もし織斑一夏がアリー・アル・サーシェスみたいな奴だったら   作:ナスの森

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聖戦-止める鍵-

 相手の雪片弐型のマガジンが切り離される音を拾った楯無は、防御に回したアクアナノマシンを解き、それを攻撃に転じようとするが、それはアインの罠だった。

 

「もう一発!」

 

 残る一発の弾丸を装填したままマガジンを切り離して楯無の意表を突いたアインは、その刀身を展開させ、そこに展開装甲エネルギーの光が集中する。

 

「……ッ!?」

 

 展開装甲のエネルギーを纏った弾丸が発射される。

 反射的にアクアナノマシンで防ごうとする楯無。

 このアクアナノマシンはISエネルギーで動かす代物であるため、当然零落白夜のエネルギーを纏ったソレを防ぐことなど不可能だ。

 しかし、彼女の予想が()()()()()、それは防げる筈だった。

 

 眩い光を放った弾丸が、水のヴェールに集中する。

 その弾丸が、その水のヴェールを貫く事はなかった。

 

(やはり……!)

 

 己の妹が人質に取られている状況でも、楯無は辛うじて冷静さを保ちながら敵の状況を分析する。

 敵のISは本来なら燃費が悪いものであるが、ラウラ・ボーデヴィッヒと戦っていた時はあまり激しく動かずに、スラスターも最低限しか吹かしていなかった事から、おそらくこの男は最初から戦力を温存するつもりであったようだ。

 この男の事だ、この学園から脱出するためのエネルギーは残しておく筈である。だから、下手に零落白夜にエネルギーは割けない。

 

(かんちゃん……!)

 

 今すぐにでも助けに行きたい衝動をぐっと抑える。

 勝機がない訳じゃない。

 あの男にもそう余裕はない筈だ。

 自分のISがあの男のISと相性がいいとはとても言えたモノではないが、この男はあくまで自分を甚振るために簪という人質を使ってくる筈だ。

 

 つまり、この男は自分が確実に勝てる範囲での戦闘を楽しむ。

 その為に自分の妹を人質として取っている。

 という事は、何等かの隙を突けばこの男を出し抜いて簪を取り戻すチャンスもある筈だ。

 だから、それまでは何としても粘らなければならない。

 

「それにしてもあのお嬢ちゃんも可哀想なこって……」

 

「なんですって?」

 

「俺という存在がなきゃ、専用機も手に入って人質に取られる事がなかったろうによ。そんでもってこうして疎み続けてきた姉の足を引っ張る羽目になるたぁ、存外喜劇なもんじゃねえか」

 

 ブチ、と何かが切れる音が聞こえたような気がした。

 

 ――――コイツ、イマナンテイッタ?

 

 たった一言。

 たったその一言で、楯無に戻りかけていた少女は、一瞬にして“刀奈”という少女の導火線に火を付けた。

 

「……ざけないで」

 

「あァ?」

 

「ふざけないで!! 貴方にかんちゃんの何が分かるっていうの!? 心待ちにしていた専用機が貰えなくて、誰にも相談できずにたった一人で頑張って苦しんでるあの子に、その原因である貴方が何を分かった気でッ!!」

 

 楯無としての判断能力を失った刀奈は、四連装ガトリングガンを撃つ。

 更にもう一方の手に蛇腹剣『ラスティー・ネイル』を呼び出し、ガトリングガンによる牽制と同時に斬りかかる。

 しかし、それすらもフェイク。

 本命は周囲に霧状に撒いたアクアナノマシンだ。

 ばら撒いた水のナノマシンによる高濃度の霧を熱に変換して大爆発を起こす、それを決め手にしようとした刀奈であったが、戦場を生き抜いてきたアインが、その程度の事に気付かない筈もなかった。

 

「あ、アァああああああああああッ!!⁉」

 

「かんちゃん!?」

 

 悲鳴が聞こえる。

 よく聞き慣れた声の、己の愛しい妹の悲鳴が聞こえた刀奈は、即座にその方向へ振り返る。

 そこには、セシリアの「インター・セプター」の刃先を太ももに差し込まれ、苦痛と苦悶の表情を見せる簪の姿があった。

 

「お……ねぇ、ちゃ……!」

 

「あ……かん、ちゃん……!」

 

 刺された箇所から血が流れ、地面へと滴るように落ちていく。

 

「おい、人質の事忘れてもらっちゃあ困るぜ? これからお前さんが近接武器以外、ついでにそのアクア何たらをそれ以外に使用すれば、その度にあの嬢ちゃんの四肢を切り落としていくっていうのはどうだ?」

 

「この、下衆が!」

 

 まるで茶番劇を楽しむかのような笑みを浮かべるアインに対し、刀奈はただ成す術もなく睨み付ける事しかできない。

 人が傷ついていく様、戦争を手段ではなく娯楽として興じるこの男を、刀奈は許す事ができなかった。

 許せないのに、何もできなかった。

 楯無としての存在はおろか、刀奈としての彼女、そのどちらもがこの男のいいように扱われていた。

 

