とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト)   作:nozomu7

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第74話 襲撃

「アリサが選ばれたのは実力なんだ。それは誇るべきことなんじゃないか?」

 

 駿斗は知っている。

 

 例えば、超能力者(レベル5)という『幸運』がどんな『不幸』をもたらしてしまったのかということを。

 

 例えば、神様の奇蹟を打ち消してしまう右手があっても、多くの人に囲まれ笑っていられる男がいることを。

 

 『幸運』と『幸福』は、似て非なるものだということを。

 

 『幸運』に恵まれたために自分の自信が揺らぎそうになってしまう少女。その幻想を、駿斗の言葉は確かに打ち砕いた。

 

「駿斗君……!」

 

 その少年の言葉に胸を打たれたアリサはほのかに顔を赤くする。

 

 そして、駿斗はバットを勢いよく振り……バッティングセンターにカキィィン、と高い金属音が響いた。

 

「わ~、すごいんだよ、はやと!」

 

 実際の試合では長打になるであろう打球。それを見たインデックスが歓声を上げる。

 

「なに……俺も負けないぞ、駿斗!」

 

 当麻も次の球には当てるべく、バットを構えなおす。だが、次の打球はボテボテのゴロであった。その一方で、駿斗が次の球をやはり長打コースで打ち返す。

 

 これは、特に当麻が野球が下手だとか駿斗がうまいだとかではなく、

 

(こんな速度……御坂の雷撃、原子崩し(メルトダウナー)、海鳥の窒素爆槍(ボンバーランス)神の力(ガブリエル)の『水翼』に比べれば……)

 

「遅すぎるんだよっ!」

 

 比較対象がそもそも間違っている時点で、駿斗は既に人間離れしつつあるのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 そんな風に彼らが楽しんでいる一方。

 

 そのバッティングセンターからあまり離れていない場所にある雑居ビルの屋上に3人の人影があった。

 

 一人一人服装の構成は異なるが、全員が闇に溶け込むような黒装束をしている。さらに、彼女らの手にはそれぞれ箒、扇子、羽ペン――武器が手にされていた。

 

 簡単に言えば、『魔女』という言葉がしっくりくるような格好であった。

 

「……この子が、『鳴護アリサ』……」

 

 誰かがその名前を呟く。

 

 彼女達の目の前には、バッティングセンターにいる4人の少年少女の姿が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 夕暮れが暗闇に変わろうかとしている時間に、街灯がつき始めたのを気にしながら彼ら4人は家路についた。

 

「あーっ! こんなに楽しかったのって久しぶりかな! ほんと付き合ってくれてありがとう!」

「ううん! 私も今日は一緒に遊べて楽しかったんだよ、アリサ」

 

 駿斗、アリサ、インデックス、当麻の順に並んで帰る一同。彼女の荷物は、今は駿斗と当麻の2人で分担して運んでいる。

 

「俺たちも無能力者(レベル0)だからさ。強度(レベル)なんか関係なしに夢を叶えようってする奴がいると思うと、なんか励まされるしさ」

「そうそう夢に向かって頑張る人を見ると、元気になるんだよ!」

「だよな。俺も夢を持って、それに向かって頑張りたいって思えてきたよ」

 

 三人に褒められ、再び顔を赤くするアリサ。

 

「いやいや、当麻さんよりインデックスさんの方が頑張らないとな」

「うん……て、それは失礼かも! 私はもう修道女(シスター)という立派な職業に就いているんだよ! 今の発言はイギリス清教に喧嘩を売ったも同然なんだよ!」

「イギリス清教関係ないだろ! これはお前個人の問題だろ! だいたい日頃の行いから、あんまりシスターの自覚が足りないような気がするんだが。特に今日のファミレスのあれは暴食じゃねーのか?」

「私の仕事は食べる事なんだよ」

「偉そうに言ってるんじゃねーよ!? 大体、お前からはシスターという自覚が感じられないんだよ! なあ、駿斗」

「まあまあ、落ち着けって――」

 

 そんな風に一同は愉快な言い争いをしていたが、そこに美しいハミングが聞こえてきた。

 

「La――♪」

 

 アリサが歩き、その後ろをついて行く彼ら。

 

 公園に入り、ゆっくりと階段を登る。そこには、ストーンヘンジを模したような構造物、円に囲まれた大きな池があった。彼らはそこで足を止める。

 

 歌が終わる。

 

「素敵な旋律だね。すごく好きかも」

 

 インデックスが言う。

 

「その曲、ダウンロードした中にもあったよな。歌詞はないのか?」

「これはまだ作ってる途中なの」

 

 駿斗の問いに、アリサは笑みを返しながら答えた。

 

「駿斗君、当麻君、インデックスちゃん。今日は本当にありがとう。デビューライブが決まったら、必ず知らせるね!」

 

 駿斗たちはうん、と頷いた。

 

 だがその時、池の水面から泡が浮かび上がった。

 

 渦が生まれ、そこから現れたのは長身で腰まで伸びるゆるいウェーブの金髪、とんがり帽子に闇色のマント、箒を手にする黒き魔女。

 

 彼女はその箒を構え、

 

「ウンディーネ。杯の象徴により、万物から抽出されしものよ」

 

 箒につけられた黒猫のアクセサリーが青く発光する。すると彼女の足下の水が、渦を巻きながら激しい水流を噴き上げた。インデックスや当麻も、近くで起こっていることに驚く。

 

「気をつけて! あれは水のエレメントを使役する術式なんだよ!」

 

