とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト) 作:nozomu7
俺たちには負けられない事情ができた。決して、負けられない事情が。
全ては、小萌先生を泣かせたあの自称エリートの教師に一泡吹かせるため。そして、小萌先生の言葉が間違っていなかったことを証明するため。
生徒たちは『棒を倒す』側と『棒を守る』側に分かれているが、俺や当麻は『棒を倒す』側である。理由は簡単。『棒を守る』側は少しでも能力があった方が良いが、『棒を倒す』側はとりあえず特攻するだけでも何とかなるからだ。
開始のピストルの音が響くと同時に、相手は一斉に能力を放ち、俺たちはその中に飛び込んだ。
相手の能力の中には途中で不自然に掻き消えたり、不自然な軌道で明後日の方向に曲がっていくものがある。もちろん、当麻と俺がやっていることだ。
煙の中から飛び出してきた俺たちに、相手は目を見張って驚いている。そして、そんな隙を俺たちが見逃すはずはない。
「「「「「うおおおおっっっ!」」」」」
咆哮を上げながら俺たちは相手の棒に喰らいついた。
数々の能力で発生する砂煙で視界が減り、観客席からは最後の部分は何も見えなかっただろう。
だが俺はその砂煙の中、自分の高校の棒よりも早く相手校の最後の1本が倒れるのを目撃した。
観客から歓声が上がる。それは競技に決着がついたというだけではなく、無名校がエリート校を下したということが大きかっただろう。
俺たちは、やり遂げたのだった。
「やったな!」
「「「「「おう!」」」」」
そんな声があちこちから聞こえる。その時、聞きなれた声が観客席から聞こえた気がしたのでそちらを見ると、そこにインデックスや最愛達がいた。騒がしさもあって彼女たちが何を叫んでいるのかはよく聞き取れなかったが、俺はそれにとりあえず手を振って応えておく。
「ど、どうしてみんな、そんなに頑張っちゃうのですかーっ! いくら勝っても、こんなボロボロになった皆を見るのは、先生は……!」
救急箱を抱えた小萌先生が去り際に何か言っていたが、俺たちは互いに勝利を称えあったまま、その横を通り過ぎて行った。俺たちには清々しさだけが残っていた。
「おなかへった」
競技が終わった後、インデックスがそう言ったので俺たちは屋台を探すことにした。
しかし、
「よっしゃあ! 捕まえたわよ、私の勝利条件!」
……御坂が当麻を誘拐していった。
は? と唖然とする俺たちだったが、彼女が『勝利条件』と言っていたことを考えると、恐らく借り物競争といったところだろう。
「はやと……グルル……」
「分かったから、しばらく待ってろ!」
俺はインデックスを
しかし、
「見つけたぞ、駿斗兄ちゃん!」
――俺も海鳥に連行された。
強制連行の理由は『借り物競争』。そこで、御坂は1位、海鳥は2位に収まった。
御坂の条件は『第1競技に出場した高校生』。
海鳥の場合は『アクセサリー等を身に着けている男子』。
俺たちがさっき参加した『棒倒し』は第1競技なので、当麻は御坂の条件に当てはまる。
そして俺は例のミサンガを身に着けているので、やはり海鳥の条件に当てはまるのだ。
……もっとも、俺が走っている途中で海鳥に承諾をしたのに対し、当麻の場合は完全なる事後承諾だったらしいが。
そんな訳で、1つの騒動が終わりを迎えた。
その頃、白井黒子は初春飾利に彼女の乗っている車いすを押されながら、外を回っていた。
彼女たちは2人とも
当然のことながら、彼女は大覇星祭の競技には参加できなくなってしまった。
「いやぁ、私達が炎天下で頑張っている最中に、白井さんが1人休養を取っている姿を想像すると、居ても経ってもいられなくなっちゃって。白井さんにもお仕事手伝って欲しくなってしまったんですよ」
「……素敵すぎる友情をありがとうですわ。で、何か問題でも起きていますの?」
「今のところは」
初春の言葉に白井はうんざりとした調子で答えるが、彼女もさすがにせっかくの大覇星祭をベッドの上で過ごす気分にはなれないので、その意味ではよかったと言える。