「へへっ! さあ、おっぱじめようじゃねえかぁ、ミステリアス何たらさんよォ!」

 

「っ!!」

 

 雪片弐型を構えながら、アインは楯無に接近してくる。

 ラウラとの戦闘では激しく動いてなく、また零落白夜も()()()()()A()I()C()()()()()()()()()()使用していないため、燃費の悪い白式でもエネルギーにまだまだ余裕はあった。

 

 ガキィン。火花を散らしながら雪片弐型と蛇腹剣の刀身がぶつかる。

 それも刹那の事、アインは雪片弐型の刀身の角度を変えて蛇腹剣を受け流し、楯無はその体勢を崩してしまう。

 

 同時にスラスターを吹かしてでの膝蹴りを見舞う。

 しかし、楯無は体勢を崩された勢いを利用してほんの少し機体をずらして回避、そのまま突き出された白式の脚部に手を置き、それを軸にアインの後ろに回り込む。

 しかしその瞬間、アインは白式のウィングスラスターの片方だけを噴射し、機体を反転させて再び楯無の隙を作り、楯無の機体を雪片の刀身へ運ぶように切り付ける。

 

「っ!!」

 

 自分以上に曲芸的な動きをするアインに驚きつつ、避けれないと悟った楯無は、アクアナノマシンによるヴェールを作り、その斬撃を防ぐ。

 それと同時、ヴェール越しに蒼流施をアインに向けて突き攻撃を行う。

 彼女自身が作ったヴェールに阻まれるかと思われた槍は、ヴェールと接触した瞬間にそのナノマシンを吸収して極大の槍を作り上げ、強力な奇襲がアインを襲う。

 

 しかし。

 

「へっ」

 

 その突撃は、“ナニカ”によって遮られた。

 

「なっ!?」

 

 それの正体を見破った楯無は驚愕の表情を見せる。

 それは、見間違いもなく楯無のIS「ミステリアス・レイディ」のアクアナノマシンそのものだった。

 しかもその使い方も楯無とは異なり、ヴェールを作って防ぐのではなく、水の流動性を生かして“受け流す”という神業をアインは披露してみせた。

 

(アクアナノマシンの制御が奪われた!? これが英国の代表候補生との戦いで見せた白式の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)……まさかあの時既に!?)

 

 あくまで彼の白式には自分のアクアナノマシンを触れさせないように細心の注意を払いながら戦っていた楯無であったが、すぐにナノマシンが奪われた心当たりを付けた。

 

 ――――最初に、彼の零落白夜による銃撃を防いだ時、奪われていたのだとしたら?

 

 だとしたら、彼は今まで奪ったアクアナノマシンをずっと自分のアクアナノマシンの中に潜り込ませていたという事になる。

 正に神業の域だった。

 即ち、白式のもう一つのワンオフ・アビリティー、強制使用許諾(フォーシング・アンロック)の発動条件とは白式の装甲や本体に触れる事ではない、白式のI()S()()()()()()()()()()()が発動条件という事だった。

 

「チョイサぁっ!」

 

「っ!」

 

 渾身の一撃を自身のナノマシンによって受け流され、体勢を崩した楯無の横に機体を錐もみ回転させながら回り込んできたアインが雪片弐型で切り付ける。

 自身の自慢の武器を奪われた事の動揺もあり、今度はヴェールを作る事すら間に合わない。

 咄嗟に回避行動を行う。

 しかし、完全には回避しきれず、雪片弐型の斬撃がミステリアス・レイディの装甲の一部を切り飛ばす。

 その衝撃で楯無自身も吹き飛んでしまうが、PICによる操作で即座に体勢を立て直す。

 

「くっ!」

 

「ハハッ、やっぱ戦争は白兵でねえとなぁ!」

 

 まるで命のやり取りを娯楽のように楽しんで笑うこの男を見ながら、楯無は冷や汗を掻いて苦渋の表情を見せた。

 

(この男……戦い慣れてる!)

 

 この男が戦場で生きてきたのは百も承知であるが、実際に戦ってみて直にそれを楯無は実感していた。

 楯無とてこの男に食いつく事こそ出来てはいるが、それはあくまでISの搭乗時間(キャリア)において彼女の方が上回っているからの話だった。

 この男はISに乗り始めてからまだ二か月手前くらいしか経っていない、にも関わらず、彼はまるでそれを感じさせない程の動きで此方を苦しめてくる。

 

 ロシアの代表として、時には更識の当主として、数多の戦いを経験してきた楯無であったが、ここまで戦う事に慣れた敵と戦った事はそうはなかった。

 歴戦の兵士やIS乗りといえど、結局は人間。戦闘時には油断も疲れもあるだろう。

 かのモンドグロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)達とてそれは変わらない。

 

 だが、このアイン・ゾマイールという男はあたかも“息をするかのように戦う”。

 あの東欧の紛争地帯でも、クラス代表決定戦でも、そして今回でも、彼はその手にしたばかりの兵器を戦場においてどのようにすれば最適に使えるかを()()()()()()()のだ。それこそ元の使い手以上に上手い、最適な使い方を。