 インデックスの声が響いたその次には、地面からも、空からも風を纏った魔女が現れた。

 

「魔術の連中か! 二人とも下がってろ!」

 

 当麻はインデックスとアリサをかばうように前に出る。

 

「マリーベート! 足止めして!」

 

 水が矢のようになって彼らに襲い掛かる。が、突如駿斗の前に光る魔方陣が現れそれを防いだ。

 

 しかも、現れた魔方陣は1つだけではない。4つだ。

 

 水を防いだ空中の魔方陣が消えると、その下の地面に描かれた魔方陣から火のトカゲ(サラマンダー)が現れ彼女に襲い掛かる。さらに、駿斗の両肩に現れた魔法陣からは光の球がそれぞれ風の魔術師と、土の中にいた魔術師を狙う。

 

「……あらゆる異能の力を素で感じ取ることができる俺が、気づいていないとでも思ったか?」

 

 さらに、

 

「! キャァッ!」

 

 箒の魔女、メアリエは水のエレメントの制御を失って池へと墜落する。

 

「――あるべき姿へ(G B A T S B)

 

 強制詠唱(スペルインターセプト)

 

 『ノタリコン』という暗号を用いて術式を操る敵の頭に割り込みを掛け、暴走や発動のキャンセルなどの誤作動を起こさせる。全く魔力を使わない『禁書目録』の技術。

 

 思わぬ反撃に攻撃を中止し、防御に回る3人の魔女。当麻はそれを逃さず、土の中から現れた魔女に肉迫した。

 

 その右拳で彼女の霊装を破壊しようと振るった瞬間、その横から見慣れた炎が現れる。

 

「なぜ勝手に動いた。僕の命令を待てと言ったはずだ!」

 

 自身の下に集まった3人の魔女に叫ぶステイル。

 

「何のつもりだよ、ステイル」

「――わが名が最強であることをここに証明する(Foritis931)!」

 

 当麻の問いに答えず、ステイルは炎剣を振るった。

 

「魔法名!? 本気かよ!」

 

 右手で打ち消しつつ、当麻は炎剣を回避する。

 

(――ここであいつ(・・・)が来る前に手を打っておかないと)

 

 駿斗は腰のベルトに新しく付けられていた、今までにはなかったものを取り外し、手に持った。

 

 それは――

 

「杯……水の象徴武器(シンボリックウエポン)!? ……まずい、逃げろ!」

 

 あのステイルが「逃げろ」といったことに動揺する魔女たち。だが、次の瞬間にはその意味が分かった。

 

 公園の水が、いや、それだけではなくメアリエの制御下にあった水でさえも奪われる。その水が駿斗の背に集まり――翼となった。

 

 神の力(ガブリエル)。その模倣。

 

 以前『法の書』でも使ってはいたが、それをさらに上回る、オリジナルのそれにほとんど近い威力を持っていた。

 

 駿斗がその威力の向上に成功した理由が、その杯。それに、駿斗独自の術式を組み込んでおくことで『複製水翼』の生成を容易にし、その余力を天使の力(テレズマ)の制御に回すことで大天使クラスの力にさらに一歩、迫ったのだった。

 

 『複製水翼』が4人に襲い掛かる。

 

 圧倒的な力。人間を超えた攻撃。

 

 

 しかし、それは一筋の斬撃によって切り裂かれた。

 

 

 駿斗は目の前に突如として現れた聖人を睨む。

 

「やはり現れたか……神裂」

「はい。あなたに挑む時点で、このようになるのは分かっていました」

 

 ステイルと同じく必要悪の教会(ネセサリウス)所属の魔術師にして、世界に20人といない聖人。神裂火織。

 

 その奥義である『唯閃』が『複製水翼』を切り裂いたのだった。

 

「まあ、オリジナルとなったものを斬っていた以上は『複製水翼(ただのコピー)』は通用しないよな」

「ステイル。あなたたちは今のうちに鳴護アリサを」

 

 駿斗の相手を彼女に任せ、四人は目的に専念する。

 

「当麻、インデックス。アリサを頼む!」

 

 駿斗は2人に叫ぶと、水の剣を作りだし神裂と打ち合う。

 

(『唯閃』で……切れない……!)

「対策はしてあるからな!」

 

 彼らは音速を超えるスピードで戦闘を繰り広げる。

 

「何を呆けている! 確保しろ!」

 

 ステイルが魔女たちに再び叫ぶ。

 

(くそ、人数に差がありすぎる……)

 

 駿斗が歯ぎしりする一方、当麻は追い詰められていた。

 

「君の右手では、質量までは消せないだろう?」

 

 炎によって溶かされた鉄骨が、当麻に降りかかる。

 

「だめ……やめてー!」

 

 アリサが叫ぶ。

 

 すると、暴風が吹き荒れ、火が消え、鉄骨が真っ二つにされた。

 

「……今のは」

 

 不可解な現象。上条当麻を守るように起こった奇蹟。それに一同は一瞬呆けてしまう。

 

 アリサはそこで力尽きたように倒れた。

 

「アリサ!」

 

 アリサに駆け寄ろうとする駿斗たちに対し、神裂たちは再び戦う姿勢を見せる。だが、彼らはふと足を止めた。

 

 それは別に、駿斗たちと戦う理由がなくなったわけではない。

 

 透明な何者かが、近くにいることに気が付いたからだった。




閑話の題は引き続き募集中です。
バレンタインデー編は執筆しました。
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