とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト)   作:nozomu7

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第115話 その幻想《ちから》の名を

 次に来たのはアルミ缶だった。つまり、空力使い(エアロハンド)がアルミ缶をミサイルのように飛ばしたのだ。

 

 そして、それが量子変速(シンクロトロン)で爆発する。

 

 だが、上条は右手を前に突き出すだけで爆風を打ち消した。

 

「これが、幻想殺し(イマジンブレイカー)……!」

 

 たとえ学園都市ではエリート扱いされ始める強能力者(レベル3)の威力であっても、それが異能の力によるものであれば問答無用で打ち消すことができる右手。

 

 能力者に対する武器としては、これ以上ない防御能力。

 

 俺はその実態を改めて見て驚愕する。

 

「くそ、無傷だと……こいつ、高位能力者か!?」

「いや、俺はそんな者じゃない。ただ、ちょっと不思議な右手を持った無能力者(レベル0)だよ」

 

 上条はそのまま量子変速との距離を詰める。

 

 だが、俺は死角からの攻撃をAIM拡散力場で感じ取った。

 

「上条、下がれ!」

 

 上条が俺の大声に思わず、といったように後ろへ跳ぶと、その直後にコンテナが恐ろしい速度で通過した。

 

「また空間把握か!?」

「は、そんなもんじゃねえよ!」

 

 頼もしい味方が現れた俺は、落ち着いて状況を整理する。

 

 こちらの戦力は、上条と俺。あらゆる能力を打ち消すことができる幻想殺しと、正体不明の――恐らくは特定条件下で異能力(レベル2)相当の能力を創り出すことができ、AIM拡散力場の観測なども可能な――能力。今のところは、重力の増減ができる『自在負荷(フリーウェイト)』と、光波や音波など、あらゆる『波』を操ることができる『波動干渉(ウェーブインターフェア)』だけだ。

 

 相手の戦力は、大能力者(レベル4)の空力使いと強能力者の量子加速。

 

 こちらのほうが手札は多いし、特殊な力ではあるが、出力に大きな差があるのでかなりきつい。

 

 だけど、真剣に勝つことを考えて行けば……勝機は見えてくる!

 

「上条、お前は量子変速……爆弾野郎の方を頼む! 空力使いのほうは任せろ!」

「了解!」

 

 俺たちはそれぞれの相手の前に立つ。

 

 そして、俺は能力の創造を開始する。

 

 ――今まで情報を取得したAIM拡散力場をピックアップ

 

 相手から放たれるコンテナを右に避けつつ、ある程度の距離まで近づいて行く。

 

 ――『物質の結合』に関する情報を脳内からリストアップ

 

 AIM拡散力場から攻撃を先読みし、何かの部品のようなものを身をかがめて避ける。

 

 ――『疑似的な自分だけの現実(パラ・パーソナルリアリティ)』を構成

 

 俺があと一歩の距離まで迫り、相手がその手に持った鉄塊を前に突き出す。

 

 ――『結合分解(ディコンポジション)』能力を創造

 

 そして、その鉄塊に対して2人の能力が同時に発動する。

 

 1つは空力使いによる、風のブースター。

 

 そしてもう1つは俺の『結合分解』による、鉄塊の分解だ。

 

 さて、ここで問題。

 

 風のブースターによって加速度が入った物質が、その重力に逆らえるほどの運動エネルギーを得ることもなく、複数の塊に不規則な形状で分解されたらどうなるか。

 

 空力使いは能力の発動の時に、その物質の運動をコントロールできるように、その重心を考えた上で『噴射点』を設置することで、その運動の向きが自分の想定したものと変わらないように気を配っている……らしい。

 

 これはどういうことかというと、空気の噴射によって発生した力が正確にその物質の重心をとらえることができないと、その物質が回転運動を始めてしまい、その運動の向きが制御できなくなるからだ。

 

 そして今、俺は風のブースターが接続された鉄塊を不規則な形に分解した。

 

 

 つまり、運動の制御が手放された鉄塊が回転しながら暴れ出す。

 

