とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト)   作:nozomu7

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第114話 暴力と救いと

 しかし、黒幕である大能力者(レベル4)は案外とすぐに見つかった。

 

 俺たちの中学校の近くにエリート校に在籍している高校生。能力は空力使い(エアロハンド)風力使い(エアロシューター)などと同じく気流を操作する能力の1つだが、その実態は『空気の手(エアロハンド)』というその名の通り、風を利用して物体を動かすことができる能力だ。

 

 大能力クラスともなれば、気流の強さ・方向を自在に設定して手で触れた部分に噴射点を作ることで、物体をミサイルのように飛ばすこともできるはず。戦闘能力は高いと見た方が良い。

 

 しかし、その力は周囲にある物体に手を触れない限り発動できない。逆に、一度能力を使用してしまえば恐ろしいスピードでその物体が迫りくる。

 

 作戦は1つ。

 

 喧嘩をふっかけたら、すぐに光学操作を使用しつつ接近、自在負荷(フリーウェイト)の有効範囲内まで迫ったら相手を地面に叩き付け、速やかに拘束する。

 

 これしかない。

 

 俺は治安の悪い場所に行くと、AIM拡散力場を頼りに大能力の空力使いを手当たり次第に探し出す。

 

 大能力者の空力使いと限定すれば、学園都市には何人もいないはずである。というのも、学園都市の人口は230万人らしいが、まず能力開発を受けている人間、つまり学生はその8割。その中でも無能力者(レベル0)は6割なので、能力を使用できる人間がそもそも4割……つまり、230万人の3割強。

 

 そして、大能力者(レベル4)というとごく一部であり、さらにその中で空力使いというとかなり限定できる。……といっても、そこそこにポピュラーな能力なので『ハズレ』に当たる可能性も否定できないが。

 

 そんなことを考えているうちに、見つけたのだ。

 

 空力使いの大能力者。

 

 体格や髪型なども教えられた通りの人物。制服から察して、近所のエリート高校に在籍しているようだ。

 

「……どうしてこんなことしているんだか」

 

 他の学生と同じように普通に日常を送っていれば良いのに、どうしてそれができないのか。俺には理解できなかった。

 

 能力を持っているからと言って、それを好き勝手に振りかざして良い理由にはならない。それは当然のことだ。

 

 それは言うならば、権力のようなもの。たとえどんなに偉い地位に納まっていたって、その権力を傲慢に振りかざしていれば周りからは疎まれるし、法に反すれば逮捕される。

 

 常識的に考えればすぐに分かることだ。

 

 しかし、優越感というのは何にも代えがたいものなのだろう。俺にはよく分からないが。

 

「まあ、許すつもりはないがな」

 

 絶対に止める。俺の生活を守るために。

 

 俺はそのまま後をつけた。

 

 

 

 

 

 廃工場に置いてあったコンテナが、砲弾のように迫りくる。しかし、あらかじめAIM拡散力場からその攻撃を予想していた俺は、その攻撃を楽に回避した。

 

「どうした、この程度かよ!」

 

 俺は自在負荷で重力を減少させた何かの機材を相手に向かって投げつけると、能力を波動干渉(ウェーブインターフェア)に切り替えて姿を隠す。

 

 そして、そのまま接近して拳を振りかぶり……

 

 強力な風によって吹き飛ばされた。

 

「がはっ、な……!」

 

 アッパーカットのような一撃。

 

 物を飛ばすのではなく、風そのものによる直接的な攻撃。能力を考えればあり得ないことではない。

 

 しかし、すぐそばに『噴射点』を設置でき、なおかつこの出力でも動かないような物体はなかったはずだが……と考えた時、気が付いた。

 

 地面に噴射点が設置されていたことに。

 

「おいおい、俺が物を飛ばすだけの単純バカとでも思ったのか? 違うんだよ。空力使いは気流を操って物を飛ばす能力とされているが、空気の『噴射点』の指定に制限など存在しない。例えば、地雷のように『噴射点』を設置することもできる」

