで、大臣はどうしたの!?』
『脅してやったらよぉ、お前らの事すぐ吐いてくれたぜぇ!』
『そんな、大臣が私達を見捨てる筈……!』
『同情するぜぇ、可哀想になぁ!』
そんな対話の応酬の中で、男の傭兵は初搭乗とは思えない程の動きでリヴァイヴの搭乗者を追い詰める。
搭乗時間だとか、そんなものが意味を成さない程に、両者の間には圧倒的なセンスの差があった。
やがて、怒り狂ったリヴァイヴの搭乗者が近接ブレードを展開して、瞬時加速で男に肉薄しようとするも――――
『御託はぁ!! 沢山なんだよぉ!』
まるでカウンターの如く瞬時加速を繰り出した男の傭兵によって右腕をリヴァイヴの装甲ごと切断される。
そして。
『逝っちまいなぁ!』
男のISの手に握られたアサルトライフルの銃口が、リヴァイヴの搭乗者の右腕の切断面に押し込まれ、その火を吹く。
『あ"……、あ”あ”あ”あああああアアアアアアァァアッ……!?」
次々と体内に押し込まれていく弾丸の痛みに、女性は狂ったような悲鳴を上げる。
そんな女性に罪悪感を抱くどころか、むしろその嗜虐的な笑みを深くし。
『いい声で泣くじゃねえかお嬢ちゃん! もっと聞かせろやぁっ!!」
「イ"ヤ”ア”アアア”アァ”ァ”ア”ア”アアアアア”アアアアやめでええ”ええ”ええ”ええ”え”え”えぇぇええッッッッッ!!?!!?!!!!?」
そこから先は、見えなかった。
「――――ぅ……ぁ、ぁ……」
これ以上見るに堪えず、一時停止ボタンを押したシャルルは、端末を床に落とし、シャルル自身もドン、と膝を床に付け、顔を床に向けて口を抑え込んだ。
「ぁ……ぇ……ヴォ……アァ……ァッ……」
あの映像が何なのかまったく分からなかった。
いや、分かる。故に、分かりたくなかった。
あの映像が何なのか、そして自分の目の前にある待機状態のISが何なのか、全てわかってしまった。
「ぅおぇ……ア゛ァ゛エ゛……」
口からぶちまけそうになる嘔吐物を必死に喉に押し戻す。辛うじて吐かないのは代表候補生として訓練されたメンタルの強さのおかげ故だった。もし何もないままこの映像を見ていれば、シャルルは間違いなく壊れていただろう。
「ア゛ァ゛……どう、ひぃ……て……」
どうしてアインが、と言葉にする事が出来なかった。
映像に映っていたあの傭兵を自分はよく知っている。おそらく自分がこの学園で一番信頼している人物であり、そして一番罪悪感を抱く人物。
そんな彼が、あんな顔で人を殺している事実を、到底受け入れる事ができなかった。
「こ――――この、IS、ア゛……?」
恐ろしかった。
ただただ恐ろしかった。
あのリヴァイヴの搭乗者にあそこまで苦痛を与えた
「……?」
ふと、背後に気配を感じた。
恐る恐る、振り返る。
そこには。
「へっ……!」
あの映像と同じように、凶悪な笑みを浮かべるアインの顔を見たシャルルは、顔を青ざめて声のない悲鳴を上げた。
最近、ロックオンポジをラウラからチェルシーに変更しようか迷ってます。
アルケーの設定と名前が決まりました。
ツヴァイの形態移行という形にしたいと思います。