とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト)   作:nozomu7

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第113話 身勝手な怒り

 その事件をきっかけに、俺と上条は一気に仲良くなった。

 

 今までは友人とはいえ、クラスも違う上条とはそんなに頻繁に一緒にいることはなかったのだが、これを機に様々なことを話す仲になった。

 

 自分の趣味などの私生活。

 

 学校のクラスメイトの話題。

 

 さすがに、俺が置き去り(チャイルドエラー)だったことまでは話していないが、それでもかなり前進したと思う。こんなことを言っては悪いが、あいつと一緒にいると退屈しないのだ。

 

 適当なノリでみんなとバカをやって、あいつが何かの不幸に見舞われるたびに、皆でそれを笑い飛ばす。

 

 そんなことを毎日繰り返すのだ。

 

 そして、そんなことをしているうちに、上条当麻という人物のことも少しずつ見えてきた。

 

 基本的には、面倒臭がり・無気力で飄々とした性格を持っている。だが、お人好しと思えるほどの性格もしており、目の前で助けを求められれば、その人の親交の有無や自身の危険さえも気にせず、手を差し伸べる。

 

 その姿はまさしく、どんなピンチにも颯爽と現れて助けてくれるヒーロー……のはずなのだが、それはどこか、少し違っている気がした。

 

 自分でも、よく分からないが。でも、それは間違っていないと思う。

 

 そして何より、俺たちが仲良くなるきっかけであり、2人の共通項であるこの不可思議な力。

 

 上条当麻の右手にはあらゆる能力を打ち消すことができる幻想殺し(イマジンブレイカー)が。

 

 俺の体――そのどこから発生しているのかは分からないが――には、複数の能力を創り出したり、何もせずともAIM拡散力場を観測できたりする力が。

 

 それぞれ、公になれば大騒ぎになること間違いなしの力が備わっていた。

 

「思いっきり学園都市にケンカ売ってるもんな」

 

 前にも言ったが、学園都市では『科学的なアプローチによる超能力開発』が行われている。

 

 その最終的な目的は、『神ならぬ身にして天上の意志に辿り着くもの(SYSTEM)』とか言っているらしい。

 

 つまり、人間のままでこの世界を作った神様の答え……考えを知って理解してしまおう、という目標を掲げているのだろう。(と、俺は思っている。正確にはどうなのか、知らないが)

 

 それを踏まえて考えると、俺のこの力はまさしく能力を『創り出す』という点において、創造主、つまり神様が持つと思われる力に近いものがあるのではないか。

 

 そして、上条の力はそれらを否定することができる。

 

 こんな力が存在していることが公になったら、ろくなことにならないだろう。最も、話したところであまり信じてくれる人はいないと思うが。

 

 どちらにせよ、無能力者(レベル0)として扱ってくれるのならそのままでいた方が良さそうだ。

 

 しかし、そんな風に生活を送りつつ、『一端覧祭』の開催を心待ちにしている中で、ついに俺たちにも能力者たちの刃が迫って来ていた。

 

 

 

 

 

「え、6人も入院した!?」

 

 ある日、朝のSHRで教師から告げられた内容に、教室に動揺が広がった。

 

 その前日、俺たちの学校の1年生の男女計6人が『無能力者狩り』の手によって病院送りにされたらしい。

 

 実際には、そのうち2人は低能力者(レベル1)だったのだが、とても手に負えなかったようだ。

 

 その動揺は大きく伝わると同時に素早く広がっていく。

 

「おい、どうする……」

「そんな」

「無理だって」

「しばらく登校しない方が良いんじゃ」

「しばらくって、いつまでだよ!」

 

 動揺が、不安が、恐怖が、俺たちの学校を侵食していく。

 

 やり場のない怒りがぶつけられていく。

 

 一般的に能力開発は、努力によって克服できるとされている。

 

 しかし、実際には勉強の得意不得意、身体能力の生まれつきの優劣があるように、例え同じ時間割り(カリキュラム)をこなしても同じだけ能力が開発されるわけではない。

 

 能力の種類は完全なる運にゆだねられる。そして、スタートラインも人によって違う。

 

