とある神谷の幻想創造(イマジンクリエイト)   作:nozomu7

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第92話 大覇星祭の光

「我が身に宿る全ての才能に告げる――」

 

 オリアナの単語帳が宙に浮き、光る。そして、それはまっすぐに差し出された彼女の手のひらに集められていった。

 

「――その全霊を解放し目の前の敵を討て!!」

 

 今までの魔術とは比べ物にならない量の魔力が込められた光弾。それが俺たちに迫る。

 

「おおおっ!」

 

 当麻はそれを右手で迎え撃った。俺もその後に続く。

 

 あらゆる魔術を善悪強弱問わず問答無用で打ち消す右手が、光弾と衝突する。

 

 しかし、幻想殺し(イマジンブレイカー)で光を消し去った後そこにあったのは、地面からえぐられた瓦礫の塊だった。

 

 これが本命か、と俺は気づく。だから俺は、当麻の前に飛び出した。

 

 俺は念動鎧(フォースアーマー)を纏って当麻をかばう。

 

 ドォ! と爆発が起きた。

 

 あまりの威力にそのまま吹き飛ばされそうになる。

 

 だが、

 

「「こんなところで……倒れてたまるかよ!」」

 

 俺たちは足を踏ん張って、その衝撃に耐える。当麻が俺を後ろから左手一本で支える。

 

 ずりずり、と靴底がすれる音がした。衝撃が鎧を貫通して、俺の体に痛みが走る。

 

 だが、ついに耐えきった。

 

「そんなっ……!」

 

 渾身の一撃を防がれたオリアナが悔しげに歯を食いしばる。その隙を突いて、俺は彼女を重力で拘束した。

 

「当麻!」

「おう!」

 

 俺が叫ぶよりも早く、当麻は右拳を握りしめると前に飛び出した。

 

 オリアナとの距離を一瞬で詰める。

 

 全体重を乗せた当麻の右拳は、オリアナを地に叩きつけた。

 

 

 

 

 

「ステイル!」

 

 オリアナが倒れて動かなくなったことを確認した俺たちは、血を流して倒れたままのステイルの元へと駆けつける。

 

 ステイルは倒れたまま口を動かした。

 

「僕のことはいい。それよりも使徒十字(クローチェディピエトロ)の場所をオリアナに吐かせろ……」

 

 その時、この場にはいない人間の声が聞こえてきた。

 

『心配する必要は無いかと。もうすぐ、全てが終わりますので』

 

 オリアナの胸元にあるカードから通信が聞こえてきていた。

 

『間もなく使徒十字はその効果を発動し、学園都市は、我々ローマ正教の元に改変されます』

 

 リドヴィア=ロレンツェッティだ。

 

「俺たちみたいな邪魔者は、排除するって言うのか!?」

『そんなことはありません。あなたたちであっても、我々はその傷を慈しみ、治して差し上げます。もっとも、それがローマ正教にとって有益だと判断できればですが』

 

 当麻の言葉に、リドヴィアは淡々とした調子で言葉を返す。

 

 ステイルが言う。

 

「まともに取り合うな。とにかく、リドヴィアを探せ。使徒十字もそこに」

『誤解無きよう言っておきますが、使徒十字は今学園都市にはありませんので』

 

 何!? と俺たちが驚愕する。

 

『ローマ教皇領は過去には最大で47000平方キロメートルにも及びましたので。学園都市の外からでも十分に全域をカバーできるかと』

「やられた。オリアナは囮か……!」

『今から私を探そうとしても無駄ですので。使徒十字の発動時刻18時30分まで、あと2分程度しかありませんから』

 

 くそ! と俺たちが絶望に打ちのめされる。だが、それでも諦めない。諦めたくない。

 

 諦めきれない。

 

 何か方法があるはずだ。夜空の星座から放たれる光を集めることで発動するのだったら、神の力(ガブリエル)を利用して天体制御(アストロインハンド)を使用するのがベストだ。だがそこまでの力を利用するには『杯』が必要だ。

 

 他には、太陽のような巨大な光源を発生させて星座の光を阻害するしか……ん?

 

 待て。巨大な光源?

 

 もしかして……

 

『チェックメイトです』

 

 その言葉に、当麻が携帯電話を落とす。カラン、と言う音が飛行場に響いた。

 

 当麻のケータイの画面に映し出されていたのは、大覇星祭のタイムスケジュール。

 

 もっと言えば、もうすぐ始まる大覇星祭の目玉の一つだった。

 

 できればクラスメイトや最愛達と一緒に過ごしたかったな、と俺は思う。

 

「ああ。俺は終わりだよ。ダメだった。いくらお前の幻想をぶち殺せたって言っても、クラスメイトと大切な時間を過ごすこともできなかったなんてな」

『は? 何を言って』

 

 その時、学園都市の中心部から、大きな音とともに莫大な光が溢れ出した。

 

 それは夜空を埋め尽くす。

 

 闇を、光で塗りつぶす。

 

『何が……この光は!』

 

 そう。この光は。

 

「現在時刻18時30分は、俺たちにとってはナイトパレードの始まる時間なんだよ。お前らのおかげで参加できなくなっちまったけれどな」

 

 俺に続いて当麻が言う。

 

「これだけの光があれば十分に夜空の星の光を遮ることができる。使徒十字は発動しない。お前らは、大覇星祭を作るみんなに負けたんだ。大覇星祭の主役が誰なのか、調べておくべきだったな」

 

 俺たちはその光を浴びながら、俺たちの住む街を見つめた。

 

「どうする。俺は、お前が使徒十字と一緒にここから立ち去るって言うなら見逃しても良いと思っているんだが」

『本気で言っているのですか。私が敬虔なローマ正教徒であると言うことをお忘れかと』

 

