とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト)   作:nozomu7

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第54話 縮図巡礼

 法の書。

 

 世界の誰にも解読できないとされる魔導書。もしそれが使われれば、十字教の時代が終わるとまで言われている。

 

 しかし、「ローマ正教のシスター・オルソラ=アクィナスが本書の解読に成功した」という情報が発生したのが今回の発端だ。

 

「つか、そんなにヤバイ本だって分かってんなら何で処分しないんだ? 本なんて燃やしちまえば良いじゃねーか。なあ駿斗」

「魔導書は燃えない本なの。特に原典クラスになると、魔導書に記された文字、文節、文章そのものが魔術的な記号と化して、自動制御の魔法陣みたいになっちゃうの。だから精々、封印するのが手一杯なんだよ」

 

 当麻の言葉に、インデックスは曖昧に笑ってから答える。

 

 十万三千冊の持ち主にすら解読できないという時点で、俺には規格外に思えた。

 

「誰にも解読できない、ねぇ。インデックスでも無理なのか」

「無理だよ。一応やってみたけど、あれは普通の暗号とは違うっぽいかも」

 

 説明が終わった後、ちょうどアニェーゼが俺達の元へと歩いてきた。

 

「あ、え、っと。こ、これから状況の説明を始めちまいたいんですのでだけどそちらの準備は整っていますですでござりますか」

 

 俺たちは無言になる。

 

 今まで周囲に特徴的な口癖がある人間(例えば最愛とか白井とかインデックスとか)はいたものの、こんな風に話されたのは初めてだ。

 

 ああ、日本語になれていないんだな……と、無理矢理納得しておく

 

「ええ、では今から法の書、オルソラ=アクィナス、及び天草式の動向と、我々の今後の行動について説明しちまいたいと思います」

 

 アニェーゼは厚底サンダルでふらつきながらも何とかバランスをとり、両手を腰に当てた状態で立っていた。

 

「現状、オルソラ=アクィナスは確実に天草式の手にあります。今回の件で出張っている天草式の数は、推定でおよそ50人弱。下水道を利用して移動してるみたいなんですが、今は地上へ上がちまってる可能性もあります」

「つまり、何にも分かんないってことなのかな?」

 

 インデックスが聞く。

 

「魔力の痕跡から天草式の動向を追っていますが、並行して別動体に辺りへ包囲網をここを中心として、半径10km程度敷かせてます。こっちの方が早くヒットしそうです」

 

 アニェーゼはそう話す。しかしインデックスは言う。

 

「それはどうかな。天草式は“隠れる事”、“逃げる事”に特化した集団なんだよ」

 

 縮図巡礼。

 

 日本国内限定ではあるが、一瞬で遠方に移動できる。

 

 日本中にある47か所の特殊な『渦』。その間を自由に行き来できる『地図の魔術』。

 

「……ってか、そんな重要な情報なんでもっと早く言ってくれないんですかっ! 『渦』を使って飛ばれたらもう終わりだ! 何をのんびりしてんですか!?」

「急ぐ必要がないからだよ」

 

 慌てた声を出すアニェーゼにインデックスはサラリと言った。

 

「『大日本沿海興地全図』――江戸時代に最初に作られた“正確”な地図は夜空の星を利用して実測された地図なの。だから縮図巡礼を使うには“星の動き”が大きく影響してくる。ようするに決まった時間じゃないと使えないんだよ。使用制限解除は日付変更線直後だから……」

 

 インデックスは夜空を見上げて星を確かめると、

 

「まだ4時間半ぐらい余裕があるよ」

 

と言った。

 

「とうま。地図が出るピコピコ貸して」

 

 インデックスの言う通り、当麻が携帯でこの周辺の地図を出す。

 

「この包囲網の中で使える渦は一か所だけ……ここだよ」

 

 インデックスは地図の中の一か所を指さした。

 

 

 

 その夜、とりあえず俺たちはテントの中で休憩を取ることにした。

 

「なあ……ステイル」

「なんだい。僕は今とてもイライラしている」

 

 それは主に、インデックスがさっきシャワーを浴びていたときに当麻がラッキースケベをいつも通り発生させたからだろう。

 

「お前の好きな子、誰だよ」

「ぶばっ!?」

 

 当麻の問いにステイルが呼吸が詰まってわなわなと震え始めた。

 

 この非常時に何を急に聞いているんだ……と俺は呆れた。

 

「なあステイル。一個聞くけど」

「尊敬する女性はエリザベス一世で好みのタイプは聖女マルタだ。愛と慈悲の祈りのみで悪竜を退治した逸話なんて痺れてしまうね。他に質問は」

「天草式十字凄教ってあれだろ。神裂が前にいた所だろ」

「……」

 

 その当麻の言葉に、ステイルは目を細めると黙った。

 

「そういえば神裂が言ってたな。あと、土御門も色々」

 

 俺の言葉を聞くとステイルは煙草を取り出そうとしたが、その手が途中で止まる。

 

「ったく、土御門も余計な事を言ったものだ」

 

 ステイルがため息をつく。

 

「あれだろ。天草式ってのは、神裂の仲間なんだろ。……それでも、やるのか」

「やるよ」

 

 ルーンの魔術師は即答した。

 

「やるに決まっている。上の命令だろうが、あるいは上に止められてでも。僕はね、あの子を守る為なら何でもやるって決めているんだ。約束しているんだよ。『例えあの子が全てを忘れてしまったとしても、僕は何一つ忘れず君のために生きて死ぬ』と……もう寝ろ」

 

 彼はそれだけ言うと、目を閉じた。

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