 もちろん、努力によって能力が向上する人もいる。しかし、それはごく一部だ。以前にも言ったように、この街の学生の6割は無能力者なのだから。

 

 それはつまり、230万人のうち6割は努力が報われていないということだ。まあ、全員がまっとうに地道な努力をしているわけではないのだが、平たく言ってしまえばそういうことになる。 

 

「なあ。俺たち、本当にこのまま学校に通っていて大丈夫なのかな」

 

 俺の友人の1人が、昼休みにそんなことを言った。

 

「おい、お前まさか」

「不登校なんて良くないって分かっているんだけどさ……だけど、やっぱり怖いんだよ」

 

 彼には、幼馴染である少女がいた。

 

 それは俺たちも知っていた。彼らは仲睦まじく、はっきり言って学年のほとんどが半ば公認しているカップルだったのだ。(正式には付き合っていないらしいが)

 

 しかし、彼が彼女と2人で帰っているときに『無能力者狩り』に襲われかけたらしい。なんとか逃げたらしいが。

 

 彼女は低能力者だったが、その能力は精神感応(テレパス)だった。まあ、仮に発火能力(パイロキネシス)などの攻撃的な能力を備えていたとしても、複数の男子高校生相手ではあまり役に立たなかったであろう。

 

 そもそも、よほどの能力差がない限り、あるいは何か特別な手段でもない限り、中学生が男子高校生の高位能力者に勝つのは難しいにもほどがある。

 

「やっぱり、実際に会うと怖いんだよな」

 

 そう言われて、俺は迷った。

 

 俺の持っている力を、皆に言うべきか否か。

 

 ここで使って見て証明すれば、皆は俺のことを頼もしく思ってくれるだろう。

 

 しかし……この騒ぎが終息したら、俺は今まで通りの生活を送れなくなってしまうかもしれない。この、多くの友人に囲まれていて楽しい生活を。

 

 そう思うと、俺は言えなくなってしまった。

 

 そしてその放課後に、彼は病院送りにされた。

 

 

 

 

 

「ふざけるな……!」

 

 俺は拳を握りしめた。

 

 友人が病院送りにされた。それだけで、殴り込む理由は十分だった。

 

 これは、決して正義感などと言う褒められたものではない。もっと自分勝手な理由だ。そもそも『悪』を懲らしめる『正義の味方』なら、例え見知らぬ人が傷つけられても、それだけで怒りを覚えるだろうから。

 

 俺は自分の世界を守りたい。それだけのシンプルな理由だ。

 

「……全く、中途半端だよな」

 

 正義感あふれる行動をしておきながら、実際のところはただ人に自分を良く見せたいだけだ。それに気づいていても、その考えをやめられない自分に嫌気がさした。

 

 それでも、俺は行く。

 

 『無能力者狩り』たちが集まっているという噂の廃工場に向かう。そして、以前俺に襲い掛かってきたAIM拡散力場を頼りに、連中の居場所を探り出す。

 

「おい、最近の騒ぎの原因は、お前らで良いんだよな。返事は聞かねえぞ」

 

 そして、一方的に啖呵を切ると、殴り込んだ。

 

 まずは近くの鉄パイプをつかむ。1人が炎を生み出そうとするが、それよりも早く重力の増加によって威力が増したそれを振り回し、わざと避けさせて能力の発動を中断させる。

 

 その後、後ろから水流操作(ハイドロハンド)の水が弾丸のように迫りくる。水と言っても強能力(レベル3)くらいの出力をもつそれは、当たればその水圧でコンクリートの壁であってもひびが入るだろう。さすがに殺しまではしないだろうから、手加減はしているだろうが。どちらにしろ、当たりたいものではない。

 

 虚像で相手をかく乱させ、その水弾を避ける。そしてそのまま近づくと、そのみぞおちに拳を打ち込んだ。

 

 そのまま追撃を加えようとするが、後ろで風が発生したことをAIM拡散力場からつかんだ俺はすぐに攻撃を中止して回避に移る。風を操る能力は、大能力者(レベル4)ならまだしも強能力者であれば、姿勢を低くして耐えるだけでも十分に対処できる。