 

(羨ましいセンスね、欲しいとも思わないけれど……)

 

 ギリ、と歯ぎしりをする他なかった。

 状況は最悪だった。

 此方が少しでも遠距離攻撃を仕掛ければ、その時点で人質となった妹の手足が切り落とされてしまう、そしてその手足が切り落とされてしまう条件すらもが目の前の男の気まぐれでいつ変わってもおかしくない。

 極めつけに、この男自身の強さが一番の問題だった。

 これで卑怯な手を使わず堂々と挑んでくるのであればむしろ好感が持てたが、この男はその強さに加えて、戦いにおいて手段を選ばない卑劣さも兼ね備えている。

 敵対する者にとってこれ以上に厄介な者はいないだろう。

 

 そう考えていたら、相手のIS乗りが距離を取る。

 

 何かを仕掛けてくるのか、と思いきや、彼の周りにどこからか飛んできた物体が浮き並んだ。

 

「あれは、ブルー・ティアーズのビット、まさか……!」

 

 こちらが射撃武器を封印されてる状態で!? そんな悪態を付こうとしたその瞬間。

 

「足りねえなぁ! まだ楽しませろよ……!」

 

 六機の蒼い雫が、一斉に散開した。

 それらは一斉に楯無の周囲を囲み、銃口からレーザーやミサイルを発射する。

 

「――――っ!」

 

 流石はロシア代表と言った所だろうか、まるでひらりと舞うようにレーザーを躱していき、飛来してくるミサイルを爆破しないように両断していくが、それでも内心では焦っていた。

 

(嘘、こんな早くっ……!)

 

 早い。比べ物にならないくらいに、それは早くなっていた。

 実際はビットの性能そのものは毛程にも変ってなどいない。

 “使い手”が変わった、ただそれだけの事で、楯無の体感ではビットのスピードが段違いに上がっていた。

 

 しかも、それだけではない。

 

「っ!? レーザーの弾道が曲がって……!?」

 

 しかも、クラス代表戦の時のように、ただビットが様々な角度から撃ち出してくるだけでなく、レーザーの弾道そのものが曲がり、楯無に肉薄してくる。

 これでは爆発せず、高速で飛んでくるミサイルと何ら変わらないではないか。

 そして、避けたレーザーがまた曲がり、それをまた避けている間にビットからレーザーが発射される。

 そしてその間すらもビットはその変則的な軌道を緩める事はない。

 

「グぅ、アァッ!?」

 

 ついにはアクアナノマシンによる防御すら持ち出さなければならぬ程に追い詰められたその瞬間、真っ二つにした筈のミサイルに、曲がったレーザーが命中し、爆破する。

 その爆破を直に受け、なんとかナノマシンでヴェールで防ぐものの、その際に煙で視界が遮られ、その隙に別方向から飛んできたレーザーに次々とシールドエネルギーと装甲を削られていく。

 クラス代表決定戦の時とは最早違った。

 あの時は白式そのものがそもそもビットを扱うのに適した機体ではなかった、だからあの場ではアインは偏光射撃(フレキシブル)を獲得するには至らず、ただ上手くビットを動かすだけであった。

 だが、今回は違う。

 今回はアインがセシリアからワンオフ・アビリティーで無理矢理奪ったものではなく、ちゃんとセシリアからの『使用許諾(アンロック)』を経て使用されている。

 そのためビットの動力は普通のISエネルギーではなく、セシリアのブルー・ティアーズから供与されるBTエネルギー――つまりはビットを動かすのに適したエネルギーなのだ。

 故に、白式自身のISエネルギーが消費される事はなく、アインは心置きなくビットを使えるし、偏光射撃(フレキシブル)が行える。

 

(こんなのって……!?)

 

 正に理不尽、その一言に尽きた。

 蓄積していくダメージ。

 周囲から休む暇もなく襲い掛かるレーザーとミサイルの弾幕。

 

(一体どうすれば……!)

 

 よしんば、ここで彼を倒せたところで、彼が引き入れたフランスの代表候補生が控えている。

 彼女に関しては説得の余地こそあるものの、そのころには自分の体力はどうなっていることだろうか。

 

「ハッハァ!」

 

 そして、そんな弾幕地獄の中で、ビットを操っている本人が白兵戦を仕掛けてくるという、おまけ付きが追加された。

 

 

 

     ◇

 

 

「ああもう、クソ! 何で当たらないのよ!」

 

 向こうは的確に此方に斬撃や投擲を当てて来るのに対し、此方の攻撃や衝撃砲が当たらない事にイライラする鈴。

 

「感情的になっちゃダメ! ちゃんと距離を取って!」

 

「相手の間合に入ってはダメだ! ここは離れるんだ!」

 

「わ、分かってます!」

 

