とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト) 作:nozomu7
「第二十三学区の警備状況を少し変えてもらった。この隙を突くぜい」
青白い蛍光灯の光に照らされた地下鉄の駅で、電車を待ちながら土御門が話す。
そして、第二十三学区までは電車で10分かかるので、そこから残った時間は25分。
「一応確認しておくが、その体でオリアナの前に立つつもりかい」
ある程度俺の
土御門は笑いながら言う。
「休みたいのは山々なんだがにゃー。お前らで突破できるほど、第二十三学区の警備は甘くないんですたい。ま、はやとんがある程度回復してくれているし、問題ないぜよ」
「……そうかい」
その返事にステイルがそう返したその時、電車がホームに入ってきた。
俺たちはそれに乗り込もうとするが、その時ステイルに訊かれる。
「ここから言った先はもう、殺し合いだけだ。それでも行く覚悟は貴様らにあるのかい」
俺たちは即答する。
「ま、こんな
「それに、俺たちは殺すつもりなんざ露ほどもねえよ。例えそれが、『偽善』だと言われようがな」
ステイルは軽くため息をつくと言った。
「そうかい」
「え、当麻と駿斗君がいない?」
その日の競技が終わり、夕日が周囲を赤く染める中、上条夫妻と小萌先生が話していた。
「え、えっと……」
刀夜の言葉に、小萌先生は何か言葉を返そうとする。
「あの、それはどういう……」
「申し訳ありません」
詩菜がさらに詳しいことを訊きかけた時、小萌先生は頭を下げた。
「大切なお子様をお預かりしている身でありながら、その動向がつかめないなんて……」
彼女は責任を感じていた。自分の生徒のことを何も知らない。彼女は彼女自身を責めていた。
すると、刀夜は妻と顔を見合わせてから言った。
「1つだけ尋ねたいのですが」
「はい、なんでしょう?」
「2人は、自発的に行動しているのですよね? 誰かに引っ張り回されているのではなく」
その質問に、小萌先生はキョトンとするが、すぐに答えた。
「はい、そうなのですよ」
その言葉を聞いた刀夜は、少し安心したような顔をする。
「なら、それは当麻にとって競技以上に価値ある行いという訳だ」
刀夜は、8月に海で息子に言われたことを思い出した。
『それで俺が、一度でも「後悔」してるなんて言ったかよ!』
当夜は、当麻が何のためにどのような行動をしているのかは知らない。だが間違いなく彼は、何か価値ある行動を起こしているはずだ。彼自身が、後で後悔しないために。
あのとき、自分は彼に対して抱いていた幻想を打ち砕かれた。
そして、自分の息子がそこまで成長したことを知った。
「当麻が1人で行動しているわけではなく、駿斗君と行動しているんだ。なら、なおさら安心ですよ」
当麻は学園都市に来る前は、『疫病神』と呼ばれていた。友達なんていなかった。だからこそ、当夜と詩菜は息子を学園都市に託した。
その息子に親友と呼ぶ人がいることを知ったとき、彼らは非常に嬉しかった。彼が
そんな2人が、自発的に何かを行動している。自分で学園都市の行事以上に価値あると思える行動をしている。
それならば。
「止める理由は思い浮かばない、かな」
「はい」
第二十三学区の実験空港。そこに並べられている巨大コンテナの間に、俺たちはいた。
「ここの警備は主に空だ。なにせ、隠れる場所なんてほとんどないからにゃー」
