とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト) 作:nozomu7
エンデュミオンの地上部分では、各々が爆砕ボルトに向かって突き進んでいた。
「油断するな!」
「「「はい、ししょー!」」」
ステイルとその3人の弟子たちは、順調とはいえないがそれでも警備機を倒しながら前に進んでいた。
『こちら黄泉川。すまない。このままじゃたどり着けそうもないじゃん!』
だが、そこに再び未知の通信が入る。
『大丈夫です。このまま点火してください。と、ミサカはお願いしてみます』
助けに来たのは
「ったく、何で俺がこんなことしなきゃならねェンだ」
「だってー、このエンデュミオンが倒れたら地球が壊れちゃうって、みんなの居場所がなくなっちゃうーって、ミサカはミサカは当たり前の正論を語ってみたり」
彼に付き添う
その言葉を一方通行は「ハッ」と鼻で笑うと言った。
「地球に危機が訪れようと知ったことじゃねェが……ま、リハビリにはちょうどいいかァ」
最愛と海鳥のコンビもまた、到達した。
「こちらの準備は超大丈夫です。お願いします」
そしてついに4つの爆砕ボルトが点火された。
「4」
「3」
「2」
「1」
4人の攻撃によって4つの爆砕ボルトが、ついに破壊された。
その震動は、宇宙にいる者にも伝わっていた。
「まさか、エンデュミオンをパージする気!?」
(今だ)
インデックスはついに自分の番が来たことを確認する。
(今なら折り重なった術式を解いて、崩す方法を見つけられる……!)
シスターの歌が宇宙に響き渡る。
シャットアウラが床に倒れた。
そのことを確認した駿斗の全身から一気に力が抜け、駿斗はその場に倒れる。
「駿斗君!?」
アリサが慌てて駿斗に駆け寄る。
そもそもが、
(や、ばい……この数日の負担が、ここに来て一気に押し寄せてきたか)
それでも、駿斗は動こうとしていた。
「まだ、だ。やることが、残って、いる……」
たとえインデックスが術式を解除したとしても、エンデュミオンがきちんと地球の衛星軌道に乗るかどうかは分からない。だから、その面倒を見なければならない。
だが、
「くそ、動けよ……。動いてくれよ、俺の体……」
駿斗は立てない。アリサがその体を起こすが、それでも駿斗は動けない。
そもそも
その時、倒れているシャットアウラの腕に取り付けられた無線から通信が入った。
「基部を爆破しただと……!?」
その言葉を聞いた駿斗は、笑って言う。
「これで分かっただろ……できないことなんかないんだよ……っ!」
体の至る所からあがる悲鳴に、顔を歪ませる駿斗。
「無理、しないで……」
アリサが悲しげに言った。
その後しばらく誰も動けずに、その場が静かになる。
起き上がろうとしても、起き上がれない駿斗。
その駿斗を抱き起こすが、それ以上何もできないアリサ。
意識はあっても、倒れたまま動かないシャットアウラ。
3人はそのまま静かに何もせず――
「LaLaLa――」
いや、そこに歌が流れてきた。
駿斗は手に力をこめようとするのをやめて思わずアリサの顔を見るが、彼女の口は動いていなかった。そもそも、彼女は瞳に涙を浮かべたまま何も言葉を発していない。
すると、この歌を歌っているのは誰だ?
この場にいるのは3人。だから答えは自然に決まる。
シャットアウラだ。
音楽を失ったはずの彼女の口から、歌が流れていた。
2人はそれを静かに見つめる。
『左翼エンジンブロック脱落! も、もうだめです!』
『諦めるな! まだやれることはある!』
(……そうだ。あの時、私は願った)
シャットアウラは全てを思い出した。全てを知った。
(自分の大切なものを失ってでも、『奇蹟』が欲しいと願った。そして)
89人目――『鳴護アリサ』が生まれた。
例えるとするなら、それは『願い』。
学園都市の能力者は、世界とはズレた『
88人が例え1%にも満たない『常識外の奇蹟』を信じる―――複数の願いが同一の指向を与えられれば、それは因果律にすら干渉する力になり、その『願い』が無意識に1人の少女を分断して、多くの人の運命を変えた。
それが、シャットアウラの『歌』の部分が切り離された存在が鳴護アリサだった。
たしかに、因果律の歪みによって生じた存在ならば、彼女が因果律に影響を及ぼす力を持っていても不思議ではない。そして、1人の少女から分断された存在ならば、アリサだけではその力が不完全であるために『奇蹟』が起こる際に誰かがその恩恵を受けられなくても不思議ではない。
その時駿斗はシャットアウラから感じられるAIM拡散力場に奇妙な揺らぎを感じた。
(これは、自分だけの現実の変化……? いや、違う。それだけではない。アリサの力と同調が始まっている)
駿斗には、不思議と自分の力が湧き上って来る感覚が感じられた。
「まだ、俺もいける。戦える」
駿斗は不自然なほど早く治療を終え、立ち上がった。
やるべきことは分かっていた。
そして。
(完全に同調したら恐らくアリサは消え……いや、『戻る』。だから、彼女が歌えるようにする)
彼女たちは本来1つ。だからアリサが『戻る』のは当然のことなのかもしれない。
だが駿斗は、それを良しとしなかった。
彼の信念がそれを許さなかった。
彼にとっては、アリサも1人の女の子として好きな歌を歌い続けること、そしてシャットアウラに『歌』が戻ること。その両方の幻想を創り上げること。それこそが、彼の目標となったからだ。
(その幻想を……創造する!)
