とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト)   作:nozomu7

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第108話 引き金

 相対変換(レラティブ)の光が収まった後、俺はその強烈な光に対して閉じていた瞼をゆっくりと開ける。

 

 そこにいたのは、微かに服が汚れていながらもあまり有効なダメージを追っていない、『十二使徒』のレビとシメオンであった。

 

「……分かってはいたが、今までの奴とは格が違うな」

 

 相対変換は扱いこそ難しいが、『超電磁砲(レールガン)』や『原子崩し(メルトダウナー)』にも劣らない威力を誇る。それゆえ簡単には使えない『切り札』であるのだが、使えば確実に対象を、物であれば破壊し、人間であれば余波を利用して大ダメージを負わせることができる。今までの敵だったら、さっきの一撃は確実に戦闘不能へと陥らせることができたはずだ。

 

 だが、彼らはそれぞれ魔術を用いてうまく防御した。

 

「ずいぶんと荒っぽい手を使われるようで」

「こっちも必死だからな。使える手は使ってみるという話さ」

 

 自分が考えていた手段が失敗したことで、俺は戦法を練り直さなければならなくなった。それはあいつらにしても同じであろう。

 

 俺は万象再現(リプロダクション)で魔力と天使の力(テレズマ)を身体中に漲らせ、再び両手に大鎌を生み出す。それを見たレビとシメオンも、自分自身の霊装である硬貨袋と鋸に天使の力を通し、術式を発動しようとする。

 

 だがその時、壁にひびが入り始め、『アドリア海の女王』が崩壊を始めた。それを確認したシメオンが言う。

 

「引き際ですか。まあ、あの『聖霊十式』は無事に回収できましたし、我々がもうここにいる理由はありませんね。それでは、またどこかで会いましょう。その時には、素直にローマ正教に降伏していただけると助かるのですが」

 

 レビがそう言うと、シメオンも頷いて俺から離れていく。今までの激しい戦闘が嘘に思えるほどの潔さだった。

 

 俺はそれに強い違和感を覚え、呼びかけようとする。

 

「お、おい! ちょっと待て!」

 

 俺の言葉を聞いた2人は一瞬立ち止まってこちらを振り向くが、天使の力で爆発を起こすと消えた。

 

 魔力による探知では、かろうじて彼らが船を後にしたことが分かっただけであった。

 

 

 

 

 

 そんな訳で事件は収束し、当麻はいつも通り病院へと運ばれた。いつもと唯一違うのは、それが学園都市にある冥土返し(ヘヴンキャンセラー)のいる病院ではないという点だ。

 

 つまり。

 

『君たち、今すぐ学園都市に戻って来るんだ』

 

 カエル顔の医者は、電話にこちらが出ると開口一番にそう言った。

 

「あ、やっぱりあれですか。学園都市で能力開発を受けた人間を外の病院で診せるというのはまずい、っていう」

 

 俺が返事をすると、彼は『当然のことだね?』と言葉を返す。ちなみに、今回の患者は当麻だけであり、俺とインデックスは付き添いである。

 

『空港に学園都市性の超音速旅客機が止まっているはずだから、それに乗って来なさい』

 

 その言葉に慌てたのは当麻だった。

 

「ま、待って。まだイタリアに来て一日しかたってない――」

『ああ、そうそう。君にとある女の子から伝言を頼まれているんだけどね?』

 

 女の子? と俺と当麻は首を傾げた。

 

 このタイミングで冥土返しに伝言を頼むような人間と言えば、そろそろ退院するはずの姫神秋沙か、妹達(シスターズ)に会いに来た御坂や最愛、海鳥、大穴で食蜂か……ん?

