とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト)   作:nozomu7

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第79話 誘拐

 学園都市内の高速道路では戦闘が始まっていた。

 

 追っているのは、黒鴉部隊隊長のシャットアウラ。

 

 追われているのは、先ほど鳴護アリサを誘拐したイギリス清教のステイル、メアリエ、マリーベート、ジェーン。

 

 トンネル内でステイルは車の屋根の上に乗り、シャットアウラの駆る虫のような形をした機械に炎剣を叩き付ける。

 

「師匠、これを!」

 

 ジェーンは自身の霊装である扇を振るい、窓から大量のルーンのカードをばらまいた。

 

「――魔女狩りの王(イノケンティウス)!」

 

 トンネル内に、摂氏3000度の炎の巨人が出現する。それは3機ある機械の内2機を弾き飛ばした。

 

 しかし、シャットアウラもトンネルを出たところでついにレアアースの爆発を喰らわせる。ステイルたちの乗っている乗用車はスリップを始め、そして横転して止まってしまう。

 

 ステイルがその車の屋根から飛び降りると、シャットアウラはその手前で停止する。

 

 その時、ついに駿斗たちが追いついた。

 

「やめろ!」

 

 突然の闖入者に、2人はそちらに振り向いた。

 

「何先走っているんだよステイル。別にアリサが『聖人』だとまだ決まったわけではないんだろ!」

 

 当麻が叫ぶ。

 

「神裂か……。先ほどイギリス清教より新たな命令が下った。あれが何かわかるか?」

 

 ステイルはそう言って、天上へと連なる青く光る塔に視線を送る。

 

 その質問に、駿斗が答えた。

 

「宇宙エレベーター『エンデュミオン』。魔術的な意味合いで行くとシュメールのジグラート……バベルの塔、といったところか」

「その通りさ」

 

 合理性を欠いた巨大建築物はその存在そのものが魔術的意味合いを帯びてしまう。

 

「まさか、お前らがあれを使う気なのか!?」

「逆だよ。あれに『聖人』を組み込んで大規模魔術装置にしようとする人間がいる。それが問題なのさ」

 

(……あいつらは何を言っている?)

 

 3人の話を聞いていたシャットアウラは眉をひそめる。その時、通信が入った。

 

『私よ。警備員(アンチスキル)が動き出したわ。撤収して』

「了解」

 

 誰もが身動きが取れない中、シャットアウラは機体を横転したままの車の前まで移動させた。そしてマニピュレータ―でその体を持ち上げると、気付いた。

 

「これは……!」

 

 それはアリサが手首に着けている、蒼いブレスレット。それは、ある限られた人間しか持っていないはずのもので――

 

『あら、気づいちゃったかしら? いいわ。回収して連れてきなさい』

 

 その言葉を聞くと、シャットアウラは戸惑いつつもアリサを機体の中へと回収する。

 

「待ってくれ、シャットアウラ!」

 

 当麻が彼女を止めに入る。

 

「行かせねえよ!」

 

 駿斗も重力操作(グラビティ)で拘束にかかる。

 

 どんな組織であろうが、今彼女を連れていかれるわけにはいかない。

 

 魔術サイドに渡せば、彼女を『聖人』として使われる可能性を否定できない。

 

 科学サイドに渡せば、必ず学園都市内に潜んでいる誰かがエンデュミオンとアリサを核にした大規模魔術を発動させるだろう。

 

 だから、ここで止める。そう考えた駿斗だったが。

 

「黙れ! 関係などないやつが、邪魔をするな!」

 

 レアアースパレットが夜空に打ち上げられ……爆発。その余波の爆風は、全てを吹き飛ばした。

 

 物理攻撃に弱い当麻は言わずもがな、駿斗さえも防御が間に合わず高速道路の壁に叩き付けられる。

 

 

 

 

 

 御坂美琴は最愛と海鳥の2人と一緒に、寮の部屋でパソコンを使って調べ物をしていた。

 

 すると、佐天から御坂に電話がかかってきた。

 

「もしもし、どうしたの? ……え!? アリサさんが!」

『はい。さらわれたのは彼女で、ほぼ間違いないんじゃないかって』

 

 電話から聞こえてきた声に、最愛と海鳥の視線が鋭くなる。

 

「すると、あの時のライブの事故も多分そうだな……」

「ええ。きっと事故ではなく超狙われたというのが妥当でしょうね」

 

 彼女たちは、すぐに学生寮を飛び出した。そのため、パソコンに映し出された、レディリー・タングルロードとみられる人物が映っている写真の年号には気が付かなかった。

 

『Ladylies Tangleroad 1870 Paris』

 

 

 

 

 

 薄暗い部屋に、アリサは寝かされていた。その側には、シャットアウラがいる。

 

 シャットアウラは、アリサのブレスレットを手に取る。そして、自分の持っているブレスレットと併せた。

 

 欠けた2つのブレスレットは、ピッタリ一致した。

 

「どうしてこのブレスレットを……? いったい何者なんだ……」

「やっぱりあなたたちは引き合ってしまうのね」

 

 突如として現れたレディリーに、シャットアウラは驚いて振り向く。

 

「あの日、『オリオン号』に乗っていたのは88人。事故直後に確認された生存者は88人。誰もがこれを奇蹟と言ったわ。でも本当は、1人だけ死亡者がいた」

 

 スペース・プレーン『オリオン号』のパイロット――ディダロス=セクウェンツィア。

 

「そう……あなたの父親」

 

 しかし、その事実が確認されたときはもう手遅れだった。世界は『奇蹟』に湧き、“89”人目の存在は隠蔽された。

 

 だが、それだと疑問が残る。なぜ事故の前と事故の後で搭乗していたとされる人数が異なっていないのか。

 

