とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト) 作:nozomu7
第83話 バレンタインデー ~当麻の場合~
当麻と駿斗の2人が数々の魔術サイドと科学サイドの事件を解決した、その翌年の2月14日。
この日は年頃の少年少女の多くが『あること』に対して関心を寄せる日である。そう、『チョコ』『贈り物』……そして『恋愛』だ。
欧米では親しい人に男女関係なくプレゼントを贈るのが普通らしいが、日本では女子が想いを寄せる男子に対してチョコレートを贈るのが一般的であろう。最も、最近では女子同士でチョコレートを交換し合う『友チョコ』の方が多いのかもしれないが。
バレンタインデーのその慣習は、科学の街である学園都市であっても変わることはない。むしろ人口の8割が学生であるこの街では、日本のどの街よりも盛んにおこなわれていると言っても良い。
それは逆に、非リア充組がより一層惨めに感じられる日にもなるということなのだが……。
さて。上条当麻のバレンタインデーはその日の朝から始まった。
「とうま、とうま! 今日はバレンタインデーなんだよ!」
居候のインデックスが朝食を食べながら言う。この日は当麻が彼女の食事担当であった。
「はいはい。上条さんにとっては縁のない日なんですよー、インデックスさん」
当麻はテンション低めで言葉を返す。
「イギリス清教をはじめとする
だけど、とインデックスが言う。
「ここは日本だから、当麻が私にチョコを贈っても何も問題はないんだよ!」
「逆だからな? 日本では女の子が男の子にチョコを贈る日だからな!?」
その言葉に、インデックスはキョトン、とした表情になった。
「え? そうなの?」
「おっと、ここで驚異の天然キョトンが出ましたー! っていうか、お前本当に知らなかったのかよ!?」
当麻は叫ぶ。
「え? ひょっとして、とうまはわたしにチョコを用意してないの?」
「してません! まあ、俺は用意してなくて当然なんだけれどな」
当麻のその言葉に、インデックスは顔を曇らせた。
「ひどいよ、とうま! 私はこの日を楽しみにしていたのに」
「全っ然ひどくなんかありません! むしろこれは当然のことだぞインデックス。……とにかく、俺は今日も学校だから家で大人しくしているんだぞ」
当麻はインデックスの昼食が冷蔵庫の中に入っていることを確認すると、部屋を出て学校に向かった。
当麻と駿斗の登校時間は通常異なっている。
というのも、インデックスの食事担当となる人が朝食の準備と食器の片付け、そしてインデックスの昼食の準備に必要な時間があり差ができるので、自然とそちらが遅めの時刻になってしまうのだ。もっとも駿斗が食事担当の場合、当麻が何かしらの不幸で遅れる場合もあるので、その時は一緒の登校になることもあるが。
そんなわけで、この日も当麻は駿斗よりも遅めの時刻に登校することとなったのだが……
「なんだこれはっ!」
登校してすぐに、自分の下駄箱の惨状に驚かされた。
(なぜ俺の下駄箱が完全に塞がれている……!)
ご丁寧にも自分の上履きは下駄箱の外に出されており、そして自分の下駄箱の中は要らなくなったプリントやら空いたパンの袋が大量に詰まったゴミ袋やら様々なもので埋め尽くされていた。
「どういうことだっ!?」
「そんなの決まってるやないか、かみやん」
その声に当麻が振り向くと、そこには青髪にピアスをした長身の男が壁に背中を預けて立っていた。
「てめえかよ、青ピ! っていうか何なんだ。俺が何をしたと!?」
その言葉を聞いた青ピは組んでいた腕を解きゆっくりと当麻の前まで移動する。そしてその右手で当麻をビシィ! と指さすと、
「かみやんとはやとんのバレンタインを妨害するためやっ!」
……至極下らないことを高らかに宣言した。
「まったく2人は俺たちが男の友情を深めあっている間に、可愛い女の子ときゃっきゃうふふな関係を築かずフラグばっか立てておるからっ!」
青ピは全力で叫ぶ。
「だから周りの女の子はみんな、2人に奪われてしまうんや! 今日もその下駄箱を塞いでおかなかったらきっと、開けた途端にチョコがボロボロとこぼれてくるに違いなかったんやぁ!」
その言葉に、いつの間にか現れたクラスの男子たちが「そうだ!」とか「俺にもその2割……いや、1割でいいから寄こせぇ!」などと叫んでいる。
「「「上条、今日は全力で貴様がチョコを獲得するのを妨害させてもらう!」」」
そんな宣言とともに、上条当麻・高校1年生のバレンタインデーが幕を開けた。
「で、なんでこうなるんだよ……」
その後、当麻には常に周りに男子が囲んでおり、女子が近づきたくても何かしらの形で妨害される状態となっていた。それは駿斗においても同じである。
「当然だぜぃ。2人はいつ誰からチョコを渡されてもおかしくないぜよ。ま、放課後自宅に着いたらさすがに部屋の中までは入らないから安心するんだにゃー」
1時間目終了後の休み時間、土御門はその様子を非常に嬉しそうに眺めながら説明した。
「どうしてそうなるんだよ! っていうか、上条さんはそこまで女子にもてませんよぶべらっ!?」
「かみやん、嘘をつくのもそこまでにするんや」
当麻の言葉を遮るように頬に拳を入れる青ピ。
その様子を見ていた女子たちは、
「(……みんな、どうする?)」
「(放課後寮の部屋に行くか、ポストにでも入れておけばいいんじゃない?)」
「「「(それだ!)」」」
などと、男子たちに気付かぬよう相談を繰り広げていた。
