とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト) 作:nozomu7
2月14日。バレンタインデー。
インデックスの食事当番だった当麻とは異なり、その日の俺はいつも通りだった……学校に着くまでは。
「なんだこれはっ!」
登校してすぐに、自分の下駄箱の惨状に驚かされた。
俺の下駄箱が完全に塞がれている。
ご丁寧にも俺の上履きは下駄箱の外に出されており、そして下駄箱の中は要らなくなったプリントやら空いたパンの袋が大量に詰まったゴミ袋やら様々なもので埋め尽くされていた。
「どういうことだっ!?」
「そんなの決まってるやないか、はやとん」
その声に俺が振り向くと、そこには青髪にピアスをした長身の男が壁に背中を預けて立っていた。
「てめえかよ、青ピ! っていうか何なんだ。俺が何をしたと!?」
その言葉を聞いた青ピは組んでいた腕を解きゆっくりと俺の前まで移動する。そしてその右手で俺をビシィ! と指さすと、
「かみやんとはやとんのバレンタインを妨害するためやっ!」
……至極下らないことを高らかに宣言した。
「まったく2人は俺たちが男の友情を深めあっている間に、可愛い女の子ときゃっきゃうふふな関係を築かずフラグばっか立てておるからっ!」
青ピは全力で叫ぶ。
「だから周りの女の子はみんな、2人に奪われてしまうんや! 今日もその下駄箱を塞いでおかなかったらきっと、開けた途端にチョコがボロボロとこぼれてくるに違いなかったんやぁ!」
そんなわけないだろ、と俺は思う。
だが青ピのその言葉に、いつの間にか現れたクラスの男子たちが「そうだ!」とか「俺にもその2割……いや、1割でいいから寄こせぇ!」などと叫んでいる。
「「「神谷、今日は全力で貴様がチョコを獲得するのを妨害させてもらう!」」」
そんな宣言とともに、俺、神谷駿斗・高校1年生のバレンタインデーが幕を開けた。
……後から聞いたところ、当麻もまったく同じ目にあったらしいが。
あいつらは休み時間の間、周りを取り囲んで女子を牽制するという徹底ぶりで俺と当麻になんとかチョコを獲得させまいと頑張っていた。その努力を自分がモテるための方向に回してほしい。
だが、このままで1人寂しくバレンタインデーを終わらせるつもりは俺にはない。そもそも、今日の放課後は朝に最愛からメールで呼び出しをもらっているのだ。
わざわざこの日に義理でも用意して、それをメールで伝えておいてくれるなんて優しい幼馴染を持ってよかったなー、などと思った俺だったが、サプライズではなくメールにしたのは「上条の不幸に巻き込まれそうだから」とのこと。彼女は非常に察しの良い人間のようだ。ちなみにこの時期中高校生は、高校・大学受験の関係で先生たちが忙しいために短縮授業。いつもよりも1時間早く放課後になる。
さて、どうするか。
とりあえず俺は、当麻と相談をすることにする。
そんな訳で、さっそくこの暑苦しい野郎どもの包囲網を突破する方法を当麻と話し合う。
「(おい、どうする当麻。これはやばいぞ)」
「(どうするもなにも、このままでいくしかないだろ)」
解決策を思いつかない当麻はそう返してきた。だが、その考えは甘いと思う。
「(いいのか? 御坂が帰り道で待ち伏せしている可能性は十分考えられるだろ。他にも、帰ったらお前の部屋に魔術サイドの女子が待ち伏せしている可能性もあるし。それに第一、このまま寮の部屋までついてこられたら、お前がインデックスと同居していることがクラスの連中にばれるぞ)」
しまった、と当麻の表情が変わる。
「はーい、それでは2時間目の授業を始めるのですよー」
そこ小萌先生が教室に入ってきたので、周りの男たちも席に着いた。
結局、昼休みになってもチョコをもらうことはできなかった。
そして放課後。ついに最後の勝負が始まった。
「「このまま終わってたまるかっ!」」
当麻と俺は一斉に駆け出した。
『なっ! 待て、逃げるな!』
全ては……バレンタインデーを平和に過ごすため。男二人の戦いが始まった。
「よし。このままいけば最愛達との待ち合わせの時間には間に合うな」
俺は順調に待ち合わせ場所まで移動していた。
