とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト)   作:nozomu7

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第87話 追跡封じ

「もしもし? こちらはオリアナ=トムソン」

 

 駿斗たちが追いかけている女、オリアナが単語帳の1ページを口で引きちぎると、そこには黄色い『Water Symbol』という文字が浮かび上がった。彼女はそれを携帯電話でも使うかのように耳に近づける。

 

『本名は慎みなさい。あなたの肉声そのものは、周囲に聞こえているのでしょう?』

「それより、ちょっとトラブルがね。お姉さんの使っていたあの術式、破られちゃったみたいなの」

 

 オリアナの使っていた術式は『表裏の喧騒(サイレントコイン)』。人払いの術式の応用で、自分を追い駆けよう、という気力を奪う効果がある。

 

 しかし、それは当麻の幻想殺し(イマジンブレイカー)によって破壊されてしまった。

 

『原因は?』

「分からないわ。でも、なんか興奮しちゃう」

『卑猥な表現は慎むように。何か対応策は?』

 

 切羽詰った声で尋ねられる話し相手の質問に、オリアナはちらりと後ろを確認すると言った。

 

「そうね。まずは、後ろにいる坊や2人を撒かないといけないわね」

 

 

 

 

 

 俺は当麻に、土御門に連絡を取らせた。

 

『どうもー、かみやん。こっちは今、オリアナが取引に使いそうなスポットを――』

「土御門。俺がある人物と握手した途端に、幻想殺しが何かを壊したんだ。駿斗は彼女から魔力が感じられると言っている」

 

 その言葉に、土御門が切羽詰まった声になった。

 

『何か、大きな荷物を持ってないか?』

「ああ。何か看板みたいなものを」

『今どこにいる』

「こっちでGPSコードを送るから、そっちでサーチしてくれ」

 

 そして通話が終わった途端、女は走り始めた。

 

 俺たちは追いかけ始める。

 

「大きな荷物持ってるし、あれが運び屋のオリアナってやつか? 流石だ、足が速い!」

 

 だが彼女から魔力を感じられる以上、俺はそれを追跡できる。

 

 そこに、土御門とステイルも加わった。4人はバスターミナルまでつけて行った。

 

 バスターミナル内に入った途端、攻撃が襲い掛かってくる。

 

「当麻、右手を!」

「おう!」

 

 当麻が右手でそれを消し去る。その間に、イギリス清教の2人は隠れた。

 

 しかし攻撃は1つに留まらず、次々と襲い掛かる。

 

 そして、その対処をしている間にオリアナは姿を消していた。

 

 

 

 

 

 見事に彼女に振り切られた俺たちは、探査術式を使用することになった。俺がいくら敏感に魔力を感知できると言っても、さすがに離れすぎた場所では分からなくなる。

 

 風水のエキスパートである土御門が魔方陣を用意し、(俺は探査術式はまだ学んでいないため)ステイルが術式を使用する。

 

「風を伝い、しかし空気ではなく場に意志を伝える」

 

 魔方陣が輝き、探査術式が発動する。

 

 しかし。

 

「ぐおおっ!?」

 

 魔法陣が壊され、ステイルが苦痛に叫びをあげた。

 

「どうした!?」

「かみやん、ステイルの体を殴れ!」

 

 当麻が慌てて右手をステイルの背中に当てる。すると、ステイルはその場に両手をついた。

 

「何だ、今のは……? 逆探知の防止術式、みたいなものか?」

「いや、恐らくステイル個人の魔力に反応する迎撃術式が組まれていたんだろうさ」

 

 土御門が言った。

 

「それって、ステイルはオリアナに向かって魔術を組めないってことか?」

「全く……1人で生命力の探知、逆算、術式の構築、応用までやってのけるとはな。さすがは『追跡封じ(ルートディスターブ)』」

 

 ステイルが忌々しそうに言う。

 

「追跡封じ?」

「オリアナ=トムソンの通り名さ」

 

 ありとあらゆる手を用いて、追っ手の追跡を振り切ってしまう所から付けられたその通り名の通り、彼女は非常に優秀なようだ。

 

「だが、この人間味のないやり口に見覚えがある……しかしまさか、『あれ』を所持しているとは思えないし」

 

 ステイルの呟きに、土御門が答えた。

 

