とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト)   作:nozomu7

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第111話 覚醒

 その日、金曜日の帰りのことだった。

 

 俺は帰り道の途中で他のみんなと分かれ、1人で歩いていた。というのも、教室に忘れ物をしたからだ。

 

「危ない、危ない。もう少しで、体操服を忘れたまま休日に突入するところだった」

 

 俺は誰もいない教室に着くと、自分の机の横のフックに袋に入っている状態でかけられていたそれを回収する。

 

「もう忘れ物はないよな……よし、全部あるみたいだな」

 

 俺はもう一度カバンの中身を確認すると、再び学校を出た。

 

 夕暮れで周りが赤く染まっていく中を、俺は1人で帰宅する。その途中でふと『無能力者狩り』のことを思い出した。

 

「やべ、忘れてた。そいつらの目のつかないようなルートを選ぶか、警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)に目のつきやすいルートを選ぶか、そのどちらかだな」

 

 俺はいつもの道を避けて、少し遠回りしながら帰ることにした。

 

 この道だと、少し治安の悪い場所の近くを通る。だが、その道さえクリアしてしまえばこちらの方が安全なルートなのだ。俺は周囲に警戒をしながらも、その道をさっさと通り過ぎてしまおうとした。

 

 しかし、それは甘かったようだ。

 

「なあ、こいつの制服あの中学じゃね? 無能力者(レベル0)のクズばっかり集められていると」

 

 俺を取り囲んでいる2人の高校生たちが、いかにも人を見下した目で言う。

 

「じゃあ、君も俺たちの“練習”に付き合ってもらおうか? 拒否権はないけどなぁ!」

「“練習”だと?」

 

 そいつの言葉に、俺は警戒した。なんとなくだが、予想がついたからだ。

 

 そして、その最悪な予想は的中する。

 

「決まってんだろ? 能力の“練習”だよ。お前ら無能力者の存在価値なんて、能力者(俺たち)の言いなりになるくらいしかねえだろうがよ!」

 

 ひゅう、と風が渦巻き、鎌鼬が近くにあった木を切り裂いた。

 

「くそっ!」

 

 俺はすぐさまもう1人の横を通り抜けようとするが、突如そこに電撃が発生する。そして、俺は全身にしびれるような痛みを感じた直後に、地面に倒れてしまった。

 

「くそ……」

「ま、おとなしく諦めるんだな」

 

 どうやら相手は風力使い(エアロシューター)発電能力者(エレクトロマスター)だったようだ。2人とも、恐らくは強能力者(レベル3)。無能力者である俺が敵う相手ではない。

 

 だが、そんなことで諦める俺ではない。

 

「ふざっ、けんな……!」

 

 俺は痺れが残る体を無理矢理動かして、地面に手を突きながら立ち上がった。

 

「能力者が無能力者を好き勝手にする権利なんて……あってたまるか!」

 

 負けん気が、俺の中に沸き起こる。

 

 目の前にいるこいつらは、絶対にここで倒す。そんな強い思いが生まれる。

 

 相手の能力から考えると、風力使いはまだなんとかなる。たとえ強風が吹いても、地面にしゃがみ込んだりすればやりすごせるし、鎌鼬は真空刃を作るために一度空気を渦巻かなければならないので、発動までに一瞬隙ができる。この距離なら、俺が相手の懐に入って拳を叩きこむ方が早い。まだなんとかなるだろう。

 

 しかし、問題なのが発電能力者だ。雷撃はその発電量や電圧に関わらず、音速をも相手にならないほどの速度を誇る。さらに、例え運よく初撃を躱すことができたとしても、近づいただけで感電させられる恐れもある。

 

「そうかよ。じゃ、大人しくくたばりやがれ!」

 

 再び痛みと痺れが俺の体を走り、俺は再び地面に倒れる。

 

「く、そ……」

 

 俺はかろうじて地面についている手を動かそうとする。しかし、それは痺れてうまく動かない。

 

 少しずつ動かそうとしているものの、思い通りにはいかない。まともに他の人の能力でダメージを負ったのは、そもそも初めての経験だった。

 

 その時、変な感じがした。何か、よく分からないエネルギーを感じたのだ。

 

 それは例えるとするならば、赤外線が目に見えなくても、肌で太陽光の暖かさを感じ取るような、そんな感触だった。それが、目の前の2人から放たれている。

 

 これは、能力だろうか?

