とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト)   作:nozomu7

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第77話 最悪な奇蹟

 ショッピングモールに造られた舞台の上には、6人の少女が立っていた。

 

 1人はもちろん、今回がデビューとなる鳴護アリサ。マジシャンを思わせる大きめのシルクハットの帽子飾りに、大きなテールとリボンをつけた、燕尾服のコスチュームをしている。

 

 そして、その他5人はキャンペーンガール要因として巻き込まれた御坂、佐天、初春、最愛、海鳥である。

 

 アリサの歌が響き、舞台がフラッシュの光に包まれる。

 

 その一方、駿斗はその会場の前にいる群衆の中に溶け込んでいた。

 

(このAIM拡散力場、1回だけ感じたことがあるな……)

 

 そう考えた駿斗はそれを発する本人を探すため、会場の中に視線を走らせる。

 

(いた!)

 

 そう、彼女がいた。施設治安維持組織、黒鴉部隊のリーダーであり、一昨日にはイギリス清教の魔術師たちと戦っていた少女。シャットアウラ=セクウェンツィア。

 

 黒いフードをかぶっているが、彼女に間違いない。

 

 駿斗が彼女を追うと、補習を終えたのであろう、当麻が横に並んできた。

 

「駿斗!」

「当麻、行くぞ!」

 

 彼らは彼女を追いかけた。

 

 

 

 

 

 人気のない地下駐車場で、シャットアウラは1人の男と対峙していた。

 

「鳴護アリサは、我々『黒鴉部隊』の庇護下にある」

 

 彼女は、細身だが背の高い、マントに覆面をつけた襲撃者の男に警告する。そして床を思い切り蹴り、相手に向かって一直線に飛び込んだ。

 

 右拳、上段蹴り、と相手に攻撃をするが、男もそれを素早い動きで躱す。

 

 そして、続く2撃目を跳ぶと――軽々と3m近い天井に足裏を着け、シャットアウラの背後から回し蹴りを繰り出す。それを、彼女は体をひねりながら飛んで躱すと、レアアースを投げつつ素早く距離を取った。

 

 大能力(レベル4)希土拡張(アースパレット)。それが彼女の能力。

 

 レアアースを媒介にエネルギーを貯蔵・解放させる事ができる。

 

 手首に計4つ仕込まれている射出装置からアンカーワイヤーを発射すると、それらをレアアースペレットと接続する。

 

 そして、爆発。男は爆炎に包まれる。

 

 だがそこから出てきた男は、ダメージを負ったようには見えなかった。シャットアウラは驚くが、再びレアアースをばらまく。

 

 しかし2度目の攻撃は全て躱され、シャットアウラは蹴りを受けて飛ばされた。

 

 そこに追撃をかけようとした男は――壁に叩き付けられる。

 

「うおおおっ!」

 

 そこに、当麻の右手が叩き付けられ……ガードをしようとした男の腕が消滅した。

 

「やっぱり……駿斗の言っていた通り、魔術でできた人形か!」

 

 当麻が叫んだとき、シャットアウラの通信機器に連絡が入った。

 

『クロウ7よりクロウリーダーへ。Dブロック基部で爆弾を発見。複数個です!』

「すぐに退避しろ!」

 

 シャットアウラは命令を飛ばす。だが次の瞬間、当麻が駿斗の重力操作(グラビティ)で拘束された男の顔面を殴りつけその仮面が外れると、その男は爆弾の起爆スイッチを押した。

 

 駿斗の構成変換(コンスチチュートチェンジ)では間に合わなかった。

 

「当麻!」

 

 地下駐車場が爆発に包まれ、駿斗と当麻は迷わずシャットアウラに覆いかぶさるように伏せた。

 

 

 

 

 

 会場では電気が急に落ち、そして次の瞬間には轟音とともに震動が人々を襲った。

 

 その震動により、アリサ、佐天、初春の3人が地面に倒れる。

 

 これは、日本に多い地震ではない。

 

「爆発!? ……黒子!」

 

 最愛は窒素装甲(オフェンスアーマー)を体に纏い、白井が初春と佐天を連れて空間移動(テレポート)する。海鳥も自身の能力である窒素の槍を上へと向け、大きな瓦礫を切り裂いていく。

 

「御坂! アリサを超頼みます!」

 

 最愛の声が響くよりも早く、御坂はアリサの下に倒れくる鉄骨を自分の電撃で捻じ曲げ、磁力で支える。しかし。

 

「全部は無理……!」

 

 間に合わない。御坂はそう判断を下し、歯噛みする。

 

 そう、第3位の超能力者(レベル5)である彼女の磁力でも、それは間に合わなかった。そして、上条当麻と神谷駿斗も、地下にいた。

 

 つまり、この場の全ての人々を助ける救世主はいなかったはずだった。

 

 だが、会場がわずかに不可思議な色に包まれ……『奇蹟』は起こった。

 

 

 

 

 

 震動が収まり、白井は鉄骨の倒れているステージの上に上がって呼びかける。

 

「皆さん、風紀委員(ジャッジメント)ですの! けがをした人はいませんか?」

 

 すると。

 

「大丈夫か?」

「あ、ああ……今のは?」

「危なかった。けど、何が……」

「よかった。少しでもズレてたら……」

 

 負傷者は、1人もいなかった。これだけのことが起こっておきながら。

 

 人々は、それをこのように信じた。

 

