とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト) 作:nozomu7
俺たちが走っていると、そこは第七学区のバス停だった。そこにオリアナの姿はない。
俺たちは土御門に連絡を取る。
「土御門、悪い。オリアナを見失った」
『どこに向かっていそうか、分かるかにゃー』
俺はポケットからパンフレットを取り出して確認すると、当麻のケータイに向かって話す。
「このバスは第七学区をぐるりと回っているみたいだけど、どこに向かうのかまでは分からないが」
その時、ふと当麻が言った。
「なあ、オリアナってそもそもどうして街の中を歩いているんだ?」
『何ってそりゃー俺たちが追いかけているから』
「違う。その前だ」
確かに俺たちが遭遇した時、すでに彼女はダミーの荷物を抱えながら堂々と街中を歩いていた。
「
その言葉で、気づく。
確かに、取引だけが目的ならどこかの場所にじっと隠れていた方が良い。特に、彼女は同じ魔術が二度と使えなくなるため、下手に戦うことは後々の手札を減らしていくことと同義だ。
だが、彼女は街中を堂々と移動していた。
『オリアナ1人で動くべき理由があったってことか。分からないが、使徒十字を使うための条件に合った場所を探していたのかもしれないぜい』
「条件?」
「そう言えば、オルソラから(多分)イタリア語満載のメールが来ていたな。そっちに送るぞ」
俺は一度通話を切るように言うと、メールを送信する。
再び電話をつなげる。
『あの文章は使徒十字の保管方法についてだった。どうやら、保管するときは神経質なまでに光をあてないようにしてたみたいだにゃー』
「光?」
光とは、つまり
「太陽光……だったら、今まで発動させなかった理由がないな。とすると、月か星の光ってところが妥当か」
『確かに月や星を組み込んだ魔方陣を使うことで、超巨大な力になるからにゃー』
その言葉を聞いて、俺たちは
『使徒十字が夜空の光を集めるアンテナみたいなものだとしたら、オリアナが探しているのは』
「アンテナを立てるのに最適な場所、か」
しかし、そこで土御門が意外なことを言った。
『だが、ペテロが死んだのは6月29日なんだぜよ。おまけに、日本とバチカンじゃ緯度も経度もまるで違う。つまり、この星空が利用できない限り星座利用説は成り立たないんだにゃー。ま、それを考えている時間はもうない。星座を利用していると考えると、タイムリミットはやっぱり』
「日没か」
「とうま、はやと」
その時、後ろから声をかけられた。
「こんなところで、何をしているの?」
インデックスだった。
バスから降りたオリアナは、単語帳を1つ噛み切った。通信術式だ。
「リドヴィア」
『あなたの言いたいことは分かっています。あなたが手をかけた少女は、ただの一般人でした』
姫神のことだ。その言葉に、オリアナの表情が悔しげに歪む。彼女は無意識に手に持った単語帳を強く握りしめた。
「……最低ね」
『まさしく最低です。我々は関係のない一般人を牙にかけました。それも、2度も。彼女たちは我々が救うべき対象であるのにも関わらず。我々は2度と誤らないためにも、使徒十字を使用し、学園都市を支配しなくてはならないのです』
オリアナは、眉をひそめて言った。
「本当に何もかもうまくいくんでしょうね。この学園都市を手中に収めてさえしまえば、誰も確実に傷つかず幸せになれる『確かな基準点』が作られるのでしょうね……」
「とうま、はやと。どうしてこんなところにいるの? 午後に入ってから競技に参加していないよね。ねえ、なんで?」
インデックスは今回の使徒十字の一件に関わらせてはならない。その言葉を思い出した俺は、内心焦りつつも何とか応対する。
「ああ、運営委員の方を手伝っていたんだ。クラスの連中にはメールで伝えてあったと思うんだけれど」
「そうそう。ひょっとして俺がメールを送信したから、電波がセンターまで届いていなかったのかなあ。まったく、不幸だ」
当麻も誤魔化している感じがあるのは否めないが、何とか俺に合わせてくれた。
その言葉を聞いたインデックスは眉をひそめたままふうん、と呟くと
「次は組み体操だって言ってたよ。2人とも、来れるの?」
「ああ。『この手伝い』を終わらせたら、みんなの所に行くよ」
俺が言う。
「だから、先にみんなの所に行って待っててくれるか」
当麻の言葉にインデックスは笑顔で頷くと、走って行った。
俺たちはその純粋さに付け込んでいるようで、少し罪悪感が胸に残るのを否めない。
『悪いな、2人とも』
「いいってことよ。こんな『手伝い』、早く終わらせてしまおうぜ」
俺たちが通話を終えて再び移動すると、そこでステイルから通話が入ってきた。
「ステイルか!? 姫神はどうなった」
『女学生の手当ては終わった。とりあえず、ショック症状からは脱したみたいだよ。ま、あとは医者の仕事だ』
その時、電話から小萌先生の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
「ありがとな、ステイル」
『気持ちの悪いことを言うな。僕は君たちと馴れ合うつもりはない。それよりも、土御門が何かつかんだようだから連絡を取れ。僕もこの人を引きはがしてからそちらに向かう』
了解、と俺は走り出した。
小萌先生がステイルと別れた後で、病院の外のベンチに腰掛けていた吹寄に電話がかかってきた。
電話をかけたのは小萌先生である。
『あ、吹寄ちゃん。お体の方は大丈夫なのですか?』
いつも元気な担任の声が少し大人しくなっているのを聞いて、吹寄は少し罪悪感を覚えた。
(全ての人たちが大覇星祭を楽しむために、私は準備をしてきたというのに。その結果で熱中症になったらみんなに迷惑がかかっちゃうだなんて。……それにしても、水分も睡眠も摂っていたのに、何が足りなかったのだろう?)
