ストライク・ザ・ブラッド―混沌の龍姫―   作:アヴ=ローラ

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今回は10000近いです。


聖者の右腕 漆

 古城と雪菜に、自分や第四真祖の情報を嘘偽りなく伝えた姫乃。それから凪沙の寄せ鍋をご馳走させてもらったのち、彼らと別れた。

 そして現在、那月の見回りを手伝いながら早速今日の出来事を報告した。

 

「御主人様。ちゃんと古城と仲直りできた」

 

「ほう。それはよかったな。いったいどんな方法で仲直りしたんだ?」

 

 那月が訊くと、うん、と姫乃は頷き、

 

「謝罪と一日主人(マスター)の契約を結んだ」

 

「なに?それは本当か?」

 

「本当。御主人様と違って本契約を結んでるから、古城の命令は絶対遵守」

 

「……………」

 

 姫乃の返答に眉を顰める那月。聞き捨てならない言葉を耳にしたからだ。

 

「私とは本契約を結んでくれないくせに、あの古城(バカ)はいいのか………解せんな」

 

「………?古城は本契約でも一日主人(マスター)。御主人様は仮契約でも、御主人様がワタシを解約しない限り永劫に付き従う。それじゃ駄目?」

 

「駄目だな。仮契約では姫乃にも拒否権があるんだろう?それじゃあ本当に所有した気にはなれんな」

 

 ふん、と面白くなさそうな表情で言う那月。姫乃は、そう、と無感動に呟き、

 

「………御主人様はワタシと本契約、結びたい?」

 

「なに?契約し直してくれるのか?」

 

「………それは無理。御主人様は本体じゃない。創作物(造り物)では本契約は結べない」

 

「ほう。つまり、私本人が本契約を申し込めば、姫乃は承諾してくれるのか?」

 

 ニヤリと笑い訊く那月。しかし、姫乃は小首を横に振り、

 

「本契約はお勧めしない。ワタシの真の主人になれば、常に危険が伴う」

 

「危険、か。それは何故だ?」

 

 フッと真剣な表情で問いただす那月。姫乃はスッと瞳を細めて、

 

「ワタシは数多ある平行世界(異世界)を滅ぼしてきた―――〝世界の敵〟だから」

 

「は?」

 

「ワタシは可愛い龍蛇()たちのために、あらゆる神々の、主に善神の恨みを買ってる。真の主人(マスター)になったら、御主人様も神々の敵対者になる」

 

「……………」

 

「御主人様は、ワタシと一緒に〝世界の敵〟になる覚悟はある?」

 

「……………っ、」

 

 姫乃の問いに、返答を躊躇う那月。那月は魔女といえど人間だ。世界の全てを敵に回して生き残れるほど強くはない。姫乃の言う〝神〟にでも狙われたら一貫の終わりだ。

 那月本人は異界に存在するから安全かといえば、それは否。〝神〟が相手ならば関係ない。容易く那月を見つけ出し殺しに(壊しに)くるだろう。

 なら姫乃(メイド)に守ってもらえばいいじゃないか。彼女は世界最強の龍神(ドラゴン)。彼女がいれば〝神〟だろうと退けてくれるはずだ。

 が、そんなのは那月のプライドが許さない。如何に最強の龍神であっても、主人がメイドの後ろに隠れる臆病者にはなりたくない。

 とはいえ那月単体で〝神〟に挑んで勝てるわけないが。今の弱いままでは那月は姫乃に守られる側でしかないだろう。

 結論は、現状の那月には姫乃の真の主人(マスター)になる資格はない。那月は、それを理解した上で閉ざしていた口を開き、

 

「………姫乃。すまないが、今の私ではおまえの真の主人(マスター)にはなれない」

 

「うん」

 

「だが、いずれはおまえの真の主人(マスター)になろう。約束だ。だからその日が来るまで、私を鍛えてくれると嬉しい」

 

「………わかった。御主人様が望むなら、そうする」

 

 了承する姫乃。無表情なはずの姫乃の顔には、薄っすらと驚きの色が浮かんでいた。

 姫乃は〝世界の敵〟である。それなのに那月が、いずれは真の主人(マスター)になる、と言ってきたことに姫乃は驚いたのだ。

 まあ、那月がそれを望むのなら、姫乃は全力で支援するだけのことだが。

 