 後ろから援護する二人の教員に窘められ、何とか冷静さを保った鈴は後ろに下がる。

 同時に、二機の打鉄が鈴の甲龍を護るかのように前に立ち塞がる。

 二人の教員とて、生徒を前線に出すのは教員としての意地が許せない所だが、専用機を持たない自分では決め手に欠けてしまうため、どうにかして二人で隙を作って、鈴がその隙を突くという戦法を取ろうとしていたが、向こうがそれをさせてくれない。

 

「出来れば早く決めてくれ。打鉄の防御力を持ってしても、後何撃持つか……」

 

「失敗しても、恨まないわ。責任は私達教員が持つから、どうか……」

 

「こ、子供扱いしないでください!」

 

 そんな会話の応酬を取り合う彼女らであるが、三人とも既に息が上がっていた。

 近接武器のみの黒い暮桜――――以下、黒桜であるが、明らかに歴史上で確認された今までのVTシステム、そのどれよりも精度が桁違いである。

 

「行くぞ!」

 

「ええ! 今度こそお願い!」

 

「はい!」

 

 肩部と腰部、計四つの衝撃砲にエネルギーを溜める。

 そして、三機のIS同時に黒桜へと踊りかかった。

 

 二機は円形制御飛翔(サークル・ロンド)で黒桜を翻弄しながら、鈴の甲龍は衝撃を溜めながら黒桜へと肉薄する。

 接近戦でも、射撃でもこちらが不利となれば、接近戦で動きを止めた隙に、至近距離から一斉に衝撃砲を叩きこむしかないと判断した鈴は、二本の大型青龍刀を構えながら突撃する。

 接近する最中、黒桜が投擲した何本もの雪片が迫ってくるが、それを二機の打鉄が撃ち落とし、または物理シールドで防ぐ。

 邪魔物を排除してくれる二人の教員に感謝しつつ、鈴は黒桜へと接近した。

 

 ガキィン、二本の青龍刀と、二本の雪片が鍔迫り合いの状態となる。

 

 確実に甲龍の方がパワー負けしてるが、そのまえに衝撃砲を撃ち込むまでの事。

 

(千冬姉さんのコピーだかなんだか知らないけれど、これで……!)

 

 肩部の二門の大型衝撃砲、および腰部の二門の小型衝撃砲、計四門の衝撃砲が至近距離からその視えない弾丸を発射する。

 しかし、それすらも、黒桜は咄嗟に機体を仰け反らせる事で回避した。

 

(嘘ッ、また避けられた!? というかこの避け方って……ッ!?)

 

 先ほどから既視感のある避け方をする黒桜に違和感を抱きつつ、またもや失敗した事にショックを隠せなかった鈴。

 

「何度ヤロウガ同ジ事ダ!!」

 

「うっさい……キャアアッ!」

 

 千冬の太刀筋を知っていた鈴は辛うじて、振るわれた雪片を青龍刀で防ぐが、その衝撃でアリーナの端っこまで吹っ飛ばされる。

 

「いたたた……」

 

「大丈夫か!?」

 

「怪我はない!?」

 

 二機の教員がまた鈴を護るようにして前に出る。

 両機とも機体を側面に向け、物理シールドとスカートアーマーで防げるような体勢を作り、鈴に安否の声をかけた。

 

「だ、大丈夫です。その……ごめんなさい、失敗……しちゃいました」

 

「何言ってるの、誰も責めないわよこんな状況」

 

「もういい、よくやった! 君だけでもここから逃げるんだ! 後は私達でなんとかする」

 

「けど……それじゃあ!!」

 

 鈴は頑なに拒否する。

 千冬の真似をするあの黒桜が気に入らないというのもあるが、何より、それ以上に悪い予感がしていたのだ。

 何故なら、あの黒桜……明らかにかのブリュンヒルデがしないであろう戦い方をするのだ。

 接近戦での太刀筋こそブリュンヒルデのそれであるが、この戦場での立ち回り方が明らかに異なっている。

 まるで、劣化したブリュンヒルデに別の誰かの戦闘データを入れてあるかのような違和感を鈴は感じていた。

 

(それに、さっきからあの避け方……)

 

 あの身体を仰け反らせ、最低限の動きで回避するあの回避法。

 あの回避法を用いるIS乗りを、鈴は知っている。

 

(あれって、アインの避け方じゃあ……)

 

 鈴の悪い予感は、確かに的中していた。

 

 

     ◇

 

 

「鈴……! くそッ!」

 

「織斑先生! 外も危ない状況です。教員側や代表候補生側のIS乗りにも死傷者、が……ぁ……」

 

「分かっている!」

 

 アリーナの中、外。

 モニターに映るどこの画面を見渡せど、そこには地獄絵図が広がっている光景ばかり。

 いよいよ精神的に限界になってきた二人は、必死にコンソールのスイッチを押して場に対応しようするが、対応が間に合わず、死傷者が出るだけだった。

 

 その時だった。

 

「お、織斑先生……」

 

「どうした!?」

 

 真耶が震える口調を必死に動かし、千冬に語りかける。

 