歩くフラグメイカーである当麻はもちろんのこと、駿斗も当麻並のフラグ建築能力を持ち合わせているので、このクラス(というよりは学年)の女子はかなりの人数が2人に陥落されているのである。
すると、駿斗が
「(おい、どうする当麻。これはやばいぞ)」
「(どうするもなにも、このままでいくしかないだろ)」
解決策を思いつかない当麻はそう返す。しかし、駿斗は言った。
「(いいのか? 御坂が帰り道で待ち伏せしている可能性は十分考えられるだろ。他にも、帰ったらお前の部屋に魔術サイドの女子が待ち伏せしている可能性もあるし。それに第一、このまま寮の部屋までついてこられたら、お前がインデックスと同居していることがクラスの連中にばれるぞ)」
しまった、と当麻の表情が変わる。すると、そのタイミングで小萌先生が教室に入ってきた。
「はーい、それでは2時間目の授業を始めるのですよー」
結局当麻はチョコを1つももらえないまま、昼休みを終了した。
そして放課後。ついに最後の勝負が始まった。
「「このまま終わってたまるかっ!」」
当麻と駿斗は一斉に駆け出した。
『なっ! 待て、逃げるな!』
全ては……バレンタインデーを平和に過ごすため。男二人の戦いが始まった。
「はあっ、はあっ……ここなら、あいつらも追ってはこないだろ」
当麻は駿斗に自分の荷物を任せ、まず一度、校舎裏で隠れることにした。
「ったく、あいつら……俺が何をしたと」
「上条君」
突然後ろからかけられた声にビクゥ! と跳び上がる当麻。
「だ、誰……姫神か。よかった……、マジでよかった……。っていうか、どうしてこんなところに?」
「君が言える言葉では。ないと思う」
姫神はそう言うと、当麻に綺麗に包装がされた箱を渡した。
「……はい。今日は。バレンタインだから」
「お、サンキュー姫神」
当麻はそれを笑顔で受け取る。
「他の人にも。もらったの?」
姫神がその黒髪を揺らしながら尋ねる。
「今日の様子を見ていればわかると思うけど、上条さんは誰にももらえていませんよー。まあ、あんなことしなくても俺にチョコをくれる女の子なんていな……いや、姫神くらいしかいないから」
姫神の質問に笑って答える当麻。
自分しかまだ上条当麻にチョコを渡していないという事実に、姫神は少し嬉しくなった。
「……そう。なんだ」
でもこれからたくさんもらうんだろうな、などと思いつつ、久しぶりに彼と2人だけで話そうとするが――
「上条がいたぞ!」
見つかってしまった。
「げ!? あいつら……ありがとな姫神! ホワイトデーは何かお返しするから!」
当麻はそれだけ言うと、一目散に走って消えた。彼が走っていったその後、姫神は取り残される。
久しぶりに2人きりだったところを邪魔されて少し不機嫌になった彼女だったが、しばらくすると少し笑って呟いた。
「ふふ。あの人は。いつまでも変わらない」
一方、当麻は姫神と別れた後いつもの公園にたどり着いて休憩していた。
「はあ……ったく、不幸だ」
「あいかわらずみたいね」
その声に当麻はバッ、と振り返ると一歩彼女から遠ざかる。
「って、何をそんなに警戒しているのよ!」
「み、御坂! 電撃だけは、それだけはやめろー!」
せっかく手に入れた姫神のチョコが入ったカバンをかばうようにして右手を突き出す当麻。
「ったく、せっかく人が話しかけたのにその態度はないでしょうが! どうしてそんな大事そうなものを抱えるようにして……まさか」
御坂は少し不機嫌そうな表情で、
「アンタは今日誰かからもらったの?」
そう尋ねた。
「な、何をでしょうか?」
「決まってんじゃない! チョコよ、チョコ」
「どわっ! だからビリビリするんじゃねえ!」
御坂が声を大きくするのに比例して彼女から発せられる電撃が多くなり、当麻はさらに一歩、彼女から距離を取る。
「チョコって……どうして俺がもらったかどうかをお前が気にするんだ?」
「べ、別にいいじゃない!」
「だから電撃はやめろって!」
再び発せられるそれを全力で打ち消す当麻。
「わ、分かったって。クラスメイトから1つだけ、な」
「ふーん。クラスメイト、ねえ……」
当麻のその返事に、御坂は詮索するように呟いた。
「(きっとその人も、その……コイツのことを)」
「急に電撃をぶつけてきたり、ぶつぶつ何か言いだしたり……どうしたんだ、今日の御坂は。いや、むしろいつも通りなのか?」
当麻は呟くが、彼女は自分で思考に耽っているようで聞こえてないらしい。
それを確認した当麻は今のうち、と逃げ出すことにした。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよー!」
……自分のカバンの中に用意したものを渡すために、御坂は再び当麻を探す羽目になった。
こうして何とか寮まで戻ってきた当麻であったが、しばらくすると自分の部屋に宅配が届いた。
言わずもがな、海外組……そして
「すごい、すごい! チョコレートがたくさんなんだよ!」
「これは俺宛に来たんだからな! まあ、こんなにたくさんは食べられないから、インデックスも食べていいけどさ……」
だが、その中に同封されている手紙を読んでいくうちに、当麻の顔が青ざめてきた。
「えっと……神裂をはじめとしたイギリス清教、御坂妹たち、そして学園都市内の奴らを併せると……」
その手紙の中には、ホワイトデーのお返しを期待するような感じも多く見受けられる。
「ホワイトデー……資金が足りない。ああ、不幸だー!」