「―――あ、もう一ついい、御主人様」

 

「ん?」

 

「古城が一日主人(マスター)になっている理由を誤魔化すため、凪沙にレンタルメイドをしていると答えた」

 

「………ほう、暁の妹にか。それで?」

 

「………御主人様。レンタルメイドをしてもいい?」

 

「今さらなかったことにするわけにはいかないから、レンタルメイドの許可をくれ、ということでいいんだな?」

 

 コクリと首肯する姫乃。那月は、少しだけ考えたのち頷き、

 

「いいだろう、許可する。姫乃が今まで馬鹿にしてきた人間を間近で観察できるいい機会だからな。一日レンタルメイドとやらをして、私や暁古城以外の人間と触れ合ってこい」

 

「わかった」

 

 那月の許可が下り、姫乃が他の人間との触れ合いを目的とした、一日レンタルメイドが確立したのだった。

 

 

 

 

 

 それから那月と見回りを務めていた姫乃は、ゲームセンターの前に見覚えのある後ろ姿の二人を視界に捉えた。

 姫乃は那月の服をクイッと引っ張り、

 

「御主人様。クレーンゲームの前に古城と雪菜がいる」

 

「ん?………ほう。もうすぐ日付が替わるというのにゲーセンで遊んでいるとは―――不良に育てた覚えはないぞ暁」

 

「御主人様が育てたわけではないと思う」

 

 那月の冗談に、無感動な声音で指摘する姫乃。チッとつまらなそうに舌打ちする那月。

 それはさておき、せっかくの古城(獲物)だ、冷たい姫乃(メイド)の腹いせに、存分にからかってやろうじゃないか。

 那月はそう決めると、古城と雪菜の背後から声をかけた。

 

「―――そこの二人。彩海学園の生徒だな。こんな時間になにをしている?」

 

「「―――ッ!?」」

 

 那月の静かな声に、古城と雪菜は電撃に打たれたように硬直した。

 古城はゲーム機のガラスに映り込んだ那月と姫乃を見て、ゲッと息を呑む。

 那月は、古城たちの反応に楽しげな笑みを浮かべて、

 

「そこの男。どっかで見たような後ろ姿だが、フードを脱いでこっちを向いてもらおうか」

 

 楽しそうな口調で言う那月に対し、雪菜は青ざめた表情で硬直。古城も、まずいな、と冷や汗を掻く。

 那月の用件を飲もうとしない古城に、那月はニヤリと笑い、

 

「どうしたんだ?意地でも振り向かないというのなら、私にも考えがあるぞ―――」

 

 古城(獲物)を嬲るような口調でそう言いかけた、その時。

 ―――ズン、と鈍い振動が人工島全体を揺るがした。一瞬遅れて爆発音が響く。

 

「なんだ―――!?」

 

 那月が異様な気配に反応して振り返る。姫乃もそれには気づいているが、興味ないのか振り返りもせず古城と雪菜の背を無言で見つめている。

 爆発音はなおも絶え間なく響き続けている。さらに常人にも感知できるレベルの強烈な魔力の波動が伝わってくる。

 那月の注意が完全にそちらに引き付けられたその瞬間を狙って、

 

「姫柊、走れ!」

 

 古城は咄嗟に雪菜の手を引いて駆け出した。

 

「え、あ………はい!」

 

 古城の意図を理解して、雪菜も彼の手を握り返す。

 

「あ、待て、おまえら―――」

 

 那月が叫ぶが、雪菜も古城も無視して那月から逃げていく。

 那月は咄嗟に結界を張り巡らせたが、雪菜に気合い一閃で破壊されてしまう。

 なら姫乃に協力して彼らを捕まえてもらうか、と思い那月は彼女に振り向く。が、姫乃は小首を横に振った。

 那月は、ハッと思い出す。今の姫乃の主人(マスター)は古城だ。仮契約の那月よりも優遇される存在ということに。

 チッと舌打ちした那月は、古城たちの背に向かって捨て台詞のような言葉を叫んだ。

 