「いや、ステイル。俺も同じことを考えていたとこだぜい」

「本気か? だがそうなると、やつは魔術師ではなく魔導士ということになる!」

「どういうことだ。『あれ』ってなんだよ?」

 

 彼らの言い争いに、当麻が口をはさんだ。

 

「魔術に関する知識を詰め込まれ、それ自体が術者の意志によらず、1つの魔方陣として機能するもの」

「魔導書の『原典』、か」

 

 土御門の考えが分かった俺が答える。

 

「しかし、状況に合わせて『原典』を作るなんて、そんなことが」

「『原典』とはいっても走り書きだ。限定された効果があるだけで、すぐに壊れるものだ」

「さしずめ速記原典(ショートハンド)といったところか」

 

 今回の相手も一筋縄ではいけないようだ。

 

「それで、まずはどうすればいいんだ?」

 

 当麻の質問に、土御門が答えた。

 

「まずは自動迎撃術式をぶっ壊して、ステイルの魔術を使えるようにする」

「それをやっている間に探索外に逃げられる可能性はないのかい」

 

 ステイルが煙草をふかしながら尋ねた。

 

「大丈夫だ。速攻で逃げ切れる自信があるなら、わざわざ自動迎撃術式なんて組まないからな。……ってことでステイル。何でも良いから魔術を使え」

 

 土御門が直径二メートルほどの朱色の魔法陣を地面に描く。これは飛んでくる術式の魔力に反応し、距離と方角を割り出す『占術円陣(せんじゅつえんじん)』と呼ばれる魔術であるらしい。風水に関しては俺もインデックスからある程度学んでいるものの、その魔術を実際に見るのは初めてだった。

 

 しかし、それを実行すれば。

 

「おい、土御門! そんなものを実行すれば、もう一度ステイルが!」

「そうだ。俺がやっても良いだろ」

 

 俺が前に出る。すると、ステイルは言った。

 

「君たちは奴を追いかけるのが役目だろう。僕は君たちがここにいることが気に食わない。君たちがあの子の側にいないことであの子が顔を曇らせたら、それは君たちのせいだろうが」

 

 ステイルはそれだけ言うと魔法陣の中に立ち、ルーンのカードを取り出した。

 

 男の苦悶の叫び声が響く。

 

「出た出た。占術円陣に反応有りですたい」

 

 ステイルが倒れ伏している横で、土御門は平坦な声で呟いた。

 

「2人とも、地図持ってないかにゃー。あ、携帯電話で出してくれればそれで良いぜよ」

「土御門!」

 

 激昂した当麻が土御門の胸ぐらをつかんだ。

 

「お前は仲間に対してどうしてそこまで冷たいんだよ! ステイルが誰のために傷を負ったと」

「かみやん。こいつだってプロの魔術師だ。術式に対する攻撃耐性くらいはあるぜよ」

 

 土御門がそう言った時、彼の頭から赤黒い液体が出てきた。それで俺は気づく。

 

 ステイルが魔方陣に立っているとはいえ、占術円陣を使用しているのはあくまで土御門であるということを。

 

「占術円陣なんて便利な代物を、魔術なしで発動できるわけがないだろう?」

「くそっ! 当麻、もうやめて携帯電話で地図を出せ。俺は治療をする」

 

 万象再現(リプロダクション)をステイルと土御門にかける。俺の言葉に、当麻は悔しそうに歯を食いしばりながら携帯電話を操作した。

 

「俺がまともに魔術を使えていればステイルがこんな目に合わずに済んだ。だから認めてやるよ。俺のせいだ。だが、オリアナを必ず見つけ出して刺突抗剣(スタブソード)の取引は絶対にこの手で潰すんだ」

 

 北西302メートルの位置にあるもの。それは……

 

「中学校だと!?」

 

 

 

 

 

 結論から言えば……間に合わなかった。

 

 もっとも簡単な魔術儀式は、『触れる』こと。外から運び込まれたものならいくらでも仕込めるし、どの機材に術式が組まれているか分かったものではない。

 

 そのため、俺たちは中学生の競技の中に飛び込んだ。

 

 俺は魔力を感じ取れる。だから、術式が組み込まれた機材を探し出すのは簡単だった。

 