 

 そこで気が付く。当麻は大覇星祭においてとある女の子と『賭け』を行っていたことに。

 

『帰ってきたら、大覇星祭の罰ゲームは覚悟しておきなさい、だってさ』

「御坂美琴ー!?」

 

 まさか冥土返しに伝言をしてあるとは。御坂も抜け目ない性格をしている。

 

 ……さすがに当麻が気の毒だから、多少は手加減するように頼んでおくか。

 

「い、嫌だ! 帰りたくない―!」

「あ、だめだよとうま!」

 

 当麻は手足をバタバタと動かすが、看護師は患者が動こうと構わず、黙々と当麻が縛り付けられている車輪のついたベットを動かして行った。

 

 しかし、これはまずいことになってきたと思う。『アドリア海の女王』を破壊したこともそうだが、『十二使徒』という司教程度では情報が手に入らない、ローマ正教の最暗部の魔術師たちと戦ったのだ。

 

 これは、本格的にローマ正教に対して対策を立てないとならないだろう。

 

 今回は『杯』を持ってはいたものの、使わずに済んだ。だがそれは、『十二使徒』2人の目的が時間稼ぎであったことが大きい。

 

 しかし、重要な霊装を破壊されたとすれば、相手も危機感を募らせるだろう。8月31日の時のアステカの魔術師のように、本格的に学園都市に刺客を送ってくるかもしれない。

 

 そうなれば……他の人たちも巻き込まれる可能性がある。

 

 最愛や海鳥、御坂などの常盤台中学生。

 

 佐天さんや初春さんなどの、柵川中学生。

 

 さらに、吹寄や姫神などが『大覇星祭』の二の舞を受けることも否定できない。

 

 俺はこの先――どうするのか。

 

 親友が騒がしくするその横で、俺はこの先の未来について思いを巡らせた。

 

 科学と魔術が交差した、その先の結末を。

 

 

 

 

 

「……そうですか。ご苦労様です」

 

 ここはイギリス清教の女子寮の一室である。この部屋の主は必要悪の教会(ネセサリウス)所属の『聖人』神裂火織であった。

 

 彼女は今、部屋のベッドに腰掛けて黒い電話機を耳に当てていた。

 

『いやー、っていうか、報告なら天草式に訊けばいいんじゃねえのかにゃー?』

 

 話し相手は同僚の土御門元春。

 

「今の私は、もう天草式の人間ではありませんし……」

 

 土御門の言葉に、彼女は呟くようにそう返した。彼女は以前、確かに天草式のトップ女教皇(プリエステス)であったが、色々とあってそこを出奔し、現在はイギリス清教の魔術師となっている。

 

 するとそこで、暗い影が差すようなローテンションの神裂の声を聞いた土御門は、話題を変えてみたようだ。

 

『それはそうと、ねーちん。今回もかみやんとはやとんに大迷惑をかけちまったようだにゃー』

 

 ブホォ! と神裂がいつもの冷静さを欠いてむせこんだ。

 

 彼女の顔が一瞬にして赤く染まる。

 

『かみやんのその右手については言わずもがな、はやとんも最近じゃかなり魔術を扱いこなすようになってきてるしにゃー。ただでさえ能力だけでも実力があったのにも関わらず、魔術の実力ももはや折り紙付き。天草式の人間もそろそろ、この2人について行こうなどと考え始めるんじゃないのかにゃー? ここでねーちんが天草式の元リーダーとしてビシッ、とまとめてお礼をして見せなきゃならないぜよ』

「そ、そんなことは分かっています。ですが、私にできることというのは……」

 

 だが、と神裂は思い返す。

 

 インデックスの首輪の件では、彼らが全ての決着をつけてくれたようなもの。

 

 『御使落し(エンゼルフォール)』の1件では、自分が神の力(ガブリエル)についていけたのは神谷駿斗のおかげであり、儀式場を吹き飛ばしたのは土御門。

 

 鳴護アリサの件でさえ、最終的にはインデックスと上条当麻、神谷駿斗が全ての役目を持って行ったようなものだ。

 

『これじゃもう、メイド服で1日ご奉仕した程度ではおさまりがつかないぜい。あ、そうだ。俺が持っている堕天使メイド服でご奉仕なんてのは――』

「ど、どこまで馬鹿げたことを言っているのです! そもそも、あなたはそのようなものを所持しているというのですか!」

 

 土御門の言葉に、顔を真っ赤にして叫ぶ神裂。

 

『はあー、仮にも世界に20人といない「聖人」なんだったら、覚悟を決めろよねーち』

 

 ふざけたことを並べ立てるシスコン軍曹の言葉を遮って、神裂はガチャン! と勢いよく電話を切った。

 