「覚えていろ、暁古城!」

 

 その言葉が夜の街にこだまするが、断続的に響き続ける巨大な爆発音に掻き消される。

 那月が不機嫌そうな表情をしているなか、姫乃はハッと何か別の気配に気づいて那月を守るように前に出る。

 

「御主人様、下がる」

 

「は?いきなりどうしたんだ、姫乃?」

 

 姫乃の行動に那月が怪訝な顔をする。姫乃が腕を上げた刹那、遥か上空から雷霆が降り注いだ。

 

「なに!?」

 

 唐突な不意打ちの攻撃に驚愕する那月。しかし姫乃は特に驚くこともなく、掲げた右腕から濃密な魔力を発生させ、それを無数の漆黒の蛇に変化させることで雷霆を迎え撃つ。

 黄金と漆黒は衝突し、凄まじい轟音を響かせ、共に爆散した。空中で起きた爆発のため、街の被害はない。

 爆炎が収まると、そこには黄金の髪と蒼い双眸を持つ、純白のローブを着た少年がいた。彼は全身から神々しい力を放っている。

 那月が冷や汗を流しながら身構えるなか、姫乃は那月を右手で制し、

 

「………なにしに来た、ヤハウェ(やー君)

 

「やー君言うなって言ってんだろ駄龍!(オレ)は唯一神ヤハウェだ!」

 

 やー君と呼ばれて激怒する唯一神(ヤハウェ)。一方、那月はギョッと瞳を見開いて唯一神(ヤハウェ)を見上げ、

 

「貴様が姫乃の言っていた、唯一神だと!?」

 

「あ?」

 

 那月の声に反応した唯一神(ヤハウェ)は、姫乃の後ろにいる那月に目を向けて、ほう、と笑みを浮かべた。

 

「魔女か。悪魔と契約した愚かな人間が、終末兵器(ウロボロス)に守られているとはな。くく、こいつは傑作だ!」

 

「は?貴様、なにがおかしい!?」

 

「いや別に。………さて。(オレ)の視界に魔女()がいるなら、()さねばな」

 

「―――ッ!?」

 

 唯一神(ヤハウェ)から発せられた殺気を受けて、那月の全身から冷や汗が噴き出す。

 唯一神(ヤハウェ)にとって、悪魔と契約した那月は殺す(壊す)べき敵。故に見逃すわけにはいかないのだが、

 

「御主人様に手出しはさせない」

 

 那月を守るため、姫乃が唯一神(ヤハウェ)に立ちはだかった。

 

「………姫乃」

 

ヤハウェ(やー君)は私が押さえる。その隙に御主人様は家に帰る」

 

「なっ、姫乃を置いて私だけ逃げるわけにはいかないだろう!?」

 

「私は平気。だから御主人様は先に帰ってる」

 

「………っ、」

 

 那月は悔しそうに顔を歪める。これ以上、姫乃の側にいれば足手まといにしかならないことを悟ったからだ。

 那月は苦渋の決断をして頷き、

 

「わかった。生きてちゃんと帰ってこい。いいな?」

 

「わかった」

 

 姫乃は了承して頷く。それを確認した那月は、自宅へ空間転移で帰っていった。

 それを唯一神(ヤハウェ)は面白そうに眺め、

 

「ほう。あの魔女が貴様の主人か」

 

「………なに?」

 

「ふん。貴様も随分と落ちぶれたな。魔女風情のモノに成り下がるとは」

 

「違う。御主人様は、黄金の守護龍ファフニール(ふぁー君)の魔女。だから鍛えてる」

 

黄金の悪魔(ファフニール)………成る程、そういうことか。守護龍?ふん、邪龍の間違いだろ」

 

「邪龍、違う。ファフニール(ふぁー君)は、ワタシの龍蛇の楽園(パラダイス)の守護龍の一人」

 

 唯一神(ヤハウェ)の言葉に、姫乃の無感動な瞳に怒りの色を浮かべる。龍蛇は皆、姫乃の眷族。故に姫乃は守護龍の一人であるファフニール(息子)を邪龍扱いされて憤っているのだ。

 そんな姫乃を唯一神(ヤハウェ)はニヤリと笑って、

 

