もし織斑一夏がアリー・アル・サーシェスみたいな奴だったら   作:ナスの森

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フランス少女の選択

 まるで、時が止まったと感じるような瞬間だった。

 とく、とく、と荒ぶる鼓動とそれに連なる恐怖の感情は、一瞬の時間さえも長く感じさせる程であり、それは少しでも長く生きていると感じていたいという己の気持ちであろうか。

 

「どうかしましたか?」

 

 何せ、目の前には――――

 

「――――――――」

 

 先ほどみた映像で残虐非道の所業をやってみせていた傭兵、アイン・ゾマイールが立っていたのだから。

 口調こそこの五日間でシャルルに見せてくれた紳士的な物であるものの、その表情は正に映像で見た彼の残虐の笑いそのもの。まるでシャルルを飯の種を見るかのようなその目は間違いなく、アイン・ゾマイールのものだった。

 

「……ぁ、ぁ……ぃ……」

 

 震える唇を必死に動かして彼の名を呼ぼうとするも、それすらも恐怖のあまりまともに口にできない。崩れ落ちた足もまた震えるあまり立ち上がる事ができず、本能が逃げろと警告してきても体がそれを受け付けなかった。

 

「先ほど、白式の正式な登録に関する書類を書いてきましてね。これでようやく貴方と同じ正式な専用機として認められるようですよ。いやはや、同じ男性操縦者ですから、貴方と()()()になるのは嬉しい限りです」

 

「……ッ、……ッ!!?」

 

 無理だった。まともに彼の声を聞けない。

 この五日間は心地よく受け入れる事ができた彼の声音が、今ではただの悪夢(トラウマ)だった。

 その声を聞くたびに、自分もまた、あのリヴァイヴの搭乗者と同じような事をされるのかと、どうしても頭がそう連想してしまう。

 シャルルは裏世界の闇を知っている。世の中には正論や常識、人道ではまかり通らない所がいくつもあって、シャルル自身もまたそれを味わった。

 本来ならばISというモノに関わる事無く、フランスの田舎町で母と穏やかに暮らす事を望む、ただ一人の娘だった。

 母親が亡くなり、()()()()()()()()は。

 だから、それにはもう慣れた。慣れた、つもりだった。

 しかし、シャルルは裏社会の闇は知っていても、“戦争の闇”に関してはまったく無知だった。会社の存続の為に仕方なく自分を男と偽ってスパイとして送って来たあの男と違い、ただ純粋な悪意だけで人をあそこまで苦しめて殺す人間が存在する事を、シャルルは知らなかった。

 そして、その人間が今自分の目の前に立っているという現実が、シャルルの恐怖をこのうえなく増幅させた。

 

「どうしました? そんなに震えて、何か悪い夢でも見ましたか?」

 

「――……ぃ、ぁ……ッ」

 

 口調はそのままに、しかしその歪んだ表情は、此方の反応を見て遊んでいる事が伺える。

 沈黙が場を支配する。

 悪趣味な笑みを浮かべながらシャルルを見下ろすアイン、未だ恐怖のあまり立てずに膝を突いたまま項垂れるシャルル。

 シャルルの顔は既に冷や汗でびっしょりであり、更に目から流れた涙も混ざり、青筋を立てたその表情はとてもではないが目視できるものではない。

 やがて、心臓が停止しそうなタイミングに陥った段階で、アインの表情はいつものにこやかな柔らかい物となった。

 

「……え?」

 

 突如、アインから感じる冷たい雰囲気がなくなった事に呆然としたシャルルは、金縛りから幾ばくか解放されたのか、ゆっくりと顔を上げる。

 そこにはいつもの頼もしい笑みを浮かべているアインの姿があった。

 

「ハハハ、すみません。“それ”、大切な友人から預かっている代物でして、シャルルさんが手に取っているのを見てついカッとなってしまいました。ほら、立てますか?」

 

「う、うん……」

 

 アインが差し伸べた手を、シャルルは無意識の内に取る。

 そこに暖かさを感じたシャルルは、呆然とした後、内心でほっとした。

 

(よかった、いつものアインだ)

 