自分がやるべきことは、彼女たちの力を制御すること。
因果律に干渉するその力に干渉して、彼の目標とするところを成し遂げる。
駿斗は思う。
必要であれば、自分は天使にも神にもなってやる、と。
駿斗の体から莫大な
だが駿斗は止まらなかった。その必要がないからだ。
彼女たちの歌声を聞いていれば、それは分かる。
宇宙に2人の少女の歌声が響き渡る。
その時、地上ではエンデュミオンから正体不明の光が確認されたという。
「エンデュミオンが落下コースから外れて行ってる……地上への衝突は回避しました!」
初春のその報告に、全員が歓声を上げた。
魔方陣は消滅した。
「私の夢が……」
レディリーは呆然としてそれを見つめる。
「言っただろ、レディリー。お前の幻想はここで終わりだって」
当麻は言って彼女に近づくと、
「こ、の……大馬鹿野郎!」
思い切りその右手で殴りつけた。
その時、当麻は確かに『異能の力』を消去する感覚を確認した。
レディリーも、それまで自分の体内を循環していた生命力が体の外へと放出していくのを感じる。
彼女の悪夢はここで終わったのだった。
「急いでいくぞ……あいつらの所へ。お前には、やるべきことがあるんだからな」
呆然としている彼女の手を引いて、当麻はインデックスとともに移動する。
その後、バリスティック・スライダーを利用して彼ら6人は地上へと戻ってきた。
現在、レディリーを除く全員が病院で入院している。彼女は学園都市の上層部の人が逮捕した、ということになっていた。
(科学サイドに大きく踏み込んでいたとはいえ、魔術サイドだった人間を学園都市が逮捕しても大丈夫なのだろうか。それとも、シェリーのときのように後でイギリス清教が引き取るのかもしれないな)
駿斗はそんなことを考える。
「エンデュミオンの倒壊事件は負傷者は発生したものの、エレベーターの倒壊に巻き込まれて重傷を負った招待客はいなかった……世間では、そんなものか」
ベッドの上で包帯を巻かれた姿の駿斗が、携帯電話のニュースを見て呟く。
「それで、アリサはもう魔術サイドにも科学サイドにも狙われることはなくなった、と」
その隣のベッドにいる当麻が言った。
「ま、厳密にはまだイギリス清教が観察するらしいけどな。人々の願いから生まれたという点では確かに『聖人』に近いものだったんだよな」
『聖人』は、生まれた結果神の子に似た身体的特徴・魔術的記号を持ってしまった人間。厳密には、そのために偶像崇拝の理論によって力を得た人間のことだ。
アリサはその逆。
生まれた存在に人々の思いが集まったのではなく、人々の思いが集まって生まれた存在だった。
「そういえば、シャットアウラは結構早く治り始めているから、今日は墓参りに行ったらしいぜ。親父さんの」
「ああ、聞いた。アリサも一緒に行ったらしいな」
その時、廊下から複数の足音が聞こえてきた。そして、扉が開かれる。
現れたのはインデックスと、御坂をはじめとした6人の少女。
「神谷さん」
「「駿斗兄ちゃん」」
「アンタ、私をおいて勝手に宇宙に行きやがって……分かってるんでしょうね!」
病室が一気に騒がしくなる。だが、駿斗はそれに笑顔を見せた。
(平和だよな、こうしてみると)
そう思うと彼女たちに言葉をかけるために口を開きかけたが、そこで彼女たちの後ろにいる2人の少女に気が付く。
駿斗は歌姫に言葉をかける――
エンデュミオンの奇蹟はこれで終わりです。
今回は普段の駿斗視点の一人称ではなく、三人称で書いてみましたが、いかがだったでしょうか?
作者としては、最後の締め方がうまくまとめきれなかったな……といった感じです。
これからは大覇星祭に入ります。使徒十字編はほとんど書き終わっています。
木原幻生編はコミックの方がそもそも終わっていませんからね……。
先に女王艦隊編になるかと思います。
最後に、
「グローリア」井内舞子 作詞
「telepath~光の塔~」川田まみ 作詞
「明日晴れるかな」IKU 作詞
(敬称略)
以上の歌詞の一部を引用させていただいたことを記しておきます。