とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト)   作:nozomu7

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第81話 救うために

「させるか!」

 

 魔術の発動準備に取り掛かったレディリーに対し、シャットアウラが再び銃を構える。しかしその時、彼女の後ろから足音が聞こえた。

 

 男の『自動人形』だ。

 

 それを確認したシャットアウラは発砲するが、男はそれを身軽な動きで避け、シャットアウラに迫る。

 

 拳と蹴りが繰り出される。

 

 それらをガードしたシャットアウラは、一度距離を取った男に発砲すると、レアアースパレットを投げつけた。

 

 そして、爆発。館内の空気が堰を切ったように一斉に宇宙へと放出される。

 

 男とレディリーはそのまま宇宙に投げ出されるが、シャットアウラは手首に取り付けられたワイヤーを通路の手すりに巻き付けた。

 

 その震動は宇宙にいる当麻や駿斗はもちろん、地上にいる御坂たちも感じていた。

 

『ねえ、今のは何?』

 

 御坂から風紀委員(ジャッジメント)の初春に通信が入る。初春はパソコンを操作して確認した。

 

「はい。どうやら、中継ステーション付近で、爆発があったようです。そのせいでエレベーター全体のバランスが崩壊していて……」

「ええっ!? それじゃあ……」

「このままでは、エレベーターが地上に倒れます!」

 

 佐天は聞くが、初春が告げたのは残酷な事実だった。

 

 そのころ、爆発の衝撃で気を失っていたアリサが目を覚ました。

 

 彼女がいるのは、エレベーター内の大ホール。そこで彼女は歌っていたが、突然襲いかかった衝撃によりそれが中断された。

 

「なんだ、今のは?」

「爆発!?」

「おい。ここ宇宙だぞ!」

 

 群衆の中に限りない不安が広まっていく。そして、その次に来るのは恐怖と苛立ちだった。

 

「係員、何している!」

「早く開けろ!」

 

 その時、アリサは微かに思い出したものがあった。

 

(そうだ。あの時、私は……)

 

『明日晴れるかな』

 

 彼女が歌うと、群衆のざわめきと、不安と、行き場を失った怒りが収まった。

 

 彼女が歌うのは『奇蹟』の歌。

 

 全員が一斉に静まり返り、係員の指示に従って避難が始まった。

 

 

 

 

 

 そのころレディリーは宇宙エレベーターを外から移動して、再びエレベーターの中、術式の中心部にいた。

 

「今まで爆発を受けたのは38回……。真空にさらされたのは初めてだけれど、これで終わりよ。絶対に死んでやる!」

 

 

 

 

 

「宇宙エレベーターが崩壊する!?」

『ああ。どうやら避けられん事態みたいぜよ』

 

 当麻は土御門から連絡を受けていた。しかし、携帯電話から流れる音声がノイズに包まれる。恐らく、携帯電話の電波を宇宙までつなぐためのアンテナか何かが壊れたのだろう。

 

「とうま……」

 

 インデックスは心配そうに当麻に呼びかける。その時、聞きなれた声が聞こえた。

 

『当麻、聞こえるか!』

 

 その声の主は駿斗だった。

 

「駿斗、どこだ!?」

 

 当麻とインデックスは辺りを見渡すが、

 

『壁を振動させて音を生み出しているだけだ! 俺がそこに行くのはもう少し時間がかかる。インデックスは術式の解析と解除、当麻はレディリー本人を右手で殴って術を消去させてやってくれ! 頼む!』

 

 その声に2人は頷くが、すぐに当麻が聞き返す。

 

「アリサは!?」

『俺はもうすぐあいつのいる場所に着く! シャットアウラもそこに向かっているようだが問題ねえ!』

 

 その言葉を聞いて2人は動こうとするが、ふとインデックスが立ち止まって言った。

 

「絶対にアリサを助けようね! 約束したんだよ。あの歌ができたら、2人で歌おうって!」

「「分かった!」」

 

