とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト) 作:nozomu7
第66話 キャリーケース
『米 スペースシャトルの打ち上げに成功』
そんなニュースが気球船のディスプレイに表示されているのを、常盤台の少女4人は見ていた。
「このところ多いですわよね。確かフランスとロシア、先週はスペインも打ち上げましたし」
そう話すのは、白井黒子。
「何かあるんだろうな。4か国が一斉に打ち上げ競争を始めるだなんて、いくらなんでも不自然すぎるだろ」
同じく常盤台1年生の黒夜海鳥が言う。
その時、白井の携帯が鳴った。相手は風紀委員の初春飾利だった。
「はい、もしもし。強盗? そんなものは
その話を聞いていた3人だったが、その時はさほど気を留めずにいた。後から、1万人以上の少女たちと、3人のヒーローを巻き込む騒動になるとは知らずに。
キャリーケースひったくり事件。
どんな事件かを簡単に言えば、大したことが無いように聞こえるが、初春によると、これは妙な状況で、白井も奇妙な目に遭った。
気になる点は3つ。『被害者は10人がかりでケースを奪われている』。『ケースの荷札の送り先が常盤台中学名義だが架空の施設である』。『さらに被害者は拳銃を所持、プロ仕様の無線機を使用しており、1人でひったくり犯を追っている』。
犯人と被害者、どちらも怪しい。だが、ここは事件のキーであろうキャリーケースを強奪し、現在所持しているであろう犯人を捕まえる。そしてその物品証拠を回収すれば、それを運んでいた被害者はこちらが追わずとも、向こうからやってくるであろう……と考えた。
「はぁ。わたくしが手っ取り早く向かった方が良さそうですわね」
白井黒子は
80mの距離を移動するたびに次の80mに目的地を指定して飛ぶことで、時速に換算して288km/hもの速度が出る。
『しら……い、さん。犯人達に、動き、です。……地下街『エリアセール』出口A03、から、地上へ、出たようです。……地下街の突き当たりから、次の地下街へ……向かっているみたいで……』
そして、ついに捉えた。
地下街の出入り口が設置されている建物の近くの車道を10人の男達が走っており、車が渋滞に遭っているので、轢かれる心配はないが、時折クラクションを受けて、路地裏に入ろうとするその瞬間を。
すぐに追いついた。彼女は空間移動を用いて一気にキャリーケースを回収する。
「風紀委員ですの。なぜ私がここに来たか説明する必要がありまして?」
男たちは拳銃を取り出すが、白井は慌てずに男3人に空間移動でドロップキックを喰らわせると、彼らをスカートの陰に隠している、太股の金属矢を服と地面を縫うように打ち込むことで拘束する。
「くそ!」という声がしてその方向を見ると、残った男たちが仲間とキャリーケースを見捨てて逃げていったところであった。
白井は一段落が着いたことで、ふう、と息を漏らす。
「この拳銃……外部の者ですの?」
すると、スカートのポケットに入っている携帯電話が軽快な着信音を奏でた。電話に出ると、御坂からであった。
部屋の抜き打ち検査のことで話を済ませ、今すぐにでも愛しの『お姉さま』の下に駆けつけようとした白井だったが、突如、もたれかかっていたキャリーケースが抜き取られ、地面に倒れた。
そしてすぐに、右肩に激痛が走る。
(これは……ワインの、コルク抜き?)
痛みに悲鳴を上げる体を無理矢理に立ち上がらせ、目の前の人物を見据える。
「これは……空間移動」
「あら、もうお気づき? さすが同系統の能力者は理解が早いわね」
その少女は白井よりも背は高く、髪を頭の後ろで二つに束ねてまとめている。
服装は学校の制服だが、冬服だ。青い長袖のブレザーの袖に腕を通してはおらず、ただ肩にかけてあるだけでボタンも留めていない。ブレザーの下にブラウスはなく、上半身は裸で、胸の所には薄いピンク色の、インナーのような布をサラシのように巻いているだけだ。
さらに、腰にはベルトが巻かれているが、スカートを留めるためのものではなく、ただの飾りだった。革ではなく、金属板をいくつも合わせて作ったベルトにはホルダーのような輪が付いている。
それには黒い軍用の懐中電灯が挿し込まれてあった。
「私の
淡々とした声。
彼女の話す通りだとしたら、彼女の能力は白井の能力、空間移動の上位互換だということになる。
ぐっ、と歯を噛む白井だったが、すぐに立ち上がりその女へ突撃する。それに対して、女は懐中電灯を振り、白井が倒した男たちをその道を塞ぐように転移させた。
白井は「甘いですわよ!」と金属矢を直接女へと仕掛ける。十一次元を利用した移動である空間移動は基本的に、『移動する物体』が『移動先の物体』を、割り裂いて移動するようにできているからだ。
故にどんなに移動先の物体が硬くても、ダイヤだろうが金剛石だろうが、紙切れ一枚で切断出来る。
だが、彼女はキャリーケースに腰掛けたまま後ろへ下がり、それを回避した。
羽織っているだけのブレザーの内側にある細い手が、腰の金属ベルトに挟んである軍用懐中電灯を一息で引き抜く。
彼女はその軍用ライトをくるりと、バトンのように手の中で一回転させて黒子の方に向けると、金属矢がその手の中に現れた。
驚く白井に、女はサイドスローで金属矢を帰す。それを白井は前へ飛び越えるように空間移動して回避した。
しかし、次の瞬間には脇腹に突き刺さっていた。
「言ったでしょう? 私の座標移動には、貴女みたいに物体に手を触れる必要なんかないって」
投げた金属矢を転移させた。ただそれだけだった。
地面に片膝をつく白井に対して、その女は続けて言った。
「残念だったわ。いくら切羽詰まっているとはいえ、私事に後輩を巻き込むような人間だとは思わなかったんだけど。御坂美琴の奴」
白井の表情が驚愕に変わる。
「なぜ、そこでお姉さまの名前が……!」