「憤ったか?なら、(オレ)殺し(壊し)合うか、終末兵器(ウロボロス)よ」

 

「うん。ワタシの逆鱗に触れたヤハウェ(やー君)にお仕置きする」

 

「は?」

 

「だから、場所を変える。ヤハウェ(やー君)、付いてくる」

 

 そう言って姫乃は、右手を突き出す。すると、突き出した右手の前方に、丸く空間を切り取ったような漆黒の異空間が覗いた。

 姫乃がその中へ入っていくと、唯一神(ヤハウェ)も彼女に続いて中へと入る。

 そこは、全てが純黒に染まった、無の空間が広がっていた。何物も存在せず、あるのはただ〝空隙〟のみ。

 唯一神(ヤハウェ)は無言で辺りを見回していると、

 

『やあ、ヤハウェくん。混沌(ボク)の中へようこそ!歓迎するよ♪』

 

 陽気な少年の声―――姫乃の創造主(父親)原初の混沌(カオス)〟が唯一神(ヤハウェ)を歓迎した。

 

「………は?」

 

『は?じゃないよヤハウェくん。愛娘ちゃんと終末戦争(ハルマゲドン)するなら、混沌(ボク)の中が一番適してるよ?』

 

「うん。ワタシのパパの中なら、壊すモノは何一つない。だから存分に戦える(遊べる)

 

 創造主(カオス)の言葉に首肯して、姫乃も唯一神(ヤハウェ)に勧める。

 唯一神(ヤハウェ)は、たしかにそうだな、と納得する。が、

 

(オレ)の力が有限のままじゃ、長くはいられんと思うが」

 

「『………あ』」

 

 唯一神(ヤハウェ)呪い(パラドックス)をかけたままだったことを思い出す姫乃と混沌神(カオス)

 姫乃は唯一神(ヤハウェ)に近寄り、彼の頭に触れた。

 

「―――呪い(パラドックス)、解除した」

 

 姫乃がそう言うと、そうか、と唯一神(ヤハウェ)は獰猛に笑い、

 

「………ふん!」

 

「―――ッ!?」

 

 不意打ちの一撃を姫乃にお見舞いした。唯一神(ヤハウェ)の拳が姫乃の腹部を強襲し、姫乃は数メートル吹き飛ばされた。

 姫乃はゆっくり顔を上げて唯一神(ヤハウェ)を睨み、

 

「………痛い」

 

 若干涙目で言った。唯一神(ヤハウェ)は、くく、と笑い、

 

呪い(パラドックス)を解除してくれたお礼だ。―――ふむ。貴様の涙目、久々に拝めたな」

 

「………なに?」

 

「別に。相変わらず可愛いなと思っただけだ」

 

「え?」

 

 唯一神(ヤハウェ)の言葉に、キョトンとする姫乃。唯一神(ヤハウェ)は、コホンと咳払いをし、

 

「………さて。(オレ)と貴様は互いに全能者。互角であり、優劣のない戦争(壊し合い)を始めようか」

 

「うん。パパも、手出しは無用」

 

『了解だよ。それじゃあ、存分に殺し(壊し)合いを始めちゃって。ボクは傍観させてもらうからね』

 

 混沌神(カオス)の言葉を合図に、姫乃と唯一神(ヤハウェ)の―――無限(ウロボロス)無限(アイン・ソフ)終末戦争(ハルマゲドン)が開始した。

 

 

 

 

 

 その頃の倉庫街。

 雪菜は、襲われていた〝旧き世代〟を守るため、ロタリンギア殱教師、ルードルフ・オイスタッハと刃を交えていた。

 優勢は雪菜。霊視によって一瞬先の未来を視てオイスタッハの動作を先読みし、彼を圧倒した。

 しかし、オイスタッハは戦斧(獲物)を破壊されても、獅子王機関の秘呪〝神格振動波駆動術式(DOE)〟が刻印された七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)との戦闘データを得ることが出来てご満悦だった。

 それからオイスタッハは、アスタルテに命令して選手交替。雪菜は、アスタルテの眷獣〝薔薇の指先(ロドダクテュロス)〟による攻撃を槍で受け止めるが、一本しかなかった腕がもう一本増えたことで不意を突かれ、殺されかけた。