「あ、神谷さーん」
1人の少女の声が聞こえてきた。
「ん? 佐天さん。4人も一緒か」
その後ろから最愛と海鳥、アリサ、食蜂もついてきた。
「珍しいな。食蜂も一緒だとは」
「黒夜さんから声をかけてくれたのよぉ☆」
食蜂はいつも通りのテンションで言う。すると、その言葉に反応した海鳥が、
「テメエは勝手に人の頭の中を覗き込ンだだけだろォ!」
「落ち着けって、海鳥。口調変わってるから」
食蜂も相変わらずのようだ。まあ、以前と違って人を洗脳しなくなっただけマシか。
「久しぶりだね、駿斗君」
アリサが言った。
「そうだな。最近順調みたいで安心したよ」
実は、彼女と会うのは本当に久しぶりなのだ。
アリサはエンデュミオン事件の後、もう一度他の会社のオーディションに合格する必要が出てきてしまった。しかし元から人気が出てきていたがために、かなりの仕事が一気に入ってきた、ということだ。
あの事件の後しばらく入院したことで、休んでいた分を取り返すかのように次から次へと仕事の依頼が入り込んできたらしい。
「うん……駿斗君のおかげだよ」
アリサは笑顔でそう答える。俺はそれを見て安心した。
すると、その2人の様子を見ていた他の少女たちがなぜか慌てた様子で俺とアリサの間に割り込むように入り、
「と、とにかく今日は超デートですよ、デート!」
「ま、全く美少女たちを侍らせるなんて、は、駿斗兄ちゃんも贅沢だよな!」
「「い、行きましょう神谷さん!」」
男女比=1:5のデート(?)が始まった。
そんな訳で最初に来たのはファミレスだった。
「みんなは何を頼むの?」
「私はこのパフェですかね」
「私はこれにするわぁ」
「私はこのケーキかな」
「あ、私もそれにする」
「じゃあ、私はこっちで」
「全員注文するものが決まったのなら店員さん呼ぶぞ?」
少女たちが思い思いにデザートを頼む中、俺はドリンクバーだけを注文する。別に甘いものが嫌いなわけではない、というよりはむしろ好きなのだが、
別に全く買えない訳ではない。だがそもそも、幼い頃から俺にとってスイーツというのは、何か行事でもない限りには食べられないものというイメージが定着してしまっている。だって
そんなわけで、少女たちがきゃっきゃとデザート食べながら盛り上がる中、俺はドリンクを飲みながら適当に話をしていくのだ。
「それで今日の予定はどうするつもりなんだ?」
「超映画です」「水族館だ」
ピシィ! と最愛と海鳥の間に亀裂が生じた……ような錯覚が見えた。
「何を超言ってるんですか黒夜! あのC級ウルトラ問題作がどんなにすばらしいのか昨日あんなにも超説明したというのに!」
「いや、絹旗こそ分かっていない! よし、これからその頭にイルカの素晴らしさを叩きこンでやらァ!」
喧嘩が始まりそうになり、アリサと佐天さんがそれを止めようとするが……その時、彼女らの動きがピタ、と止まる。
「サンキュ、食蜂」
「どういたしましてぇ☆」
食蜂が彼女の能力で止めてくれた。こういう時、
「だけど……争っていた2人だけでなくファミレス全員まで操る必要はないからな?」
本当、乱用だけはやめてほしい。
その後、結局『遊園地』という無難なチョイスに落ち着いた。
「うわ、こんなところに来るの久しぶりだな」
ここは第六学区。
学園都市内の位置づけとしては、アミューズメント施設が集中していることである。しかしその反面、観光客を狙った詐欺等も多いので決して治安が良いわけではない。
俺たちはその中にある遊園地にやってきた。
「まずは超ジェットコースターですよね!」
最愛のその言葉に一同が盛り上がっていく中、海鳥は唯一表情をこわばらせた1人の少女を見逃さなかった。
海鳥は“とても良い笑顔”をしながら、
「まさか天下の第5位様がジェットコースターを断るなんてマネしないよな、食蜂ちゃン?」
……1人の少女の悲鳴が第六学区に響き渡った結果、さすがに全員が彼女に同情した。
「うう、ひどいめにあったわぁ」
「大丈夫?」
食蜂はジェットコースターを下りた後もふらふらとしている。アリサは彼女を支えてあげていた。
「食蜂さんって、絶叫系のアトラクションは苦手だったんだ?」