 先ほど見た映像は、おそらく他人の空似に違いないとシャルルは思った。

 この世に似たような人間など腐る程いるし、世の中にはああいう事をする人間だって。その人間の容姿が偶々、このアインに似ていた

 ただそれだけの事なのだと、そう思い込もうとした(男なのにISに乗れている時点でアイン確定なのだが、正常な思考を破棄したシャルルはそれを考え付かなかった)

 

「それで、そろそろ話して頂けませんか?」

 

「え?」

 

 アインの唐突な質問に、シャルルの身が固まる。

 さっきのようなルームメイトとしての、不変のやりとりを望んでいたシャルルにとって、それは思いがけないものだった。

 

「私に何か隠し事をしているのでしょう、シャルル、いえ――――()()()()()()()()()()()さん?」

 

「!?」

 

 一瞬、何を言われたのか分からなかった。

“シャルロット・デュノア”

 しばらく間をおいて、ようやく言われた単語を理解して、シャルルは再び顔を青ざめさせる。

 

「な、何の事かな? 僕の名前はシャルル・デュノアだよ!? ほら、君と同じ男性操縦者……」

「シャルロット・デュノア。故郷は南フランスの田舎町。父親の名前はアルベール・デュノア、そして母親の名前は――――でしょう?」

 

「!?」

 

「そして肝心のアルベール・デュノアの妻は貴女の母親ではなく、ロゼンタ・デュノアという女性。貴方の母親はアルベールの愛人であり、貴女はその愛人の子供。違いますか?」

 

「そ、それは……」

 

 何処で知られたかも知らない己の出生を言い当てられ、俯いたままシャルルは言い淀んでしまう。

 アインは“そろそろ”と言っていた。

 という事は、以前から自分の正体に気付いていたという事になる。

 だとすればもう誤魔化す事は不可能に近い。

 どうする、どうやってこの場を乗り切る……そう考えいたら、アインの口から衝撃の事実が語られた。

 

「私は以前、フランス外人少年兵部隊に所属していた時期がありまして、そこで貴女の名を聞いたのですよ、シャルロット・デュノアさん?」

 

「外人……少年兵部隊!?」

 

 その単語に、シャルルは驚愕を隠せない様子でその単語を復唱する。

 フランス外人部隊――――フランス陸軍所属の外国人の志願兵で構成される正規部隊であり、兵卒を外国人応募者の中から選抜して合格した者を契約という形で採用している部隊である。

 そこまではフランス出身のシャルルも知っていたが、“フランス外人少年部隊”という名は聞いた事がなかった。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!? 外人部隊への入隊資格は十八歳以上から四十歳未満の成人男性の筈だよ!? それなのに少年兵部隊って、まさか……!?」

 

「非公式の部隊って奴ですかねえ。何、この女尊男卑の世の中じゃあそんなもんができるのも珍しくはありませんよ。中東のテロリストが子供たちを洗脳して少年兵に仕立て上げるのと同じ。それと同じことをフランスの陸軍がやったまでの事です」

 

「そ、そんな……」

 

 アインの口から淡々と語られる女尊男卑の闇にシャルルは思わず口を噤んでしまう。シャルルとて、自分の祖国の軍がそんな非道の行いをしていたという事実に、どうしてもショックを隠せなかった。

 ――――なんて、この世界は歪んでいるのだろう?

 

「とはいっても、非公式ではありますが非正規軍という訳ではないので、少々難しいですが手柄を上げれば表向きは無理ですが階級も貰える。そこで貴女の名前を聞きましてねえ。隠し子ならまだしも、アルベール・デュノアに息子がいたなんて話は聞いた事がありません。ならば、貴女が娘のシャルロット・デュノアであるならば辻褄も合う。……違いますか?」

 

「……隠しても、無駄みたいだね」

 

「先ほど私の机の上に置いてあったモノ。貴女の人柄ならそれが何なのか分かった途端、普通は詮索しないものです。にも関わらず、貴女は“ソレ”を見た。()()()()()()()()()()()があった。……良ければ、話して頂けませんか?」

 

「うん。全部、話すよ」

 