辺りを見ながら、土御門が言う。
「じゃあ、オリアナはどうやって空港に」
「ま、そこを考えていないほど間抜けじゃないだろ」
当麻の言葉に俺が返した。
「じゃあ、土御門は? 僕は時間が惜しい」
ステイルが言う。すると、土御門は空から来たものを指さした。
「あれを使うんだよ。ここは一般の空港も近いから、旅客機や実験機で空は混雑しているんだにゃー」
彼は説明しながら俺たちに振り返る。
「空中衝突を避けるために、監視用の巡回ルートがそこそこ変わるんだぜい。死角にもぐりこめば、何とかなるはずにゃー」
俺たちは土御門の後に従って走る。
だが彼がフェンスによじ登ろうとした時、魔力を感じた。
「待て、土御門!」
だが遅く、土御門はトラップにかかり倒れてしまう。すると、フェンスの先にオリアナを発見した。
「土御門は俺が何とかする! 当麻とステイルは先に行け!」
俺のその言葉に2人は頷くと、フェンスを乗り越えた。俺はすぐに土御門の治療をする。
2人は地面に飛び降りると、オリアナに向けて突撃する。それを確認したオリアナは、当麻に向けて風を放った。
当麻はそれを右手で迎え撃つが、いつまで経っても打ち消しきれない。どうやら、ステイルの炎剣のように、カード自体をつぶさないと力が供給されて再生するようだ。
その時、ステイルはそれに炎剣をぶつけた。爆発が起こる。
煙が晴れると、2人は再び走り出した。それを見たオリアナが言う。
「あの聖人はやっぱ来ないのね?」
オリアナは魔術と体術を巧みに使い分け、2人に対して圧倒する。
「使徒十字は使わせない。お前が大覇星祭を台無しにしようって言うなら、必ずここで止めてやる!」
当麻は言い放つ。
だが、その言葉を聞いたオリアナは笑った。
「台無しってのはひどいわね。使徒十字は科学と魔術の壁を取り払うもの。みんなを幸せにするものなのよ?」
「幸せ、か」
オリアナの言葉に対しても、当麻の信念は揺らがない。
「確かに幸せは良いもんだよな。だがな、俺にとって『不幸』なのは、使徒十字によって大覇星祭がつぶれちまうことなんだよ! それをどんなご立派な宗教で固めたところで……テメエにそれを台無しにされてよい理由なんざ、あるわけがねえだろ!」
対するオリアナは冷ややかだった。
「その程度の感情論でお姉さんが揺らぐとでも?」
当麻はすぐに反論した。
「お前、その台詞をお前が傷つけた吹寄や姫神の前でも言えるのか!」
その言葉に、オリアナが動揺を見せる。
その時ついに、土御門の治療が終わった。俺は身体強化術式で跳び上がって、フェンスを軽々と超える。
「待たせたな」
「おう」
俺は当麻の横に並び立つ。
「テメエがそんな理由で大覇星祭をめちゃくちゃにしようって言うのなら……その幻想をぶち殺す!」
オリアナは光球を放つと同時、前へ駆け出した。
「当麻、右手を前へ!」
「おう!」
俺は叫ぶと、それを
走ってきたオリアナの蹴りを俺は両手でガードするが、勢いを殺しきれずに体制を崩す。すると、オリアナはそのまま風を放ってきた。
「邪魔だバカ!」
そこにやってきたステイルが、再び炎剣を放つ。それをオリアナは水の膜を張って防御した。
「今だ当麻!」
俺は彼女を重力で地面に押さえつける。当麻は右手を振りかぶり、彼女に向かって突き出した。
オリアナはカウンターの蹴りを放つが、
(……能力で動きが!)