 彼らは動く。1人の少女と、地球の全てを助けるために。

 

 

 

 

 

「ダメです! やっぱり崩壊は避けられないみたいです!」

『何か方法はないの!?』

 

 地上で、御坂と初春がそのようなやり取りをしていた。初春は素早くパソコンを操作する。

 

「えっと、緊急用のパージシステムがあります。本来はリモートで点火しますが、今はシステム自体が凍結されているようで、4か所にある爆砕ボルトを手動で点火するしかありません!」

『1つは私が引き受ける!』

 

 御坂が即答した。

 

「私も行く!」

 

 海鳥も言った。

 

「じゃ、1つは私らが引き受けるじゃん!」

 

 黄泉川が言う。

 

「じゃあ、最後の1つは……」

『もっしもーし! こちら匿名希望のペンネーム「人生と書いて妹と読む」さんからだにゃー』

 

 そこで、急に無線から陽気な声が聞こえてきた。

 

『話は聞かせてもらったぜよ。1つはこっちが引き受けるにゃー』

「誰だ!?」

 

 その場にいた全員が思わず無線機器を見た。いきなり入って来た声に警備員は警戒を見せる。

 

『誰だか知らないけど、警備員(アンチスキル)の無線暗号通信に割り込めるってことは、ただのいたずらや野次馬じゃなさそうね!』

 

 御坂が言った。

 

 自分の提案が納得されたのを確認した土御門は、自分の仲間に連絡する。

 

『てなわけでステイル。頼むぜい』

「仕方ない。使われてやるよ」

 

 ステイルは彼の弟子とともに移動する。

 

 

 

 

 

『強く願ったら きっと叶うから 自分信じて』

 

 全員が避難して誰もいなくなった会場で、アリサは歌い続けていた。そこに、1人の影が現れる。

 

 シャットアウラがそのノイズに頭を抱えながらアリサに近づいて来る。

 

「このノイズが、『奇蹟』を……」

 

 彼女は『奇蹟』を信じない。彼女の歌を、信じない。だから、

 

「――止めてやる絶対に!」

 

 彼女はレアアースをステージを支える柱に投げつけ、ワイヤーと接続させる。

 

 次の瞬間には爆発が起きた。アリサがステージから放り出される。

 

「きゃ!?」

 

 足場が崩れ、落下するアリサ。だが、彼女がそのまま床に叩き付けられるようなことはなかった。

 

「アリサー!」

 

 そこに、1人の少年の力強い叫びが響く。彼女の名を叫ぶ声が。

 

 彼女の体は落下せずにその少年と磁石のように引き合う。そして彼女をしっかりと抱きかかえた少年は、ふわりと地面に着地した。

 

「駿斗君……!」

「間に合ったぞ。この建物の倒壊は回避できなくても、地上では『エンデュミオン』をパージする準備が進められていても、それでもアリサの下にたどり着いた」

 

 駿斗は、彼女を降ろして言った。

 

「これからだ。今からみんなの幻想を創造する。アリサも、シャットアウラも、レディリーも……みんなが笑って終わらせられるようなハッピーエンドをな。だからお前の惨めな幻想はここで終わりだ、シャットアウラ!」

 

 

 

 

 

「あと、少し……」

 

 レディリーが呟くと、そこに1人の少女が現れた。その後ろには、1人の少年もいる。

 

「こんな無茶な術式は初めて見たよ。地球を壊しちゃうつもり?」

 

 レディリーは自分に近づいて来るシスターを確認する。

 

「禁書目録ね。聞いたことがあるわ。10万3000冊の魔導書を記憶させられた人間図書館。あなたなら分かるでしょう? 魔術によって呪われた者の気持ちが」

 

 レディリーの『呪い』が不老不死であるならば、インデックスにかけられた『呪い』はその完全記憶能力と莫大な知識だ。それがあるからこそ、彼女は世界中の魔術師から狙われる存在となっているのである。

 

 だがレディリーの言葉にも、インデックスは厳しい表情を変えなかった。

 