 それは。

 

「どこからともなく現れ、『奇蹟』を演出した立役者である『89人目』。それが、この娘」

 

 鳴護アリサ。彼女こそが、存在しなかったはずの『89人目』。

 

「あなたはあの悪夢を奇蹟だと言い張るのか!? 真実を知っておきながら!」

 

 シャットアウラはその口調を荒げた。

 

「だって、本当は誰も助かるはずがなかったんだから(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 レディリーがさらりと言ったその言葉に、シャットアウラの目が大きく見開かれる。

 

宇宙(そら)だったらうまくいくと思ったんだけどね。まさか、あなたの父親以外、全員生還しちゃうなんて本当に予想外だったわ。まあ、思わぬ『副産物』が産まれたのだから、その意味では成功というべきなのかしらね」

 

 淡々と話すレディリーに、シャットアウラは激昂した。

 

(全てはこいつが仕組んだことだったのか。お前のせいなのか! お前のせいで、父さんが!)

 

 彼女は溢れ出す激情のままにナイフを突き刺す。レディリーの左胸――心臓がある場所から、赤黒い液体が噴き出した。

 

 それを確認した時、背後から気配を感じた。振り向くと、そこにいたのはあの爆発があったライブの時にいた男。そしてもう1人、女がいた。

 

 彼女はその2人がレディリーの手駒であることを知る。

 

 シャットアウラは知らないが、彼らは男は魔術で、女は科学で生み出された『自動人形』である。

 

 その2人の動きから目を離すまいとシャットアウラが睨みつけていると、笑い声が響いた。

 

「もう気は済んだ? ナイフで刺されたのは16回目だったかしら」

 

 レディリーが立ち上がっていた。

 

 ナイフで確実に急所を刺したはずなのに、彼女は立ち上がった。それを見たシャットアウラの表情が、驚愕に染まる。その一瞬を突き、『自動人形』は素早くシャットアウラを拘束した。

 

「な……! 化物め……!」

 

 シャットアウラは拘束されたままレディリーを睨む。

 

「あら、そう? 私も大概だけど、あなたたちだって相当なものよ? ……あなたには本当の『奇蹟』をこれから見てもらうわ」

 

 そしてレディリーが命令を出すと、『自動人形』は拘束しているシャットアウラを移動させた。

 

「貴様が何を企んでいようと、絶対にその計画を潰してやる!」

「期待してるわ」

 

 最後にそんなやり取りを交わして、シャットアウラは部屋から連れ出された。そしてそれを確認したレディリーは、鳴護アリサを起こす。

 

「あなたにお願いがあるの。鳴護アリサさん」

 

 

 

 

 

「それじゃあ、やっぱり」

「うん。アリサは帰ってないよ」

「私たちも、あちこち当たってみたんだけど」

「影も形もありませんでした……」

「そうか……」

 

 ここは冥土返し(ヘヴンキャンセラー)の病院。その病室の中で、当麻、インデックス、御坂、最愛と海鳥、そして駿斗が話をしていた。

 

 アリサはあの時から戻ってきていない。ケータイにも連絡が入らない。

 

 つまり、さらわれたままということだ。

 

 昨日アリサを連れて行った黒鴉部隊の目的はアリサの護衛のはずだが、恐らくは雇い主が騙しているのだろう。

 

「「ねえ……ムッ」」

 

 御坂とインデックスが同時に話しかけようとすると、両者は己の敵のように互いをにらみ合う。

 

「超落ち着いてくださいよ、2人とも」

「大人げないぞ、2人とも」

 

 最愛と海鳥はすぐに仲裁に入る。それを見て、駿斗はほっ、とため息をつくとともに自分の幼馴染に感謝した。

 

 その時、冥土返しが病室に入ってきた。

 

「やれやれ、君たちはそんなに入退院の記録を更新したいのかい?」

「そんなことはないですけど……」

 

 駿斗がそう答えると、その時2人の存在を感じた。1人はAIM拡散力場。もう1人は魔力。

 

 それらは、駿斗にとってはなじみ深いものだった。

 

「2人とも、ちょっといいかにゃー?」

 

 

 

 

 

「決着は僕らがつける」

「「決着?」」

 

 ステイルが言った言葉を、2人は聞き返した。

 

 彼が話すには、『エンデュミオン』を建設した『オービット・ポータル』の社長、レディリー・タングルロードは魔術サイドの人間。彼女はギリシャ占星術を得意とする。

 

 そして、彼女が科学サイドの総本山である学園都市でやろうとしていること。それは。

 

「彼女は、鳴護アリサを核にして術式を構築しようとしているらしい」

「エンデュミオンを使った、超巨大なやつだにゃー。発動したら……北半球が全滅する」

「「なっ……!」」

 

 ステイルと土御門が言った言葉に、駿斗と当麻が驚愕する。

 

「とにかく問題が魔術である以上、これは僕らの領分だ。君たちは引っ込んでろ。核を始末し、いよいよとなれば、あの塔ごと破壊する」

「核を始末って……」

「お前らはアリサを殺す気かよ!」

 

 淡々と話すステイルに対し、2人は噛みつくように言った。

 

「まあ、そうなるね」

「ふざけんじゃねえ!」

 

 駿斗は叫んだ。

 

「アリサは夢を追いかけているだけの女の子じゃねえか! ようやくそれが実現しそうなところまで来て、どうして彼女が北半球をぶっ壊す悪者みたいに扱われるんだよ!」

 

 当麻も叫ぶ。

 

「そうだよ、お前らはあいつの努力を水の泡にするってどころか、そこであいつの命まで奪うつもりかよ!」

 

 2人は入院着から普段着に素早く着替えると、ちょうどやってきたインデックスとともに出て行った。

 

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