彼女にかかる重力がその動きを阻害し、当麻の右手をギリギリで弾くに留まる。だが彼女はその場で回転すると、その勢いで当麻の脇腹を肘で打つ。
だがその一撃は軽く、両者は距離を取った。
次に、俺が地面をけると同時にステイルが再び炎剣を放つ。
「邪魔をするな!」
ステイルは駆け出す俺を無視してそのまま炎剣をぶつけようとするが、俺もそれを無視して
彼女の表情が驚愕に染まる。
それでも単語帳を切って水を繰り出すが、俺の拳というよりは(炎剣を避けようとしたために)ラリアットに近い姿勢で放たれたそれを、ガードしきれずに吹き飛ばされた。
素早く受け身を取って起き上がる彼女だが、俺が再び重力で拘束したところに当麻の右拳が繰り出される。
彼女はそれを受け止めきれず、そのまま地面に倒された。
(絶対の基準点が欲しい)
地面に倒されたオリアナは、自分の意志を思い出す。
彼女は、本質は「人の為になること」を行おうとする女性である。
だが、『純粋な善意』が「偶然」相手を結果的に傷つけたり、『正しいと思ったこと』が裏で悲劇を起こしたりした事に何度も遭遇してしまった。
例えば、おばあさんに譲ってあげた二階建てバスの座席の下に、テロ用の呪符が仕掛けられていた。
例えば、迷子を保護して教会に預けたと思ったら、実はその子はイギリス清教から逃げていた魔術師で、髪を掴まれて処刑塔に引きずられていった。
その結果彼女が欲したものが、誰も確実に傷つかず幸せになれる『確かな基準点』。
それが誰のための基準であるかは問題ではない。確実にそれが設けられることを彼女は望んだ。
(だから、この場で勝って答えを作ってみせる!)
「
彼女が魔法名を叫ぶと同時、光が上へと打ち上げられた。俺は防御術式を展開する。
「伏せろ素人!」
ステイルが当麻を地面に叩き付けると同時、氷の槍がステイルに次々と突き刺さった。
ステイルはその場に倒れる。
「「ステイル!」」
「どこへ行くつもり? 坊やたちの相手はこちらでしょう?」
俺たちはステイルの方を振り向くが、オリアナは余裕を含んだ声でそう言う。
大覇星祭の関係で荷物を減らすために杯を持ってこなかったことを、俺は今更ながら後悔する。市街地での戦いとなると踏んでいたためにあの規模の技は使えないと思っていたのも大きいが、昼休みの時にでも十分に取りに行けたはずだ。
「……いい加減にしろよテメエ」
当麻が怒りに震えた声で言った。
「どこまで人を傷つければ気が済むんだ!」
「別に私も好きで人を傷つけているわけではないわ。でも、私には目的があるの。さあ、かかってきなさい。残ったあなたたち2人を潰せば、それでお姉さんの役目は終わりになるわ」
オリアナの言葉に、俺は訳の分からない怒りをぶつけるように言った。
「何がしたいんだよ、お前は。目的だとか言っておきながら、結局は全てを他人任せにして……お前がやっているのは、ただ人を傷つけているだけじゃねえか!」
その言葉を聞いても、オリアナは冷たい声で返事をする。
「お姉さんは、誰だっていいのよ。この世界に転がっている大量の主義主張を束ねてくれればね。ねえ坊や。この世にはね、想像もできない展開なんて色々あるの。私たちがよかれと思ってやったことは、本当に思い通りの結果をもたらすのかしら? 今日も、木の枝に引っかかった風船を取ってあげたけど、それだって果たして本当に『幸福』に繋がっていたのか。もうお姉さんには判断がつかないわ」
彼女は手で単語帳を弄びながら話す。
「誰かが『基準点』を作ってさえくれればいいの。そうすれば、お姉さんはその基準点を絶対に守るから」
「何言ってやがる」
俺は言った。
「お前が抱えている問題なんて、皆抱えていることだろうが。失敗しない人間なんかいない。挫折を知らないやつはいない。だけどそれでも、もう一度起き上がれよ。やり直せよ! 他人の人生を、テメエが途中で投げ出すんじゃねえ!」
それに続いて、当麻が叫ぶ。
「お前はどちらを選ぶ。オリアナ=トムソン。一回失敗したからって全てを他人に任せておくのか。たとえ失敗しても、その失敗した人達にもう一度手を差し伸べてみるのか!」
その言葉を聞いたオリアナは単語帳を全て口にくわえると、そのリングを取り去った。
「これで決着をつける……!」