 が、ギリギリのところで古城が駆けつけ、アスタルテの眷獣の腕を殴り飛ばすことで雪菜を救った。

 古城を加えて雪菜がオイスタッハたちと対峙していると―――その間の空間が丸く切り取られたように漆黒の異空間が出現する。

 

「な、なんだ!?」

 

 古城が驚き叫ぶと、その異空間から二つの影が飛び出した。

 オイスタッハたちの眼前に着地したのは、金髪蒼眼の少年。但し彼の着ている純白のローブはズタズタに引き裂かれたような跡があった。

 古城たちの眼前に降り立ったのは、黒髪紅眼の少女。但し、彼女の着ているメイド服はボロボロで所々焼け焦げていた。

 見覚えのある後ろ姿にハッとした古城は、その背に声をかけた。

 

「え?あんた、空無か!?」

 

「ん?………古城?」

 

 古城の声に振り向く姫乃。が、雪菜が姫乃のあられもない姿を見て瞳を見開き、

 

「か、空無さん!服がボロボロじゃないですか!」

 

「え?………あ、本当だ」

 

 雪菜に指摘されて、姫乃はようやく自分がどんな恰好をしているのか気がつく。

 ただでさえ露出度高めなメイド服が、ボロボロで胸元は兎も角、スカートの方は中身が見えそうで危険なほど重傷だった。

 古城は手傷を負っている姫乃を不可解そうに見つめていると、雪菜に睨まれて、

 

「………先輩。空無さんを見る目がいやらしいですよ」

 

「いやらしくはねえよ!空無が手傷を負ってるのを不思議に思って見ていただけだ!」

 

 古城の言葉に、たしかにそうですね、と雪菜もダメージを負っている姫乃を見て首を傾げる。

 その間にボロボロの服と、唯一神(ヤハウェ)との戦闘で負った傷を回復させる姫乃。本当は古城の許可をもらってから力を使うべきなのだが、この場合は仕方がない。

 古城たちが騒いでるなか、オイスタッハは傷ついた唯一神(ヤハウェ)を見て驚愕し、

 

「ご無事ですか!?我らの主!」

 

「ああ、これくらいなら問題ない。………が、チッ。この世界に戻ってきた途端に、呪い(パラドックス)が再発動してやがる」

 

呪い(パラドックス)ですか!?その様な力が主を苛んでいるというのですか!」

 

 許せません、と憤り、姫乃の背を睨むオイスタッハ。西欧教会の〝神〟たる唯一神(ヤハウェ)の自由を奪っている姫乃を許してはおけない。なんとしてでも忌まわしき龍神()を滅ぼさねば。

 アスタルテが唯一神(ヤハウェ)に歩み寄り、

 

「大丈夫ですか、(あるじ)様」

 

「大丈夫じゃない!故に抱きしめさせろ、我が妻よ!」

 

「………私は主様の妻ではありません」

 

「そうだったな。だが、(オレ)の側に来たのは運の尽きだ!」

 

 唯一神(ヤハウェ)の速すぎる動きについていけず、アスタルテはあっさり彼の胸に抱かれてしまった。

 無表情なアスタルテを嬉々として抱きしめるヤハウェ(ロリコン神)。そんな光景をオイスタッハは羨望の眼差しで見つめ、

 

「アスタルテばかり狡いです!是非私にも主の温かき抱擁を!」

 

(オレ)はオッサンを抱きしめる趣味はない。ロリになって出直してこい!」

 

「ぬぅ………!」

 

 見事玉砕した。オイスタッハは別に同性好きというわけではないが、西欧教会の者として唯一神(ヤハウェ)と触れ合えるまたとないチャンスだったからだ。教会の者として、アスタルテが羨ましくて仕方がないのである。

 思う存分アスタルテを抱きしめた唯一神(ヤハウェ)は、さて、と彼女を解放すると、姫乃を見つめ、

 

「今日のところは引き分けでいいな、終末兵器(ウロボロス)よ」

 

「うん。ワタシはそれで構わない。久しぶりに楽しめたから」

 