 そのままの姿勢でしばらく呆然としていた彼女であったが、彼女にしても何かお礼はしなければ、との思いと、メイド服でご奉仕などふざけたことをとか、何が何やら混乱して分からなくなってしまう。

 

 神裂は混乱に陥ったまま、部屋の水槽を鏡代わりにして、側にあった小さな白い皿を頭の上に掲げてみる。

 

 傍から見たら全く意味不明な行動であるが、本人は至極真面目に混乱しているためにそれに気が付かない。

 

「な、なのですよー、当麻、はや『キンコーン』っっっ!?」

 

 神裂がいざ『予行』をしようとした瞬間、チャイムの音が鳴り響き、神裂は再び混乱に陥った。

 

 とにかく、手に皿を持ったままではあるが、神裂は水槽の前から離れてドアへと向かう。

 

 そこにいたのはオルソラ=アクィナスであった。

 

「た、ただいまでございますよ」

 

 彼女は大きなカバンを両手に下げているだけでなく、キャリーケースとさらにもう1つカバンを床に置いている。

 

「は、はあ」

 

 その大荷物を伴ってきた彼女を見て、神裂はキョトンとした表情で答えるが、オルソラはさらに苦笑いした。

 

「実は途中で、荷物が増えてしまったのでございますよ」

 

 その言葉に神裂は頭に疑問符を浮かべるが、すぐにその意味を知ることとなった。

 

 オルソラの後ろから、アニェーゼが現れたからだ。

 

 アニェーゼ部隊総数250人が、この日をもってイギリス清教の女子寮に入寮した。

 

 

 

 

 

「しかしな、あれは少々早急に過ぎた」

 

 ここはバチカンにある聖ピエトロ大聖堂。

 

 ローマ正教の総本山である世界最大の聖堂を2人の人間が歩いていた。

 

 1人は老人。1人は若い女性。

 

「『アドリア海の女王』は確かに優れた霊装だった。しかし、ビショップビアージオにその権限を任せ、『刻限のロザリオ』を発動しようとしたその選択は、軽率だったと言うほかない」

 

 話すその老人は、ローマ教皇。

 

 ここバチカンを中心としてこの世界に点在する、20億人のローマ正教徒の頂点に立つ、最高権力者。

 

 しかし。

 

「アンタ、誰に向かってモノを言ってんのよ。アタシが誰だか分かってるワケ?」

 

 それはあくまでも、表向きの物でしかない。

 

「貴様こそ、誰に口をきいているのか理解は追いついているのか」

 

 他のローマ正教徒であれば、例え大司教や枢機卿といった重鎮であっても、恐れをなすであろう重々しい口調。しかし、それは彼女には通用しない。

 

「ローマ教皇でしょ? そんなことがどうしたの?」

 

 この『前方のヴェント』はそんな人間なのだ。

 

「アタシに悪意を向ければアンタは死ぬわよ!」

 

 彼女はそう言って舌を突き出す。そこには十字架が繋がれた鎖が、唇にピアスのように留められてあった。

 

「『神の右席』……教皇程度では響かぬか」

 

 そう言うローマ教皇に対し、ヴェントは1枚の紙を突き出した。

 

「こいつにサインをしなさい」

 

 ヴェントは遠慮なく、ローマ教皇に対して命令する。

 

「この私に命令か。……いや待て、これは」

 

 ローマ教皇がその書類を見た途端、彼の様子が変わる。

 

 だが、ヴェントはそんな様子を見ても表情を変えなかった。

 

「アンタもいずれは命令するつもりだったんでしょ? 手間が省けて良かったじゃない」

 

 彼女はそう言うと、愉快そうにその場を立ち去って行った。

 

 取り残されたローマ教皇は、その書類をもう一度読み直す。そこには、イタリア語で次のような内容の文章が書かれていた。

 

『上条当麻、神谷駿斗。上記の者2名を速やかに調査し、主の敵と認められし場合は確実に殺害せよ』

 

 そしてこの2日後、ついに戦いは始まる。

 

 学園都市とローマ正教。2人の少年を中心としたその両者の間での、長い戦い。その引き金が引かれる。

 

 その中で世界は確実に変わっていき、どこに向かうのかは誰にも分からない。そんな戦いが。

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