 当麻の幻想殺し(イマジンブレイカー)はあらゆる異能の力を問答無用で無効化する。だから、破壊するのは簡単だった。

 

 だが俺たちがたどり着くよりも早く、実行委員の吹寄がそれに触れてしまった。

 

「上等だ、オリアナ=トムソン。これがお前のやり方だって言うのなら、無関係な人間を散々巻き込んだ挙句に、それを眺めても何も感じないって言うのなら」

「テメエのふざけた幻想は、俺たちが跡形もなくぶち殺してやる!」

 

 

 

 

 

 オリアナの魔術を破壊したことで、ステイルは魔術を再び使えるようになった。

 

『行ける。問題はなさそうだ』

「なら、理派四陣の探索術式を頼むぜい。事前に用意はしておいたけど、使い方は分かるよな?」

『見くびるなよ。そちらは大丈夫なのかい』

 

 俺たちは走りながら、土御門がステイルとケータイで連絡を取る。

 

「問題ないにゃー。ただ、生徒が1人やられちまった」

『そうか。……あいつら2人は荒れているか』

「分かっているなら頼むぜい。じゃねーと、倒れちまった生徒さんに申し訳が立たないにゃー」

 

 オリアナは第7学区にいるらしいことが分かった。

 

『北の方へ動いた。その先の奥……』

「見つけた!」

 

 すぐに曲がり角へ消えてしまったが、確かにオリアナを見つけた。俺は彼女の魔力を感じ取ることに集中する。

 

 だが、あと一歩のところで彼女の乗ったバスが動いてしまう。すると、土御門が聞いてきた。

 

「なあ、あいつの乗ったバスに彼女以外の乗客は乗っていたか」

 

 俺はその質問の意図が分からないまま答えた。

 

「誰も乗っていなかったぞ。それを聞いてどうす」

 

 俺が言い切る前に、バスの横から火が噴き出て車両が横転する。

 

「ステイルがあらかじめ整備場でルーンを貼り付けておいたんだにゃー」

 

 すると、その炎を払いのけるように発生するものがあった。霧の竜巻だ。その霧は、周囲の炎を全て沈めてしまった。

 

 学園都市の能力とはまた異なる、物理法則を超えた現象。そんなことができる人間は誰なのかはっきりと分かる。

 

 その中からオリアナが姿を現した。

 

 彼女が口にくわえていたカードには、青い字で『Wind Symbol』と書かれている。

 

「うふふ。物理的な炎では、お姉さんを熱くすることはできないわね。もっとも多少焦って濡らしちゃったけど、見てみる?」

 

 その扇情的な仕草に反応しているほどの余裕は俺たちにはない。

 

「お前の仕掛けた術式で、全く関係のない人間が倒れたぞ。あいつが魔術に関係があるとでも思ったのかよ!」

 

 怒りをぶつける。熱くなる俺たちに対し、オリアナは逆に冷たい反応だった。

 

「この世に関係ないものなんてないわ。その気になれば、人は誰にだって関係できるものよ。まあ、あの子を傷つけるつもりがなかったのは本当よ? こういうのとは違って」

 

 オリアナは口で単語帳を引きちぎった。そこに青い字で描かれていたのは『Fire Symbol』。……速記原典(ショートハンド)

 

 すると突然、土御門が苦しみだした。

 

「土御門!」

「あら、怪我を負っているのはあなたたちじゃなくてそっちの子だったのね? お姉さんがやったのは、再生と回復の象徴である火属性を青の文字で打ち消しただけなのだけど」

 

 その言葉で、俺にはなんとなく速記原典の仕組みがつかめてきた。

 

「青は五大元素においては『水』を表す。それであえてFire……『火』と書くことで術式を創り出した。文字と色の組み合わせで作るのか? 当麻、とにかく土御門を!」

「おう!」

 

 当麻がその右手を土御門に当てる。だが、それはいくらでも再生した。

 

「くそ……カードをつぶさないとダメか!」

 

 俺たちはオリアナに向かい合う。

 

「彼を救いたければ、一刻も早くお姉さんを倒すことね。でも、君は魔術についても詳しいのかしら? あえていうならば、この速記原典は文字と色の組み合わせだけではないわよ?」

 

 なんだと!?

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