とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト)   作:nozomu7

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当初からやりたかったものの、どうしようか悩んでいた過去編です。

それでは、どうぞ


駿斗の過去編
第109話 勘違いの初対面


 これは2人の少年が初めて出会ったときの話。

 

 そして、『置き去り(チャイルドエラー)』の少年が『偽善使い(フォックスワード)』になる物語。

 

 運命というものがあるならば、きっとこの時、すでに物語の引き金は引かれていた。3年後に起こる、科学と魔術が交差するその物語が。

 

 家族がいる不幸な少年と、家族に『置き去り』にされたが、それ以外は幸運な少年。

 

 あらゆる異能の力を殺す力と、あらゆる異能の力を創る力。

 

 そんな対称的な2人が出会ったのは、中学1年の夏の終わり。

 

 そんな彼らが肩を並べて戦ったのは、秋も深まった10月の終わり。

 

 これは、そんな物語。

 

 

 

     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 中学生になって初めての夏休みも終わろうかとしている、そんな日の朝、俺は自分の寮の部屋にいた。

 

「いつものことながら、暑い。だけど今日は湿度が少し低めだから、まだマシな方か」

 

 俺はテーブルの上に置かれた麦茶のペットボトルを手に取ると、その中身をコップに注ぐ。そして冷やされているそれを一気に飲み干すと、冷蔵庫にペットボトルをしまい、朝食の食器を流しへと運んで行った。

 

「あと少しで夏休みも終わりかあ。まあ、1人暮らしにも慣れてきたし、最近は結構暇だな」

 

 施設にいた時のことを考えると、やっぱり1人暮らしは自由な分、寂しい気もする。だからなのか、夏休みの宿題もなくなった最近では、俺は街中に遊びに出かけることが多くなっていた。

 

 あらかじめ友達を誘ってからゲーセンに出かけることもあれば、図書館や本屋などで読書をして時間をつぶすこともある。

 

 夏休みの間に1回施設の方には顔を出したし、まあ、予定は全て網羅した。

 

 結論を言えば、この夏休みが終わるまで俺は非常に暇なのだった。

 

「とりあえず、いつも通りに本屋とかゲーセンとかで時間を潰すか。もしくはレンタルビデオショップでDVDでも借りて映画鑑賞といったところかな。劇場で見るよりは安上がりだし」

 

 俺はこの街で育っておきながら、なぜか能力開発を未だに受けていない。他の子が能力開発を受けている間は、ひたすら知識を詰め込むだけの授業を受けさせられていた。

 

 理由は、学園都市で行われている研究の一環らしい。なんでも、『能力開発を受ける年齢の違いによる自分だけの現実(パーソナルリアリティ)の相違に対する研究』への協力のためだとか言われたが、研究者や先生によって説明が全然違っていたので、結局どんな事情があるのか、正確なところは分かっていない。

 

 そのため、奨学金は無能力者(レベル0)以上低能力者(レベル1)未満という半端な額をわざわざ設定されている。何のいやがらせだろうか。

 

 まあ、この街の学生の6割が無能力者であることを考えれば、マシな金額をもらっているのだろうけれど。

 

 俺は食器を洗い終えると、財布を半ズボンのポケットに突っこんで自分の部屋を出た。

 

 そのまま本屋に行く予定だったのだが……。

 

「おい、テメエ分かってるんだろうなぁ?」

「君のせいで汚れちゃったんだケド。ちっとこの服弁償してくんない?」

「それができないならどっかから持ってくるんだな。分かった?」

 

 チンピラに絡まれている少年を発見した。

 

 俺は絡んでいる男が3人であることを確認すると、その方向へ足を向ける。正義の味方を名乗るつもりはないが、こんな人は助けに入るべきだろう。

 

「おい、ちょっといいか?」

「あん?」

 

 ゴッ、と俺の右ストレートがチンピラAの頬に入る。それを確認すると、即座にその場を飛び去ってチンピラBの蹴りを交わした後に、チンピラCの左ストレートを両手で受け止めた。

 

