とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト) 作:nozomu7
「どういうことだ?」
「さあ?」
単語帳に緑色の『Wind Symbol』の文字が現れ、氷の壁が生み出される。当麻はそれに向かって右手を叩き付けた。
だが、その先にオリアナはいなかった。屈折率の変化によって生み出された映像だ。
「そんなものが通用すると思ったか!」
俺は魔力から背後に回られたことを感知、結晶の大剣を創り出して間合いを詰める。すると、彼女から風が生み出される。大剣を盾の形に修正するが、俺はそのまま地面に叩き付けられた。
右腕に軽い擦り傷ができた。
「駿斗、まずい! さっきの術式を使われたら」
「お次は影の剣。飽きさせないわよ?」
当麻の予想に反して、オリアナは影の剣を生み出して高く飛んだ。
影の剣が地面に投げつけられ、爆発する。当麻が吹き飛ばされた。
どうして同じ攻撃がこない? と疑問を浮かべる俺たちに対して、オリアナは言った。
「お姉さんは一度使った術式を何度も使う趣味はないの」
「当麻、後ろだ!」
後ろから来た水の球に対して、当麻の右手がそれを迎え撃つ。オリアナが当麻に迫ってきたので、俺は
だが、オリアナは素早い動きでそれを回避する。少しだけ足先がかすったが、それでも彼女は素早く体制を整えた。
そして再び単語帳を1枚口にくわえると、赤い『Wind Symbol』の文字が浮かび上がる。
「次は『
彼女を中心として大地に円が描かれ、四方八方へレンガ敷きのような巨大な文様が地面に生み出される。
動けば死ぬ。そう言われておきながら、俺にはそれよりも気づいたことがあった。
「気付いたぞ、オリアナ。お前の
「あら」
俺がそう言っても彼女の表情は変わらなかった。
「五大元素を表す文字と色。だが、それ以外の魔術的な要素はまだある。例えば、多くの魔術において重要なのは『方角』。風水などもそうだし、占星術などにおいても星の位置などは方角に対するものが基準となる。そして、それは東西南北に対する『角度』と解釈することも可能だ。つまり、1つは口にくわえた時の『角度』」
俺は言葉を続ける。
「そしてもう1つ。お前はさっき“一度使った術式を何度も使う趣味はない”などと言ったが、それは違う。“使わない”のではなく“使えない”のだろう? なぜなら、最後の1つは『ページ数』だからだ」
俺の言葉に、オリアナは逆に笑みを浮かべた。
「で、それが分かったからと言ってどうするの? 動けば死ぬのよ?」
「そんなものがどうしたってんだ。吹寄が今日まで一生懸命準備してきた大覇星祭が、台無しにされそうになっているんだぞ!」
当麻が言った。
「このまま放っておいて、それで満足できるわけねえだろ!」
当麻はオリアナに向かって走り始めた。地面から衝撃が入る。
それを見た俺は、迷わず身体強化術式を使って跳び上がった。
「なっ!」
オリアナは圧縮された風の槍を放つ。だが、当麻の右手はそれを打ち消した。
それを見たオリアナは当麻を殴るために看板を構える。
その看板に、俺は跳び蹴りを喰らわせた。彼女がその体勢を大きく崩す。
ついに当麻の右拳が彼女の頬にささり、彼女は看板を手放して吹き飛ばされた。
「当麻、土御門を頼む。俺はそれを回収する」
「おう!」
俺が看板(
すると。
「もう、乱暴なんだから。素人の拳にしては上出来でした、といったところかしら。ただ、お姉さんにとっては欲求不満が募るレベルなんだけど」
オリアナが立ち上がった。彼女の態度には余裕が見られる。
「お前の運んでいた荷物は回収したぞ。商売道具を奪われては何もできないだろ、『運び屋』の『
俺は言うが、それでも彼女の様子には変化がなかった。
「ま、とりあえずそれは一度そちらに預けておくわ」
……は?
