とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト) 作:nozomu7
「アリサが選ばれたのは実力なんだ。それは誇るべきことなんじゃないか?」
駿斗は知っている。
例えば、
例えば、神様の奇蹟を打ち消してしまう右手があっても、多くの人に囲まれ笑っていられる男がいることを。
『幸運』と『幸福』は、似て非なるものだということを。
『幸運』に恵まれたために自分の自信が揺らぎそうになってしまう少女。その幻想を、駿斗の言葉は確かに打ち砕いた。
「駿斗君……!」
その少年の言葉に胸を打たれたアリサはほのかに顔を赤くする。
そして、駿斗はバットを勢いよく振り……バッティングセンターにカキィィン、と高い金属音が響いた。
「わ~、すごいんだよ、はやと!」
実際の試合では長打になるであろう打球。それを見たインデックスが歓声を上げる。
「なに……俺も負けないぞ、駿斗!」
当麻も次の球には当てるべく、バットを構えなおす。だが、次の打球はボテボテのゴロであった。その一方で、駿斗が次の球をやはり長打コースで打ち返す。
これは、特に当麻が野球が下手だとか駿斗がうまいだとかではなく、
(こんな速度……御坂の雷撃、
「遅すぎるんだよっ!」
比較対象がそもそも間違っている時点で、駿斗は既に人間離れしつつあるのかもしれなかった。
そんな風に彼らが楽しんでいる一方。
そのバッティングセンターからあまり離れていない場所にある雑居ビルの屋上に3人の人影があった。
一人一人服装の構成は異なるが、全員が闇に溶け込むような黒装束をしている。さらに、彼女らの手にはそれぞれ箒、扇子、羽ペン――武器が手にされていた。
簡単に言えば、『魔女』という言葉がしっくりくるような格好であった。
「……この子が、『鳴護アリサ』……」
誰かがその名前を呟く。
彼女達の目の前には、バッティングセンターにいる4人の少年少女の姿が映し出されていた。
夕暮れが暗闇に変わろうかとしている時間に、街灯がつき始めたのを気にしながら彼ら4人は家路についた。
「あーっ! こんなに楽しかったのって久しぶりかな! ほんと付き合ってくれてありがとう!」
「ううん! 私も今日は一緒に遊べて楽しかったんだよ、アリサ」
駿斗、アリサ、インデックス、当麻の順に並んで帰る一同。彼女の荷物は、今は駿斗と当麻の2人で分担して運んでいる。
「俺たちも
「そうそう夢に向かって頑張る人を見ると、元気になるんだよ!」
「だよな。俺も夢を持って、それに向かって頑張りたいって思えてきたよ」
三人に褒められ、再び顔を赤くするアリサ。
「いやいや、当麻さんよりインデックスさんの方が頑張らないとな」
「うん……て、それは失礼かも! 私はもう
「イギリス清教関係ないだろ! これはお前個人の問題だろ! だいたい日頃の行いから、あんまりシスターの自覚が足りないような気がするんだが。特に今日のファミレスのあれは暴食じゃねーのか?」
「私の仕事は食べる事なんだよ」
「偉そうに言ってるんじゃねーよ!? 大体、お前からはシスターという自覚が感じられないんだよ! なあ、駿斗」
「まあまあ、落ち着けって――」
そんな風に一同は愉快な言い争いをしていたが、そこに美しいハミングが聞こえてきた。
「La――♪」
アリサが歩き、その後ろをついて行く彼ら。
公園に入り、ゆっくりと階段を登る。そこには、ストーンヘンジを模したような構造物、円に囲まれた大きな池があった。彼らはそこで足を止める。
歌が終わる。
「素敵な旋律だね。すごく好きかも」
インデックスが言う。
「その曲、ダウンロードした中にもあったよな。歌詞はないのか?」
「これはまだ作ってる途中なの」
駿斗の問いに、アリサは笑みを返しながら答えた。
「駿斗君、当麻君、インデックスちゃん。今日は本当にありがとう。デビューライブが決まったら、必ず知らせるね!」
駿斗たちはうん、と頷いた。
だがその時、池の水面から泡が浮かび上がった。
渦が生まれ、そこから現れたのは長身で腰まで伸びるゆるいウェーブの金髪、とんがり帽子に闇色のマント、箒を手にする黒き魔女。
彼女はその箒を構え、