そんな同僚に感謝しつつ周りに目を走らせていると、絹旗最愛の姿を見つけた。隣には、同じクラスの
彼女たちはデパートの壁に取り付けられた大画面に注目しているようだ。
『先ほど行われました借り物競争1位は常盤台中学校の御坂美琴選手、2位は同じく常盤台中学の黒夜海鳥選手、この両名は3位以下の選手に圧倒的な差をつけゴールを決めました。両選手ともに、ゴールした後も体勢を崩すことなく、余力を感じさせる様子を見せてくれました』
それを聞いた彼女たちが感想を漏らす。
「さすがは御坂様と黒夜さんですわね」
「まあ、超順当な成績ってところでしょうか」
彼女たちがそんなことを話している一方で、白井はテンションを一変させ、大画面の方へ振り返る。あまりの変貌ぶりに、その車椅子を押していた初春、そして他の3人は若干引いていた。
「ああ、お姉様!」
白井の両目が輝く。だが、
『一緒に走ってもらった協力者さんを労わる所も好印象でした』
ツンツン頭の男子高校生が御坂からドリンクとタオルを渡されている映像が映し出された瞬間、白井は黒いオーラを発し始める。
「……殺ス」
その豹変ぶりに、泡浮と湾内の2人もドン引きの様子だった。
「ったく、インデックスの奴どこに行きやがったんだか」
借り物競争への強制連行から解放された俺たちは、インデックスを探していた。
「おそらく、どっかの屋台の前で腹を空かせていると思うんだけどな。全く、あいつにはAIM拡散力場も魔力もないから探しづらいな」
ぶつぶつと文句を言いながらも、次の大玉転がしが始まる前に探さねば、と焦る俺たち。
――しかし、そんな日常の一コマは突然に崩れ去る。
その時、俺は(不本意ながら)覚えのある魔力を感じ取った。その近くには、友人のAIM拡散力場も感じられる。
「おい、当麻」
俺が呼び掛けると、当麻が立ち止まった。
「
そこには、赤い髪をして煙草を咥えている神父と、金髪グラサン姿にしてクラスメイトでもあり多重スパイでもある野郎が話し合っている姿があった。
俺たちはそこに話しかける。誰かの幻想を殺すために。
「今の学園都市は、一般来場客のために警備を甘くしている」
ステイルが言った。
「その隙をついて、この中に魔術師たちが侵入しているって訳だぜい」
侵入者は2人。
1人はローマ正教所属のシスター、リドヴィア=ロレンツェッティ。そしてもう1人は、『運び屋』オリアナ=トムソン。
「で、目的は? まさかインデックスじゃないだろうな?」
インデックスが狙われているとしたらまずい。俺たちは大覇星祭の関係で、インデックスの常に付いていられるわけではない。まあ緊急事態であるから、いざとなったら別に競技をすっぽかしても良いのだが、それでもクラスメイトに見つかったらその都度面倒なことになる。
しかし、土御門の返答は全く異なるものだった。
「その点に関しては安心してくれて大丈夫だぜい。奴らの目的は“ある霊装”の取引だぜよ」
「取引? なんでこんなところで? 学園都市って一番オカルトから離れた場所だろ」
当麻が疑問を呈する。だが、俺にはなんとなく察しがついた。
「だからこそ、だろ。学園都市側は魔術側の事件に下手に干渉するわけにはいかない。そして、魔術側の人間は学園都市で派手に行動することはできない。特に今は、一般客だって多いんだからな。こっそり霊装を取引するには最適な場所になっている訳だ」
俺の言葉に、ステイルは頷く。
「貴様の言う通りだよ。だからここで動けるのは
なるほど、と俺は納得した。すると、当麻が再び質問する。
「だったら神裂は? あいつって、魔術サイドではめちゃくちゃ強い『聖人』なんだろ? そいつを戦力として投入した方が良いじゃないか」
確かに神裂も俺たちと深い関わりを持つ人間だ。それだけを見れば、神裂がいた方が良い。
しかし、そう簡単にはいかないようだった。
「神裂はダメなんだ。今回は特にね」
ステイルが言った。
「その取引されると言われている霊装は『
『神の子』は十字架に磔にされ、刺殺された。その要素を抜き出して作られた霊装。