 無表情なはずの姫乃が、少し嬉しそうな笑みを浮かべる。そうか、と唯一神(ヤハウェ)も敵であるはずの姫乃の笑みを見て、嬉しそうな笑みを浮かべた。

 そして、アスタルテとオイスタッハを連れて去ろうとした唯一神(ヤハウェ)は、ふと視界に古城が映り、眉を寄せた。

 

「………貴様、もしや第四真祖か?」

 

「え?………まあ、そうだけど」

 

 古城が何気なく返事すると、そうか、と唯一神(ヤハウェ)は呟き―――消えた。

 

「は?」

 

 古城が間の抜けた声を洩らした瞬間、唯一神(ヤハウェ)が古城の背後に現れ、

 

「〝殺神兵器〟ならば予定変更だ。貴様は、ここで死ね」

 

「―――ッ!?」

 

 唯一神(ヤハウェ)の本気の殺意を背に感じて古城の全身からドッと冷や汗が噴き出す。

 身体を動かそうにも間に合わない。雪菜も、唯一神(ヤハウェ)の不意打ちに対応できず動くことができない。

 

「先輩―――ッ!」

 

 できたのは、叫び声を上げるだけだった。唯一神(ヤハウェ)の右手に握られた光剣(ルクス・ソード)が、古城の心の臓を貫―――

 

「何!?」

 

 ―――けなかった。姫乃が庇ったことにより、唯一神(ヤハウェ)光剣(ルクス・ソード)は古城には刺さらず、姫乃の胸元を貫いていた。

 その光景を見た古城と雪菜は悲鳴を上げる。

 

「な、空無!?」

 

「空無さん!?」

 

 しかし、肝心の姫乃は無表情なまま無感動な声を発した。

 

「ワタシは平気。全能者じゃないヤハウェ(やー君)の力ではワタシを傷つけられない」

 

「は?思いきり剣が刺さってるのに!?」

 

「うん」

 

 平然と返す姫乃。古城と雪菜はポカンと口を開き固まる。

 一方、唯一神(ヤハウェ)はチッと舌打ちして、光剣(ルクス・ソード)を引き抜こうとするが、刀身を姫乃に掴まれた。

 

「古城を殺そうとした罰、受けてもらう」

 

「く―――っ!」

 

 唯一神(ヤハウェ)光剣(ルクス・ソード)を放置して離脱しようとするが、姫乃がそれさえも許さない。

 呪い(パラドックス)により、再び有限に堕ちた唯一神(ヤハウェ)が姫乃の一撃を受けたら無事ではすまないだろう。

 姫乃が拳を握り唯一神(ヤハウェ)を殴り飛ばそうとした、その時。

 

 

『罰を受けるのは―――キミの方だよ、愛娘ちゃん』

 

 

 陽気な少年の声が、混沌神(カオス)がケラケラと笑った。

 え、と姫乃が声を洩らした瞬間、彼女の胸元に刺さっていた唯一神(ヤハウェ)光剣(ルクス・ソード)が漆黒に染まっていき―――闇色の禍々しい闇剣(ダークネス・ソード)へと変化した。

 その刹那、姫乃の口からゴポリと大量の血塊が零れ落ちた。それを見た古城たちの表情が固まる。

 剣が刺さっていても傷を負っていなかったはずの姫乃の胸元と背中は血で滲み地に鮮血が滴り落ちている。

 胸元から背中にかけて走る激痛に苦しむ姫乃。次第に薄れていく意識の中、姫乃は悲し気な声音で呟いた。

 

「パパ………どうして………」

 

 しかし混沌神(カオス)は答えない。代わりにケラケラと笑って、

 

『オヤスミ、ボクの愛娘ちゃん』

 

 姫乃はその言葉を耳にして、意識を失った。

 ゆっくりと前に倒れる姫乃の小柄な身体を、唯一神(ヤハウェ)が受け止める。が、彼は不機嫌そうな表情を浮かべ、混沌神(カオス)に訊いた。

 

「貴様、一体何の真似だ?」

 

『うん?ボクはただ、ヤハウェくん(キミ)に協力して欲しいだけだよ』

 