「ようやく抜け出せるの。この地獄から……!」

「無理だよ」

 

 インデックスは、彼女の思いをきっぱりと否定した。

 

「不死と言えば恐らくアンブロシアだと思うけど……それは神酒ネクタルと共に、神々が食する果物。これを食べることによって、不老不死を授かると同時に神々の一員となることができる」

 

 インデックスは解説する。

 

「神々の一員となる肉体を持った以上、北半球を吹き飛ばしたくらいでは死なないんだよ」

 

 事実から目を背ける彼女に向かって、突きつける。

 

「だから、お前の悪夢(げんそう)はここで終わらせてやるぞ。レディリー」

 

 当麻は右拳を握りしめながら、前に進む。

 

 

 

 

 

 シャットアウラは拳銃を構えると、それをアリサに向かって突きつける。

 

「こいつの存在が、レディリーの計画を生み出した。こいつの存在が、こいつの歌が、『奇蹟』が人の心を惑わせるんだ!」

 

 だから殺す。

 

 そう言ったシャットアウラに対し、アリサは笑って見せた。

 

「なぜ笑う!」

 

 シャットアウラは激昂して彼女を殴りにかかるが、それを念動鎧(フォースアーマー)を纏った駿斗がその間に入った。

 

「な……そこをどけ!」

「シャットアウラ。お前がやっているのは単なる八つ当たりだろうが。みっともないぞ」

 

 駿斗が厳しい表情でシャットアウラに言う。すると、シャットアウラは怒りを抑えるかのように言った。

 

「私の父は、『オリオン号事件』で命を失ったが、その存在を抹消された。私も、他の乗客も、みんな助かったのに……」

 

 そこでシャットアウラは悔しげに唇をかんだ。

 

「だから私は『奇蹟』を否定する! そんなものに頼らず自分の意志で戦った父の意志を継ぐために!」

「ふざけんじゃねえ!」

 

 駿斗は叫んだ。

 

「お前の父親がどんな人物だったか俺は知らない。だがな、その人は他の乗員や乗客が助かるために命を懸けたんだろ!」

 

 駿斗は言葉を続ける。

 

「俺は親がいない。だから、父親というものがどれほど大切な存在だったのかなんて分からねえ。ましてやその人の死というものが、お前にとってどれほど辛いものだったかなんて、さっぱりな」

 

 だけどな、と駿斗は話す。

 

「お前や他の人たちを守るために戦ったお前の父親が。その人が一番あの場で望んでいたものこそが『奇蹟』だろうが。あの状況で最後まであがき続けたその人は『奇蹟』を起こすことだけを考えていたんだろうが! それを信じなかったら、絶望的な状況で最後まで戦い続けることなんてしてねえだろ。娘のお前が、家族であるお前が、それを否定してんじゃねえよ! 最後まで戦ったその人を、その人が求めていたものを認めやがれ!」

 

 その言葉にシャットアウラは怒りを爆発させた。

 

「エンデュミオンは落ちるぞ! 何が『奇蹟の歌』だ! 『奇蹟』というものがあるのなら、全ての人間を救ってみせろ!」

「ああ。だったら救ってやるよ!」

 

 駿斗は即答する。

 

「『奇蹟』だろうが何だろうが、俺が創り上げてやる。俺は知っている。どんなに絶望的な状況でも、例え可能性が僅かであっても、それでもその可能性にかけて前に進むことが、それこそが『奇蹟』を創り上げる方法だと。それこそが、お前の父親の求めていたものなんだろ! その人が、やり遂げたことだろうが!」

 

 駿斗は地面を蹴りだした。

 

「う、うるさい! 黙れ!」

 

 シャットアウラはレアアースを爆破させるが、その爆炎の中から無傷の駿斗が飛び出した。

 

「お前のその惨めな幻想を……ぶち殺す!」

 

 駿斗の右拳が頬にささり、シャットアウラは吹き飛ばされる。

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