 

 その男は余裕の表情を浮かべながら解説する。

 

「空力使いは低い強度(レベル)であれば、風はそこまで脅威にはならない。だがな、大能力者である俺にその甘い考えは通用しないんだよ」

 

 男が再び近くにあるコンテナに手を触れる。それに『噴射点』をつけて能力を発動するために。 

 

「全く、俺たちをなめた真似をするからこうなるんだ……。無能力者(レベル0)は黙って能力者(俺たち)のされるがままにしていればいいんだよ! 」

 

 コンテナに『噴射点』が設置され、それが加速する。

 

 だが、俺は自分自身にかかっている重力を軽くすると、全力で横に跳んでそれを回避した。

 

「何が『無能力者は黙って能力者のされるがままにしていればいい』、だ。テメエはただ能力値が高いだけ。人間としては最低だろうが」

 

 俺は相手を強くにらみつける。

 

「本当にテメエは小っせえ野郎だよ。力がある、それがどうした? テメエが振るってるのはただの“暴力”であって“権力”ではない。テメエみたいな下種に、俺たちをどうこうする権利などない!」

 

 足で地面を強く蹴り、再び俺は相手に迫る。

 

「まして、俺たちの平穏を乱すことなんて、許されると思っているのか!」

 

 その途中で、俺は地面の石を思い切りけり上げた。狙いは、相手の頭部

 

「は、どっちに蹴っているんだよ!」

 

 ――ではなく、その後ろにある廃工場の柱だ。

 

 再びコンテナに『噴射点』が設置されようとした時、石が鉄柱に当たり、カァァァァンと小気味良い音が響く。そして、その音はすぐに周波数を変えた。 

 

 そう、キィィィィンという、あの能力を妨害することができる音へと。

 

「ぐっ!?」

 

 相手が頭を押さえ、能力が中断される。それは俺も同じであるが、それによってできた隙を俺は見逃さない。

 

 一気に相手に迫った。

 

 拳を握りしめ、相手の顔面に突き出す。音は消えてしまったが、この距離なら俺の拳の方が早い。

 

 だが次の瞬間、その横で爆発が生じた。しかし、その攻撃は。

 

「別の奴がいたのか!」

 

 俺は慌てて横に転がる。しかし、体をその爆風が叩く。

 

 俺は体の痛みをこらえながらゆっくりと立ち上がると、その男を見据える。

 

「今のは……」

「中坊のオツムじゃ分からねえかもな? 量子変速(シンクロトロン)と言って、アルミを起点に重力子(グラビトン)を加速、放出させることで爆発を引き起こす能力なんだけどよ」

 

 もう1人の男は得意げに語る。要するに、アルミを爆弾に変えることができるのか。

 

「タネを明かすとはずいぶんと余裕だな」

「お前がもう1人を忘れているからな」

 

 その言葉を聞いた瞬間、再び空力使いが能力を発動したことをAIM拡散力場から感じ取った俺は、横に跳んでそれを回避する。

 

「何だと……? 未来予知なのか? いや、空間把握の可能性の方が高い、か?」

 

 その様子を見た空力使いが言葉を漏らす。

 

「光学操作と音の発生。さしずめ波動を操るってところか? 空間把握も音の反射を感知できるとすれば説明がつく。随分と応用の幅が効きそうじゃねえか。だが、出力自体は高くねえな。せいぜいが異能力(レベル2)ってところか」

 

 空力使いは『無能力者狩り』のリーダーであるだけあって、冷静に俺が使った能力を分析していく。少し間違っているとはいえ、ここまで分析できるというのは、頭は悪くない証拠だ。

 

「なるほどな。やはりお前は良くも悪くも頭が回る」

「まあな。俺たちはエリートだろ? こいつの中学の奴らみたいな“落ちこぼれ”と違ってな」

 

 その言葉に俺は再び頭が沸騰しそうになるが、なんとか苛立ちを抑えた。

 