「べ、別号館の避難口付近に、戦闘が……」

 

「別号館だと!? 戦闘区域からかなり離れてるぞ。一体誰……が……?」

 

 モニターに拡大された映像を見て、千冬と真耶は絶句した。

 何故なら……そこで戦っていたのは、黒いISを纏ったアインと、水色のISを纏った更識楯無の姿があった。

 

「アレはアイン君と、生徒会の楯無さん、どうして……?」

 

 どうして戦っているのだと、真耶が疑問に思った、その時だった。

 

「……山田先生、付近に拾える音声はないか?」

 

「え?」

 

「付近にキャッチできる音声はないかと聞いている!!」

 

「そ、そんなの、悲鳴とだ、断末魔、しか……」

 

「そんなものじゃない! 付近に飛び交っている電波全てをキャッチして解析しろ! 今すぐだ!」

 

「は、はい! 分かりました!」

 

 千冬の迫力に圧倒されつつも、彼女の顔を見て、千冬が何かを感づいていると悟った真耶は、急いで周囲のありったけの電波を広い、解析作業に入る。

 そして、ある声が聞こえてきた。

 

『……ザ……ザザ……の戦いは……神の……前に捧げられる……戦である』

 

「これは……織斑先生!」

 

「黙って聞いていろ」

 

『伝統を軽んじ……ザザ……神を冒涜せし不信……者共に、我らが神……もに鉄槌を下すのだ……』

 

(この、声は……!!)

 

 その声に、聞き覚えがありすぎた。

 真耶もその声を聞いたとたん、咄嗟に信じられないといった表情になった。

 

『ザザッ……不信仰者共に屈服してはならない……』

 

 二人の頭に思い浮かぶのは、いつも自分が担当していた教室の、真ん中最前列に座っていた人物。

 いつも授業を真面目に聞いている姿しか知らない真耶は未だ信じられないといった表情をしたまま、千冬は唇を噛み締め、悔しそうな表情になる。

 

『我々は……ザザッ……で死す事によって、神のみ……かれるだろう』

 

「そ、そんな……まさ、か……」

 

 その声の主の正体を、勘づいてしまった真耶は必死に己の脳裏に浮かんだ人物を否定する。

 そんなわけがない、あの子がそんな事をする筈がない。

 あんな、授業中でも、生徒であるにも関わらず教師である自分に気遣いを見せてくれて、授業もあんな真面目に聞いていたあの生徒が、そんな事をする筈ないと。

 

(神……奴の言う神、まさか……!)

 

 そして、ここに至って千冬はようやく頭の中で状況の整理を始める。

 この拾い上げた通信音声、そしてアリーナ広場での処刑場みたいな行為。

 それらの情報を整理して、ようやく千冬は分かった。

 

「まさか……やつの言う神とは……私か? という事は……」

 

 という事は、と千冬は頭の中で考える。

 何かが思いつきそうだった、何かが考えつきそうだった。何かにたどり着きそうだった。

 そして、その答えにたどり着いた。

 

「そう、か……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういう事か! あの戦争中毒め!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、織斑、先生……?」

 

 急な怒り声をあげる千冬に、ビクっとなる真耶。

 千冬と付き合いの長い真耶であったが、これほどまでに怒る彼女を見たことがなかった。

 

「山田先生! 学園の打鉄は今何機余っている!?」

 

「えっ……えっと、第三格納庫に一機予備の打鉄が――」

「それでいい!! 今すぐ第三格納庫のロックを解除しろ!」

 

 千冬の切羽詰まった声に圧倒されつつも、真耶はコンソールのボタンを押し、モニターに「第三格納庫開放」のお知らせが映った。

 

「第三格納庫、ゲートロック解除しました! 織斑先生、まさか……!?」

 

「ああ、私が直々に出る! 打鉄の形状は暮桜に最も近いからな、代用品にはもってこいだ」

 

「けど、織斑先生ともあろうものがISに乗っては、全国から皺寄せが……ッ!?」

 

「そんな悠長な事は言ってられん!!」

 

 なおも渋るような口調の真耶に、千冬は怒りの声でそれを黙らす。

 ここでモタモタしているわけにはいかないと、千冬は急いでモニター室のドアを開ける、

 

 

 

 

「“ISに乗った本物の私”が出なければ、この聖戦とやらは終わらん!」

 

 

     ◇

 

 

「ハァ、ハ……ぁ、かん、ちゃん……」

 

 ビットによる攻撃と、アインの白兵戦による同時攻撃を射撃兵装を封印された状態で乗り切った、否、敗北した楯無は既にボロボロだった。

 白式との接触によりアクアナノマシンの大部分を奪われ、更には連綿と続くビットの弾幕によりシールドエネルギーと装甲をガリガリと削られ、絶対防御で防ぎきれなかったあとの弾痕や切り傷からは多くの血を流し、その姿は、美貌も相まって皮肉にも美しかった。

 

「ご臨終……ってレベルじゃねえか。こいつで終わりだ」

 

