とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト) 作:nozomu7
「とうま、はやと! あの果物ジュース、飲んでみたいかも!」
昼食を終えて解散した後、インデックスが屋台を指さして叫ぶ。
「お前なあ、さっきお昼ごはん食べたばかりだろ? そんなこと言ってると、太っちまうぞぐはっ!?」
当麻が言っている途中で、その横から肩パンが入った。
「まったく、だから上条は超デリカシーというものが欠けているんです」
拳を握りしめた最愛が言う。
「おい、まさか
「その点は大丈夫ですよ」
その返事を聞いて俺は安心する。
「入院することに慣れている上条なら、何も問題ありません」
「問題あるの! 問題あるんだよ問題あるんです三段活用! 鉄筋コンクリートの壁を軽々とぶち破る拳を喰らったら、さすがの上条さんも体がスクラップになりますからね!?」
案外拳は効いていたようである。もっとも、さすがに冗談だろうが。
その後、当麻がラッキースケベを起こしたためにその場から逃げだした。
しばらくして、土御門から連絡を受けた。
『オリアナに動きがあったにゃー』
およそ3分前に第五学区の地下鉄『西部山駅』でオリアナを発見した。俺たちは一緒にいた姫神に断りを入れ、小萌先生で遊んでいたステイルを連れて移動する。
「姫神、小萌先生は任せた!」
当麻がそう叫ぶと、姫神は素早く先生を拘束してくれた。彼女に感謝しつつ、俺たちは移動する。
駅に着いたところで、俺たちはまだ来ていない土御門と連絡を取る。
『やあ、悪い。自律バスが立ち往生しちまったぜよ』
「ここまでの距離は?」
『走って10分ってトコか』
そんなに時間があったら、探索可能範囲外に行ってしまうのは明らかだ。
「俺が何とかする。土御門、何か俺にも使えそうな知識を――」
『それは難しいぜい、はやとん。そもそも俺の専門である風水は、何かの霊装を介して使用することが大前提なんだからにゃー。って訳で、俺が探し出すから安心して待っているぜよ』
土御門は言った。
「おい、土御門! お前が魔術を使ったら」
当麻が叫ぶが、ステイルがその携帯電話を奪い取る。
「良いんだね?」
『2人とも、俺が魔術師ってことを忘れてないか? 魔術を使ってナンボの専門家ですよ?』
それだけ確認すると、ステイルは通話を切った。
俺たちはしばらく移動し、再び土御門に連絡を取る。
『気付かれたらしい。動きが急に変わった、今は北西に向かっている!』
「『赤ノ式』は使えないのかい?」
『無理だにゃー。それをやるには、「理派四陣」を切らないといけない』
理派四陣の有効範囲内1700メートルを抜け出されないうちに、俺たちは追いつかなければならない。
しかしその時、土御門の声色が変わる。
『待て、こいつ方向を変えた。急にスピードが速く……ザザッ』
通話が切れた。それが意味するのはただ一つ。
「やられたね」
「ああ、土御門本人を叩きに行ったということだ」
だが俺たちは土御門の居場所を知らない。完全に行き詰ってしまった。
「ダメよ、気を抜いちゃ。あなたがお姉さんの居場所を感じ取れるってことは、お姉さんもあなたの居場所を感じ取れるってことよ?」
土御門を吹き飛ばしたオリアナが言う。
「あなたは一番冴えていて危険そうだから、潰しに来ちゃいました」
彼女はそう言って単語帳を片手に『理派四陣』を踏み潰す。彼女は昼前に追いかけた時の作業着姿から、さらに露出多めの服装に着替えていた。
土御門は立ち上がって宣言する。
「
それを聞いたオリアナは楽しそうに顔に不敵な笑みを浮かべると、単語帳を構える。
「私の名は
オリアナがその1ページを口にくわえると同時、土御門は飛び出した。
土御門はその右拳を握りしめてオリアナの懐に飛び込もうとするが、オリアナが発生されたロープ状の土がその動きを阻害する。だが、彼はそれを無視して1発、2発と拳を繰り出した。
オリアナはそれをガードすると、風を発生させて土御門を押し返した。だが、土御門は彼女に向かって再び飛び上がるようにして間合いを詰める。そして座り込んでいる彼女の足をつかみ、関節に攻撃をしかけた。
しかし彼女は、その足で土御門を蹴り飛ばすと再び風を繰り出し、土御門を壁に叩き付ける。
「そう言う乱暴な若さも、お姉さんは嫌いじゃないわよ? それでも、極力魔術を使わないのがあなたの流儀なのかしら。まあいいけど、それだとあなた死ぬわよ?」
オリアナが口で単語帳を切ると同時、土御門も赤い折り紙の鶴を構えた。
「
「遅いわよ」
周囲に現れた黒い柱が崩れ、土御門を押しつぶす。オリアナはその様子を砂埃が晴れるまで見つめていた。
「終わっちゃったわね」
余裕の笑みを浮かべてそう呟いた彼女だったが、そこで気づいたことがあった。
「……! まさか結界が解かれている」
「どうやら、俺にでも破れる程度の結界だったようだな」
土御門は倒れながらも会心の笑みを浮かべていた。
「ここでの様子が外に伝わらないと困るんでね」
この次の言葉で彼女の表情が変わった。土御門はその手の中にあるものを見せる。
「
「通信術式?」
「