 

「こんなもんで終わると思うな!」

 

 俺は怒りに身を任せ、鉄パイプを叩き込む。1人の男の持っていた鉄パイプが真ん中で折れて、俺が振り下ろした鉄パイプが相手の頭に当たり、鈍い音が鳴り響く。

 

 そんなことを何度繰り返したかわからない。しかし、俺は次第に、そして確実に疲労していった。

 

 考えなしに突っ込んだ結果だ。

 

「くそ! まだまだこんなもんじゃねえぞ!」

 

 水を避け、炎を避け、風を高周波の音で中断させ、身体強化された相手は自在負荷(フリーウェイト)でその運動を妨害する。その攻撃の合間を縫うように、俺は攻撃を加えていく。

 

 AIM拡散力場を読むことで、相手の先手を打っていく。

 

 そんなことを何度繰り返しただろうか。俺には疲労がたまり始めていた。

 

 無理もない。そもそも、能力の発動にはある程度の集中力が不可欠だ。もっとも、本来必要とされるはずの演算は、俺は無意識で全て行っているのか、全く意識的に行っていないが。

 

「テメエら……どうしてこんなことしやがるんだ!」

 

 永遠に終わりそうにないと感じた俺が、叫ぶ。

 

「は、何言ってるんだ。お前だってそうなんだろ?」

「何がだ!」

 

 意味不明な言葉に、俺は返す。その言葉に怒りを覚える。

 

 ふざけるな。俺は、こんなやつらとは絶対に違う人間だ、と。

 

 すると、1人の『無能力者狩り』が笑う。

 

「お前だって能力者だ! だったら、さぞかし学校で無能力者(役立たず)どもを好きにできているんだろうなあ!」

 

 その表情を見た俺は、さらに手に力を込めた。

 

「な……ふざけるな!」

 

 俺はその言葉に怒りを爆発させる。

 

「無能力者は役立たずなんかじゃない。それは『能力』などという一方的で、物事の片面だけをとらえた評価に過ぎない! そんなことも分からねえのか!」

 

 何も考えず、ただ力任せに重力を増加させながら相手に鉄パイプを叩き込んでいく。

 

 正直、怖かった。

 

 『役立たず』だから、また周りに『置き去り』にされるのか。

 

 いつもの日常に、終止符が打たれてしまうのか。

 

 気が付いたら、水流操作と風力使いの2人が気絶していた。体のあちこちからは少しだが血が流れている。

 

「そん、な……」

 

 ……やっちまった。

 

 その事実に、俺は愕然とする。

 

「おい……」

 

 その時、声がした。

 

 水流操作の男だ。

 

「俺たちは、こんなもんじゃない。お前もいつか、リーダーに倒される。むしろ、あいつに頭を下げて仲間に入れてもらった方が良い」

 

 そいつは、先ほどまで喧嘩していたとは思えないほど冷静に話す。

 

「何を……」

「だから、あいつ(・・・)だけは怒らせるな。それだけは、やめておいた方が良い」

 

 どういうことだ?

 

 俺は訳の分からないまま、その男の言葉に耳を傾ける。

 

「あいつは敵に回さない方が良いんだ。単に大能力者(レベル4)というだけではない。それ以外にも、かなり姑息な手を使う。俺のように、『無能力者狩り』をしていた証拠を押さえて脅迫したり、とな」

「何!?」

 

 脅迫。その2文字で、俺は事態をわずかながら理解した。

 

 こいつらは、好き好んで無能力者狩りをしていたわけではない。

 

 たしかに、始めは自分からだったのかもしれない。しかし、その証拠を取られて脅迫されていたら?

 

 無能力者狩りはもちろん立派な暴行罪だ。だから、その証拠を抑えられたら普通の学生はおとなしく言うことを聞いてしまうだろう。

 

 やめたくてもやめられなくなってしまう。

 

「名前とかは、分からないのか?」

「……すまない」

 

 俺は、呆然とした表情のまま廃工場を後にした。

 

 結局、俺は怒りに任せて進んだ結果、自身の進む道を失ってしまったのだ。

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