 相手はそこそこ場馴れしているようだが、俺も時々今のような行為はしているために場馴れしている。とはいっても自分よりも体格の良い3人相手はつらいが、それでも俺は引くつもりはなかった。

 

「ったく、正義のヒーロー気取りかよ」

 

 男の1人がそう言って嘲笑するが、俺は構わなかった。

 

「いかにも頭の悪いチンピラをやっているよりはマシだと思うがな」

「言わせておけば、ムカつくことばかり……」

 

 そう言うと、相手は素直に突進してきた。先ほどから何も能力を使ってこないあたり、無能力者のようだ。俺はカウンターの蹴りを一発決めて、1人目、チンピラAを倒す。

 

 その直後すぐに俺がその場を後ろに飛び去ると、さっきまで俺が立っていた場所を横から来たチンピラBの蹴りが通り過ぎた。俺はすぐに側に会った花壇の土を蹴りあげてCに対して目つぶしを決めると、そいつの二の腕をつかんで再び繰り出されたBの蹴りに対する盾にする。

 

 そして、Cのみぞおちに拳を叩き入れると、そいつを突き飛ばしてBと衝突させ、Bの顔面に拳を叩き付ける。

 

 しかし自分より体格の良いチンピラBとCはなかなか倒れないため、俺は一度相手と距離を取った。

 

 狙うのはカウンター。多少相手の拳を体に受けても、相手の力を利用して自分が出せる全力以上の一撃を相手に叩き込む。

 

 だがここで、予想外の事態が起きた。とは言っても、俺の読みが浅かったと言うほかない。

 

 チンピラBが手を掲げると、そこを中心にバチバチ、と青白い火花が発生したのだ。

 

発電能力者(エレクトロマスター)……」

「そうだよ。残念だったなあ、ヒーロー気取りさん?」

 

 恐らくは低能力者(レベル1)程度だろうが、無能力者の俺にとっては十分に脅威である。

 

 だが、ここで引くわけにはいかない。俺は右手を掲げてもう一度拳を強く握る。すると、俺の右手首にまかれたミサンガが目に留まった。

 

 しばらく会えてない、年下の幼馴染の少女2人とお揃いの物だ。

 

「……『お兄ちゃん』がこんなところで止まっているわけにはいかない、か」

 

 俺は相討ち覚悟で飛び出す。

 

 矢のように速く、鋭く、その懐へ潜り込む。体にしびれるような痛みが走るが、歯を食いしばって堪える。

 

 そして、

 

「はあっ!」

 

 全体重を乗せた拳を、その男の顔面に叩き付けた。

 

 

 

 

 

「あ、ありがとう」

 

 同じくらいの年のその少年は、俺にそう声をかけてきた。

 

「ああ、大丈夫か? ほら、財布」

 

 俺は少し離れたところに落ちている、少年の物であろうその財布を拾う。

 

「すごかったよね。やっぱり、能力があると違うのかな」

「いや、俺無能力者だし。行動するかどうかじゃねえの?」

 

 俺は財布を手に握ったまま、そんな話をする。

 

 すると、

 

「おい」

 

 その言葉に振り返ると、そこには男が1人経っていた。ツンツンと立っている黒髪が特徴的なやつだ。

 

「……テメエは何をやっているんだよ」

「何?」

 

 俺はそいつが何を言っているのか分からず、思わず聞き返す。

 

「テメエは何をやっているんだって言ってんだよ!」

 

 その男は、拳を握りしめて愚直なまでにまっすぐ突進してきた。

 

 一瞬俺は呆けるが、すぐに状況を理解する。

 

 路地裏で、気弱そうな少年が地面に座り込んでいて俺は片手に財布を握っている。つまり、事情を知らない人から見たら、カツアゲをした場面にしか見えない。

 

 後で思えば、こいつの誤解くらいすぐ解けたであろう。しかし俺は、その行動にカチンと来てしまった。

 

「何も知らねえ奴が……俺が気に入らねえならかかって来やがれ!」

 

 俺は財布を放り投げ、カウンターを喰らわせる。だが、体に受けたそいつの右拳は、同い年の見た目に反して重く、強い衝撃があった。

 