 止めを刺さんと、アインが雪片弐型を振りかぶったその時だった。

 

「もうやめてええええええええええええええぇぇぇぇッ!!!!!!」

 

 距離は離れたところから悲痛の叫びが聞こえ、アインはそれに振り向く。

 ショートブレードを突き刺された痛みに耐えながら、満身創痍の姉の姿に耐え切れなくなった、そんな痛み知ったことかと身を乗り出して、渾身の叫びを放つ。

 

「グス……もう、やめてよぉッ!!! お姉ちゃんが、お姉、ちゃんがァッ……!!!!」

 

「この……おとなしくしなさいなッ!!」

 

 そんな少女――――更識簪の様子に憤りを見せたセシリアが、ショートブレードでもう一方の足を突き刺す。

 

「グぅ、アアアアアアアアアアアァァァ、ぃあッ!!」

 

「それ以上騒いだら、もっと痛い目に合いましてよ?」

 

 常人が見たら震え上がるような笑みをうかべながら、セシリアは血の滴るショートブレードを簪の首に突きつけるセシリア。

 盲信的な笑みを間近に見せられた簪は今までにない恐怖に駆られるも、それでも彼女は負けなかった。

 

「い、いやぁッ、おね、がいッ!!」

 

 突きつけられるショートブレード。

 それにも構わず、渾身の力を以て身を乗り出し、涙目になった表情で、アインに必死に懇願する。

 

「わだじのごどぁ、いいがら……ッ、お願いしますッ!!!」

 

 半身が引きちぎれそうになる程の痛みを堪えながら、あまりの勢いにメガネを地面に落としながらも、それでも彼女は懇願する。

 

「わたしのことは、好きにしていいがらッ!!」

 

「煮るなり焼くなり、じていいからッ!!」

 

「ごごで殺しても、構わないからッ!!」

 

「この体、好きにして構わないからッ!!」

 

「犯すなりなんなり、していいからッ!!」

 

 その身を差し出そう、この身を全部預けよう、貴方の道具になろう、貴方の玩具になろう、貴方の奴隷になろう、何時切り捨てても構わない、自分の事は好きにしてくれ。

 

「だがらぁッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんを……私のおねえぢゃんをこれ以上、いじめないでッ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 精一杯、涙いっぱいそう言って簪は頭を下げた。

 嘘偽りなく、本心から、姉の無事を願い、己の身を差し出してでも姉を助けて欲しいと、そう懇願した。

 

「美しい姉妹愛(きょうだいあい)だ」

 

 しかし、そんな必死の懇願すらも、この戦争屋まるで小馬鹿にするような口調で笑みを浮かべる。

 そんな風に懇願し、頭を下げてくる者を何人も見てきた。

 勿論、その要求を受け入れ、後で何人も犯して壊してきたアインにとってはまさしく日常茶飯事の光景だった。勿論、その者が助けて欲しいと願った人間もその場で殺してやった事がほとんどであるが。

 

(いいねえ、益々戦争らしくなってきたじゃねえか……!)

 

 ようやく取り戻しつつある日常(戦争)にアインは歓喜しつつ、雪片弐型の切っ先を楯無に向け、問うた。

 

「っつーわけだ。俺としちゃああの嬢ちゃんの願いなんざ聞く義理ねえが、ま、聞いといてやるよ」

 

「……」

 

 その問いに反応した楯無は、そっと視線だけアインに向ける。

 

「俺の存在のおかげであの嬢ちゃんはああして専用機を貰えず人質に取られちまったわけだが、もしここで俺達をスポンサー様の所へ馳せ参じさせば、必然と白式は倉持なんたらの管轄から外れる訳だ。当然倉持なんたらは製造凍結した第三世代型の新しい機体の開発に着手せざるを得なくなる」

 

「……」

 

「どうだい、妹さんの将来を考えれば魅力的な提案だろう? 最も、オメエの首はここで落とす事に変わりはねえがな」

 

「……」

 

「それともここで妹を踏み台にして生き残るか? いいぜ、オメエの妹さんだ。たっぷりと使ってやるぜ?」

 

「……ッ」

 

 握り拳が作られる。

 この男の下劣な発言に怒りを抱きつつも、楯無はそっと、視線を自分の妹に向ける。

 真っ直ぐな目だった。

 姉を助けるためなら自分はどうなってもいい、そんな強い意思を宿した目だった。

 

(……なぁんだ、かんちゃんってば、とっくに私より、ずっと強くなってたのね)

 

 両足を突き刺されて痛そうに血を流しているにも関わらず、ずっと己を見つめる妹の存在を眩しく感じた楯無は、再びアインの方へ視線を向ける。

 

(どの道、この男がそんな選択、選ばせてくれる訳が無い。きっと余興のつもり……どちらを選んだ所で、私とかんちゃんは死ぬ……)

 

 ――――ならばどうする?