 そしてシャルル、否、シャルロットはアインに話した。

 己の事、デュノア社の事、全てを話した。

 アインの言う通り、自分の父親はデュノア社の社長であり、自分はその社長と愛人の娘であると。

 二年前にちょうど母親が亡くなったタイミングで、父親の部下が家を訪れ、色々と検査をする過程で高いIS適正がある事が分かり、非公式ではあったがデュノア社のテストパイロットをする事となった。

 父親に会ったのは二度くらいであり、会話は数回くらい。普段は別邸で生活しているが、一度だけ本邸に呼ばれた事があり、そこで本妻、つまりロゼンタ・デュノアから『この泥棒猫が!』と殴られた事もあった。

 それから少し経ち、デュノア社が経営危機に陥った。

 いくら世界でのシェアが三位のリヴァイヴでも所詮は第二世代型。しかもそのシェアでさえ日本の打鉄や他国のもう一機の量産型ISに負けている始末である。

 基本、ISの開発というものはほとんどの企業が国からの支援を受け取ってようたく成り立つ者。そのおかげでフランスは欧州の統合防衛計画『イグニッション・プラン』から除名されてしまった。

 なまじリヴァイヴの性能が安定していただけに、「第三世代型の開発」の依頼があってもデュノア社にとってみればとても急務であった。資本力で負ける国が最初のアドヴァンテージを取らなければ悲惨な事になるというが、今のデュノア社がまさしくそれだった。

 このままではIS開発のライセンスを取られる事を恐れたデュノア社社長、アルベール・デュノアは突如発表された世界初の男性操縦者のデータ、および白式を盗むために自分を『二人目の男性操縦者』としてこのIS学園に送り込んだ。要するにスパイなのである。

 また、態々男性操縦者として入学させたのは、同じ男性であればアインに近付きやすくなり、かつ一時的な広告にもなるという事だった。

 

「そう、白式のデータを盗んで来いって言われてるんだよ。僕は、あの人にね」

 

「……」

 

「とまあ、そんな所かな。でもアインにはバレちゃってたし、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社は、まあ……潰れるか他企業の傘下に入るか、どの道今までのようにはいかないだろうけど、僕にはどうでもいい事かな」

 

「……」

 

 アインは何も言わずに黙ってシャルロットの話を聞いている。

 

(嫌われちゃった、かな?)

 

 そんな後ろ向きの事を考えながら、最後に、自分がずっと彼に言うべきと思っていた言葉を口にする。

 

「ああ、なんだか話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう。それと、今までウソをついていてゴメ――――むぐッ……!?」

 

 その台詞を言い終わる前に、アインの手がシャルロットの口を抑え込んだ。

 咄嗟に慌ててその手を振り払おうとするシャルロット。

 

「シーッ」

 

 が、その前にアインが人差し指を口の前に立て、静かに、とシャルロットにそう命令する。

 呆然としながらもシャルロットは思わず頷き、それを見たアインはシャルロットの口から手を外し、周囲を物色しはじめた。

 ベッドの下や横、床下や天井、机の中、ありとあらゆる箇所を物色し、やがてそれらからある“極小の物体”が複数見つかった。

 見た事もない代物。

 しかもただ取り付けるだけでなく巧妙に隠されており、もしアインでなければ全てを見つける事は適わなかっただろう。

 そして、“その物体”が何なのかを悟った、シャルロットは、顔を青ざめていった。しかもアインがそれを潰していく姿を見て、シャルロットの中でそれは確信に変わる。

 

「ア、 ア……アイン、それって、もし、かし……て……?」

 

「盗聴器ですよ。中々巧妙に隠したものです」

 

 顔を青ざめていくシャルロットに対し、未だに平然とするアイン。

 そんなアインの様子を見て、シャルロットの中で何かが崩れそうになった。

 今まで、裏切り続けていたルームメイト。

 そして、最後まで信頼していたルームメイトは、最後の最後に自分を裏切ったのだと。

 

「ア、 アイン、もしかして、最初から僕を……?」

 