「こっちは大丈夫です。それより、大覇星祭のほうは問題ありませんか?」
運営委員として責任を感じていた彼女は、とりあえず現状を確認したいので聞いた。
『それが、姫神ちゃんが大ピンチだったのです』
「はあ? まさか、またあのバカたちが」
言葉の意味が分からず、思わず口走る吹寄。だが、次の言葉を聞いて表情を変えた。
『それが、何者かに襲われたのです』
「襲われた!?」
大覇星祭では学園都市のセキリュティが甘くなるので、凶器が持ち込まれる可能性も上がる。そのことを考えた吹寄は、何があったのかを考えると恐怖を覚えた。
『はい。上条ちゃんや神谷ちゃんがあの場にいなかったら、もっと大変なことになっていたかもしれないのです。あ、神父さんが。神父さーん』
「え? 神父さん?」
担任の言った言葉がよく分からず、思わず聞き返す吹寄だったが通話が切れてしまった。
彼女は自分の携帯電話を見ながら呟く。
「いったい、この街で何が起こっているのよ……」
裏の世界を何も知らないただの女子高生である彼女は、訳が分からずに呟く。
その言葉に答えてくれる人はいない。
「やっぱり、『星座』が発動の鍵なのか」
俺と当麻と土御門の3人は、夕日に照らされる中話していた。
「けどにゃー、かつて使徒十字が使われたときは“夏”だった。秋の夜空で代用できるとは思えないぜい。まだ何かあるはずだ」
「でも、もう考えてる時間もそんなにないだろ?」
現在時刻は16時54分。今は9月であるとはいえ、日没までに残された時間は残り少ない。
その時、土御門の電話が鳴った。
『そちらは、ステイル=マグヌスさんでよろしいのでしょうか?』
「「「間違い電話だよ!」」」
しかし、この声は間違いなく彼女のものだった。
オルソラ=アクィナス。『法の書』事件でイギリス清教の一員となった元ローマ正教のシスターで、暗号解読のエキスパートである。超のんびりマイペースな話し方が彼女の特徴である。
「いや、オルソラ。俺たちで良いから話してくれ」
『まあまあ、あなた様は。先日はお世話になりました。おかげさまで、こちらにもすっかり慣れることができ……』
「いや、早く分かったことを教えてくれると助かる」
土御門がオルソラの言葉を遮って、先を促す。今は一刻を争う事態なのだ。だが、
『ええ。先日も、神裂さんにおいしい日本料理店を教えていただき……』
「だから、掴んだ情報を教えてくれよ!?」
彼女のペースに巻き込まれる前に、俺が情報を急かす。
『はい。使徒十字の使用条件について分かりましたのでございます』
俺たちの考えた通り、使徒十字の発動条件は『星座』が鍵となる。だが、季節に関係なく世界全土で発動可能なのだ。
使徒十字の発動方法は、使用する場所の特性を詳しく把握したうえで、そのエリアに最適な星座を88の中から選択することで発動条件が整う。つまり、事実上は世界中のどこでもローマ正教による支配は可能だ。
ペテロは自分の殉教の地に幅を持たせていたのだ。
ペテロが処刑された日付は、6月29日。この日がバチカンで使徒十字が発動できる日付となる。
「で、オルソラ。今日は9月19日だ。日本で使徒十字を使うポイントってのは、どこなのか分かるのか?」
俺は焦りを感じながらも聞く。
『はい。もちろんなのでございますよ』
俺たちはオルソラの指示通りに、手にした地図にペンで使用可能な条件を満たすポイントを書き込んでいく。
オルソラに礼を言って通話を切ると、俺たちは歩き始めた。
「……じゃあ、オリアナが歩き回っていたのは」
「恐らく、あらかじめいくつか使用ポイントの候補を上げてあって、それらが使い物になるのかどうか確かめるために動き回っていたということだろうな」
俺たちは歩きながら話す。
「ああ。これまでの場所はどこもビルなどで空が隠された場所だった。とすると、残された場所は1つ。きっとここに来るはずにゃー」
第二十三学区の実験空港。ここならば、空を隠す場所は何もない。
その時、ステイルが駆け足で俺たちの方へやってきた。
「遅くなったね。……全く、なんなんだあの人は」
どうやらステイルは小萌先生に手を煩わせたらしい。ぶつぶつ言っている言葉の中に、「人払いを使用したのに、効果範囲外に出ると捕捉しなおしてきた」なんてものが聞こえてきたことには、俺も驚いたが。
それよりも問題は、どうやって第二十三学区に侵入するかなのであるが。
すると、土御門は不敵な笑みを浮かべて言う。
「それはあれだ。俺にだけ許されている、今回限りの特権ってやつを使っちまえばよいだぜい」
「「特権?」」
科学、魔術の両サイドに属する多重スパイである土御門。彼は自信満々に言い放つと、どこかへと電話をかけ始めた。
「……おかしいわね」
オリアナは周囲の状況を見て呟くと立ち止まり、単語帳の1ページを切って通信術式で連絡を取る。
「そろそろ仕上げの準備に取り掛からないと」
『定刻までには、まだ時間があるのでは?』
通信先から聞こえてきた声に、オルソラは否定の言葉を返す。
「警備状況が不自然に変動してるわ。この近くにいることが掴まれているみたいね」
『ならば、
「多分ね。でも、ここなら一番使えそうね。一般人を巻き込まずにも済むでしょうし」
彼女は再び歩き出した。
「そちらも準備して。ここで落としてしまいましょう。学園都市を」