 ――――更識の楯無として、ここで己の妹をあの男に差し出して、これからも己を殺し続ける人生を歩むか? そんな選択をした所で、この男はどのみち自分と妹を殺す。

 ――――一人の姉として、ここで妹の将来のために己の人生を棒に振るか。 そんな選択をした所で、この男はどのみち自分と妹を殺す。

 

 ならば、残る選択肢は一つだけだった。

 

(両方、護るしかないじゃない)

 

 そして彼女は、その第三の選択肢を選び取った。

 

「……お断りよ」

 

「ん?」

 

「お断りだと……そう言ったのよ、この害虫野郎」

 

「そォかい」

 

 楯無の挑発めいた言葉に特に反応する事もなく、アインは雪片弐型を上に振りかぶる。

 刀身が反射する日光が、縦無にとってすごく眩しかった。

 

「まあ、どっちも嘘なんだがな。あばよォ!」

 

 そう言って、雪片弐型の刀身を展開させようとして、異変が起こった。

 

「なに?」

 

 訝しげな表情になったアインは、自分が振りかぶった雪片弐型の刀身を見上げる。

 ハイパーセンサーの表示では零落白夜を発動している事になっている筈なのに、その刀身はまるで死んだ貝殻のごとく頑なに展開しなかった。

 

「うまく……いったようね……」

 

 してやったり、という風な笑みを浮かべる。

 その様子にセシリアも、シャルロットも、簪も唖然となる。

 

「何だ、何が起こっている!? 一体なにをしやがった!?」

 

「べーだ。いくら、強かろうが、ISのキャリアはこっちの方が上……なのよ」

 

「何だとォ?」

 

 ベロを出してからかう楯無に対して、初めて苛立ちの表情をアインは見せた。

 ようやくこの男から一本取ってやったと、そんな満足感を噛み締めながら、説明する。

 

「私の……アクアナノマシン。ISエネルギーを伝達……して、動かしてるのは気づいてるでしょう?」

 

「だから、貴方のISエネルギーに触れて、乗っ取られる訳だけど、ナノ単位の極小物質、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何が言いてぇ?」

 

「つ・ま・り、貴方のISの体内に、貴方が奪いきれなかったナノマシン、乗っ取られる直前に私のISエネルギーを流し込みましたァ」

 

 化学分野で言うならば、結晶性沈殿と同じ原理だ。

 結晶性沈殿が発生すると、そのコロイドは不純物を閉じ込め、通常の洗剤では落とせなくなる。

 それと同じで、乗っ取られたアクアナノマシンの中で、唯一乗っ取られてない少数のアクアナノマシンが乗っ取られたアクアナノマシンに引っ張られ、白式の機体内へ潜入、完全に乗っ取られる前に自前のISエネルギーを流し込み、暴走させた。

 

「流し込んだ私のISエネルギーはぁ、勿論あなたの白式にとっては不純物そのものです。よって、エネルギー循環に不具合が生じ、ハイパーセンサーなどの表示がイカれてしまいます。まあ、ぶっつけ本番なんだけどねぇ」

 

 満身創痍であるにも関わらず、他人をイラつかせるような、ワザとげな丁寧語で縦無は説明する。

 アインとて馬鹿ではない、縦無の説明を聞き、段々と眉を潜めるようになる。

 

「だ・か・ら、貴方のハイパーセンサーの残量エネルギー表示がおかしいことになりますから、零落白夜発動設定でも、実際は表示と違ってエネルギー量が足りないわけだから、お得意のワンオフは発動しない訳でぇす」

 

「――――ッ」

 

 しまった、とアインの顔がゆがむ。

 

「ついでに言いますと。貴方、私のアクアナノマシン奪い過ぎたおかげでぇ、エネルギーがそっちに持って行かれて実はもうスカスカ状態でぇす、ブイッ♪」

 

 故に、ハイパーセンサーに不調が生じたおかげで、アクアナノマシンに持って行かれたエネルギーの相当量に気付く事がなく、アクアナノマシンを操るのに適した機体ではない白式では、まるでがぶ飲みするかのようにエネルギーが消費される。

 

「クッ、ハハハッ!」

 

 そんな楯無の説明を聞いたアインは、悔しそうに喚くかと思えば、存外愉快そうに笑い始めた。

 

「まったく、やってくれるぜネーチャン。してやられたよ。出来ればもっとマシな戦場で会いたかったもんだぜ」

 

「……フフフ」

 

 不敵に笑う両者。

 だがその均衡もすぐに崩れた。

 

「だがなぁ! どの道テメエはここで終わりだよォ!」

 

 そう言って、アインは雪片弐型を振り下ろす。

 零落白夜を発動しようとしたのは、あくまで派手に散らせてやろうというアインの趣向が混じっているだけで、発動させなくてもこの状態の楯無に止めを刺すことは造作もなかった。

 筈だった。

 

 キィン。 楯無の下に、制御が戻ってきたアクアナノマシンによるヴェールがその斬撃を防ぐ。

 

「ちぃッ!」

 