 

 俺にはよく分からない。しかし、能力が『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』から発せられることを考えると、この悔しさが俺の『自分だけの現実』を組み上げた、と考えることができるかもしれない。

 

 別に俺は能力開発のことについて詳しいわけではないから、これは根拠のない妄想かもしれない。しかし、俺にはなぜか確信があった。

 

 目の前の2人を、全力で倒す。そのために、俺はあるかもわからない能力を使ってやる!

 

 ――『重力』に関する情報を脳内からリストアップ

 ――『疑似的な自分だけの現実(パラ・パーソナルリアリティ)』を構成

 ――重力操作能力を創造

 

 ゴン、と鈍い音と共に、目の前の2人が地面に叩き付けられた。俺は一瞬呆けるが、その隙を突いて相手に迫る。

 

 そして、訳も分からないまま体を起こした2人の能力者に、拳を叩き込んだ。

 

 

 

 

 

「能力開発、ですか?」

 

 金曜日に突然異能力(レベル2)クラスの重力操作能力を発現した俺は、休日が開けた月曜日の昼休みに、担任の教師に職員室へと呼び出され、ついに行われる能力開発について説明を受けていた。

 

「そうだ。以前にも説明した通り、神谷がいた施設が『契約』していた研究所からの要請で、神谷は能力開発を受けていなかった。能力開発を受ける年齢による違いで、自分だけの現実(パーソナルリアリティ)にどのように変化が生じるのかを調べるという研究に協力するために、な。しかし、神谷がその年齢に達したから、休日が明けた月曜日に能力開発を受けることになった」

 

 休日は夜更かしとかせずに体調を整えておけよ、と教師は言うと、午後の授業のために、すぐさま教科書やプリントを抱えてどこかへと行ってしまった。

 

「あ、先生。俺はすでに……って、まあいいか」

 

 能力を持っている人が能力開発を受けても、結局はその後身体検査(システムスキャン)を受けるのだ。

 

 俺はそんな風に気楽に考え、職員室を出て教室に向かいながら、自分に突如発生した能力に思いをめぐらす。

 

 以前と違うのは、俺が周囲の物にかかっている重力を増減させることができること。それも突然異能力という強度(レベル)だ。そして、もう1つ。

 

 周囲にあるAIM拡散力場が観測できるようになっていることだ。

 

 それは目で見えるという訳ではなく、似ている例として挙げれば太陽光を浴びるような、あるいは爽やかな風に吹かれるような、視覚や聴覚ではなく触覚に近い形で感じ取ることができるようになっていた。

 

 原因は全くの不明。噂からの情報ではあるが、『生まれ育った環境が偶然学園都市の能力開発と同様の効果をもたらした、天然の能力者』が存在するらしく、それらを総称して『原石』と呼ぶらしい。俺のこの力も恐らくは『原石』なのであろう。

 

 能力は1人につき1つずつ。これは原石であっても変わることはない。そのため、俺の能力は重力操作ではない。

 

 それだと、AIM拡散力場が観測できる理由にならないからだ。

 

 重力操作は単なる力の一端に過ぎない。そのことを知った俺は、自分が持っている力の素晴らしさに気分が高揚する。

 

 俺は周囲のAIM拡散力場を観測する練習をしながら帰宅し、その後はずっと重力操作の練習をしていた。

 

 今のところ、重力操作は物体にかかっている重力の大きさを増減させるだけの能力らしかった。とりあえず、俺はこの能力を自在負荷(フリーウエイト)と名付けることにする。

 

「全く、本当に訳の分からない能力だな」

 

 そして、俺の能力開発の日がやってきた。

 

「それじゃあ、君はまずこの中に入ってくれる?」

 

 学園都市の能力開発には投薬や暗示などいくつかの方法があって、その日によって受けるものが違う。今回は暗示のようだった。

 