「ここでゲームが終わっただなんて思わないように。燃えてくるのはこれからよ?」
そして土御門にかけた術式の効果が20分で切れることを伝えてくると、オリアナは風を纏ってどこかへと消えて行った。
それを確認した俺たちは土御門の携帯からステイルに連絡を取る。
『よし。
「だけど、そんなことをして大丈夫なのか? 学園都市の人間が貴重な霊装を破壊するんだぞ?」
『それをすれば、包囲されるのは彼女たちの方だ』
散々魔術師に入り込まれているので忘れそうになるが、この学園都市は彼らにとっては敵地のど真ん中である。
『奴らも一度引いて、冷静に対策を練らざるを得ないのさ』
しかし、梱包をといた2人の前に現れたのは危険な槍どころか、霊装ですらなかった。
「ただの、看板だって……?」
やはりこんな
刺突抗剣のオリジナルなど存在しない。それは人々の勝手な憶測が伝承として残ったものに過ぎない。
そもそも、大英博物館にレプリカも存在するそれは、剣ですらない。
『
それが判明した時点で、大きく事態が変わった。
「使徒十字ってのは『聖霊十式』の1つだ」
カフェのテラス席でステイルと土御門が説明する。
聖霊十式というのは、ローマ正教の誇る十の高位霊装の呼称であるらしい。そして、その中に1つが使徒十字。
「その『ペテロの十字架』は『逆十字』と呼ばれることもある。十二使徒の1人、ペテロは広大な土地にペテロの遺体を埋め、そこに十字架を立てた。それが後の教皇領バチカン、今で言う『バチカン市国』、つまりローマ正教の総本山になった」
ステイルは厳しい表情を崩さないまま説明する。
「つまり、それをここでも起こそうという訳さ」
「どういうことだ?」
いまいちよく分かっていない当麻が質問する。
「使徒十字が置かれた空間はもれなくローマ正教の支配下におかれる。それが学園都市であってもな」
「何……!?」
俺はだんだんと事情が呑み込めてきた。
「何もかもがローマ正教の都合の良いようになるし、誰もがそれに納得してしまう」
土御門が言った。
「具体的には?」
俺がさらに質問をすると、土御門が説明をしてくれた。
「具体的な効果は、幸運と不幸のバランスを捻じ曲げて何をやってもローマ教会に都合がよくなるようにするというものだ」
幸運はローマ正教徒以外のものにも与えられるが、それは客観的な幸運というわけではない。どんなに不幸なことが起こっても幸運としか感じられないような状況を作り出す。
「例えば『ローマ正教を標的としたテロに巻き込まれたが「奇跡的」に助かった』という事態が起こったとするぜよ。だがそれは、そもそも使徒十字がなければ、つまりローマ正教の勢力圏に無理矢理入られていなければテロ自体は起きなかった。その時、使徒十字の影響を受けている人々は何を考えるか」
土御門は一度そこで間を取ると、衝撃的な答えを言った。
「答えは『ローマ正教のおかげで自分たちは助かった』。そもそも使徒十字がなければ、つまりローマ正教の勢力圏でなければテロ自体起きなかったはずなんだけどにゃー」
俺たちはしばし絶句する。
「そんな」
「もし学園都市がローマ正教の傘下に入れば、科学サイドと魔術サイドの半々で保たれている今の世界はローマ正教の一極集中となってしまう」
土御門が話す。
「『取引』するのは、『学園都市と世界の支配権』そのものってことか……!」
そのことに気付いた俺は無意識に拳を強く握りしめた。
「この取引は絶対に止めるよ。さもなくば、世界は崩壊よりも厳しい情勢に直面することになる」
ステイルは言った。
俺たちはそこで一度昼休みということになった。
刀夜さん&詩菜さん夫妻を俺たちは探していたのだが、そこで思わぬ人に出会った。
「おや、駿斗君に上条君。上条君は久しぶりだね」
「お久しぶりです」
「園長先生!?」
そう、俺が育った施設の園長先生だった。何人かの子供たちを引き連れている。
「珍しいですね。大覇星祭でも中々こっちには出てこないのに」
「でも、毎年子供たちを少しだけ観戦に連れて来ていただろう?」
「そうでしたね」
俺が話していると、園長先生が連れてきている何人かの子供たち(主に小学校低学年)が一緒に遊んでと俺の周りに集まってきた。
「これからお昼だから、お兄ちゃんと遊ぶのはまた今度。ごめんね」
