とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト)   作:nozomu7

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第53話 天草式

 ステイルとインデックスの側には、漆黒の修道服を着た少女がいた。

 

 分厚い底のついたサンダルを履いている彼女はローマ正教のシスター、アニェーゼ=サンクティスという。

 

「状況はもうメチャクチャ。情報も錯綜しちまってオルソラはどこへいったのやら、って感じですか。『法の書』の方も確保したかどうかも……」

 

 この場に日本人はいないのだが、アニェーゼは流暢な日本語で言った。

 

「なるほど。それで、天草式の連中はどんな術式を?」

 

 ステイルは煙草をくわえたまま、目の前の少女に尋ねる。

 

「いや、それがこっちも正確には解析できちゃいないんです……」

「天草式の特徴は『隠密性』だよ」

 

 十万三千冊の魔導書を記憶しているシスターが言う。

 

  母体が隠れキリシタン。十字教を仏教や神道と日本で広まっていた宗派によって徹底的に隠し、魔術儀式と術式を挨拶や食事や作法といった決まった動作の中に隠し、天草式なんて最初から存在してなかったように全ての痕跡を隠し通す。

 

 神裂は自ら『多角宗教融合型十字教』と言った。

 

「天草式はあからさまな呪文や魔法陣は使わない。術式を普段使うような物や作法、お皿や茶碗、鼻歌やハミング……のような一見どこにでもある物を使って魔術を行う。パッと見ただけでは普通の台所にしか見えずとも、実はそれが儀式場だったりする。……多分、プロの魔術師でさえ天草式の儀式場を覗いた所で正体は分からないと思うよ。だって、普通の台所とかお風呂場にしか見えないはずだもん」

 

 ステイルは口の端の煙草をゆっくりと上下させる。

 

「ふん。面倒な連中だ」

 

 ステイルが忌々しげに吐き捨てるように言ったとき、インデックスが外を見て声を上げた。

 

「あ、とうまとはやとだ!」

 

 他の2人もそれにつられるようにそちらを見る。すると、アニェーゼは外からやってくる修道女を見て思わず言った。

 

「オ、オルソラ=アクィナス?」

 

 

 

「で、どういうことか説明してもらおうか? ステイル。狂言誘拐の理由を教えてもらわないとな」

 

 俺たちは『薄明座』まで来ると、真っ先にステイルに言った。

 

「ああなんだ。狂言だって言うのはバレていたんだね。君達をここへ呼んだのは人探しを手伝って欲しかったからだよ。禁書目録はその為の囮に使っただけだ。ちなみに現場責任者はこちら。ローマ正教のアニェーゼ=サンクティス」

 

 ステイルが適当に煙草の端で指すと『ど、どーもです』と厚底サンダルのシスターが頭を下げる。

 

「そうそう、もう大丈夫だよ。君の隣にいるシスターをこっちに引き渡してくれればいいだけだから」

 

 はい? と当麻は目を点にする。

 

「つまり、この人なのか? 探し人ってのは」

 

 俺が聞くと、ステイルは煙草の煙を吐いて、

 

「ああ。君達の隣にいるシスターが行方不明の捜し人だよ。名前はオルソラ=アクィナス。はいお疲れ様。いやぁ良く頑張ってくれたね。もう、帰って良いよ」

「……あの。狂言誘拐ドッキリかまされて、出所の怪しい学園都市の外出許可を片手に街から出てきた挙げ句、40度弱の炎天下の中を3kmも歩き続けたわたくし達の立場は?」

「まあ、落ち着けよ」

 

 俯いてぶつぶつと言い出した当麻に、俺は声をかける。

 

「だから、お疲れ様と言っているじゃないか。何だ、カキ氷でも奢って欲しいのかい? さあ、こっちへ早く――」

 

と、ステイルがオルソラに手を差し伸べた時、俺は真上から魔力を感じた。

 

「おい! お前ら上に――」

『いやいや。そうそう簡単に引き渡されては困るよなぁ?』

 

 野太い男の声が聞こえた。

 

 その声につられて、俺達が夕空を見上げると、7mぐらいの高さで紙風船がふわふわ浮いていた。

 

『オルソラ=アクィナス。それはお前が一番良く分かっているはずよな。お前はローマ正教に戻るよりも、我ら天草式と共にあった方が有意義な暮らしを送る事ができると』

 

 瞬間。オルソラの立っていた地面が下から切り取られ、彼女はその中に落ちそうになる。

 

「(真下だと!? 上に注意を向けさせることで俺に感知されることを防いだのか!)させねえ!」

我が手には炎(TIAFIMH)その形は剣(IHTSOTS)その役は断罪(AIHTROTC)――ッ!」

 

 間一髪で俺の重力操作(グラビティ)が間に合い空中で停止。ステイルが炎剣で追い打ちをかけようとする。しかし地下から煙が上がると、俺に向かって何かが飛んできた。それを地面に伏せることで回避するが、それは辺りに粉をまき散らす。

 

「やばい! 粉塵爆発か!」

 

 俺は慌てて結晶を作り出して周りの4人を含めて守るが、それが晴れた後、炎剣によって照らし出された下水道の中には誰もいなかった。オルソラ=アクィナスを含めて。

 

 さらに、魔力も感じなくなっていた。かなりの速さがあるようだ。

 

「ちくしょうが。何がどうなってやがんだ」

 

 当麻は吐き捨てるように言う。だが、俺も気持ちは同じだった。

 

「おい。テメェ一から十まで説明する気はあんだろうな?」

「説明は、僕の方も求めたいぐらいだね」

 

 しかし、当麻の言葉にステイル=マグネスはそう答えた。

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