とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト)   作:nozomu7

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第75話 涙と願い

 その透明なものはワイヤーを射出した。ステイルはそれをよけ、炎剣を見えない何者かに叩き付ける。

 

 すると光学迷彩が壊れたのか、そこから複数の足を持つ虫のような姿をした機械が現れた。3人の魔女がステイルとともに四方を警戒する。

 

 すると、その機械から円盤が発射された。近くにいた同じ種類の機体からも、円盤が発射される。

 

 そして、1機から再びワイヤーが射出される。

 

「躱せ!」

 

 ステイルが叫び、神裂がワイヤーの何本かを切り裂く。その直後、辺り一帯が爆発に包まれた。

 

「これは能力者だ! おそらくは大能力者(レベル4)!」

 

 AIM拡散力場を感じ取った駿斗が叫ぶ。

 

 その機械から声が流れる。

 

「我々は統括理事会より認可を受けた、民事解決用干渉部隊である! これより、特別介入を開始する」

 

 その直後、今度はその機械が複数現れ、ステイルたちを取り囲むように動く。

 

 円盤が射出され、ワイヤーがそれを貫く度に爆発が起こる。しかし、風の魔女、ジェーンが風を盾にするようにして自分たちの身を守った。さらに土の魔女、マリーベートがその機械の足を食い止める。

 

 他の機械がその土を破壊すると、再びステイルに対し円盤を発射する。しかし、ステイルが炎剣でそれを破壊、魔女たちも援護をする。

 

 残った円盤に向けて再びワイヤーが発射されるが、やはり神裂の『七閃』がそれを切り裂いた。

 

「ステイル! これ以上騒ぎが大きくなると面倒です。撤収を」

 

 神裂が言うと悔しそうな顔をしていたがステイルはそれに従い、他の魔女もステイルの後を追いかける。

 

 すると、機械のうち1つが神裂に迫る。それに対し、神裂はやはり『七閃』を放った。

 

「……やりますね」

 

 爆発により相殺された。それを確認した神裂も、その場を後にしようとする。

 

「おい、神裂! これはどういうことなんだ!」

 

 当麻が言うと、ステイルが代わりに答えた。

 

 

「――彼女は科学と魔術の間で戦争を引き起こしかねないからさ」

 

 

 センソウ? と一瞬、駿斗はその言葉が理解できなかった。

 

 その言葉だけを残して、ステイルは消えた。

 

 しかしほっとする暇もなく、例の機械が近づいてきた。それは駿斗たちの目の前で停止すると、その先端部分、コックピットが開かれる。そこから現れたのは、長い黒髪を持つ、自分達とあまり変わらない年の少女だった。だが、その少女の表情はひどく無機質なものだ。

 

「……何者だよ?」

「我々は学園都市の秩序を維持すべく特殊活動に従事している」

 

 駿斗の問いに少女は簡潔に答えた。

 

「そんなんじゃわかんねぇよ! あの子の敵なのか、味方なのか?」

「違う。先程の戦闘は、依頼を受けた任務の一環だ。……警告する。その娘に関わるな。これ以上気安く関われば――貴様達は死ぬ」

 

 

 

 

 

「La――♪」

 

(ここは……?)

 

 何かの乗り物の中。1人の少女がその中を歌いながら歩いていく。その手には、蒼いブレスレットが握られていた。

 

 そして――

 

「はっ……」

 

 鳴護アリサはその体を起こした。

 

 見知らぬ部屋。そのベッドに、アリサは寝かされていた。

 

「アリサ」

 

 声をかけたのは、テレビゲームをしていたインデックス。

 

「おう、起きたか。当麻。アリサが起きたぞ」

 

 ベッドの横にいてアリサの手を握っていた駿斗が、その手を放して言った。

 

「ここは……?」

「おうちだよ。はやとのおうち」

「正確には学生寮の部屋ってとこだ……。ああ、体に目立った外傷はないし、その他体調の方も大丈夫だ。ストリートライブやオーディションで疲労が溜まっていたんだろ」

 

(まあ、そこにあの戦闘のショックが加わったというのが妥当か……)

 

 駿斗は考える。

 

「寮?」

 

 呟くように言ったアリサは近くに救急箱が置かれているのを確認する。すると、駿斗はそれを部屋の隅に置いた。

 

「ああ、これはいつでもすぐに使えるように、日頃からここに置いてあるだけだよ。当麻が頻繁に怪我をするからな」

「……それで、何か思い当たることはあるか? あいつらが何者なのか」

 

 当麻の問いに首を横に振るアリサ。

 

「ふふん、知らなくて当然だよ。だって、あれはまじゅ……もがっ」

「ま、まあ、マジで科学じゃ割り切れない力ってあるよな!」

 

 インデックスの口を塞ぎ、慌ててごまかす当麻。魔術のことを知らないなら、知らない方が良い。下手に関わらせるわけにはいかないのだ。

 

「2人も信じてるの!? ……その、科学じゃ割り切れない力があるってこと」

「え!? な、なにを……」

 

 ベッドに四つん這いになり迫るアリサに、顔を赤くする二人。

 

 彼女は気付いていないようだが、先の戦闘で汚れた服を洗濯したため、素肌の上に駿斗のTシャツを着せただけの、非常に無防備な姿なのだ(着替えさせたのはインデックス)。

 

 彼女はベッドの上に正座しながら、

 

「うん……不思議な、科学じゃよくわからない力みたいなのがあるかなって」

「まあ、超能力だって不思議っちゃ不思議な力だしな」

 

 当麻が言うと、うがーっ! と口を塞がれ呼吸困難だったインデックスが暴れて、はっ、と気づいた当麻はすぐに解放する。

 