その言葉にみんながえーっ、と言葉を返す。
「こらこら。お兄さんも競技に出なくちゃならないんだからそこまでにしなさい」
園長先生が子供たちを宥め、俺はその輪の中から解放される。
ではまた、と別れの挨拶をして、俺たちは昼飯へと急いだ。
あるレストラン。そこの大人数を、ある一団が占めていた。
四人掛けのテーブル席が並ぶ中、ある一つのテーブルに座るのは上条一家及びインデックス。
そして、その向かいのテーブルに座るのが御坂親子及び白井&初春。
さらに上条一家の隣のテーブルに座っているのが俺と佐天さん、最愛、海鳥、といった感じの席の配置である。
だが、そこで問題が起こった
「そもそも、あんたといつも一緒にいるこいつはいったいどこのどいつなのよ!?」
御坂が言うと、刀夜さんもそのタイミングで聞いてきた。
「そうだぞ、当麻。その子は誰なんだ? 泊りがけで海に行った時も一緒についてきたし」
「海!? 泊りがけで海って……」
御坂が思わずコップを落とす。その反応に白井の纏っているオーラが黒く染まっていく。
「……超修羅場ですね」
その様子を見ていた最愛がもらした言葉に、俺の席にいた全員が首肯した。
「かくいう短髪も、いったいどこの誰なの?」
さらに、火に油を注ぐ如くインデックスが質問に質問で返してしまう。
これはまずいと思った俺は、当麻に代わって答えることにした。
「あ、刀夜さん。それについては俺が説明します」
インデックスはイギリス清教のシスターであること。
イギリス清教の都合で学園都市に滞在することになっていること。
不幸にも住むところがなく頼る人がいなかった彼女は、たまたま知り合った俺たちが世話をしていること。
俺たちの学校の学生寮の一室に住んでいること(あくまで『学生寮の一室』という説明なので、『男子寮の当麻の部屋』ということは伏せた)。
俺たちのクラス担任の小萌先生とも知り合いであり、時々世話になっていること。
――といった具合に説明を終えた。
その時、御坂の姉(?)がインデックスと御坂の間に割って入ってくれた。見た感じだと、大学生くらいだろうか。
「まあまあ、そろそろお昼にしましょう。えっと、上条当麻君と神谷駿斗君、でいいのかな?」
「そうですけど……あの、御坂のお姉さんですか?」
当麻がそう聞くと、彼女は「ううん」と首を横に振って見せた。
「御坂美鈴。美琴の
「「「「「HAHA!?」」」」」
俺たちは驚愕する。が、驚いていない人間もいた。
「やっぱり、そう思いますよねー」
佐天さんが言う。
「ですよね。私たちも御坂さんのお姉さんだと思いましたもん」
初春さんがそう言った。
「ですが、先ほど確か、大学がどうのとか……」
「ええ。もう一度学びなおしているんです。色々と刺激的なんですよ」
御坂のお母さん――美鈴さんは笑みを絶やさずに言う。
「……どう思う?」
刀夜さんが聞いてきた。
「どうって、まあ
「おかしいに決まってるんだよ! とうまとはやとの周りには不自然に若い大人が多いけれど、こんなの普通に考えたらあり得ないもん!」
当麻の言葉を遮って、インデックスが席から立ち上がって叫ぶ。
だが、美鈴さんはそれをスルーして、
「そんなことより、お昼にしましょう。今回はちょっと母親らしくお弁当持って来たんだから」
そう言って彼女は色々と準備し始め、
「じゃーん、今日のお昼はチーズフォンデュ!」
「学園都市に危険物持ち込んでんじゃないわよ!」
カセットコンロの上に乗ったそれを見て、娘は母に向かって叫ぶ。
にぎやかなやり取りを見ている一同であったが、その時最愛と海鳥がポツリ、と呟いた。
「……母親」
「ですか……」
そう言えば、彼女たちは恐らく誰かの『親』というものに出会うのが初めてなはずだ。大覇星祭ではそういうこともあるということを、あらかじめ言っておくべきだったかもしれない。
俺も、過去に当麻の両親と会ったときは複雑な思いを抱えたのだから。
俺たち
憧れや羨望。
恨みに憎悪。
心を閉ざし、わざと何も感じないと自分自身に言い聞かせる人もいる。
それが、かつて親に置き去りにされた者の考えだ。
俺は……憧れはするものの、それほど憎んではいない、といったところだ。
あえて言うならば、
俺は幼馴染に声をかけた。
「さ、とにかく食べるか。午後に備えないとな」
「「はい!」」