とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト) 作:nozomu7
俺がゲーセンでの戦いも終えてみんなと別れた後、家路についていた時だった。
1人で人気の少ない道を歩いているとき、俺は見覚えのあるAIM拡散力場を感知する。何も考えず、反射的に真横に跳んだ。
すると、俺がさっきまで立っていたところに電撃が走った。
「ったく、電撃を躱すとか運が良い野郎だ」
この間の『無能力者狩り』の高校生の男だった。俺は真っ先に地面に叩き付ける。
「何の用だよ。また俺に倒されに来たのか?」
俺は言うが、予想に反し奴はその安っぽい挑発に乗る気配がない。
「この間は世話になったな」
あくまでも冷静に、それでいて他人を見下したような眼で俺を睨んでいる。
「話があるようで悪いが、俺はさっさと帰らせてもらうぜ。うっかり話し込んで帰りが遅くなったおかげで
俺はそいつのAIM拡散力場に注意しながらも、そいつに背を向けて再び歩き出す。
しかし、再び電撃が放たれ、それを察知していた俺は躱した。
「電撃を躱すだと。
気に食わねえってことには違いねえからな、と男は繰り返し電撃を放つ。俺はそれを必死で先読みし、躱していく。
能力というのは、脳で演算することによって発動する。したがって、使用し続けていれば当然脳に疲労がたまり、休まない限りうまく能力が使えなくなる。俺が狙うのはそこだ。
しばらくすると、相手が電撃を放つインターバルが長くなっていく。そしてその隙をついて、俺は
俺はほっ、と胸をなでおろす。
「危なかった。一安心だな」
「それはどうだろうな」
俺の独り言に突然答えるやつが現れた。そのことに気が付いた時には、俺の体はすでに宙に浮いていた。
「
次の瞬間、俺の体を痺れるような痛みが襲った。
「あ、ああ……」
「おいおい、そこまで強い電流を流したつもりはないんだけどなあ?」
拘束が解け、地面にどさっ、と俺は落ちる。
「これだけで動けなくなるとか、本当に情けないやつだな!」
誰かがそう言い、俺の周囲で笑い声が沸き起こる。そして、再び体を持ち上げられた。
「くそがっ……なめんな!」
俺は周囲のAIM拡散力場から、俺の周りを取り囲んでいる奴らの位置を大まかに把握する。そして、再び重力を増大させて
だが、再び俺の体に電流が流れる。
「ぐ……」
どうやら、自在負荷だけではこの状況を乗り越えられる様子はない。ついに手詰まりか?
俺はミサンガが巻かれた自分の手首を、もう片方の手で強く握りしめる。
ここでの逆転の一手はあの時と同じ……新たな力を取得するしかない。
俺の
それができなければ、無様にここで病院送りになるだけなのだから。
――『
俺の体が地面に叩き付けられる。だが、俺は歯を食いしばって作業を続ける。
必要なのはイメージだ。そして、『自分は絶対にこういう能力が使える』という自信だ。
――『
――『光』に関する情報を脳内からリストアップ
――『音』に関する情報を脳内からリストアップ
――光学操作能力を創造
――音波操作能力を創造
キィィィィン、と甲高い音が鳴り響き、俺の頭に痛みが走った。
「くっ、なっ……能力が中断された!?」
「クラスでの雑談も、時には役に立つことがあるんだな」
友人に『高周波の音で能力を阻害する装置』の話を聞いてなかったらやばかったな。俺は心の底から彼に感謝する。
自分に加えられていた力が消えたことを確認すると、俺は立ち上がった。
「生意気な!」
再び電撃が放たれるが、それは俺の生み出した虚像を貫いてその後ろにいた奴に当たった。
「おい、テメエ何やってんだよ!」
「俺にだって分からねえよ! おい、お前の能力は重力を操ることじゃなかったのかよ!?」
男たちが騒ぎ始めるが、俺は知るか、と呟くと虚像で相手をかく乱しながら順番に殴っていく。すると、1人が風で砂埃を巻き起こした。
「……まずいな」
自分自身に砂がついても、光を直接捻じ曲げているのでばれるわけではないが、周辺の空気中に漂っている砂を見れば、そこだけ妙に砂の密度が濃くなったり薄くなったりしているのがばれるかもしれない。
そう考えた瞬間、俺は後ろから誰かに肩をつかまれた。
「残念だったな」
俺の全身に焼けるような痛みが走った。そして、横から圧縮された風の球を受けた俺の体が吹き飛ぶ。
「もう一度、音を……グッ!」
地面に倒された俺は再び高周波の音を生み出そうとするが、その時肩を誰かの足に強く踏まれた。
「おい、さっきの音を出したらテメエの肩を踏み砕くぞ」
ググ、と俺の肩に体重が乗せられ、脱臼しそうになる。尋常ではない痛みが走る。すぐに自在負荷で相手の体にかかっている重力を減らすが、それでもまだかなりの力がかかっていた。高校生だと、俺たち中学生1年生とは体格の差が大きい。
「痛っ……」
痛みで能力の発動に集中できない。その時、俺は自分が非常にうかつだったことに気が付いた。
他の人が襲われていたのならともかく、自分だけが喧嘩をしているならば、今までは隙ができた時に逃げていたというのに。
不思議な能力が身に着いたことで、思い上がっていたに違いない。
「おい、そろそろ終わらせようぜ」
肩に乗っていた足が外されると、彼らの手に電撃が発生し、風が圧縮され、周りにあった石が宙に浮く。
俺は体をひねって地面を転がり、なんとか石を回避する。しかし、そこに電撃と風が迫りくる。それをAIM拡散力場から感知した俺は、覚悟をして目を閉じた。
しかし、俺の体に痛みが走ったり、体が宙に浮くようなことはなかった。
代わりに聞こえたのは、この1か月半でよく聞くようになった少年の声。
「テメエら、神谷に何やっているんだ!」
そこには、上条がその右手をまっすぐ前に突き出して立っていた。
「上条!?」
「大丈夫か、神谷。お前、能力が使えるようになったんだな」
俺は驚きの声を出すが、上条は平然とした感じで対処している。
待て、あのくらいの石ならまだ「耐えた」で済むが、電撃や風をまともにくらって無傷というのはおかしくないか?