 

「ぐあっ!?」

 

 自分の能力である『噴射』による暴風を受けた空力使いが、そのまま後ろに吹き飛ばされた。そして、そのコンテナ(から分解で切り離された部分)の鉄塊は回転したまま宙を舞い、廃工場の壁の天井近くにある窓ガラスを派手な音と共にぶち破り、外へと飛び出した。

 

 結合分解は物質の結合をしているクーロン力や分子間力に作用して、原子間や分子間の結合を切り離す能力だ。

 

 これは何らかの物質を媒介にして能力を使用する者に対しては非常に有効だ。その物質そのものをバラバラにすることができるのだから。

 

 これが、俺の『能力を創る』力の長所。1つ1つの出力は低くとも、常に相手にとって相性の悪い手札を自ら生み出すことができる。

 

 じゃんけんでいえば、グーとチョキとパーを同時に出せるようなもの。

 

 それは異能力と大能力という出力の大きな差があっても、埋め合わせることができる。

 

 そして、割れた窓から落ちてくるガラスを注視している空力使いを見た俺は、その大きな隙を見逃さなかった。

 

「その隙を頂いた!」

 

 俺は光を反射しながら雨のように降り注ぐ大量のガラス片を無視して、そのまま突き進む。

 

「な、バカか!?」

 

 そう、普通ならあり得ないその行動に空力使いが驚愕した。その気になれば、先ほどのように地面に『噴射点』を設置してガラス片を吹き飛ばすことができたにも関わらず。

 

 俺のその常識外れな行動が、相手の幻想(思い込み)をぶち殺す。

 

 そして、俺の無防備な体に刃の雨が降り注ごうとする瞬間、そのガラス片の動きが突如鈍くなった。

 

 そう、そこの重力だけが弱くなったかのように。

 

「くそっ――!?」

 

 相手は周囲の物体を飛ばすために周囲に目をやるが、俺は自分にかかっている重力をも軽減して、さらに加速する。

 

 相手にその能力を使うことも許さず、ただ速く。

 

 1人では決して打ち砕く(縮まる)ことのなかったその幻想(距離)ぶち殺す(ゼロにする)

 

「お前が、無能力者(レベル0)を能力者の都合の良いように扱おうなんて思ってるなら」

「お前らが、その力を人を傷つけることにしか使えないなんて思ってるなら」

 

 自然に腹の底から力強い声があふれ出た。2人の声が、重なる。

 

「「まずは、その幻想をぶち殺す!」」

 

 2人の拳は、各々の相手の顔面に叩き付けられ、そのまま相手は地に伏せる。

 

 俺たちの戦いが、終わった。

 

 

 

 

 

 俺は2人の『無能力者狩り』が倒れたことを確認すると、どうすれば良いのか分からず、重傷もなさそうなのでとりあえずそのままにして廃工場の外に出た。

 

「そういえば、どうして神谷はこんなところに来ていたんだ?」

 

 ふと思い出したように、上条が俺に訊く。

 

「ああ、それは」

 

 と言いかけて、俺は1回口をつぐんだ。自分勝手で、誇大妄想のような理由で殴り込みに行ったことが、なんだか恥ずかしく感じられたからだ。

 

 だが、俺はその考えを軽く頭をふって追い払うと、その言葉を告げた。

 

「俺は、ただ守りたかっただけだよ。自分の日常をな」

 

 その言葉に、上条はどう返すのだろうか。

 

 自分勝手な理由だと、呆れるのか。

 

 それとも、予想の斜め上を行くのだろうか。

 

 恐らくは後者だろうな、と俺は予想する。そして、それは当たっていた。

 

「そっか。良かったな」

 

 上条はそれだけ言って前を見た。

 

 その仕草がなんとなく、こいつらしいと思う。

 

 しばらく2人で歩いていたが、ふと思い出したように上条が訊いてきた。

 

「結局さ、神谷の能力って何だったんだ? 能力を創りだす能力、で合っていたのか?」

 

 聞かれて、俺は少し考えた後に答えた。

 

