とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト)   作:nozomu7

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第78話 少女の力

 2人は公園に入り、暖かなオレンジ色に照らされた噴水の下へとやってきた。

 

「何か変だよね。……本当に奇蹟があるなら、そもそもあんな事故は起こらないんじゃないかって」

「……そうだな」

 

 アリサの言葉に、駿斗が少しためらった後でそう答えた。

 

 アリサはとにかく、彼に話したくなった。彼女の頭の中で駆け巡っているこの考えを。

 

 自分自身に宿っているのかもしれない奇妙な力。この正体を一緒に考えてくれる存在でいて欲しかった。同じ、奇妙な力を持つ者として。

 

 同時に、彼は彼女の歌を『奇蹟』に関係なく理解してくれる人でもあった。

 

「今まではラッキーだって思うようにしてたけど、もう分からなくなっちゃった。昔にも、おっきな事故があったらしいし」

「“らしい”?」

 

 彼女の言葉の語尾に引っ掛かりを覚え、尋ねる駿斗。

 

「私、3年前より記憶がないの。この名前も、施設の人がつけてくれたものなの」

 

 だから、記憶も、名前もない自分には、『これが本当の自分だ』と言えるようなものがなかった。

 

「だけど、歌を歌うと心が温かくなって、何かが湧き上がってきて……! 歌があればいつか取り戻せそうな気がするの。あたしが失くした『何か』を」

「そうか。お前には、信じているものがあるんだな」

 

 駿斗はそう言うと、爽やかな笑顔を見せた。

 

「なら、きっと大丈夫だ。お前は自分の夢を追い続けることができるよ。肉親がいない俺たち(・・・)にとって、それこそが重要なことだと、俺は思っているからな」

「『俺たち』って……駿斗君も!?」

「ああ。置き去り(チャイルドエラー)なんだ。最愛と海鳥は、同じ施設で育った幼馴染ってやつでさ」

 

 アリサに変わり、今度は駿斗が自身の身の上を話し始める。

 

「俺は中学の途中まで、『自分』というものがすごい漠然としていてさ。みんなの前では、とにかく周りの人の期待に応えることばかり考えていたんだ。そうしないと、家族が自分を置き去りにしたように、周りの人も自分を置き去りにしてどこかへ行ってしまうんじゃないか、って」

 

 だから、人から褒められるためだけに勉強を頑張った。

 

 だから、人から認められるためだけに行動した。

 

「だけど、そんな時当麻と知り合ってさ」

 

 誰彼かまわず、目についた人間を片っ端から救い上げていく上条当麻。駿斗も正義感が強いほうではあったのだが、その出会いまでは今ほどではなかった。

 

 善悪に属するから救っているわけではない。「助けたい」という自身の内から湧く感情に従って行動しているだけで、それが結果として他人から勝手に善と評価されているに過ぎない。

 

 当麻はそのことを、自嘲して『偽善使い(フォックスワード)』と呼んでいた。

 

 彼は、他の人から見れば『敵』と思われるような境遇の人間さえも救っていたのだ。

 

「俺にはその姿が眩しく見えた。当時の俺は、本当に他人基準でしか動かなかったから」

 

 その姿を追い求め、自分が持っている幻想創造(イマジンクリエイト)という力の名も、彼の幻想殺し(イマジンブレイカー)から取った。

 

 今の彼の姿からは考えもつかないかもしれないが、神谷駿斗の過去の中に、確かに存在した出来事だ。

 

「俺は、目の前の人間の幻想を創造することによって、自分の手に入れたいものも一緒に創り上げる。そのために行動するって、決めたんだ。当麻があらゆる幻想(マイナス)殺す(ゼロにする)なら、俺はあらゆる幻想(プラス)を創るって」

 

 その願いを込め、幻想創造を使い、親友となった少年と同じように『偽善使い』を名乗ることにした。

 

 こうして置き去りの少年は、偽善使いとなったのだ。

 

「そうだな……。それが俺の夢、かな」

 

 公園の噴水を見つめながら、駿斗は言った。

 

「追い続けて、この手で掴んでやろうぜ。俺たちの、『夢』ってやつを。だから、アリサは歌い続ければいいさ。そうすれば、どんな幻想だって創造することができるさ。現実(ここ)にな」

 

 駿斗はアリサの方に向かい合い、その右手を差し出す。

 

「……うん!」

 

 アリサは、しっかりとその手を握り返した。その胸に高鳴る鼓動を感じながら。

 

 

 

 

 

 翌日。オービット・ポータルの社長、レディリー=タングルロードの記者会見がテレビに映し出されていた。

 

『いよいよ明後日は、「エンデュミオン」の開店披露式典ですね』

『当日では、わが社が総力を挙げて、皆さんに「奇蹟」とはいかなるものか、お見せできると思います』

 

 その日の『ARISA』のライブには、大勢の人が集まり、駿斗と当麻とインデックス、そして御坂と白井、佐天と初春、最愛と海鳥といった面々も参加した。

 

 アリサにとっては初めてのライブである。

 

 普段の彼女と異なり、珍しく露出度の高い赤紫と金の服装であったが、それがむしろ今彼女の歌っている曲の雰囲気にはあっていた。

 

 ステージが鮮やかな照明に彩られ、観客では聴衆が様々な色のサイリウムを振る。

 

