とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト)   作:nozomu7

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第73話 合格祝い

 彼女の歌が終わり、拍手が沸き起こった。

 

「ありがとうございました! 良かったら、私のサイトからダウンロードしてみてください!」

 

 人々がざわめきながら四方へ散っていく中、インデックスは飛び上がりながら拍手を続け、当麻と駿斗もその場に残っていた。

 

「すごいすごい! とーっても素敵だったんだよ!」

 

 興奮しながらインデックスが少女に言う。

 

「ありがとう! あたしは鳴護アリサ」

 

 よろしくね、と言おうとした彼女だったが、彼女はコードに引っかかってしまい、転びそうになる。

 

「きゃっ……!」

「危ない!」

 

 当麻が動こうとするが、それよりも一歩早く駿斗が前に出てその体を受け止めた。……が、そのまま倒れそうになる。

 

 『不幸(ラッキースケベ)』の当麻ならここで一緒に倒れた挙句、危険な体勢となるところだろうが、駿斗は(置き去り(チャイルドエラー)などの例外を除けば)『幸運』な人間である。そのため、当麻のようになることはなかった。

 

 後ろ向きに倒れそうになった駿斗は素早く片方の掌を地面に向けると空気を圧縮、弱めに噴射した。それによって一瞬だけその体制を維持した彼は、素早く足を引き、2人分の体重を支える。

 

「大丈夫か?」

「えっ、うん。あ、えっと……」

 

 返事をしてから今の自分の格好(駿斗に抱き付いた姿)に気が付いたアリサは顔を赤くし、

 

「ご、ごめんなさい!」

「あ、いや、こっちこそすまん……」

 

 慌てて離れる2人。

 

「女の子に対して節操のないところは、はやともとうまと大差ないかも……」

 

 その様子を見ていたインデックスの呟きに、当麻は「俺が女の子に対して節操がないとはどういうことですかインデックスさん?」と返したため、当麻は噛みつきの刑を喰らう。

 

「不幸だー!」という声が、真昼の学園都市に響いた。

 

 

 

 

 

「ほんとにすごかったんだよ! 感動したよ!」

 

 インデックスは先ほどから惜しみなくアリサのことを絶賛している。

 

「俺は普段からあまり音楽とかは聴かないんだけど、それでもすごかったってのは分かったよ……ほら、インデックス。全部ダウンロード終わったぞ」

「俺も、時々しか音楽なんて聴かないけど、なんていうのかな。すごい、心に響く感じがしたよ」

 

 音楽のダウンロードが終わった携帯を手にしてインデックスが喜ぶその横で、アリサは照れて自身の頬を掻きながら言った。

 

「ありがとう。気に入ってもらえると嬉しいな」

「私はこう見えて歌には結構うるさいけど、アリサの歌は本物だね! だって歌詞に呪文(スペル)を載せてもいないのにみんなの心を魅了しているんだもん!……もがっ」

 

 インデックスが魔術関係のことを話しそうになったのでさっ、とその口を塞ぐ駿斗と当麻。

 

「スベル?」

「あっ、いや……すげーリアルに歌の情景が伝わってくるって感じでさ」

「そうだよな。精神感応(テレパス)とかでもここまではいかないだろ。まあ、それはないだろうが」

 

 彼女からAIM拡散力場をほとんど観測できなかったことを感じ取っていた駿斗がそう言う。

 

「うん、能力とかではないかな。だって、あたし無能力者(レベル0)だもん」

「あ……そうなのか」

 

 駿斗と当麻の顔が少し気まずい感じになる。だが、アリサは表情を暗くするようなことはなかった。

 

「うん。昔は悩んだこともあったけど……今はそのことに感謝しているの」

「感謝?」

 

 2人は疑問に思った。この学園都市は能力の強度(レベル)がほとんど他者からの評価に直結する。そのために、一般的に無能力者はそのことをコンプレックスに思うことはあっても、そのことに感謝する、ということはないからだ。

 

 しかし、アリサは言った。

 

「何か能力(ちから)があったら、きっとそれに頼って歌を歌うことはなかったかもしれないから。私、勉強とかも全然だめだけれど……でも、たったひとつ、自分にできることが歌うことだったの」

 

 彼女はどこまでも前向きに話す。

 

「だったら歌おうって……いつか、大きな場所でたくさんの人に私の歌を届けられたらいいなーって! それが今のあたしの夢……かな!」

 

 そう言った彼女はとても輝いていた。

 

「ま、まぶしいよ~輝いてるよ!」

「これが夢と希望ってやつか……なんつーまぶしさだ……!」

 

 インデックスと当麻がその輝きにあてられている中、駿斗は1人考え込んだ。

 

(夢……か)

 

 神谷駿斗には、特に決まった夢はない。

 

 目標とするものはある。親友の不幸をなくすことだ。

 

 信念とするものはある。周りの人たちの幻想を幻想で終わらせず、現実に創り上げることだ。

 

 そのために彼は親友と同じように偽善使い(フォックスワード)を名乗り、助けを求める人々に手を差し伸べる。

 

 だが、彼女のように具体的な手段を決めているわけではない。基本的に駿斗がやっていることは、出会った人々の幻想を守り抜いていることだけなのだから。その時々でやり方は変わる。

 

 幻想御手(レベルアッパー)の時のように、他の人の幻想(あこがれ)を創造することもある。

 

 『法の書』事件の時のように、相手の幻想を打ち砕くこともある。

 

 それが間違っていたとは思っていない。それを否定することは、その結果感謝してきてくれる人々の思いを否定することにもなるからだ。

 

 だが、駿斗には――自分のできるやり方を1つ貫き続けて自分の夢を叶えようとする彼女が、どうしてもまぶしく思えた。

 