あいつ。刺突抗剣がないと分かると待機させる必要がなくなる、イギリス清教の人間。
「そう、神裂火織だ。『聖人』が日本にいる可能性を考えなかったのか? それに、学園都市には彼女の個人的な知り合いもいることだし、万が一ばれても大きな問題にはならない!」
そこで土御門は手にした鉄の棒を振り回し、巻き起こった砂埃の中に隠れた。
オリアナは去って行った。
「くそっ」
1人残った土御門は、呟く。
「付文玉章なんてデタラメ、よく信じてくれたもんだぜよ。全く、本当にご本人が登場してくれればよかったんだけどにゃー」
そう。全ては『嘘』。
なんとかその場を切り抜けた『嘘つき』は、ため息をついた。
「
オリアナは土御門と戦った場所から素早く離れていた。
「姫神ちゃん。急いで移動しないと次の競技に……わっ」
対聖人用の術式でも考案しようか、などと考えていると、そこで1人の少女とぶつかった。
そのはずみで後ろに下がった少女――小萌先生は、後ろにいて飲み物の入ったコップを持っていた姫神にぶつかってしまう。
そして、姫神はその飲み物をかぶってしまった。
「ああ。小萌先生。よくもやってくれた……」
「あ、ごめんなさいなのですよ。そっちの人は大丈夫ですか?」
小萌先生はオリアナに声をかける。
「ええ、お姉さんは平気。それより、そっちの方が心配かな」
オリアナは体の前で腕を交差している姫神を見ながら言う。
「ああーっ! 姫神ちゃんがヌレヌレのスケスケになっているのです!」
しかし、そこで彼女は気が付いた。
濡れて透けている姫神の胸元に見えるもの。それは
「ケルト十字……まさか、
オリアナは単語帳を口で引きちぎる。そこに現れた文字は赤の『Soil Symbol』。
姫神が突然、胸を抑えて苦しそうにうごめき始めた。
「どうしたのですか、姫神ちゃん?」
小萌先生は不安そうにそれを見る。
そして、姫神の胸の上から腹の下までが突如引き裂かれ、大量の赤黒い液体が弾けるように流れ出した。
俺たちはオリアナを追っていた。
「ここから一番近い乗継ポイントは、北に300メートルの、自立バスの停留所だ」
「300メートル、か」
俺たちはそこに向かってひたすらに走る。
だがその時、T字路でステイルが立ち止まった。そこには人だかりができている。
「どうした、ステイル!」
「この臭いは……」
俺たちは人ごみをかき分けて進む。
そこには、地面に血だまりを作って倒れている姫神と、そこで泣いている小萌先生の姿があった。
「小萌先生!」
「上条ちゃん。神谷ちゃん……」
「先生、ここで何が起きた?」
俺は姫神に
「女の人とぶつかったんです。その人、急に怖い顔をしたと思ったら、いきなり」
「オリアナか」
小萌先生の言葉に、ステイルが言った。
「なんで、オリアナに姫神を襲う理由なんか」
「あるぞ、当麻。『歩く教会』の霊装、ケルト十字だ」
動揺している当麻に、俺は答えた。
「この子を禁書目録クラスの魔術師だと受け取り、追手だと判断したんだろう」
「間違えただけだってのか……姫神をここまでにして、その理由が間違えただけだって!?」
ステイルの言葉に声を荒げる当麻。ステイルはすぐにルーンのカードを取り出すと、周囲に投げる。
「
すると、周りにいた人だかりが消えて行った。『人払い』だ。
その一方、俺は万象再現だけでは治療が間に合わないことに気が付き、歯を食いしばる。
「救急車は呼んだかい? 路地の入口に待たせるように」
それだけを言うと、ステイルは背中を向けて歩き始める。
それを、当麻が止めに入った。
「待てよ! このまま姫神を放っておくっていうのか!」
「調子に乗るなよ素人が!」
ステイルが叫ぶ。
「またげよ、上条当麻。またいでオリアナを追うんだ! これが僕達の世界なんだよ。残酷なものだろう。僕達にその子の傷は癒せない、それは絶対に覆らない。だから誰かを守るつもりがあるなら拳を握れ。僕達にできる事なんて最初から限られているんだ。君の右手には幻想を殺す力しかない。幻想を守る力なんてどこにあるっていうんだ」
その言葉に、当麻は怒りに任せて拳を地面に叩き付けた。
「君もだよ、神谷駿斗。先ほどから何かをしているようだが、君の力ではそれが間に合っていない。ここに居続けるよりも、これ以上の被害を食い止めるために動け」
そう言われた俺は、ゆっくりと立ち上がった。
この騒動が終わったら、即急に回復魔術をインデックスに教わる。そして、今回のようなことの二の舞は絶対に防ぐ。
そう誓いながら。
その時、小萌先生が何かを並べていた。それに気付いたステイルが聞く。
「先ほどから何をしている」
「シスターちゃんの時には、これで治ったのですよ」
そう。先生はかつて、インデックスに指示を受けながら回復魔術を発動させたことがある。
それをここでも再現しようとしていた。
「違う」
それを見たステイルが言った。
「まずは箱庭で区切る領域を設定するんだ。貴様ら2人はオリアナを追え」
「おい、まさか」
小萌先生と回復魔術を使用する気なのか。
「期待はするな。僕にとってもこれは専門外だ。この人の中にある禁書目録の知識を借りて、応急処置だけはやってみる」
「分かった。頼むぞ、ステイル」
俺たちは走り出す。