 思えば、おかしかった。

 机の上にこれみよがしに待機状態のISを置くなんて、正気の沙汰などではない。

 つまり、アインがシャルロットを嵌めたのだ。

 しかも、ご丁寧に盗聴器まで仕掛けて……そう思った。

 

「何を勘違いしているんだか。そもそも――――この盗聴器を仕掛けたのは私ではありませんよ」

 

「……え?」

 

 しかし、シャルロットが思い描いた予想を即座に否定するアイン。

 そして、次に発せられた言葉は、シャルロットにそれ以上の残酷な運命を決定づけるものだった。

 

「“アレ”を見たのなら分かるでしょう? 学園側(向こう)が一番警戒しているのは貴女ではなく――――この私である事をね」

 

 潰した盗聴器を手の中で遊びながら、アインはそっと振り向く。

 

 

 

 

 あの映像と同じ、()()()()()()()()()()

 

 

 

「……ッ!!?!? あッ…ぃ……」

 

 そして、シャルロットは再び顔を青ざめさせる。

 アインの台詞が本当であれば、あの映像に映っていた傭兵は紛れもなくアイン自身だったという事だった。

 その事実を再確認したシャルロットは、体を震わせながらアインを見る。

 

「ど、どう、いう……?」

 

「外人少年部隊にいた頃ですがね、お偉いさん達が汚れ事を押し付けてくるもんで、そりゃあもう楽しかったですよ。殺して、犯して、蹂躙して、手柄を立てて行けば階級が貰える。最も、任務に駆り出されたほとんどの少年兵たちは息絶え、生き残るのはいつも自分でした。少年兵ってのは使い捨てをされてなんぼですからね。なもんで、階級を貰った少年兵も私くらいなものでしてね……ッククク……」

 

 面白そうに、笑いをかみ殺すアイン。

 そこには、人間としてあるべき“罪悪感”がなかった。少年兵として駆り出される事への疑問や不満も存在しなかった。

 いや、むしろそれを楽しんでいたかのような、そんな顔だった。

 

「そ、そんな……だって、そんなの……アインだって、辛かったでしょう!? まだそんな歳、いやそれより低い時に少年兵なんかやらされて、望まない事を一杯やらされて、使い捨てにされて、それでッ……!」

 

「外人部隊には、自分から入りました」

 

「ッ!?」

 

 その、衝撃的な事実に、シャルロットは目を丸くする。

 まるで、アインを、在り得ないような物を見るかのような目で、彼を見る。

 

「三年も前の事です。自分が少年兵として所属していた欧州のPMCが、ある鉄道事件をきっかけに容疑をかけられ、ついには倒産してしまいましてね。スポンサーを失った私は、次なる戦場までの中継ぎとして、フランスの外人少年兵部隊に入隊しました」

 

「あ……ぁ……」

 

「そして、東欧という次なる戦場を見つけた自分は、部下たちともに外人部隊を抜け出し、そして東欧の紛争地帯でドンパチやった。その後は、あの映像を見た通りです」

 

「……ぃ……ッ!!?!?」

 

 次々と語られる事実に、もはや言葉すらなくしてしまうシャルロット。

 この男は、戦争をさせられていたのではない。自分から進んで戦争をやっているのだ。

 何の思想も、信条もなく、ただ「戦争をしたい」という理由だけで、戦っているのだ。

 

「ついでにですね、そのPMCが崩壊するきっかけとなったその越境鉄道の横転事件。あそこにはあのイギリスの代表候補生、セシリアさんの両親が乗っていましてね。その事件を起こして彼女の両親を奪い、あまつさえこの学園に来た彼女をクラス代表決定戦で叩きのめして洗脳して、あんな風にしたのは、何を隠そうこの私なんです」

 

「ぃ……、ぃあぁッ……!?」

 

 次々と、アイン自身の口から語られる残虐非道の行為。それらを楽しそうに笑いながら語り掛けるアインに恐怖を覚えたシャルロットは震える体を引きずって壁際に後退する。

 壁に寄り掛かりながら、シャルロットはその狂人を震えながら見る。

 まるで、化け物をみるかのような目で。

 

「き……」

 

 震える口を、必死に動かす。

 