「………何をだ?」

 

『愛娘ちゃんに〝罰〟を与えることに、だよ』

 

「……………ほう」

 

 姫乃に〝罰〟を与えてくれ、と聞いて唯一神(ヤハウェ)は〝神〟とは思えない邪悪な笑みを浮かべた。

 そういうことなら協力しようではないか。唯一神(ヤハウェ)闇剣(ダークネス・ソード)に変化した自分の剣を引き抜かず、姫乃の胸元に刺さった状態のまま彼女を脇に抱えた。

 それを見た古城は慌てて叫ぶ。

 

「待てよあんた!空無をどこへ連れてく気だ!?」

 

「ふん。〝殺神兵器〟の貴様が知る必要はない」

 

「なっ、」

 

「本来なら貴様は(オレ)に殺されている立場だが、今日の(オレ)は気分がいい。故に今回は見逃してやろう」

 

 唯一神(ヤハウェ)は、くく、と笑うと、古城たちの視界から消え、オイスタッハたちの下へ一瞬で移動した。

 古城は、ふざけんな、と激昂して振り返り、無謀だと分かっていながらも唯一神(ヤハウェ)から姫乃を奪還すべく動いた。

 

「駄目です、先輩!」

 

 雪菜が古城を呼び止めるが、古城は彼女を無視して唯一神(ヤハウェ)に突っ込んでいく。

 しかし、古城の行く手を、唯一神(ヤハウェ)を庇うように前に出てきたアスタルテが阻んだ。

 

執行せよ(エクスキュート)、〝薔薇の指先(ロドダクテュロス)〟」

 

「―――ッ!邪魔だッ!!」

 

 古城はアスタルテの眷獣の腕を魔力を帯びた拳一つで撥ね除け突き進む。が、それは下策だった。古城は気づけなかったのだ。背後からもう一本の腕が強襲してきたことに。

 

「しまっ―――」

 

 古城は回避しようにも間に合わない。殺られる、そう思った瞬間―――

 

「〝雪霞狼〟―――!」

 

 古城を強襲したもう一本の腕を、雪菜の槍が切り裂いた。

 

「ああ………っ!」

 

 眷獣を切り裂かれたアスタルテは、眷獣が受けたダメージの逆流に弱々しく苦悶の息を吐く。

 

「姫柊!?」

 

「先輩、今のうちに空無さんを!」

 

「―――!ああ!」

 

 古城は、雪菜の援護に感謝して唯一神(ヤハウェ)に殴りかかろった。

 が、古城の拳が唯一神(ヤハウェ)に届く前に―――古城の首が宙を舞った。唯一神(ヤハウェ)の目にも止まらぬ速さで振るった、ただの手刀の一撃によって。

 

「―――――ぇ?」

 

 雪菜の思考が一瞬フリーズする。頭を失った身体がゆっくりと倒れ落ちる様と、古城の首が、雪菜の足元に転がってきたのを確認して、ようやく雪菜は現状を理解し、

 

「せ、先輩………そんな………いや………あああああああっ!」

 

 悲鳴を上げてその場で泣き崩れた。古城の心臓が無事とはいえ、首と胴体が切り離された状態から復活できるとは思えない。

 古城の頭を胸に抱きしめながら泣き喚く雪菜を、唯一神(ヤハウェ)は冷たく見下ろし、

 

「ふん、愚かな兵器(ヤツ)だ。せっかく今回は見逃すと言ったのにな」

 

 それだけを言い残して雪菜たちに背を向ける。本当はアスタルテを傷つけた雪菜の首もハネてやりたいところだが、戦意喪失の彼女を見て興が醒めてやめた。

 代わりに唯一神(ヤハウェ)は、自分の脇に抱えていた気を失っている姫乃の顔を眺め、喜びの笑みを浮かべ英気を養う。

 それから、唯一神(ヤハウェ)は脇に抱えた姫乃とアスタルテ、オイスタッハを連れてどこかへ去っていった。

 その場に残されたのは、瀕死の重傷を負った〝旧き世代〟と、古城のピクリとも動かない首無の身体、古城の頭を胸に抱きしめたまま泣き喚く雪菜だけだった。

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