「ま、そんなところだろうとは超予測済みでしたけどね」
アリサの言葉に、最愛は食蜂をバカにしたような発言をする。能力の関係上、普段は強気に出れないからだろうか。
「いや、でもさすがにやりすぎたとは思ってる。すまん」
「あはは……」
海鳥も謝り、佐天さんは苦笑いをした。
「つーか、まだふらついてるぞ。大丈夫か?」
「うう、こんなの平気よぉ……」
食蜂は強がっているが、彼女はまだ足下がおぼつかないままだ。
「少し休憩にするか……」
俺が言うと、全員が賛成する。そして、ベンチに座って全員でクレープを食べることになった。女の子って本当に甘いものが好きだよな。
「どのクレープにするんだ?」
「ブルーベリーかな」
「いちご&ホイップです」
「チョコバナナ」
「チョコ&マロン」
「シュガーバターにバナナをトッピングで」
「全員バラバラだな……」
俺は苦笑しながらみんなの注文を聞いていた。
さすがにここでも俺が何も食べないのは雰囲気的に仲間外れのようになるので、俺は最もシンプルなシュガーバターを注文した。
そのうち少女たちが「シュガーバターにホイップはあった方が良いか」などということで論争を始めたので、俺は何も言えなくなる。女子の感性が分からない……。
その後はお化け屋敷に行くことになったのだが。
「1つ質問。どうしてみんなで一斉に入らないんだ?」
「人数が少ないほうが雰囲気が楽しめるじゃないですか」
俺の質問に佐天さんが答えた。
「もう1つ。どうして俺が毎回行かされるのでしょう?」
「女の子だけで入るよりはいいだろ?」
海鳥が言った。別に女の子だけできゃーきゃーと騒ぐのもいいと思うのは俺が男だからだろうか。
「えっと……駿斗君、良い?」
「気にするなよ、俺は大丈夫だ。どっちにしろ、これでラストだから」
最後にアリサの番になった。俺とアリサは暗い中の道をゆっくり進む。
ここではっきりと言ってしまうと、既に5回入っているのでもう何が出てくるのかは分かり切ってしまっている。だから、まるで怖くない。
もっとも、アリサもそこまで怖がりではなかった。人並みに騒いだだけだ。1番怖がりだったのは意外にも海鳥である。『闇』の中にいたにしろ、結局は彼女も中学1年生ということか。実際の戦闘における恐怖とは別物だから対処できなかったのだろう。
空が夕焼けに染まってきたころ、ついに帰る時間が近づいてきた。
「じゃ、そろそろ帰るか。常盤台の3人は門限もあるしな」
俺たちは遊園地を出る。
第七学区に着くと、そこで解散ということになった。その時、少女たちが目配せすると一斉に俺の向かい側に、横に並び始める。
突然どうした、と俺は頭に?マークを浮かべるが、彼女たちが一斉に口を開いた。
「「「「「駿斗君(駿斗さん)(駿斗兄ちゃん)」」」」」
俺の名前を呼ぶと、少女たちは一斉にその手にある小さな包みを渡してきた。突然のことに、俺は受け取ったそれを思わず落としそうになる。
「っと……ありがとな、みんな」
俺は笑ってそう言った。すると、佐天さんが少し悲しげに言う。
「私の方こそ、いつもありがとうございます……普段は何もできていませんから」
その言葉に、少女たちが一斉に顔を曇らせる。
「私もですよ……結局、駿斗兄ちゃんには何も」
「助けてもらってばかりだからな」
肩を落としてそう言う最愛と海鳥。
「そんなことは」
俺は言いかけるが
「そうですよぉ」
「そうだね。私は……」
食蜂やアリサまでもが表情を変える。
そんな彼女たちに対し、俺は言った。
「じゃあさ、1つ頼みがある」
「「「「「頼み?」」」」」
聞き返した彼女たちに対して、俺はシンプルに告げた。
「ああ。……俺の“帰って来る場所”であり続けてほしい」
俺が最も望むもの。それが『居場所』だ。温かい、自分の家のような環境、家族のような人間。
それが、俺が好きで、俺が求めるものだ。
「……帰って来る」
「場所……」
「ああ」
俺がそう言うと、少女たちは示し合せることもなく言った。
「「「「「喜んで!」」」」」
駿斗を書くと少々クサい話になってしまうのはなぜだろう?
あ、閑話でやってほしいことがあったらどんどん書き込んでください