「き、きみは……いっ……たぃ……!?」

 

 必死の問いかけだった。

 震える喉を抑え、腹からでる声を何とか絞り出し、その存在に問いかける。

 この、世界の歪みそのものともいえる、この男に。

 

「戦争屋です」

 

 男はそう答えた。

 まるで、これからコンビニに行くかのような平然とした声音で、答えた。

 

「戦争が好きで好きでたまらない。人間のプリミティヴな衝動に準じて生きる、最低最悪の人間ですよ……!」

 

 まるで、この世全ての歪みを凝縮したような黒い笑み。

 その目には、戦と欲の(あぶら)が渦巻いており、様々な戦争犯罪に手を染めてきた男の生涯全てが、そこに詰まっていた。

 

「――――ッ!!!」

 

 その笑みを見て、ついに耐えきれなくなるシャルロット。

 アインに目もくれずにすれ違い、一目散に扉の方へかけようとする。

 扉の方へ全速力でかける、その刹那でさえ、この空間では長い時間のように感じて、そして。

 

「待てよ」

 

 それはあっけなく阻止された。

 シャルロットが懐に隠し持っていた折り畳み式ナイフを奪い、足払いで転倒させ、拘束して首に突き付ける。

 それは、一瞬にして、刹那の動作であった。

 

「あ……い゛や゛ぁ……!」

 

 首筋に突き付けられたナイフを見て、シャルロットは小さな悲鳴を上げる。

 喉元を軽く押さえつけられ、大きな悲鳴を上げれないようにされていた。

 

「ツヴァイのデータを見たんだったら分かっただろう? 俺の事も、俺のスポンサーの事もな。なら、俺はテメエをこのまま生きて帰すわけにゃあいかねえ」

 

「……………ッ!?」

 

「ところがどっこい。肝心の学園側にも自分のスパイ行為がバレた。となりゃあ、テメエの逃げ道はもうどこにもねえってわけだ」

 

 まるで確信犯のような笑いを浮かべるアインを見て、シャルロットは全てを悟った。

 自分は嵌められた。

 学園側が自分達の部屋に盗聴器を仕掛けている事も看破して、あえて専用機の待機状態を自分の机の上において誘い込んだ。

 そして自分に事情を吐かせて、それを敢えて学園側の盗聴器に聞かせて己の逃げ道を断つと同時に、アイン自身の事をシャルロットがそのデータを観覧して知る事によってアインがシャルロットを見逃すつもりがないのだと暗に悟らせ、もう一つの逃げ道もなくした。

 文字通り、今のシャルロットには希望の一筋も見えない状態となった。

 ……たった一つを除いて。

 

「嬢ちゃんに希望があるとすれば、俺が“傭兵”であるという事だ。さあ、選びな。俺を雇って、専用機(ソイツ)を持ってスポンサーの元へ馳せ参じるか、それともここで死ぬか。まあ、どちらにしろ戦争だがな……!」

 

「あぁ……ぼく、は……」

 

 逃げ道を断たれたシャルロット。

 最早混濁してしまった頭で、それでも必死に選択を選び取ろうとしていた。

 

(僕は……僕には、選ぶ権利がなかった。最初から、最後まで……必死に、自分が生きるためには仕方のない選択ばかり強いられて、今回……だって……)

 

 あの日、自分に名を与えられた母親が死んでしまったのが、全ての始まりだった。

 そのシャルロットという名前を与えてくれた母親に恥じない生き方をしようとして、その選択肢は他ならぬ自分の父親によって潰された。

 

(死ぬ……このまま、何も、選択、でき、ないで……)

 

 自然と、拳が強く握られていた。

 

(嫌だ……嫌だ厭だ否だイヤだいやだ!!)

 

 こんな――――こんな世界で、こんな『歪んだ世界』で、ただその歪みに巻き込まれて、何もできずに、何も許されずに死んでいくなんて、絶対に嫌だ!

 

「ぼく、は……!」

 

 そして少女は、悪魔の手を取った。

 




ロックオンポジにチェルシーを据えようとして、彼女の設定を改変して……中々アレな感じになってしまいました。

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