処刑と刺殺の宗教的意味を抽出し極限まで増幅・凝縮・収束させたそれは、『竜をも貫き地面に縫い止める』とまで言われる。魔術的価値・効果は共に絶大で、『切っ先を向けただけで距離も障害物も関係なく聖人を殺す』ことができるとされる。
それが『刺突抗剣』。
「聖人ってのは魔術側にとっては核兵器に等しい意味を持つ。それを一撃で葬り去るっていうのは、かなりやばいものってことぜよ」
土御門が説明する。
「……そんなものを取引して、魔術師たちは何をするつもりなんだ?」
「もちろん戦争だろうさ」
戦争。その言葉に、俺は先日のアリサの事件を思い出す。
「実際に聖人に勝てるかどうかよりも、勝てるかもしれないっていう可能性をちらつかせるだけで戦争ってのは起こっちまうものなのさ」
その言葉を聞いた当麻が再び土御門に聞いた。
「……なら、インデックスに協力を仰ぐのはダメなのか?」
「それはダメだ。この件に関しては『禁書目録』を使っちゃいけない。事件現場に近づけるのも、事件の情報を伝えるのも、アウトだぜい」
「何でだ?」
俺の質問に、土御門は面倒臭さを前面に押し出した苦笑いのまま、言う。
「インデックスの周りで起こったここ数か月の様々な魔術的事件のせいで、『禁書目録』の名前が必要以上に売れすぎちまってるんですたい。だから他の魔術組織が『何かが起きるとすればその渦中には禁書目録がいる』って言って、インデックスの周囲の魔力の流れを重点的にサーチしてるらしいぜよ。……故に、インデックスを事件と近づけてしまうとほぼ確実にアウト。俺たちはそれで潜入してくる魔術師たちの対応もしなければならなくなるって寸法さ」
いろいろと問題を抱えながら、俺たちは行動を開始する。
その話を終えた俺たちは一度解散となり、土御門とステイルが何か手がかりを見つけて連絡をしてくるまで再び大覇星祭に戻ることになった。
しかし。
「あんたねえ。運営委員の仕事で戻って来てみれば……」
当麻がいつもの通り
そこに吹寄が現れて、俺たちは連行させられる。
「まったく、少しは大会を成功させようという努力はできないの貴様は!」
吹寄は忌々しそうに言う。
「あの、今俺たちの学校は何の競技をしているのでしょうか?」
「そんなことも覚えてないのか!」
当麻の質問に、吹寄はかなり起こっているようだ。それに俺が答える。
「女子の綱引きと男子の選抜トライアスロンだろ、この時間なら。多分」
「そうよ。ついでに言えば、女子の方は2年生。男子の方は3年生ね」
吹寄が補足してくれた。
「どっちの応援に行く? やっぱり女子か! そうよね、上条だものね」
吹寄はさっきから1人で怒っている。勝手に拡大解釈するな。
俺たちは吹寄の後について移動する。
「ねえ、……大覇星祭って、つまんない?」
その途中で、吹寄が少し悲しそうな様子で聞いてきた。
「別にそんなことは」
「どうも貴様らは浮ついているというか、別のことが気になっているような気がする」
鋭い質問だ。そんなに顔に出ていたのか。
「やっぱり運営委員としては、準備をしてきた私が何か不足していたから……だから、楽しめないんじゃないかって」
彼女にしては珍しく、自信なさげな様子だった。
「別につまんないとかじゃねえって」
「やっぱり企画を立ててきた身としては、みんなで楽しい思い出を作ってもらいたいというか。わがままかもしれないけどさ」
その時、大きな荷物を運んでいた女性が後ろから当麻にぶつかってきた。
「あら、ごめんなさい」
その女性はいかにも外国人らしい容貌で、金髪にグレーのつなぎを着て大きな荷物を持っていた。何かの看板を布で巻いたような形状をしたものだ。
ぶつかったおわびに、と彼女の国の方式なのか、当麻と
その時、当麻が奇妙な反応をした。女性も何かを警戒したような表情をすると、当麻と距離を取る。
その女からは魔力が感じられた。
「そろそろお仕事に戻らなくっちゃ、じゃあね」
女が俺たちのもとから離れていく。
「……当麻」
「ああ」
俺たちは彼女を追いかけた。ついに行動開始だ。