 その時、アリサの携帯電話が鳴った。その画面を見た彼女は、急にそわそわとしだした。

 

「ちょ、ちょっといいかな?」

「あ、ああ」

 

 アリサは3人に一声かけると電話に出る。その声はとても弾んでいた。

 

「はい、鳴護です! ……はい! えっ、本当ですか? ありがとうございます! ……はい、わかりました!」

 

 ピッ、と電話を切った彼女は、はあー! と携帯を胸に抱いて大きく深呼吸する。そして、興奮を抑えきれずに頬を赤くしたまま、駿斗たちに振り返って叫ぶように言った。

 

「あたし、オーディション受かっちゃった……! デビュー、できちゃうんだって!」

 

 オーディションの合格通知。突如として入ってきた朗報に、一同のテンションは急上昇する。

 

「おお、すっげー! ってことは、テレビとかにも出るのか!」

 

 と、当麻が叫び、

 

「テレビ!? それってカナミンと同じになるってことー! すごいよアリサ!」

 

 とインデックスが声を上げ、

 

「本当に大きな場所で歌えるってことだろ!? 大勢の人の前で! 良かったな!」

 

 と、駿斗も興奮して言う。

 

「これは絶対にお祝いしなきゃだね! そうだ、私たちこれからおいしいもの食べに行くんだよ! アリサも一緒に行こうよ!」

 

 インデックスはアリサに詰め寄って言う。

 

「……えっ! でも、そんな悪いよ」

「だって、もともと今日はとうまがなんでも食べさせてくれる日だもん! いいよね、とうま!」

 

 遠慮がちに言うアリサであったが、インデックスは当麻に話を振ってしまう。

 

「分かったよ。行こうぜ」

 

 そう答えたのは当麻ではなく駿斗だった。

 

「(アリサの分は俺が出しておくから。お前はインデックスの分を払えばいいよ)」

「(駿斗、マジでありがとう……!)」

 

 駿斗が当麻にそっと耳打ちし、親友の優しさに思わず涙ぐみそうになる当麻。

 

「じゃ……じゃあ、お言葉に甘えちゃおう……かな?」

「うん! 私はインデックス! こっちがとうまで、こっちがはやとだよ!」

 

 自己紹介をするインデックス。

 

「鳴護アリサです! よろしくね!」

 

 

 

 

 

 上条当麻は唖然としていた。

 

 目の前の白い悪魔は、ファミレスの4人掛けのテーブルいっぱいに並べられた料理を次々と平らげていく。

 

(財布に入っている金額で足りるかな……?)

 

 ある意味魔術師と戦うよりも恐ろしいぞ、と上条はこのシスターの胃袋の脅威の危険性を改めて認識する。

 

 その一方で、駿斗とアリサは穏やかに話していた。

 

「え? オーディションって、あのエンデュミオンに関係するものだったのか?」

「うん! キャンペーンに使うイメージソングにあたしの歌が選ばれたの!」

「へー!」

 

 その言葉に、食べてばかりだったインデックスも反応した。

 

「知ってるよ! 宇宙エレベーターだよね! じゃあ、アリサは宇宙に行くの?」

「それはまだ分からないけど、オープニングセレモニーでライブしたりするからもしかしたら行っちゃうかも!」

「すごーい! アリサの思いが神様に届いたんだよきっと!」

 

 できれば『これ以上食べるのをやめてほしい』という自分の思いも神様に届けてほしい上条であるが、このシスターはそんな幻想を軽々とぶち壊しにかかってくる。積み重ねられていく領収書の束がエンデュミオンの如く天井へとその高さを伸ばしていくのを見て、当麻は誰にも気付かれないくらいに、小さくため息をついた。

 

 その一方で、アリサはふとこんな言葉を漏らした。

 

「わたしね、なんか割と運がいいみたいなの。こんなめったにないチャンスをもらえるなんて、恵まれてるなって思う……」

 

 自嘲気味に、自信なさげに呟いたその言葉に対して、駿斗は言った。

 

「それは違うと思うぞ?」

 

 

 

 

 

「チャンスだとか成功とか言うのはっ! 怖がらずに打席に立って! 打ちたいと本気で思って!」

 

 バッティングセンターに立つ当麻が叫ぶ。当麻は手にしたバットを構え、思い切りよくスイングし、

 

「――全力でバットを振った奴にしか訪れないんだからな!」

 

 スカッ、と空振った。ボテボテ、とボールが転がる音が虚しく聞こえる。

 

「はあ、こういう時に当麻はアレだからな……」

 

 今のはかっこよく打ち返すところだろ、と駿斗はその隣のバッターボックスの機械にコインを入れる。

 

「でも、アリサが成功しているのは『運がいい』なんて言葉で表現されるものではないんだ。『幸運』と『幸福』は違う。アリサは誰よりも努力しただろうし、誰よりも歌が好きだったんじゃないか? それが、みんなを魅了できるものだからこそ、アリサは選ばれたんだろ」

 

 駿斗の打席に、当麻に投げられたよりもさらに速い球を投げるべく、ピッチングマシンが起動する。

 

「俺もこの夏にそれを思い知ったよ。『不幸』だとしても『幸福』にはなれるし、『幸運』だからといって『幸福』になれるわけではない。『幸福』になれる人は、どんな困難があっても、例え何度挫折をしても、自分の求めるものを最後の最後に諦めきれず、追い求めることができた人なんだって」

 

 『闇』の中にいた彼の幼馴染は『幸福』になった。例え、どんなに残酷な事実で埋め尽くされた過去を持っていても。

 

 彼女たちは希望を見出し、『光』に満ちた世界へと戻ってきた。

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