「少なくとも、俺はそれで合っていると思う。ただ、その現象を起こすには、それに対してある程度知識と理解があることが求められるようだが」

 

 この能力は日頃の勉強が直結するらしい。これは、物理や化学の勉強をがんばなければならなくなったようだ。

 

「そうだな。さしずめ、名づけるんだったら……」

 

 どのような名前が良いだろう。

 

 『能力創造(スキルクリエイト)』? それは安直すぎるか。

 

 『変幻自在(ファンタスカマロジック)』? 『万華鏡(カレイドスコピック)』? どちらもしっくりこない気がする。

 

「名づけるんだったら?」

 

 そう聞き返すこいつの顔を見て、俺は思いついた。

 

 いや、もっと自分が望むことをするべきだ、と。

 

 俺は上条当麻にいつか追いつく。そして、もっと自分の理想の姿に変わる。そう決めた。だから、この力の名に、1つの意味を込めることにする。

 

 俺のような暗闇の中で自分の行く先を模索しているような人々に対して、その心の中に抱いている幻想の世界を、この現実で創造して見せようではないか。

 

 

幻想創造(イマジンクリエイト)。みんなが、そして俺自身が望む幻想をこの世界に創造する。それが、俺の力だよ」

 

 

 上条の右手『幻想殺し』があらゆる異能の力を打ち消すものであるのに対し、俺の体に備わっている『幻想創造』は、特定条件さえ満たせばあらゆる異能の力を創り出すことができる。

 

 それが、俺の力だ。

 

「幻想創造、か」

 

 上条が呟く。上条はどのような思いをして、その言葉の意味を受け止めたのだろうか。

 

 分かるか。俺が今ここに立っていられるのも、この力にそんな名前を付けることができたのも、お前のおかげなんだ。

 

 だから、本当にありがとう。そして、これからよろしく。

 

「じゃあ、帰ろうか。元の……いや」

 

 元の日常、と言いかけて、俺は訂正した。

 

「平和で、でも新しい日常に、さ」

 

 その言葉に、上条は笑顔で答えてくれた。

 

「おう!」

 

 

 

 

 

 そんな訳で、俺たちは少しだけ変化した日常に帰った。

 

 俺は上条とともに幻想殺しや幻想創造について、さらに調べることにした。2人とも、自分の力のことは積極的に他の人に教えることがなかったので、正体のわからないこの力の解明の第一歩となった。

 

 幻想殺しの効果範囲は、上条の右手首から先であること。

 

 幻想殺しは、能力の一か所に触れれば消滅が連鎖的に起こっていくため、点攻撃よりも幅の広い面攻撃の方が有効であること。

 

 幻想創造は、他の能力者が持っているような『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』に近いものを生み出すことで能力を創造するということ。俺はこれに、『疑似的な自分だけの現実(パラ・パーソナルリアリティ)』と命名した。

 

 幻想創造は、AIM拡散力場を何もせずとも観測できること。

 

 幻想創造は基本的に異能力(レベル2)クラスの力を生み出すが、それは何度も使用するうちに強能力(レベル3)クラスの力に成長し、一部は大能力(レベル4)クラスに匹敵する可能性まであるということ。

 

 このように解明が進んでいくにつれ、新たな発見と同時に新たな疑問が発生する……といういたちごっこを俺たちは繰り広げた。

 

 ああ、それともう1つ。俺にとって良いことがあった。

 

 上条……いや、当麻の両親と知り合うことができたんだ。

 

 俺が置き去り(チャイルドエラー)であることを明かしても、当麻は何も変わらないでいてくれた。そして、当麻の両親である、父親の刀夜さんと、母親の詩菜さんも俺のことを受け入れてくれた。

 

 そのおかげで、俺は自分が置き去りであることに対して、もっと真正面から立ち向かうことができた。そして、いつか幼馴染2人と出会うとき、俺は彼女たちに向かって堂々と立っていられるような、頼もしい『お兄ちゃん』でいよう、という目標も生まれた。

 

 これが、俺が魔術と出会う、3年前の出来事だった。

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