とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト)   作:nozomu7

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第42話 抱朴子、そして入寮

「はあ、注意しろよな。いくら補習があったからといって、夏休みの宿題の存在を頭から消し去っていた人間はお前以外にいないと思うぞ?」

「ぐっ……言い返す言葉もございません」

 

 御坂が絡んだ騒動も終わり、ファミレスで原稿用紙にペンを走らせる当麻に俺は話す。その傍らでは、インデックスが食事をしていた。

 

「で、それは読書感想文か? それを書いていること自体は良いとしても、俺には内容にいささか問題があるように感じられるのだが」

「とうまは何の感想を書いているの?」

 

 隣に座るシスターに聞かれた質問に、当麻は簡単に答えた。

 

「桃太郎」

 

 インデックスの表情が、非常に残念な人を見たかのように変化する。

 

「とうま……。わたしの知識の中にある限りでは、桃太郎の対象年齢は5歳前後からなんだよ……」

「い、いいんだよ! 別に宿題さえできれば!」

 

 いつも通り2人がわーきゃーと騒ぎ出したので、仕方なく俺は助け舟を出してやる。

 

「インデックス、お前のその頭の中に桃太郎と関連の深そうな知識はないのか?」

「え? うんと、ね。まず、桃が流れてきた川はあの世とこの世の境目に流れる川、そこに流れてきた桃は禁断の果実と考えるべきなんだよ。それで、桃太郎はその桃の中から生まれてくるって話が基本なんだけれど、桃を食べた老夫婦が若返って子供を産んだとする説もあって、さらに家来にした猿、キジ、犬には陰陽五行説や儒教において――」

「え? ま、待ってくれインデックス! 今書き取るから……って、十万三千冊の中身をこんな所で垂れ流しにするんじゃねー!」

 

 そんな時だった。窓の外から魔力を感じたのは。

 

「弾魔の弦」

「くっ!? 当麻、窓の外に右手を向けろ!」

 

 窓ガラスを簡単に突き破ってきた衝撃波を、当麻の右手、幻想殺し(イマジンブレイカー)が打ち消す。

 

 そこには、黒いスーツの男がいた。

 

「透魔の弦」

 

 男はそうつぶやくと、姿を消して移動し――その途中で、俺は思い切り殴り飛ばした。

 

「がっ、は……?」

「甘いな!」

 

 俺に対して異能の力で姿を消すというのは悪手だ。幻想創造(イマジンクリエイト)はあらゆる異能の力を敏感に感じ取る。

 

「とりあえず、こっちに来やがれ!」

 

 俺は男の首根っこをつかむと、掌から圧縮した空気を噴射して隣のビルの屋上へと移動する。

 

 

 

 抱朴子(ほうぼくし)

 

 中国文化における不老不死、すなわち「仙人」に成るための魔道書である。その中には、ありとあらゆる病や呪いを解く薬を作るための「練丹術」が記載されているとされる。

 

 この魔導書はもちろん、魔導図書館であるインデックスの中にも記憶されている。

 

 この魔術師、闇咲逢魔(やみさかおうま)はその抱朴子を狙って来たらしい。

 

「つまり俺たちの目的は、1つ目に女性にかけられた呪いを消すこと。2つ目にその呪術師を倒すこと、でいいんだな?」

「なるほど。じゃあ、早く行こうぜ」

 

 俺たちはそう話す。

 

「協力して……くれる、のか……?」

「当たり前だろ。じゃあ、まずは都市外に脱出することから始めますか」

 

 そう言って出発しようとした時、当麻が言った。

 

「なあ……その前に、宿題持ってきていいか? 駿斗も手伝ってくれ! 頼む!」

 

 そう言って速やかに土下座をする親友に俺はため息をついた。

 

「最後まで締まらないやつだな……」

 

 

 

 そうやって駿斗と当麻が魔術師がらみの騒動に2度も巻き込まれた8月31日を過ごしている一方。

 

 最愛と海鳥は新しい住居となる、常盤台中学の寮にいた。ちなみにこの2人がルームメイト同士である。

 

「ようやく入寮手続きが終わったな、絹旗」

「ええ。黒夜」

 

 駿斗も帰ってしまった後、部屋に残された2人は、はあ、とため息をつく。

 

 なんだかんだ言って御坂や白井をはじめとした、新しい友達とのやりとりを楽しんではいた。しかし、だからといって何年も大人たちの悪意の中、学園都市の『闇』で生きてきた彼女たちが簡単に馴染めるわけもなく。

 

「超、疲れました」

 

 洗われたばかりの真っ白なシーツが付けられたベッドの上に身を投げ出して、最愛が言った。

 

「ああ」

 

 海鳥も同じように疲れた声で言う。

 

 新品の制服にしわが寄るのもお構いなしに、彼女たちはその体を休めることにする。

 

 しばらく部屋に沈黙が流れた。

 

「なあ絹旗」

 

 すると、海鳥が声をかけた。

 

「私たち、この夏休みに駿斗兄ちゃんと再会してから2週間ほどでこの中に放り込まれたわけだが……」

 

 そこで、少しためらってから最愛ももっとも気にしているであろうことを、はっきりと言葉にした。

 

「ちゃんとやっていけるよな?」

 

 その言葉を聞いて、最愛も再び考え直す。

 

 学校生活が送れることは確かに嬉しい。

 

 常盤台ならば詳しい事情を知っている御坂もいるし、また事情を知らなくても友人として接してくれる白井もいる。問題はない。

 

 しかし、自分たちは教室の中でうまく他の少女たちと関わっていけるのか?

 

 今まで闇の中で生きてきた自分たちが、光の中で過ごしてきたお嬢様たちと仲良く同じ教室で、寮で、生活できるのか?

 

 不安は尽きない。

 

 でも、

 

「超やれますよ」

 

 最愛は言った。

 

「いや、やれるようになればいいんです。例え、私たちがどんな過去を持っているとしても」

 

 決意を、示した。

 

「私たちの幻想(りそう)現実(ここ)に超創り上げればいいんですから」

 

 自分を闇から引き上げてくれた、大好きな幼馴染の少年の言葉を借りて。

 

「そうだな」

 

 海鳥も笑って言う。

 

 と、ドアがノックされた。

 

「2人とも、そろそろ一緒に夕食に行かない? 他の子にも紹介したいからさ」

 

 御坂の声がした。一緒に、友人であろう女の子の声も聞こえてくる。

 

「行きましょう、黒夜」

「ああ」

 

 2人の少女は、笑顔で部屋の扉を開けた。

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