「ぐっ!」

 

 俺は拳が入った左肩に、思わず右手を当てる。

 

「テ、メエ……」

 

 完全に頭に血が上り、俺はがむしゃらにそいつと喧嘩を始めた。とにかく、体が勝手に動いていた。

 

 互いに拳をぶつけあい、相手に膝蹴りや頭突きを喰らわせる。相手の肩をつかみ、髪の毛を引っ張り、もはや自分たちでも訳が分からなくなっていた。

 

 しかし、何がきっかけだったのか、俺たちはそれをやめていた。

 

 喧嘩がいったん収まると、次第に自分たちの状況を理解していった。

 

 初めに俺が助けた少年は、いなくなっていた。

 

「……なあ」

「何だ?」

 

 頭の中で状況の整理をしていると、俺たちは2人とも、次第に冷静さを取り戻していった。

 

「あの財布って、誰のだ?」

「あの子のものだよ。不良にカツアゲされていたみたいだったから、俺がそいつらをボコして取り戻した」

 

 俺とその男が、形容しがたい空気に包まれ、

 

「勘違いして殴りかかって、すみませんでしたぁ!」

 

 その男が速やかに土下座へ移行した。

 

 俺はキョトン、と間抜けな面で呆けてしまう。

 

 さっきまであんな形相で殴りかかって来たというのに、何なんだ、この潔さは。

 

 混乱に陥る俺と、そんな俺の目の前で滅多には見ることができないリアルな土下座をしている、同い年くらいの男。シュールな光景だった。

 

「と、とりあえずここから移動しようぜ? いつ風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)が来るか分からないし」

 

 俺の言葉に、その男――上条当麻は、顔を上げると頷いた。

 

 

 

 

 

 俺は上条と近くの公園の日蔭に移動して、一連の流れを互いに話した。同時に、自己紹介もした。

 

 互いに知らなかったのだが、俺と上条は同じ中学に在籍していたらしい。クラスが離れているため、気が付かなかったようだ。

 

 また、上条の能力の強度(レベル)は『0』であった。俺は能力開発をまだ受けていないものの、実質的には無能力者と変わらないので、似たようなものだといえるだろう。

 

「この年齢で能力開発受けてないって、珍しいな」

「だから言っただろ? 研究への協力だよ、協力。俺は正直、周りの人たちと仲良く楽しくやっていければいいからな。あるに越したことはないんだろうが、積極的に能力が欲しいとまでは思わねえし」

 

 俺は上条にそう言った。

 

 あれば確かに便利だろう。俺も実際に低能力者や異能力者(レベル2)の同級生が能力を使っているのを、日頃から見ている。

 

 しかし、無能力者が圧倒的に多い俺たちの中学校では、特に能力があることのメリットは存在しない。下手に威張り散らしたりでもすれば、ぼっちになるのが確定というのがこの中学校の実態である。

 

 まあ、そのおかげで他の中学校のように無能力者が虐げられるようなことが存在しないのは、俺たちの中学校の良いところだろう。まあ、誰も知らないところでやっているのかもしれないが、少なくとも俺はそんな事例を聞いたことがない。

 

「まあ、こんなところかな。そういえばそろそろ夏休みも終わるけど、上条は宿題終わった? 理科の問題集になかなかめんどくさいやつがあったけど」

 

 一通り話を終え、俺は適当に雑談することにする。

 

「問題集? 理科の宿題は自由研究だけじゃなかったっけ?」

「自由研究と、問題集の指定されたページ、その両方だぞ」

 

 上条は俺の言葉に、顔をみるみる青くさせていく。

 

「ちなみに、1日中使っても残りの日数じゃ、ギリギリだろうな」

 

 俺がとどめを刺すと、上条は頭をうなだれて「不幸だ……」と呟いた。

 

 奇妙なやつと知り合ったようだな、と俺はその時思った。まあ、悪いやつではなさそうだから良いか。




1週間ぶりの更新です。最近忙しかったので、やった……! という感じです。

しかし、これからテストとかあるので、やはりスローペースの更新となる可能性があります。ご了承ください。
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