とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト) 作:nozomu7
翌日の朝。当麻の母親、上条詩菜さんは「家の玄関の鍵をかけ忘れた」と言って家に戻っていった。なぜかミーシャが一緒について行ったらしいが。
「なんでミーシャがインデ……母さんと?」
「ん? そりゃあ彼女は恥ずかしかったのさ。これはもう、お嫁になるしかないと……」
「刀夜さん……」
刀夜さんは勝手な解釈をしていた。
「そういえば、昨日はなかなかいいムードだったじゃないか」
「覗いてやがったのか、この変態親父!」
昨日のこととは、当麻が刀夜さんと夜に話した後にミーシャと2人で
「ってか、見ていたんだったら分かるだろ!」
「冗談だよ、冗談。しかし、今時珍しいくらい奥ゆかしい子だ。何しろ、お前の手に触れようともしないんだから」
「え、『当麻の右手』に触れなかった?」
つまり、
いや、別に霊装とかだったらその服が当麻の右手に触れなければいい話だ。
つまり、それはおそらく……天使が誰かの体にいる、といることになる。
この2つの情報から推測できることは……。
「そういえば昨日、ミーシャはこう言ってたぞ……」
『御使堕しは未完成。もし完成すれば、世界に神話規模の厄災が起きる』
それってつまり、
「くそ! 今すぐ土御門と神裂のところへ行くぞ!」
「御使落しはどんな記録にもない、新しい術式だと言ったよな。だけどミーシャは、それが未完成だと言った。まるで、その意味を知っているかのように」
当麻は言う。
「そしてミーシャは当麻の右手に触れようとしなかった。それはつまり、」
「御使堕しを打ち消されたくなかった……?」
神崎が目を細めた。
「上やんとはやとん! ミーシャのところへ行くぞ!」
「くそ! 刀夜さんが犯人だったのか!?」
俺たちは上条家の新しい家に戻った後、全力で宿に向かって
「なんでだよ、父さん……!」
「急ぐぞ! ミーシャより早く刀夜さんのところに行かなくてはならないんだ!」
詩菜さんとミーシャよりも早くに上条家の新しい家に入ったら、そこにはお土産がたくさん置いてあった。それも、魔術的な意味合いを持って。
上条家の新居が御使堕しの魔方陣と化していたのだ。
しかし、それともう一つのことにミーシャが気づいた。
「刀夜さんだけが入れ替わりをしていないことがばれた……!」
あまりに当たり前すぎて、うっかり見落としていた。
今は、本人が本人の外見をしていないというのに。
「くそ! もっとスピード出ねえのかよ!」
「しょうがねえだろ! 即席で創り上げた能力だぞ、これ!」
さらに、本来創り上げたばかりの能力は
「「間に合えぇぇぇー!」」
「……父さん」「間に合ったか!」
当麻の呼び掛けに、夕焼けで赤く染まる海辺を歩いていた刀夜さんは振り向いた。
「……何で、だよ?」
当麻は父親と話し始める。その幻想を殺すために。
「当麻? 何を――」
「何でオカルトになんか手を出したんだよ!」
刀夜さんの表情が変わる。
「何を、言ってるんだ、当麻。それより―――」
「シラを切ってんじゃねぇ! どうして魔法使いの真似事なんかしたんだって言ってんだ!」
刀夜さんは、何かを諦めたように目を海辺のほうへ逸らした。
「あんな方法で願いを叶えようとは……馬鹿なことだとは、私自身も思っていたのだがな」
刀夜さんの話が始まる。
「なあ、当麻。お前は幼稚園を卒業するとすぐに、学園都市に送られてしまったから覚えていないのかもしれないが……お前がこちらにいた頃。周りの人達から何と呼ばれていたかを、覚えているかい?」
「……、?」
当麻は眉をひそめる。
当麻は、そのころはまだ小さな子供でありあまり世間のことなど知らなかった。
しかしその答えを、刀夜さんはゆっくりと告げる。
「『疫病神』、さ」
刀夜さんはその言葉をはっきりと告げた。
「分かるかい、当麻。お前は確かに生まれ持ち『不幸』な人間だった。だから、そんな呼び方をされたんだろう。しかし、それは子供たちの遊びの延長のような、怖い話を聞くときのような好奇心では終わらなかった。大の大人までもが、そんな名でお前を呼んだんだっ!」
刀夜さんの口調が、荒いものになっていく。
「お前はただ『不幸』だからというだけで、そんな名で呼ばれていた! さらに、その範囲にもとどまらなかった! お前が『不幸』をもたらすという考えに縛られた大人がある日、当麻を襲ったんだ!」
当麻ははっとした顔になった。
「そういえばあの日……学園都市に送られる少し前に、後ろからいきなり襲われたことがあった……」
「そうだ。少し遅くなってしまったが、あの事件で決心を固めた。あんなオカルトなんか信じる人のいない、科学の街に当麻を送ろうと。その街でなら、当麻も襲われることなく暮らせるはずだと」
事実、当麻の不幸はクラスメイトにとっては笑い話としてしか扱われていない。刀夜さんの願いの一つは、無事に叶った。しかし、それで根本的な解決がされたわけではない。
「常識など通じず、科学の最先端手法も効果はなし。だから、私はオカルトに手を染める事にした。当麻を『不幸』から救い出したかった」
俺たちは刀夜さんの思いを静かに聞いていた。