 落ち着け神谷駿斗。そもそも、俺の目的は自分の世界を守ることのはずだ。だったら、こいつらの評価などいちいち気にする必要はない。

 

「“落ちこぼれ”、ねえ……。だったら、勘違いしたまま地に伏せろ!」

 

 俺は空力使い、量子変速の2人からの攻撃を躱し、波動干渉で姿を消し、虚像を生み出しながら量子変速の男に迫る。しかし、あとその男に一歩まで迫った時、俺は前進をやめて後ろに跳び退いた。

 

 すると、その直後にコンテナが猛スピードで俺の目の前を横切った。

 

「危ねえっ!?」

「ちっ、また躱されたか」

 

 そこにスプーンが投げつけられたのを見て、俺は慌ててそれを重力で地面に叩き付ける。

 

 そして、爆発した。

 

 空力使いの攻撃で少しは距離が開けられていたとはいえ、俺はその爆風に巻き込まれてしまう。

 

「が、は……!?」

 

 そして足から力が抜け、膝をつくとそのまま地面に倒れそうになるが、俺は歯を食いしばって立ち上がる。

 

 だが、そこに再びアルミ缶が迫った。

 

「終わりだ、ヒーロー気取り!」

 

 爆発が起こった。

 

 俺は目を閉じてその衝撃に備え、何もできずにその時を待つ。俺がおそらく病院で目覚めることになるであろうその時を。

 

 爆風よりも先に、爆炎が生み出した赤外線が俺の体を熱にさらす。

 

 俺は覚悟を決め――しかし、そこで声が聞こえてきた。

 

「神谷ぁぁぁぁあああああああ!」

 

 それは、この1か月半で聞き慣れた声だった。

 

 その声の主は、俺が心のどこかで憧れていた少年だった。

 

 その少年は、俺と同じように不可思議な力を宿している人物だった。

 

 そう、その男は。

 

「な、爆風が消え――」

「お前ら、神谷に、俺の友達に何しているんだよ……!」

 

 上条は世界一不可思議なその右手をまっすぐに前に突き出しながら、俺の前に立つ。

 

 その姿はとても頼もしく――そして、とても眩しく見えた。

 

「お前らが神谷を傷つけようとするのだったら……そんなことはさせねえ!」

 

 上条は勢いよく啖呵を切った。

 

「上条、お前……」

「神谷、大丈夫か!?」

 

 俺が混乱したまま言いかけると、上条は焦ったように言葉をかけてきた。その眼は必死だった。

 

 心の底から、俺のことを心配してくれていることが分かる。

 

 だから、余計に分からなくなる。

 

「どうして、やってきた。ここは、お前が通るような道ではないだろう?」

 

 どうして、上条はこんな場所にやってきたのか。俺のわがままのような復讐に、どうして介入してきたのか。

 

「人助けにやってきたというのなら、俺を庇うな。俺がやっているのは八つ当たりに近い。とても褒められたことではない。お前のような善人が、俺を庇うような必要なんかないんだ」

 

 俺がやっているのは、『暴力』という分かりやすいマイナスがあったから、俺の平穏を邪魔した元凶に対して八つ当たり気味に怒っているに過ぎない。だから、勝手に自爆している俺を、こいつがかばう必要なんかないんだ。

 

 なのに。

 

「何を言っているんだよ。……俺がやりたいと思っているんだ! 上条当麻自身が神谷駿斗に手を貸したいと思っているんだよ!」

 

 こいつは、そんなことをすぐに言った。

 

「それが善だとか悪だとかじゃない。俺が『こうしたい』と思ったからやっているだけだ。俺は善人なんかじゃない。俺はただの『偽善使い(フォックスワード)』だから」

 

 上条は、俺の考えを否定した。

 

 自分は善人などではない、と。

 

 善や悪に関わらず、自分が救いたい相手を救うのだと。

 

「だから、見せてやる。お前が救われる必要なんてないと思っているのなら、まずはその幻想をぶち殺す!」

 

 そして俺は、その言葉に、不覚にも感動してしまったのだ。

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