「ええ、ホント、奇蹟ね」

「おお、そうだ。これは奇蹟だ!」

「奇蹟が起きた!」

 

 荒れ果てた会場の中で、そのような声が響き始める。

 

 その言葉を聞いたアリサの表情は、困惑と絶望が入り混じったものとなっていた。だが、そのことに気が付く者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 瓦礫に埋まった地下駐車場の中で、3人の少年少女が倒れていた。

 

 より厳密に言うと、1人の少女に1人の少年が覆いかぶさり、さらにその上に、1人の少年がその2人を守るように覆いかぶさっていた。

 

 失っていた意識を取り戻したシャットアウラが、自身の現状を確認した後で言う。

 

「おい、そこをどけ……おい!」

 

 自分に覆いかぶさっている少年2人にいったのだが、彼らも気を失っているようだ。だが、当麻が先に起きた。

 

「う……大丈夫、か……」

「私は無事だが、お前ら2人のせいで起き上がれない。さっさとそこをどいてくれ」

 

 シャットアウラはそう言った。

 

「ああ、悪い。駿斗。……駿斗?」

 

 当麻は無理矢理その体を、駿斗ごと起き上がらせる。すると、その眼に赤黒い液体が飛び込んできた。

 

「おい、駿斗! 大丈夫か!?」

 

 当麻は慌てて駿斗を抱き起すが、彼は気を失ったまま動かない。だが、2人よりも明らかに大きな傷を負っており、出血量も多いようだ。

 

「くそ……」

「その男も連れて移動するぞ。また何が崩壊するか分からないからな」

 

 シャットアウラはそう言うと、無線を取り出しながら移動を開始する。

 

「……鳴護アリサは無事か? 死傷者は? ……ゼロ!?」

 

 部下からの連絡に、シャットアウラは驚愕する。

 

「すげえじゃねえか。駿斗さえこうなっていなければ、『奇蹟』って呼べるものなのにな……がっ!?」

 

 当麻がその言葉を言った瞬間、彼女は当麻が駿斗を背負っているのも忘れて彼を壁に押し付けた。駿斗は気を失ったまま、床に倒れる。

 

「私の前でその言葉を口にするな! あるのは、量子力学的な偶然の偏差と、人の中にある歪な欲望だけだ!」

「おい……!」

 

 そこで、今まで気を失っていた駿斗が意識を取り戻した。

 

「当、麻……。あいつら、アリサたちは? お前らは? 無事だったのか? 会場の人たちは……」

「駿斗、動くなよ」

 

 力のゆるんだシャットアウラの手をほどき、当麻は駿斗をもう一度背負いなおす。

 

「まだ能力を使えるほど回復してないはずだ。応急処置もしていない。……死傷者はゼロだそうだ。だから、休んでくれ」

 

 その言葉を聞いた駿斗は、再び目をつぶった。

 

「あんたが鉄壁の委員長タイプであることはよく分かったよ。だけど一度はあいつの歌、ちゃんと聴いた方がいいぞ。そうすれば、やっぱり奇蹟があるって信じられるかもしれないぜ」

 

 当麻の言葉に、シャットアウラは少し黙った後でこう言った。

 

「……私の脳は3年前のある事故で音楽を認識する機能を失った。医者の話だと音の高低とリズムを処理する機能のみが損失してしまったらしい」

 

 彼女にとっては、歌の音色は醜悪な雑音(ノイズ)にしか聴こえない。アリサの歌の良し悪しなど、分かるはずもない。

 

「……すまない。そんなこと全然気づかなくて……あんたの」

「シャットアウラだ。シャットアウラ=セクウェンツィア。謝罪する必要はない。何故なら私は今の自分に満足しているからだ」

 

 

 

 

 

『―――第7学区ショッピングモールでの、爆発事故のニュースです。ショッピングモール地下の施設で、何らかの爆発があり、原因の調査が進められています。事故当時、歌手『ARISA』さんのライブイベントが行われており、多くの観客が会場にいました。ですが、死傷者は一人もいないとのことで……』

 

 アリサはビルの大画面に映る、アナウンサーの話す内容を聞くとその場に座り込んでしまった。

 

『ええ、ホント、奇蹟ね』

『おお、そうだ。これは奇蹟だ!』

『奇蹟が起きた!』

 

 目の前の大画面だけでない。飛行船にも『ARISA』の文字が映り、広告塔にもアリサの姿が映し出されている。

 

 アリサが目を閉じると、その瞼の裏に3人の少年少女――駿斗、当麻、インデックスの姿が浮かび上がった。

 

 彼らは、自分を元気づけてくれた。勇気づけてくれた。

 

 でも、実際に『奇蹟』は起こってしまった。最悪とも言える形で。

 

 やはり、自分には何らかの力があるのか。彼らから勇気をもらって克服したはずの不安が、再びアリサの心の奥にずしり、と重く圧しかかる。

 

 その訳の分からない不安と、自責の念と、様々な感情が彼女の頭の中を駆け巡り……アリサは、その場に力なく座り込んでしまう。すると、そこに1人の少年が近づいてきた。

 

「大丈夫か?」

「……駿斗君」

 

 彼女を見つけたのは、『不幸』の少年すらも救う『奇蹟』、その枠からさえも、先ほどの1回だけは唯一外れた少年。

 

 彼が先ほど怪我をして、それを治してから来たことを彼女は知らなかったが、とにかく彼に話し始めていた。

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