 俺の言葉に、リドヴィアはそう返してきた。

 

 ならば、

 

「「そうか。なら、運動会らしく追いかけっこでもするんだな。リドヴィア=ロレンツェッティ」」

 

 

 

 

 

 ここ『窓のないビル』は学園都市統括理事長が住んでいるとされている建物である。

 

 その名の通り、このビルには窓はおろか扉すらなく、入るには空間移動系統の能力者が必要となる。この能力者は『案内人』と呼ばれ、その系統では最大の能力を誇る『座標移動(ムーブポイント)』の結標淡希がその正体ではないかと言われている。

 

 その壁も『演算型・衝撃拡散性複合素材(カリキュレイト=フォートレス)』と呼ばれる特殊装甲で覆われており、 その堅牢さは「核兵器を受けても耐えられる」とも噂される。

 

 その中には緑色の手術着を纏い、生命維持装置の液体で満たされたフラスコの中に逆さまの状態で浮かんでいる人間がいた。

 

 アレイスター=クロウリー。学園都市統括理事長であり、魔術世界では史上最強最悪とされる魔術師と『同姓同名の別人とされる』人間だ。

 

「ふむ」

 

 男にも女にも、大人にも子供にも、聖人にも罪人にも、見えるアレイスターは、目の前に並ぶ画面を見て呟いた。

 

「……随分と、大きく揺らいでしまったものだな」

 

 アレイスターは考える。

 

 彼の進める『プラン』の鍵となる『幻想殺し』と『幻想創造(イマジンクリエイト)』両名の成長は未だに不安定。むしろ、両者がともにいることで互いの成長が阻害されている一面すら見られる。

 

 こうなると彼の進める『プラン』に影響も出てくる。

 

 今までには修正を重ねながらも『プラン』を進めてきた。

 

 幻想殺しと幻想創造の、魔術との遭遇。

 

 絶対能力進化計画(レベル6シフト)への介入及びその中断。

 

 『正体不明(カウンターストップ)』風斬氷華との接触。

 

 さらに言うならば、『暗闇の五月計画』の被験者である絹旗最愛と黒夜海鳥を『表』へ返したのも、鳴護アリサの一件で駿斗に因果律に干渉させたのも、全ては『プラン』の範疇の出来事。

 

 彼はそのことを考え、そして画面に現れたねじくれた杖を見て呟く。

 

「私が出る可能性も考えなければならないのかもしれないな」

 

 そう言いながらも、彼は口元を歪めて笑っていた。

 

 

 

 

 

「……で、とうまとはやとは私には内緒で、学園都市をかけた戦いに参加していた、と」

 

 今、俺たちの前には不機嫌度マックスの銀髪シスターさんが仁王立ちしている。

 

 ここは例によって冥土返し(ヘヴンキャンセラー)の病院だ。すごろくで“ふりだし”に戻るが如く、(特に当麻は)何か事件に巻き込まれるたびにこの病室へと戻ってきているので、もはや見慣れていると言っても良い。

 

「でもインデックスさん? 俺は簡単に手当をするだけで、明日以降の『大覇星祭』の競技にも参加できるくらいの被害で終わったんだから勘弁してもらえないでしょうか」

 

 入院着を着ている当麻が言う。そう、今回はそんなにたいしたけがをしていないのだ。

 

「そうだぞ。そもそも俺たちも、お前の知識を借りたくても借りられなかったんだから」

 

 俺も付け足す。だが、それでもインデックスは不機嫌なまま当麻にかみつこうとしたので、なんとかそれを俺が羽交い締めで防いだ。

 

 そこに、6人の少女がやってくる。

 

「あらあら、これはまた愉快な場面ですこと」

 

 俺たちの様子を見た白井が言った。その横で、御坂が明らかにイライラしている。

 

「今真面目な話をしているんだから来ないでよ、短髪!」

 

 その言葉を聞いた御坂から、火花がバチバチと音を立てて発生する。

 

「黒子。風紀委員(ジャッジメント)の治安維持活動って、たしか民間人が協力しても良いんだったわよね……?」

「御坂。病院内で電撃は超アウトですから」

「そ、そうですよ御坂さん!」

 

 最愛と初春さんが御坂を止めに入ってくれた。本当に助かる。

 

 その一方で、俺は海鳥や佐天さんの競技状況を聞いていた。インデックスを羽交い絞めにしたままであるため、苦笑いをしながら、だが。

 

「へー、柵川中が結構頑張っているんだ」

「まあ、常盤台には遠く及びませんけどね……」

 

 佐天さんは謙遜してそう言う。

 

「でも、かなりイイ線いっているんじゃないか?」

「でも、やっぱりすごかったのは神谷さんの学校ですよ! 『棒倒し』は結構話題になっていましたよ?」

 

 ああ、小萌先生が泣かされたあのときか。

 

「どさくさに紛れて何人か殴り倒している奴がいたっけか」

「超反則ですからね?」

 

 俺はやってない。他の奴だ。

 

 まあ、みんなむかついていたから誰も指摘しなかったんだけどな。あの高校の生徒はご愁傷様だ。

 

 しばらくすると彼女らは帰っていったが、その時に御坂が最後に残ってボソリと聞いてきた。

 

「そう言えば、今日『あの子』が来てない?」

 

 『あの子』……御坂妹か。

 

「来てないぞ」

「そう。ま、他を当たってみるわ。リアルゲコ太先生とはまだ話してないし」

 

 彼女はそう言って去って行った。

 

 後で思うと、それが明日の騒動を予期した台詞だったのかもしれない。 

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