 インデックスはウグーッ、と当麻をにらみつけた後、

 

「アリサはそういう力があってほしいの?」

「……実はね。あたしがそうなんだ」

 

 彼女は膝の上で両手を重ねて座りなおすと、暗い声色で言った。

 

「歌を歌ったりするときだけなんだけど……何か計測できない力みたいのがあるらしくて。今も霧ヶ丘女学院で定期検査を受けているけれど、結局、何かは分からなくて……。もしかしたら、皆があたしの歌を聴いてくれるのって、その力のせいじゃないかなっ、て……」

「「……違う!!」」

 

 悲しげに少し顔を逸らしていたアリサに2人は叫ぶ。

 

「そんなんだったら、俺の右手が!」

「右手?」

 

 アリサは当麻に聞き返す。すると、インデックスが言った。

 

「そうだよ! アリサの歌は本物だよ!」

「ああ、そうだよ」

 

 駿斗が言った。

 

「アリサはさ、たくさんの人に歌を届けたい、って言っていたよな。その純粋な思いが伝わっているんじゃないか?」

 

 駿斗は続ける。

 

「俺はさ、書庫(バンク)の登録は無能力者(レベル0)にしてあるけれど、実は『原石』であらゆる『力』をじかに感じ取り、創り出して行使できる力を持っているんだ。こんな感じに」

 

 結晶の棒を作り出す。幻想創造(イマジンクリエイト)って呼んでいるけどな、と駿斗は付け加える。

 

「アリサには確かに『違和感』を感じなくもないよ。だけど、それはおそらくは純粋な、純粋すぎる願いの結晶だと思うんだ。実際、学園都市の能力者である精神感応(テレパス)のようなAIM拡散力場は感じられなかったからな」

 

 それに、と駿斗はさらに言う。

 

「当麻も俺と同じように『原石』なんだよ」

「ああ。俺の右手は幻想殺し(イマジンブレイカー)って呼んでいるけどな。あらゆる『異能の力』を無効化できるんだ。それが学園都市で開発された能力であっても、神様が引き起こす『幸運』なんて曖昧なものであってもな」

 

 駿斗に話を振られた当麻が、結晶を打ち消しつつ言った。

 

「俺も精神系の能力は一切通用しない。だけど、俺たちの心にちゃんと歌は響いていたよ。きっと、アリサは歌に対してとても純粋な思いで向かい合うことができているんだと思う。他の、誰よりも。だから、その思い、願いが届いているんじゃないかな」

 

 駿斗が話す。

 

「……ありがと」

 

 アリサは、自分にじゃれついてきたスフィンクスを抱え、ベランダに出る。

 

「私ね、歌で皆を幸せにしたかった。歌っていれば、自分も幸せになれる気がしてた。でも、それでもし、誰かが傷つくのなら、私はもう――」

「おい、まさかオーディションに合格したのに、辞退しようとか思ってないよな?」

 

 アリサが言い終わる前に当麻がその続きを制した。

 

「だって……歌いたいって、結局あたしのワガママだよ。また、さっきみたいなことがあったら……」

 

 アリサは先ほどの戦闘を思い出す。

 

 燃え盛る炎。水が大地を砕き、周囲が爆発に包まれた。

 

「そのせいで、周りの人に何かあったら……」

 

 当麻の上から降りかかった鉄骨。

 

「……だから諦めるのか。力づくでくる連中に屈して、自分の幻想(ゆめ)を殺すのかよ!」

 

 当麻は叫ぶ。その幻想を守りたいから。

 

「アリサ、言えよ。叫べよ。本当はどうしたいのか。それはお前自身が誰よりも分かっていることじゃないのか?」

 

 駿斗も叫ぶ。その少女を助けたいから。

 

 アリサは泣いていた。静かに、涙を流していた。

 

「……歌いたいよ」

 

 思いをこぼすように、アリサは弱々しく言った。

 

「だって、私にはそれしかないんだもん……」

 

 スフィンクスが、その流れる涙をなめる。

 

「なら、歌えよ」

「えっ……?」

 

 駿斗が力強く言った。

 

「やれる力があって、それをやりたいのなら、やらなくちゃだめだ」

 

 当麻も断言した。

 

「お前が歌いたいって言うのなら、その幻想をいくらでも俺が現実に創り上げてやるよ。それが俺の力だから。俺の信念だから。だから、諦めないでくれよ。お前の歌を、全ての人たちに届けてやれよ」

 

 駿斗は言う。

 

 諦めなくていいと。夢を追いかけろと。

 

 1人の少女の幻想は、創造してみせると。

 

「だからお前が安全に歌えるようにする。約束だ」

 

 アリサは頬の涙を拭うと、頷いた。

 

「……うん!」

 

 少女には、笑顔が戻っていた。

 

「なら、アリサはしばらくここにいればいいんだよ!」

 

 インデックスが言う。

 

「おい! ここの家主は駿斗だろ。インデックスが勝手に決めるなよ!?」

「だって、魔術師は人目があれば手出しできないし」

 

 当麻の慌てた声に、インデックスはキョトンとした顔で返す。

 

「そう言う問題じゃ――」

「いいんだよ、当麻。まあ、アリサがそれでいいのなら、だけど」

 

 駿斗が2人を止め、アリサに話を振ると「……いいの?」と返事が返ってきた。

 

「気にするな。俺も幼馴染の子を2人泊めたことがあるし……って、それは置いといて。俺は大丈夫だよ。とにかく今日は疲れただろうから、早めに寝ろよ。ベッドは使っていいから」

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