 零落白夜が使えていれば、こんな防壁貫けるのによ、と内心で悪態を付きつつ、アインは楯無から距離を取るが。

 遅い。

 

「こいつァッ!?」

 

 周囲に漂う、高濃度の霧。

 徐々にその霧の温度が高くなっている事に気づいたアインは、しまった、と言わんばかりの表情を見せる。

 

「生憎、この状態じゃあ本来の四分の一の威力も出せないけれど、エネルギースカスカのIS一機を葬るくらいなら造作もないわッ!!」

 

 今が好機だ、と楯無はそれを発動させる。

 周囲も楯無の突然の一転攻勢に呆然とし、妹の簪も一時的に人質の状態から開放されたに等しい状態だ。

 

(これで、決めるわ)

 

 ――――清き激情(クリア・パッション)、発動。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ンの野郎おおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強烈な水蒸気爆発が炸裂する。

 その爆破に巻き込まれたアインは、誰もが恐れ戦くような憤怒の表情と共に、散っていった。

 

「フフフッ、ざまぁ、みろ……」

 

 してやったりと、言ったような表情で、楯無は親指を立てる。

 水蒸気爆発の煙の中を睨み続け、ハァッ、ため息を吐いてそこから視線を逸らした。

 

「ア、 ア……」

 

 セシリアが、この世の終わりを見るかのような、青ざめた表情でその煙を見続ける。

 

「アインさんッ!!」

 

 やがて耐え切れなくなったのか、人質である筈の簪を手放し、スラスターを吹かして煙の方へと向かっていった。

 

「きゃあッ!!」

 

 突然手放され、なすすべもなく落下していく簪であったが、落下する直前に柔らかい何かに受け止められる。

 その冷たくも、どこか温もりのこもる感触を感じ取った簪は、その正体を知った。

 

「あ……アァッ!」

 

「やっほー、無事? かん……ちゃん……」

 

 楯無、否、刀奈の操るアクアナノマシンが落下寸前の簪を受け止め、ついでに一定量のアクアナノマシンを足の傷口に固定して、止血していた。

 

「お、お姉ちゃん……!」

 

 嬉しさのあまり、簪は涙してしまう。

 刀奈もまた同じように嬉し涙を流す。

 簪は自分の姉を抱きしめたい衝動を何とか抑え、刀奈の顔を覗き込んだ。

 

「お姉ちゃん、よかった、お姉ちゃん……!!」

 

「ううん、かんちゃんも……無事で……グスッ……」

 

 お互いの無事を確認し、二人は喜び合う。

 一度は疎ましいと思っていた姉だったが、それでも、この姉はちゃんと自分を想ってくれているのが分かって、それが嬉しかった。

 刀奈の方も、ずっと溝が深まっていた妹との寄りを戻せて、とても幸せな気持ちになった。

 だが、ここでずっと喜びを分かち合っているわけにいかない。

 それくらい、刀奈も簪も分かっていた。

 

「続きは、後にしましょう。かんちゃん、後でいっぱいお話したい事があるから」

 

「うん、私も、お姉ちゃんと――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところがギッチョン!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、二人に向かって二つの“ナニカ”が高速で飛来してきた。

 

「――――え?」

 

 一瞬、何が起こったか分からずに、鮮血を舞わせた己の姉の姿を簪は見つめる。

 咄嗟に簪を庇った刀奈は残るアクアナノマシンで“ソレ”を間一髪で防いでいたのだが、ナノマシンの量が不足だったのか、それとも“ソレ”の威力が些か高すぎただけなのかは、もはや分からなかった。

 

 気を失った姉と、砕け散ったアクアクリスタルの破片を目にした簪は、その“ナニカ”が飛来してきた方向を見上げる。

 

 そこには、先程自分たちを襲った二つの“ナニカ”がISらしきモノのサイドコンテナに収まっていく。

 そこのコンテナには、その二つを除いてあと四つ同じものが収められているのを簪は見た。

 

「アレは……ビット、いえ、“牙”?」

 

 ソレを何と表現していいのかわからず、簪はただただ煩悶を抱く。

 そして、水蒸気爆発の煙が消えてゆく、やがて“ソレ”の姿が顕になった。

 

「なに、あれ……まさか、打鉄?」

 

 未完成ながら、打鉄の発展型の専用機を渡されている簪だからこそ、それが“打鉄”である事を見破れた。

 しかし、アレは量産機の打鉄でも、自分の打鉄弐式でもない、異様な雰囲気を漂わせていた。

 

 緋色にコーティングされた装甲。

 強固なスカートアーマーに変わり換装された、先程の牙らしきモノを収めたコンテナウィング。

 右肩の物理シールドにマウントされた大型ブレード。

 搭乗者の顔を覆い隠す、真紅に光るツインアイマスク。

 

 

 そこに、悪魔(ツヴァイ)は降臨した。

 




FGOで水着イベで何とオルトリアさんの水着バージョンが実装してるではありませんか!これは引くしかねえ!
……ちなみに我らが邪ンヌの水着実装はまだですかね?

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