「ウンディーネ。杯の象徴により、万物から抽出されしものよ」
箒につけられた黒猫のアクセサリーが青く発光する。すると彼女の足下の水が、渦を巻きながら激しい水流を噴き上げた。インデックスや当麻も、近くで起こっていることに驚く。
「気をつけて! あれは水のエレメントを使役する術式なんだよ!」
インデックスの声が響いたその次には、地面からも、空からも風を纏った魔女が現れた。
「魔術の連中か! 二人とも下がってろ!」
当麻はインデックスとアリサをかばうように前に出る。
「マリーベート! 足止めして!」
水が矢のようになって彼らに襲い掛かる。が、突如駿斗の前に光る魔方陣が現れそれを防いだ。
しかも、現れた魔方陣は1つだけではない。4つだ。
水を防いだ空中の魔方陣が消えると、その下の地面に描かれた魔方陣から
「……あらゆる異能の力を素で感じ取ることができる俺が、気づいていないとでも思ったか?」
さらに、
「! キャァッ!」
箒の魔女、メアリエは水のエレメントの制御を失って池へと墜落する。
「――
『ノタリコン』という暗号を用いて術式を操る敵の頭に割り込みを掛け、暴走や発動のキャンセルなどの誤作動を起こさせる。全く魔力を使わない『禁書目録』の技術。
思わぬ反撃に攻撃を中止し、防御に回る3人の魔女。当麻はそれを逃さず、土の中から現れた魔女に肉迫した。
その右拳で彼女の霊装を破壊しようと振るった瞬間、その横から見慣れた炎が現れる。
「なぜ勝手に動いた。僕の命令を待てと言ったはずだ!」
自身の下に集まった3人の魔女に叫ぶステイル。
「何のつもりだよ、ステイル」
「――
当麻の問いに答えず、ステイルは炎剣を振るった。
「魔法名!? 本気かよ!」
右手で打ち消しつつ、当麻は炎剣を回避する。
(――ここで
駿斗は腰のベルトに新しく付けられていた、今までにはなかったものを取り外し、手に持った。
それは――
「杯……水の
あのステイルが「逃げろ」といったことに動揺する魔女たち。だが、次の瞬間にはその意味が分かった。
公園の水が、いや、それだけではなくメアリエの制御下にあった水でさえも奪われる。その水が駿斗の背に集まり――翼となった。
以前『法の書』でも使ってはいたが、それをさらに上回る、オリジナルのそれにほとんど近い威力を持っていた。
駿斗がその威力の向上に成功した理由が、その杯。それに、駿斗独自の術式を組み込んでおくことで『複製水翼』の生成を容易にし、その余力を
『複製水翼』が4人に襲い掛かる。
圧倒的な力。人間を超えた攻撃。
しかし、それは一筋の斬撃によって切り裂かれた。
駿斗は目の前に突如として現れた聖人を睨む。
「やはり現れたか……神裂」
「はい。あなたに挑む時点で、このようになるのは分かっていました」
ステイルと同じく
その奥義である『唯閃』が『複製水翼』を切り裂いたのだった。
「まあ、オリジナルとなったものを斬っていた以上は『
「ステイル。あなたたちは今のうちに鳴護アリサを」
駿斗の相手を彼女に任せ、四人は目的に専念する。
「当麻、インデックス。アリサを頼む!」
駿斗は2人に叫ぶと、水の剣を作りだし神裂と打ち合う。
(『唯閃』で……切れない……!)
「対策はしてあるからな!」
彼らは音速を超えるスピードで戦闘を繰り広げる。
「何を呆けている! 確保しろ!」
ステイルが魔女たちに再び叫ぶ。
(くそ、人数に差がありすぎる……)
駿斗が歯ぎしりする一方、当麻は追い詰められていた。
「君の右手では、質量までは消せないだろう?」
炎によって溶かされた鉄骨が、当麻に降りかかる。
「だめ……やめてー!」
アリサが叫ぶ。
すると、暴風が吹き荒れ、火が消え、鉄骨が真っ二つにされた。
「……今のは」
不可解な現象。上条当麻を守るように起こった奇蹟。それに一同は一瞬呆けてしまう。
アリサはそこで力尽きたように倒れた。
「アリサ!」
アリサに駆け寄ろうとする駿斗たちに対し、神裂たちは再び戦う姿勢を見せる。だが、彼らはふと足を止めた。
それは別に、駿斗たちと戦う理由がなくなったわけではない。
透明な何者かが、近くにいることに気が付いたからだった。
閑話の題は引き続き募集中です。
バレンタインデー編は執筆しました。