それとも、上条は能力者だったのか、とも考えるが、彼からはAIM拡散力場が感じられない。
「何だテメエ、邪魔だ!」
……いや、違う。『全く』感じられないのだ。例え無能力者であろうとそれは存在するにもかかわらず。さらに注意してみると、上条の右手の周辺では、他のAIM拡散力場も消滅していることが分かった。
まさか、と思った瞬間、電撃が飛んでくる。しかし、それは上条の右手に吸い込まれるように触れると、消滅した。
「まさか、能力を……」
能力を消すことができるとでもいうのか。しかし、上条は自分のその右手のことをよく知っているのか、いちいち反応を確認しているような様子はない。
その時、大きな石が飛んできた。俺はそれを自在負荷で地面にたたき落す。
コイツの話は後で聞こう。今はそれよりも、やるべきことがある。
俺は立ち上がって、上条の隣に立つ。
「ありがとな、上条。……ただ、助けてもらうだけにするつもりはないから。一緒に、戦うぞ」
俺の言葉に、上条は短く答えた。
「おう!」
俺たちは同時に駆け出した。
俺は風力使いへ。上条は電撃使いへと。
上条がその右手を前に突き出すと、やはり先ほどと同じように電撃が消滅する。本来音速を軽く超える速度を持つ電撃に右手を当てることなどできないはずなのだが、上条本人が知ってか知らずか、彼も能力の前兆を読んでいるようだった。
俺は光学操作で風の攻撃をやり過ごすと、一度顔面に拳を叩き込む。さらにその後男の後ろに回り込み、自在負荷で威力を増した拳を相手の背中に振り下ろした。
その時、俺の体が宙に浮かぶ。しかし、すぐに俺は高周波の音でそれを中断させた。
「いちいち能力を切り替えると隙ができるな。だったら」
1つにまとめてしまえばいい。
――『波』に関する情報を脳内からリストアップ
――光学操作能力と音波操作能力の共通点『波動』に関して『疑似的な自分だけの現実』を構成
――『
俺は高周波の音を生み出しつつ、虚像で相手を翻弄する。
そして、
「――俺の勝ちだ。これに懲りて、もうやめてくれることを願うぜ」
ついに、俺の拳を受けた風力使いが地面に伏せたまま動かなくなった。
その時、上条の方でも戦いが終わろうとしていた。
「――能力のある奴が、ない奴を好きにして良いなんて思っているのなら……まずはその幻想をぶち殺す!」
上条の右拳が電撃使いの顔面をとらえる。
これで、残ったのは念動使いだけになった。
「で、お前はどうする。これで2度と俺たちに手を出さないのか……それとも、俺たちにまだ喧嘩を売り続けるのか」
2人でその男に迫る。
すると、男は「覚えてろ!」と小物感丸出しの台詞を吐いて逃げて行った。
『無能力者狩り』を撃退した俺たちは、近くの公園で先ほどのことについて話していた。内容はもちろん、互いの持つ能力についてだ。
「
上条の右手は『あらゆる異能の力』を打ち消すことができるらしい。範囲は右手首から先とのこと。なるほど、それなら納得だ。
「っていうなら、どうして無能力者なんだ? 俺は勝手にそう登録されたけど」
「何回か先生に訴えたことはあるんだけどな……『能力がないからって出まかせを言ってはいけません』とか言われるんだよ」
確かに、そんなでたらめな力、常識的に考えたら普通は信じないだろう。
「というと、俺も先生に訴えても適当に処理されるのがオチだな」
その可能性が非常に高い。
「そう言えば、神谷ってまさか
上条が質問してくるが、それは厳密には違うと思う。
「いや、俺もよく分かってはいないが恐らくは違う。簡単に言えば……『能力を創りだして行使する』能力だと思う。AIM拡散力場まで観測できる理由までは分からないが」
「へえ、名前は?」
名前、か。
「いや、特に決めてはない。まだまだ分からないことが多いだろうからな。どういう条件があれば能力を創ることができるのかも、まだ分かっていないし」
訳の分からない力を持つ俺たち。そのことは、親近感を湧かせていた。
しかしその一方で、俺にはコイツとの間には『何か』が決定的に違うことを感じ取っていた。
『それ』が分からない。そのことに俺は焦りを感じ始めた。