 その様子を、会場に取り付けられたカメラを通じて見ている者がいた。

 

 レディリーだ。

 

「奇蹟の歌声……平凡だけど、実効性が伴えばこれだけ強いコピーはないわね」

 

 アリサの雇い主である彼女はそう言った。ただし、これは独り言ではなかった。彼女の後ろにいる少女に向けたものだ。

 

「ねえ、そうは思わない?」

 

 そう尋ねられたその少女、シャットアウラは簡潔に答えた。

 

「いえ。私は奇蹟など信じておりませんので」

「本当につまらない子ね。オリオン号とともに地に墜ちるはずだった『オービット・ポータル』の盟約を保ったのは、『88の奇蹟』のイメージよ? ある意味、『奇蹟』はわが社最大の売り物なのかもしれないわね」

 

 その言葉にシャットアウラは目つきを鋭くして反論した。

 

「『オリオン号事件』は、決して奇蹟などでは」

「88名全員が生き残ったのに? これを『奇蹟』と言わずして、いったい何が奇蹟なのかしら?」

 

 レディリーの言葉に、シャットアウラはぐっ、と言葉を詰まらせる。

 

「さあ、これでようやくすべての準備が整ったわ……!」

 

 実年齢が全くつかめないほど幼い容姿をしたその少女は、机の上に映し出されている立体映像(ホログラム)を見つめながら呟いた。

 

 

 

 

 

「いよいよだね、アリサ!」

「うん! インデックスちゃんたちが助けてくれたおかげだよ!」

 

 ライブを終え、少女2人はファミレスにいた。

 

「今日は私が奢るから、何でも食べて!」

 

 アリサのその言葉に、インデックスは遠慮なくウエイトレスを呼び、次々と注文する。

 

 そのころ、駿斗と当麻の2人は公園で青白い街灯に照らされる中、土御門と話していた。

 

「いや、よりにもよってあの子とは。さすがはかみやんとはやとんぜよ」

「じゃあ、お前はアリサがなんで狙われているのか知っているんだな?」

 

 土御門の言葉に、問い詰めようとする2人。すると、そこに1人の女性が割り込んできた。

 

「彼女は『聖人』、あるいはそれと同等の力を持つとみなされているのです」

「神裂……」

 

 ゆっくりと、彼らに近づいて来る神裂。

 

「暫定で第9位。完全に覚醒すれば、私を上回る力を持つ可能性も」

「アリサが、聖人!?」

 

 神裂の言葉に驚く2人。

 

「ちょっと待て! アリサからは魔力の類は一切感じられなかったんだぞ!」

「あくまで『推測』だぜよ、はやとん。それに、彼女はまだ覚醒していないんだしにゃー。そもそも、証明も何もされていない」

 

 土御門が言う。

 

「土御門、あなたの見解は?」

「どうだかにゃー。そもそも、『聖人』の定義も曖昧だし。ねーちんが隅から隅まで調べさせてくれれば……」

「じょ、冗談じゃありません!」

 

 自身の体をじろじろ見始めた土御門から、両腕で自分自身を抱きかかえるようにして距離を取る神裂。

 

「ともあれ、学園都市はあの子の資質や能力を解剖学的に解明して利用したいらしいぜよ。特に、あのロリっ子社長はな」

 

 そんなことが起こればどうなるか。

 

「おい、『聖人』の仕組みが科学サイドである学園都市で解明なんかされたら……」

 

 世界に20人といないと言われる、生まれた時から神の子に似た身体的特徴・魔術的記号を持つ人間。それが『聖人』。偶像の理論により、『神の力の一端』をその身に宿し、その能力は一般的な魔術師が太刀打ちできるような次元ではない。そんな、学園都市の能力者で言えば超能力者(レベル5)とも言える存在。

 

 そんなものが、多くの魔術師に敵対されている学園都市に解明されたらどうなるか。

 

『――彼女は科学と魔術の間で戦争を引き起こしかねないからさ』

 

 ステイルの言葉が駿斗の脳裏によみがえる。

 

 駿斗の奥歯がギリ、と嫌な音を立てた。

 

 

 

 

 

「……これ」

 

 アリサは、ファミレスでインデックスに封筒を渡した。

 

「あの歌の歌詞。一緒に歌うって、約束したでしょ?」

 

 それを見て、さらに目を輝かせるインデックス。

 

 乾杯、と彼女らはコップをぶつける。

 

 その時、3人の魔女がその場に現れた。

 

 

 

 

 

 アリサがさらわれた、とインデックスから連絡が入った当麻と駿斗は、急いで移動していた。

 

 犯人は、ステイルたち……イギリス清教の魔術師。

 

 空中に身を躍らせている駿斗は再び歯を食いしばる。

 

 魔術による飛行は簡単に撃ち落されてしまう。

 

 十二使徒の一人、ペテロは自由自在に空を舞う聖職売買で有名な魔術師シモン=マグスと対立した時、主に祈るだけで撃墜した。そのために、空を飛ぶ魔術は山ほどあってもそれは全て簡単に撃墜されてしまうのだ。

 

 したがって、駿斗は一度魔術による補助を受けて高度を上げた後、掌から空気を圧縮、噴射する能力で少しずつ高度を下げつつ移動している。そのため、あまり速度が出ない。

 

 駿斗は焦っていた。

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