 その後の身体測定(システムスキャン)。俺は研究員の前で自在負荷の力を披露したのだが……。

 

 その結果。

 

『神谷駿斗。身体測定結果……無能力者(レベル0)

 

 

 

 

 

「どう考えてもおかしいだろ、これ」

 

 無能力者ってなんだ、無能力者って。

 

「どこに目の前で異能力(レベル2)クラスの重力操作能力を使えて、AIM拡散力場を何もせずとも観測できる上に、さらにまだ本人も知らない力が眠っている無能力者がいるんだよ!?」

 

 ここにいるじゃん、とかつっこまないでくれ。

 

 そんなことをぶつぶつと言いながら、身体測定のおかげで午前中に授業を終えた俺は、他の友達と共にファーストフード店に入り、昼飯を食っていた。ちなみに、みんなには自分が無能力者であったことしか言っておらず、俺に正体不明の能力があることは言っていない。

 

 それを言ってしまえば、なんとなく変わってしまいそうだからだ。色々と。

 

「うわ。この……黒胡椒レモンチキンバーガーだっけ? めちゃくちゃ味濃いな。これなら普通のビッグバーガー頼んだ方が良かったかも」

 

 友人の1人が期間限定商品にかぶりつきながら、そんな感想をもらしていた。それまでポテトを先につまんでいた俺も、自分のハンバーガーに手を伸ばす。

 

 包装紙をめくって1口かじってみると、彼の言った通り胡椒がききすぎて辛かった。俺は思わずむせこんでしまう。

 

「おいおい、大丈夫か?」

「や、大丈夫。全く、学園都市で販売されるものは何でこんな珍種商品ばかりなんだ」

 

 学園都市には自動販売機などを見ても、『いちごおでん』みたいな、ゲテモノとしか思えない商品が存在する。幼い頃から学園都市で暮らしている俺でも、その感性には非常に疑問を抱くのだが。

 

 『ヤシの実サイダー』みたいな、妥当な商品もあるというのに。

 

「あれだろ、企業が実験というか、試供品に近い形で学園都市の自動販売機の会社に安めの値段で売りつけている、とかいう話じゃなかったっけ」

「そうだったな」

 

 学園都市は『外』とは隔絶された環境にある。それは高い技術にしてもそうだし、文化にしてもそうだ。学園都市内の流行は、『外』の流行とはあまり関係がなく、独自のものがある。逆もまた然りだ。

 

「で、結局神谷は身体測定の結果どうだった? 確かようやく能力開発受けたんだろ?」

 

 別の友人が聞いて来る。

 

「みんなと同じ。無能力者だったよ」

「「「神谷まで同じか……」」」

 

 全員が見事にハモっていた。

 

「いや、俺たちはたとえ無能力者だとしてもめげないぞ! な!」

「まあ、そうだな。実際の所、掌から炎が出せたところで日常じゃ使う機会ないだろ」

 

 発火能力者(パイロキネシスト)でなくても、タバコや花火で火が欲しくなればライターを使えばいい。

 

 発電能力者(エレクトロマスター)でなくても、電気が欲しければ電池かコンセントを使えばいい。

 

 風力使い(エアロシューター)でなくても、風で涼を取りたければ扇風機を回せばいい。

 

 念動使い(テレキネシスト)でなくても、重いものを運びたければ車にでも荷物を載せればいい。

 

 実際の所、能力なんて何かしらの機器を使えば代用できるものばかりなのだ。もっとも、だからこそ空間移動(テレポート)などの『純粋な科学技術では代用できない』能力者は、同じ強度の能力者からも羨ましがられたりもするのだが。

 

「さあ、暗い話はここまでにして、みんなでゲーセン行こうぜ! あ、もちろんいつもの格ゲーで最下位だった奴は、缶ジュースを全員に一本ずつ奢りだからな!」

「「「おう!」」」

 

 言い出した本人がこの後格ゲーで袋叩きにされ、泣く泣く財布を取り出している光景があった。俺は『ヤシの実サイダー』を注文した。

 

 この時は、帰りに起こることを予想できてはいなかった。

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